Interview
森麻季インタビュー
人気、実力ともに日本を代表するオペラ歌手の森麻季さんが、来年1月のThe 36th リバブル・クラシックコンサートに出演します。過去のお客様アンケートでは、「コンサートに呼んでほしいアーティスト」として名前が挙がっていた森さん。その歌声を心待ちにしていたファンの方も多いのではないでしょうか。このたび、コンサートへの思いや、初めての方も楽しめるオペラ・クラシック音楽の魅力についてお話をうかがいました。
―――― リバブル・クラシックコンサートへの出演が決まりました。コンサートに向けた意気込みをお聞かせいただけますか。
36回も続いている歴史あるコンサートで歌わせていただけることを、とても楽しみにしています。また、私の名前を挙げてリクエストしてくださったお客様がいらっしゃると聞いて、とても嬉しいです。その感謝の気持ちも込めて歌えたらと思います。
―――― 「Peaceful Music~平和への祈り~」がテーマですが、どのような思いが込められているのでしょうか。
昨今、戦争や震災などいろんな出来事が起きて、心を痛めていらっしゃる方も多いと思います。音楽って、もちろん楽しい音楽も素敵ですけれど、悲しみを癒したり、亡くなった方への思いや祈りを表現したりできるものでもあるんです。私自身、広島や長崎の原爆記念コンサートで「レクイエム」を歌ったのをきっかけに、毎年「愛と平和への祈りをこめて」というタイトルのリサイタルを開催して14年目になります。こうした活動を続けてきたこともあり、今回のテーマには共感しています。
そして、平和への祈りを込めるなら、オーケストラが演奏するクラシック音楽に勝るものはないと思うのです。というのも、音を究めたプロの演奏家たちが一斉に一つのハーモニーを奏で、美しく調和させていくのがオーケストラです。今回もそうですが、私がその中で歌わせていただくときは、いつもそのハーモニーの調和を大切にしています。世の中の平和も、日々の小さな調和が重なって生まれるもの。オーケストラの音色と私の歌声、会場に来てくださった方々の思いが調和して、それが大きく広がっていくことを願いながら歌いたいですね。
―――― どのようなプログラムになるのでしょうか。
選曲はこれからですが(2024年4月取材時点)、コンサートを聴きにいらっしゃる方々は、普段は音楽とは全く違うところでお仕事や活動をされている方が多いでしょうから、クラシック音楽に馴染みのない方にも楽しんでいただけるようなプログラムにしたいと思っています。聞き覚えのある華やかな名曲や、祈りというテーマに相応しい静かで心が落ち着く曲も入れたいですね。それらの曲がオーケストラの演奏によってどのように色付けされるのか。例えば楽しい雰囲気の曲はよりハッピーな音色に、悲しい雰囲気の曲はより心に染みるような音色で表現されるので、それぞれの曲の違いも楽しんでいただけたらと思います。
また、音楽は作られた国によっても特色が違います。色で表現すると分かりやすいのですが、例えばイタリアの音楽は明るい原色のようで、表現も直接的です。それに対して、フランスの音楽はパステル色のようで、ニュアンスを大切に柔らかく表現されています。今回のプログラムにもいろんな国の音楽が含まれる予定ですので、音楽性の違いにも着目していただけると面白いかもしれません。
―――― 普段あまりオペラやクラシックに馴染みのない方や、初めての方も楽しめる方法があればぜひ教えてください。
一番は、マイクを通さず、直接届く人間の生の声をぜひ楽しんでいただきたいですね。2000人が入るホールで、100人くらいのオーケストラの演奏をバックに、人間が生の声で歌う。生の声でもこんなに聞こえるんだ、という驚きがあると思いますよ。マイクやスピーカーを通した声とは違い、モノラルならではの優しさもあって、本当に素敵なんです。その生声が、オーチャードホールの素晴らしい音響空間の中で“降ってくる”。そんな感覚を体験できるのもクラシックコンサートならでは。日頃お忙しく仕事や活動をされている皆様が、心癒される音楽のシャワーを浴びて少しでもリフレッシュしていただける、そんな時間になれば嬉しいです。
オペラに関して言えば、オペラには役柄や演技があり、演じる役柄の喜怒哀楽や葛藤などを歌に乗せて表現します。何百年も昔に作られた物語ではありますが、そこで歌われている内容は、人間関係や恋愛の悩み、亡き人を悼む気持ちなど、現代の私たちも共感できるところがたくさんあります。オペラの内容を知らなくても、プログラムの解説を読めば理解できますし、事前知識がなくても、純粋にサウンドを楽しむだけでもいいと思います。オペラを楽しむのに、こうじゃなきゃいけない、ということは全くありません。それぞれの楽しみ方を見つけていただけたら最高ですね。
―――― 共演する山本耕平さん(テノール)、円光寺雅彦さん(指揮者)ともに共演歴のあるお二人ですが、お二人の印象についてお聞かせください。
山本さんとは2年ほど前、Bunkamuraのオペラ「椿姫」でご一緒させていただきました。今回で2回目の共演です。山本さんは、スリムな体格の割にとても力強く立派な歌声が魅力的な方です。このコンサートの後にも、オーチャードホールで公演予定のオペラでご一緒できることになっていて、そちらも楽しみにしています。
円光寺さんは、ベテラン中のベテランのマエストロです。演奏がより良くなるよう歌い手の魅力を引き出してくださったり、歌い手の調子が悪い時にはさり気なくフォローしてくださったりするので、私もとても頼りにしていますし、心強い存在です。楽屋ではお孫さんの話をしてくださったりして、とても穏やかで優しい方です。
―――― 森さんは長く第一線でご活躍されていますが、歌うことやコンサート活動に対する向き合い方がご自身の中で変化してきたことはありますか?
変化はありますね。以前は、自分の技術を向上させて難しい曲を上手に歌いたい、上手に歌わなきゃ、という気持ちが強くありました。そうすると緊張しますし、本番に向けて自分を追い詰めていく感じになります。でも、音楽ってそういうことばかりじゃないんですね。それに気づかせてくれたのが、2001年のアメリカ同時多発テロの直後、ワシントンD.C.でオペラ≪ホフマン物語≫に出演したことでした。
ワシントンの歌劇場は、襲撃されたペンタゴンのすぐ近くでした。人が集まる場所は襲撃される恐れがあるからできるだけ行かないように、とニュースでしきりに呼びかけていたので、オペラも中止だろうと思っていたんです。もし襲撃の対象にされたら怖いじゃないですか。でも、テロに屈しないのがアメリカ人のすごいところです。次の日から学校も銀行も開ける。子供たちの学びも、経済活動も、止めてはいけないんだと。
こんな状況でもしお客様が一人でも来てくださったら、ひと時でも楽しい時間になるようにがんばろう。でも、さすがにお客様は来ないのではないか。そんなふうに思っていました。ところがフタを開けてみれば、普段通りのお客様の入りで、びっくりしました。私が演じたのは自動人形オランピアというコミカルな役で、お客様が大笑いしてくださって。第一幕が終わる頃には客席はスタンディングになりました。「芸術が平和を呼ぶように」といった素敵な言葉をいただき、私たちのほうが勇気づけられる場面もありました。音楽には人の心をひとつにする力があるし、人の心を癒すこともできる。音楽ってすごいな、と実感した出来事でした。
それからは、より音楽を通じてお客様とつながることを大切にするようになりました。もちろん、技術を磨いて上手く歌えるようになりたい気持ちは変わりません。でも、それだけではなく、お客様が聞きたいと思われる名曲や、初めてのお客様にも楽しんでいただける曲も大事にしたい。演奏する機会の多い名曲は演奏家にとってはマンネリ化しがちですが(笑)、歌うたびに新たな気持ちで向き合えば、新たな発見があることも知りました。
―――― 森さんの今の活動の原点には、9.11での体験があったのですね。音楽が持つ癒しの力を森さんがとても大切にされていることが伝わってきました。最後に、このインタビューを読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。
ひと時の心の平穏を感じていただけるよう、心を込めて歌います。オーチャードホールでお会いできますことを楽しみにしています。
―――― どうもありがとうございました。
〜森⿇季さんからのSPECIAL MESSAGE〜
Q1
子供の頃の夢は?
A1
パン屋さん
パンは何でも好きですが、シンプルな食パンが好き。
Q2
自分の性格を一言でいうと?
A2
穏やだけど、芯は強い
オペラ歌手は根性がないと生き残れません。(笑)
Q3
普段よく聴く音楽ジャンルやアーティストは?
A3
仕事に関連するもの
家では子供たちが好きなBTSやAdoが流れてます。
Q4
一番印象に残っているコンサートは?
A4
9.11直後のワシントンでの公演
これで人生観が変わりました。
Q5
最近嬉しかったことは?
A5
家族が健康で笑っていること
今日も穏やかに過ごせていることがありがたいなと。
Q6
人生最後に食べたいものは?
A6
巨匠の作るお寿司、とか?
値段がつけられないようなお店で食べてみたい。
Q7
東急リバブルの印象は?
A7
我が家を仲介してくださったご担当の方がとても良い方で、今は東急リバブルにいらっしゃるそうで、とても親しみを感じています!