専門家コラム
保有する収益不動産の売却、どのタイミングで売る?
COLUMNIST PROFILE
吉崎 誠二
不動産エコノミスト
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
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「投資用不動産資産の組み換え」の第5回目のテーマは、「保有する収益不動産の売却のタイミング」についてです。「どんなタイミングで売却すればいいか」と聞かれれば、「市況が良く、高く売れる時」と回答する方が多いと思います。もちろんそれは正しいのですが、他の要因も大きく関係してきます。ここでは、この「他の要因」を「保有年数」と「物件の築年数」の2つのアプローチで解説します。
保有年数と税率
収益物件を新築物件で購入している投資家にとっては、保有年数=築年数となりますが、昨今では新規の収益区分マンション物件の供給が減り、また都区部の物件が減少していることから、投資用物件として中古区分マンションを購入する方が増えています。そのため、「物件を購入してから現在までの保有年数が築年数と異なる」というケースが多く見られます。いずれにせよ、収益物件の売却では保有期間は「譲渡益にかかる税」の観点で重要です。
不動産売却時の譲渡益に対する税率は5年を境に変わります。不動産を譲渡する際に利益(譲渡益)が出た場合、その計算方法は、単純に(売却価格-購入価格)ではなく、購入価格に加え、毎年経費として計上してきた建物の減価償却を考慮した金額を差し引いて計算されます(細かい計算は省略します)。
5年以下(注:売却した年の1月1日時点での保有期間)の短期譲渡所得に対しては、所得税30.63%+住民税9%の合計39.63%がかかります。また、5年を超えると(注:売却した年の1月1日時点での保有期間)、長期譲渡所得となり、所得税15.315%+住民税5%の合計20.315%となります。
「5年で税率が変わる」の注意点
ここで注意すべき点は、例えば、2019年2月1日に購入した物件を24年3月1日に売却したとして、保有期間は5年1カ月ですが、前述の注で述べたように、1月1日時点での保有期間となるため、実際には4年11カ月となります。「5年経過したので、売却しよう」と考えた際には、再度確認するようにしてください。
築年数アプローチ
次に、築年数を基にした売却タイミングについて説明します。
どんなマンションでも築10年を超えると、少しずつ劣化が目立ち始めます。12~13年を過ぎるとエアコンや給湯器の取り換えが必要になり、15年を超えると水回り設備の交換が必要になることが一般的です。これはどのように使用されていたかではなく、設備品自体の寿命の問題です。一般的な収益区分マンションであるワンルームやコンパクトタイプの1部屋では、月々のキャッシュフローによるプラスはそれほど大きくありませんが、これらの修繕費はそれぞれ15万~30万円程度かかります。仮に月1万円のプラスが出ていた場合、一気に2年分、月5000円のプラスならば3年分のキャッシュフローが消えてしまいます。たとえキャッシュフロー目的ではなく、節税やその他の目的であっても、これは大きな出費となるでしょう。
仮に、築年数10~12年ほどで売却した場合、このような修繕費をあまり負担せずに済みます。例えば、築5年の中古物件を購入し、5年以上保有した後に売却すれば、前述の税率も低く抑えられます。また、築10年以内の物件は、買い手にとっても築年数として魅力的です。
築年数と融資の関係
言うまでもありませんが、「保有している収益不動産を売却する」ということは「新たな所有者、つまり買い主を探す」ということです。そのため、買い手の立場に立って考えると、「築年数の比較的浅い物件」は売りやすい物件と言えます。不動産会社などに売却する場合も、業者は再販を前提に購入するため、同じことが言えます。
収益区分マンションを購入する際、多くの方は金融機関からの借入を行います。実物不動産投資の最大のメリットである「融資を活用して投資を行う」を最大限に利用したいという思いから、たとえ手持ち資金があっても借入を行う方が多くいます。また、収益不動産への投資の場合、キャッシュフローが良くなり、利息は経費として計上できるため、長期間の借入を行う方が有利とされています。そのため、できる限り長期で借入ができる物件、つまり築浅物件の方が好まれます。築年数が最も浅い物件は新築ですが、中古物件でも築10年以下の物件であれば、一定の優位性があります。
金融機関が設定する最大の融資年数は(借入者の年齢を考慮せず)、建物構造の法定耐用年数(木造22年、軽量鉄骨27年、RC造47年)を基準に、そこから築年数を引いて算出するのが一般的です。しかし、最近では、収益不動産(投資用区分マンションも含む)への融資に積極的な金融機関の中には、独自の耐用年数を基に融資期間を設定するケースも増えてきています。優良物件への資産組み換えの検討は、まず保有物件の売却から始まります。その際、売却のタイミングは非常に重要です。
売却価格の最下限の設定について
「これくらいで売れるといいな」という金額は、多少不動産投資を行っている経験のある方ならば、キャップレートを基準にして、NOI利回りで割り戻して価格の計算をするでしょう。しかし、「これ以下で売りたくないな」の最下限金額の設定には個人差があります。
例えば、3000万円で購入した収益用区分マンション、頭金200万円で2800万円をローン借り入れ、6年経過後の残債が2200万円だとします。また、月々のキャッシュフローは税金分を含めた、多少のプラスが出ているものとします(ここでは諸経費等は考えない。以下同じ)。
所有者の希望としては、購入時価格(3000万円)を下回ると損したイメージを持つと思います。しかし、2800万円で売れれば手残りは600万円で、そこから頭金200万円を引けば400万円(+月々のプラス分×6年間)が真の手残りということになります。ローン支払分は、不動産に変えて貯蓄していたというイメージになります。このような「手残りはいくらか」という考えで収益不動産の売却の最下限価格を考えればいいでしょう。
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