専門家コラム
金利上昇すれば、不動産価格は下落するのか?
COLUMNIST PROFILE
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
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現在も続いている不動産好景気は、2013年5月からの金融緩和政策による低金利誘導がトリガーとなりました。何度かの波があったものの、概ね24年2月現在(執筆時点)まで好調が続いています。昨今のインフレ傾向に伴い「金融緩和政策の終わり」が見え始めており、仮にそうなれば不動産市況はどうなるのかと懸念する声が聞こえてきます。
今回の原稿では、「仮に金利が上昇すれば、不動産価格は、どうなるのか」について解説します。
金融緩和政策と不動産市況
この10年を振り返ってみれば、2012年末に自民党へ政権交代(安倍総理)、そして13年5月に日銀が「異次元の金融緩和政策」を発表したことで、不動産市況が一気に活況となりました。しかし、不動産市況にはサイクルがありますが、そのサイクルで好転し始めていたのはリーマンショック後の不動産市況低迷からの脱出の芽は民主党政権の最終盤である2012年後半からでした。回復の芽が出始めていた時に低金利誘導が重なったため、市況は盛り上がったわけです。
しかし、2015年後半に不動産市況は停滞のキザシが見え始めていました。12年比でみれば価格上昇が顕著となっており、「そろそろ感」が出始めていました。これもサイクルと言っていいのかもしれません。こうした停滞感を吹き飛ばしたのが、2016年1月に発表(適用は16年2月から)されたもう一段の異次元緩和政策=マイナス金利政策の導入です。これにより、再び不動産市況は活況となり、不動産価格は上昇しました。
その後、コロナ禍を経て物価上昇が顕著となり、その波に乗る形で不動産価格は上昇を続けているというのが現状です。
このように、低金利は不動産市況を活気付けさせ、それにともない不動産価格は上昇となっています。この10年をみれば低金利が不動産市況を支えてきたと言えますので、「このあと金利が上昇すれば、不動産市況は停滞するかもしれない」と懸念が広がるのも無理はありません。
なぜ、金利上昇すれば不動産市況は悪化すると考えるのか
ここ2年くらいの物価変動をみれば、22年から物価上昇が顕著になり、23年にはデフレ脱却状況となり、ほどなく金融緩和政策が解除され、少し金利が上昇しそうな状況が整いつつあります。金融業界はもとより好調を極めている不動産業界においても、「金融緩和政策解除後」を見据えた動きが広まりつつあります。
日銀が政策的に行う金利操作のなかで、「金利をいまより上昇させる」意図は、経済が活況となっている状況下で行き過ぎた需要を一定分おさえることで、様々な物の値段(物価)の上昇をおさえるために行われます。
不動産投資において、多くの場合物件価格に対してのLTV(借り入れ割合)は80%を超えますので、金利が上がれば当然支払総額が増えます。そのため、物件価格が同じでも月支払いが高くなることから、購入者が減る可能性があります。この循環になれば不動産市況は悪化し、不動産価格が下がる可能性が高まります。
支払い力が増えれば、金利上昇は吸収される
しかし、金利が上昇して支払が増えても、賃貸用物件の場合は賃料収入が増えれば支払い原資が増えます(また、ここでは深掘りしませんが、実需物件の場合所得が増えれば支払能力が上昇します)。
前号でレジ系JREIT銘柄の例を挙げてお伝えしたように、都市部における賃貸マンションの賃料は近年上昇が鮮明になってきました。需要の多いファミリータイプは早くから家賃上昇が鮮明でしたが、ワンルーム・コンパクトタイプでも上昇基調にあります。
投資用不動産の理論価格を算出する収益還元法では、NOI÷利回り=不動産価格の計算式で算出しますが、このうち賃料から必要経費を引いたNOIがふえれば、金利により上昇圧力がかかる利回り分変動を吸収することが可能になり得ます。もちろんこの理屈は、賃料の上昇、必要経費の上昇、金利の上昇の幅によりもますが、今の状況では金利の急上昇はほぼ考えられませんので、吸収可能性が高いと思います。つまり「金利が上昇しても、投資用不動産価格は下がらない可能性もある」ということになります。ただし、そのためには「賃料が上昇すること」が条件となります。
まとめ
このように考えれば、投資用区分マンション価格が高止まりしている中で、そして金利上昇可能性が高まっている中で、これから新たに投資用の区分マンション購入を検討されている方は、「今後も賃貸住宅需要が旺盛で賃料が上昇しそうな物件」を選ぶことが絶対条件と言えそうです。
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