インスペクションとは
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インスペクションとは?メリットや費用、注意点、自治体の補助金を解説

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

ざっくり要約!

  • インスペクションとは、中古住宅の売買の前に実施される検査を指す
  • インスペクションのメリットは売主・買主の安心につながること

インスペクションとは「建物検査」を指します。中古住宅を売買する前に実施することで、安心して取引でき、無用なトラブルを防ぐことにつながります。一方、インスペクションにはデメリットや注意点も少なからず見られます。

本記事では、インスペクションのメリット・デメリットとともに、気になる費用や注意点について解説します。

インスペクションとは?

インスペクションには調査や検査といった意味があり、住宅においては「建物状況調査」や「住宅診断」を指します。

中古不動産の取引が活発な欧米ではインスペクションが一般に普及していますが、日本では平成28年の宅建業法の改正によって注目が高まりました。

インスペクションは、住宅に施す検査全般を指しますが、宅建業法で定められた基準に基づいたインスペクションを「建物状況調査」と言います。

インスペクションの調査対象部位の例

インスペクションでは主に以下の部位を調査対象にしています。

  • 構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの(腐食や傾斜、躯体のひび割れなど)
  • 雨漏り、水漏れが発生している、または発生する可能性が高いもの(雨漏りや漏水など)
  • 設備配管に日常生活上支障のある劣化などが生じているもの(給排水管の漏れや詰まりなど)

なお、検査は非破壊が基本であるため、目に見える部分の調査が主な内容です。

法改正も後押しし需要が高まっている

2018年の宅地建物取引業法の改正により、不動産会社は、不動産の売主・買主に対するインスペクションの説明が義務付けられました。不動産会社に義務付けられていることは、次のとおりです。

  1. 媒介契約の締結時に建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付する
  2. 買い主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明する
  3. 売買等の契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面を交付する

これによりインスペクションの認知度が高まり、近年では売買前に実施されるケースも増えてきています。

インスペクションのメリット

インスペクションは、売主、買主それぞれにメリットがあります。

売主のメリット

まず、売主のメリットは次のとおりです。

好条件で売れる可能性が高まる

中古住宅を購入する人は、多かれ少なかれ、次のような不安を感じています。

  • 見えないところが劣化していないだろうか
  • 長く安心して住めるだろうか
  • メンテナンスやリフォームにどれくらいの費用がかかるのだろうか

第三者の専門家による客観的な住宅検査であるインスペクションは、これらの不安を払拭するために役立ちます。「安心」は中古住宅の付加価値ともいえるため、インスペクションを実施することで好条件で売れる可能性が高まるものと考えられます。

ほかの住宅と差別化できる

中古住宅を売るうえで無視できないのが「競合物件」の存在です。競合物件とは、築年数や広さ、価格などが類似している物件を指します。競合物件と差別化できるかどうかで、売却スピードや売却条件は大きく変わってきます。競合物件と差別化できる方法として、リノベーションやハウスクリーニング、値下げなどが挙げられますが、その中でもインスペクションは費用効果が高い傾向にあります。インスペクションの費用相場については、後述で詳しく解説します。

契約不適合責任を負うリスクが下がる

不動産の売主は、原則的に「契約不適合責任」を負わなければなりません。売主は、売買後に契約と適合していない欠陥や不具合などが見られた場合に、その部分を修繕したり、減額したりする対応を求められます。

インスペクションを実施すると、物件の「状況」をより深く把握できます。契約不適合責任の責任範囲は「契約と適合していない」部分であるため、契約上、売主、買主双方が把握している欠陥や不具合であれば、責任を負う必要はありません。つまり、インスペクションによる現状把握は、売主が契約不適合責任を負うリスクを低減させる効果にも期待できるのです。

買主のメリット

続いて、買主のメリットを見ていきましょう。

安心して取引できる

先のとおり、インスペクションは第三者の専門家による客観的な住宅検査です。売主や不動産会社ではなく、中立的かつ専門的な立場で住宅を検査してもらえることは、高額な不動産を購入するうえで大きな安心となるでしょう。

修繕・メンテナンスにかかる費用が予測できる

インスペクションは、単に「安心」が得られるだけでなく、物件の状況が把握できることから修繕やメンテナンスにかかる費用が明確になるという効果にも期待できます。中古住宅の取得時にリフォームをしないとしても、購入時点の状況を把握することは、修繕計画を立てたり、将来的なメンテナンスコストを把握したりするうえでも役立ちます。

瑕疵(かし)保険に加入できる

瑕疵(かし)保険とは、購入後に雨漏りや構造上重要な部分に不具合が見られた際に、その補修費用などを補償してくれる制度です。瑕疵保険の加入には、インスペクションの実施が求められます。

インスペクションと瑕疵保険については、次項で詳しく解説します。

インスペクションと瑕疵保険

インスペクションを実施することで、瑕疵保険に加入できる可能性があります。ただし、瑕疵保険加入のためのインスペクションは、加入を前提としたものでなければならないため注意が必要です。

瑕疵保険とは

瑕疵保険の対象

瑕疵保険の対象

(出典:国土交通省「住宅の新しい保険をごぞんじですか?」)

瑕疵保険(既存住宅瑕疵保険)は、中古住宅の検査と保証がセットになった保険制度です。対象となるのは、雨水の侵入を防ぐ部分と構造上重要な基礎や柱、外壁、屋根など。保険期間中にこれらの部分に欠陥が見られた場合、修繕費などが補償されます。

瑕疵保険の検査は保険に入れるかどうかを判断するためのもの

瑕疵保険の検査は、保険に入れるかどうかを判断するための検査です。瑕疵保険の検査では、保険の対象部分しかチェックしないため、インスペクションとは検査項目が異なることを押さえておきましょう。つまり、瑕疵保険の検査は、宅建業法で定められた基準とは異なるということです。ただし「住宅瑕疵担保責任保険法人の登録検査事業者」をはじめ、瑕疵保険への加入要件を満たすインスペクションができる事業者もあるため、事前に確認しましょう。。

瑕疵保険への加入は売主・買主の安心に

一般的なインスペクションは、あくまで「検査」の域を出ず、検査した部分を補償してくれる制度ではありません。また、インスペクションは基本的に非破壊検査であるため、インスペクションによってすべての欠陥や不具合がわかるわけではありません。

「検査を行う」ということ自体が安心につながるという側面はあるものの、居住後に万一のことが起きたときに備えた安心を付帯するには、瑕疵保険加入が果たす役割は大きいものと考えられます。瑕疵保険の加入は、買主の安心につながるのはもちろんのこと、インスペクションを実施する以上に売主が契約不適合責任を負うリスクを低減させられることから、売主にとっても大きな安心につながります。

インスペクションの費用相場

インスペクション 費用

インスペクションの実施には、費用がかかります。売主と買主のどちらが費用を負担するのかは、当事者次第です。

相場は約4〜8万円

インスペクションにかかる費用は検査する事業者次第ですが、相場は約4~8万円です。マンションと一戸建てを比べると、見るべき箇所の多い一戸建てのほうが費用は高い傾向にあります。住宅の広さに応じて料金が変わるケースもありますので、事前に確認しましょう。

検査方法や検査箇所によってはオプション料金がかかる

インスペクションの費用は、検査の方法や検査箇所によっても異なります。上記で示した約4~8万円という相場は基本的な項目を検査した場合であり、次のようなことを求める場合はオプションとなり、追加費用がかかるケースが多いので注意しましょう。

  • 検査員が床下や屋根裏に入って詳細な検査をする
  • 写真付きの報告書
  • 各種証明書や図面の発行

補助金を利用できるケースもある

インスペクションに対し、補助金を助成している自治体もあります。下記は、2023年度に補助金を助成している自治体の一例です。補助金は、時期やエリアによって異なります。

自治体対象の住宅交付額
滋賀県   以下AまたはBのいずれか
A:市町の空き家バンクに登録されている住宅
B:市町の立地適正化計画で定める「居住誘導区域」等に立地する住宅
調査費の1/2(上限額5万円)
兵庫県売買を予定している県内の既存の一戸建て住宅
(店舗等併用住宅にあっては、床面積の過半が居住の用に供されているものに限る)
対象住宅のインスペクションに要する経費(税込)に対し、以下のいずれか低い額
A:インスペクション1件あたりの経費(千円未満の端数は切り捨て)
B:25,000円
長野県県内にある中古住宅
(店舗等の用に供する部分の床面積が延べ面積の2分の1未満の店舗等併用住宅を含む)
インスペクションの費用の1/2(上限額5万円/戸)
既存住宅瑕疵保険の保険料の1/2以内(上限額5万円/戸)

※2023年8月10日時点の情報です。
※助成制度の利用を保証するものではありません。詳細は各自治体にお問合せください。

インスペクションを依頼する会社の選び方

インスペクションは「実施してもらえば安心」というものではありません。検査員の専門性や実績などによって検査の精度は異なり、検査事業者によって検査以外のサービスも変わってきます。インスペクションを実施するうえでは「検査に何を求めるか」を明確にし、複数の検査業者を比較したうえで選ぶようにしましょう。

費用だけで選ばない

検査費用は、安いに越したことはないでしょう。しかし、多くの場合、インスペクションは「安心」を得るために実施するはずです。費用の安さだけで選んでしまうと、インスペクションの目的が達成されないおそれもあります。

会社の実績や評判を確認する

インスペクションを依頼する会社を選ぶ際には、会社の実績や評判を確認しましょう。

会社名で検索をかけ、実施例や料金が適切であるか、評判などを確認しておくと安心して任せられます。

また、マンションと一戸建てどちらの実績が豊富かも重要なポイントです。自分の物件に合った実績が豊富な会社に依頼しましょう。

わかりやすく説明してくれるかを確認する

難しい内容でもわかりやすく説明してくれるかは、重要なポイントです。

不動産は専門的な内容が多いため、内容を理解できていない状態で依頼しても、どの項目が重要なのか、どのような結果が得られたのかがわかりません。

最初の打ち合わせのタイミングで、話がわかりやすいか、接客態度が信頼できるかをチェックしましょう。

インスペクションの依頼から支払いまでの流れ

インスペクション 流れ

インスペクションは、次のような流れで進みます。

  • 購入申し込み
  • インスペクション業者の選定
  • インスペクションの申し込み
  • 必要書類の準備
  • 検査実施
  • 報告書の受け取り
  • 支払い

インスペクション会社は自分で探す方法もありますが、不動産会社によっては斡旋(あっせん)しているケースもあるため、インスペクションを実施したい場合は一度相談してみましょう。

見積もりを取り、費用などに問題がなければ申し込みを行います。検査前に、間取り図などの書類を準備します。ただし、斡旋の場合は不動産会社が用意してくれるケースもあるため、確認しておきましょう。

検査は物件の規模にもよりますが、おおむね3時間程度が目安です。

後日検査報告書を受け取る際に、修繕の要否の説明などを受け、すべて完了したあとに費用を支払うのが一般的な流れです。

【売主向け】インスペクションの注意点

インスペクションの実施には、注意点もあります。まずは、売主の注意点から見ていきましょう。

インスペクションによって欠陥や不具合が見つかることもある

安心して売買するためのインスペクションですが、インスペクションの結果によっては売却計画を見直さなければなりません。

なぜなら、インスペクションによって、建物に重大な欠陥が見つかる場合もあるためです。

重大な欠陥が見つかった場合、そのままの状態では買い手が見つからないことに加え、修繕費用もかかるでしょう。結果として売却計画を見直す必要性が生じます。

買主から依頼された場合の対応を考えておく

インスペクションを行わずに売却しようと計画している場合でも、購入検討者からインスペクションを依頼されるケースがあります。

具体的には「インスペクションを行い問題なければ購入する」といった条件を提示される場合です。

このような場合、売主は断ることも可能ですが、取引の機会損失につながります。インスペクションを行うのか、ほかの購入検討者を探すのかは慎重に考える必要があります。

また、インスペクションは行うものの、費用は買主負担にする方法もあるため、不動産会社とも相談してみましょう。

【買主向け】インスペクションの注意点

続いて、買主がインスペクションを実施するうえで注意するポイントを見ていきましょう。

必ずしも受け入れてもらえるとは限らない

インスペクションは、物件の引き渡し前に実施するものです。売主の意向によっては、インスペクションの実施を拒否される可能性もあります。

インスペクションに対し「粗探しされるのではないか」という印象を持つ売主も少なくありません。しかし、インスペクションの大きな目的は「安心を得る」ことにあるはず。決して粗探しをしたいのではなく「安心して購入したい」という理由や目的を理解してもらうことで、最初は否定的だった売主もインスペクションの実施を前向きに検討してくれるケースもあります。

また、マンションの場合は売主だけでなく、管理組合の許可を得なければ詳細な検査をすることは難しいため、あらかじめ確認しておきましょう。

「購入申し込みを取り消さない」という約定が必要なことも

「購入申し込みを取り消さない」ことを条件に検査の実施を受け入れてもらえるケースもあります。これが買主にとってリスクになるかどうかは、買主の心情や意向次第です。「どうしてもこの物件を購入したい」というのであれば、この条件のもとで検査を実施すべきでしょう。一方で「それだったら他の物件を探す」というのも間違った選択ではありません。

インスペクションは、まだまだ「中古住宅を売買する人の常識」といえるものではないため、どうしても実施自体が交渉材料の1つになってしまうことは見受けられます。

インスペクションは安心して売買するための検査

インスペクションは、第三者の専門家による住宅検査を指します。インスペクションを実施することで、買主は状況を把握してから中古住宅を購入できます。売主も売却後の契約不適合責任を負うリスクが低減するため、取引する双方にとってメリットのある制度です。実施には費用がかかり、売主、買主、双方の意向が一致しないこともあるため、必ず実施できるわけではありません。取引する相手に配慮しながら、状況に応じて実施を検討しましょう。

この記事のポイント

インスペクションの費用はいくら?

インスペクションの費用は依頼する会社によっても異なりますが、基本料金の相場は4〜7万円程度です。一般的に検査箇所が多い一戸建ての方がマンションより費用がかかる傾向にあります。

詳しくは「インスペクションにはいくらかかる?」をご確認ください。

インスペクションのための補助金制度があるって本当?

インスペクションのための補助金制度を用意している自治体もあります。インスペクションを行う際には、事前に自治体の補助金をウェブサイトや担当窓口で確認してみましょう。

詳しくは「補助金を利用できるケースもある」をご確認ください。

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