専門家コラム
首都圏の賃貸住宅需要を
支える2つの要因
COLUMNIST PROFILE
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
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自用の区分マンション(実需物件)、投資用の区分マンションとも、過去最高水準の価格上昇が続いています。
不動産投資家の中には、「さすがに高すぎ…?」、「金利が上昇したら・・?」、「いつか価格下落が始まるかもしれない」ということの警戒感が広がっています。中には、「高すぎる」ということで、資産運用(アセットマネジメント)をSTAYモードにしている方もいらっしゃいますが、「確かに高いけど、安定感のある資産形成を行うため」ということで、これまで以上に積極的に不動産投資を行う方も多くいらっしゃいます。ただし、首都圏における賃貸住宅需要は、しばらく好調が続きそうです。その背景を探ってみましょう。
金融機関の不動産投資への融資スタンス
レンダーの融資スタンスを見ていれば、「変わらず、積極的」という状況が続いています。また、下図のグラフは日銀が四半期ごとに公表する「個人貸家業への設備資金新規貸出額」です。これをみれば、概ね1棟アパート・1棟マンションへ融資状況がわかります。
四半期移動平均のグラフを見れば、融資スタンスがよく分かると思いますが、21年以降は、それなりのプラスの状況が続いており「最近、金融機関の審査が厳しいなぁ」という声は聞かれません。
また、担保価値などに安定感のある不動産融資の中で、相対的にややリスクのあるメザニン融資を行っているリース会社においても、金利動向などに多少警戒感を持ちながらも、融資スタンスを変えていないようです。
賃貸住宅需要が伸びている背景
金利動向は気になりながらも、賃貸用目的の住宅への融資が積極的に行われているのは、都市部において賃貸住宅需要が旺盛な状況が続きそうという見通しが大勢を占めているからと考えられます。都市部において賃貸住宅需要が旺盛な理由として下記が考えられます。()内は物件タイプ
1.持ち家志向のない積極的賃貸派が増えていること(ワンルーム・コンパクト)
2.分譲マンション価格高騰により買い控えが起こっている(ファミリー)
3.分譲マンションを利益確定売りして、賃貸住宅で暮らしながら状況を見守っている(ファミリー)
4.都市部では7割近くが賃貸住宅に住むと言われる単身世帯が増えている(ワンルーム・コンパクト)
首都圏各都県にはどれくらいの人口流入があるのか
加えて、とくに首都圏における賃貸住宅需要の底堅さを支えている要因として、首都圏(1都3県)への人口流入が、続いていることがあげられます。
下図は、他都道府県からの転入者数が人口に占める割合(2022年)を多い順に並べた表です。これをみれば、1位東京都、2位神奈川県、3位千葉県、4位埼玉県と、1都3県がベスト4を独占しています。都道府県を跨ぐ人口移動では、20歳~25歳、25~30歳、の就職などでの移動と思われる年齢層が多く、次に多いのは進学が絡む10代後半の世代です。こうした世代の都道府県を跨ぐ移動(居住地移転)の場合、移動先での最初の住宅では、圧倒的に賃貸住宅が多くなります。
東京都では約40万人、神奈川県では約20万人、千葉県では約14万人、埼玉県では約16万人の移動者が1年の間に転入しています。
さらなる首都圏一極集中が進む?
ご承知のように、日本の人口は減少期に入っています。一方で、単身世帯の急増により世帯数は増えています。都道府県別にみれば、人口が増えているのは、1都3県を中心にいくつかの都府県だけとなっており、首都圏への人口集中がいっそう顕著になってきています。
すでに3大都市圏に住む方は、全人口の過半数以上であり、首都圏に住む方は1/3以上となっています。この傾向は、コロナ禍で一時的に止まりましたが、通常の生活がもどりつつあった22年からは、再び首都圏への人口流入数は回復しています。
今後の賃貸住宅需要(とくにワンルーム・コンパクトタイプ)の需要を推し量る指標としては、かなりの確率で賃貸住宅に住むことが多い、「①10代後半~30代の人口移動数(流入数)」「②現在では男性が3割弱、女性が2割前後である生涯(50歳時)未婚者数」の動向が大きく影響するものと思われます。①については、若年層人口は徐々に減少していますので、全体的なパイは小さくなりますので、転入者増の地域は首都圏に限られるかもしれません。
一方②については、今後もさらに増えるとおもわれますので、こちらの要因は賃貸住宅需要を押し上げることにつながるものと思われます。
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