専門家
コラムVol. 4
持ち家比率が下がる理由は?
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
持ち家比率が低くなっています。2018年(最新データ)の全国の持ち家比率は61.2%で、
都市部はもちろん、地方都市においても持ち家比率は下がっています。
それに伴い、賃貸住宅に住む方が増え賃貸住宅需要は大きくなっています。
世代別30年間の持ち家比率の変化
持ち家比率は総務省から5年ごとに発表されますが、直近では2018年調査(2019年公表)データが最新となります。
まず、ここ30年間で各年代の持ち家比率がどれくらい下がったのか、「昭和63年=1988年、住宅統計調査」と「平成30年=2018年、住宅・土地統計調査」を比較してみます。
図1をみれば明らかなように、この30年間で各年代の持ち家比率は低下しています。とくに、30代40代では顕著で10ポイント以上低下しています。ただ、60代以上では僅かに上昇しています。これは、バブル期に住宅を購入した団塊世代が、70代に差し掛かっているからでしょう。
持ち家比率低下の3つの大きな理由
30年間に大きく持ち家比率が下がった背景を説明すると、3つの側面があると考えられます。
1つ目は、雇用形態・給与形態の変化です。かつては、学校を卒業すると企業に就職し、その企業での定年まで勤める。その間企業は終身雇用を約束し、給与は概ね勤務年数に応じて上がっていきました。「自宅を購入する」際の借り入れも、ある程度安心して決断できました。
しかし、その後、年功序列スタイルが崩れ、給与体系が変わり、右肩上がりに年収が増えることは、「確実にそうなる」と安心できなくなりました。また、非正規雇用の方が大幅に増え、安定収入が実現できないことが多く、安心しての借入が難しいと思う方が増えました。「大きな額の住宅ローンは難しい、リスクが高い」と考える方が増えたわけです。
2つ目は、家族・世帯のあり方が変化しました。
晩婚化が進み、都市部では初婚年齢は30代前半になっています。結婚して、子どもが生まれた頃に自宅購入を考える方が多いため、晩婚化が進むと若年層の持ち家比率は下がります。また、未婚(厚生労働省の定義では50歳時点未婚)化も進んでいます。男性では、生涯未婚率(近年厚生労働省は50歳時点での未婚率と表現を替えました)は約2割となっています。都市部での単身者の持ち家比率は20%台ですから、これも持ち家比率低下の要因となっています。
3つ目は、持ち家志向の変化です。
かつては、結婚して子供が生まれるころにはマイホームを持つ、というのが一般的でした。しかし、最近では「積極的賃貸派」と呼ばれる方が増えており、収入・資産(貯金等)はあるけれど、自宅購入せず賃貸に暮らす方が増えてきました。理由は様々ですが、その1つは、「大きなローンをかかえたくない」ということのようです。都市部を中心にかなり増えています。
これらの要因に加えて、賃貸住宅の質の向上も忘れてはいけないことです。
主要都市の持ち家比率の変化
都道府県別で見ると、11の府県ではこの30年間で持ち家比率は上昇しましたが、残り36都道県では低下しました。主要なところでは、東京都では1988年は46%(全国最下位)でしたが45%(全国46位)となっています。関西では、大阪府・京都府・兵庫県は1988年から2018年で増えています。最も減ったのは沖縄県で、1988年は48%(全国46位)でしたが、2018年は44.4%で最下位になりました。
賃貸志向が進む
すでに、日本は僅かずつですが、人口減少期に入っています。また、世帯数は現在(21年11月)も増え続けていますが、これから5年以内には減少期に入るとみられています。一方、単独世帯数(1人暮らし)は、2040年頃まで増え続けると予測されています。5年もすれば世帯数が減り、また単独世帯では自宅購入が進んでいないことから考えると、今後持ち家比率が増える可能性は低いと思われます。
かりに、住宅価格が大きく下がったとしても、持ち家比率が上がる可能性は少ないと考えられます。逆に、次回の本連載でお伝えする予定ですが、別の国土交通省のアンケート調査では、賃貸住宅志向の世帯が大きく増えています。わが国では、これから先、賃貸住宅需要は衰えないものと思われます。
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。
立教大学大学院 博士前期課程修了。
㈱船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者 、(株)ディーサイン取締役 不動産研究所所長 を経て 現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、テレビ、ラジオのレギュラー番組に出演、また全国新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は毎年年間30本を超える。
著書:「不動産サイクル理論で読み解く 不動産投資のプロフェッショナル戦術」(日本実業出版社)、 「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等11冊。多数の媒体に連載を持つ。
(レギュラー出演)
ラジオNIKKEI「吉崎誠二のウォームアップ 840」(ニュース解説番組)
「はいさい!沖縄デュアルライフ」 (吉崎誠二×新山千春)
「吉崎誠二・坂本慎太郎の至高のポートフォリオ」(不動産投資番組)
テレビ番組:BS11や日経CNBCなどの多数の番組に出演
吉崎誠二公式サイト http://yoshizakiseiji.com/