ざっくり要約!
- 敷金は借主に債務不履行(約束を破ること)がなければ原則として退去時に返還される
- 賃貸借の解約を申し出る前に、賃貸借契約書で敷金の返還について確認しておく
賃貸物件の敷金は、賃貸不動産の明渡が完了したときに戻ってきます。
退去を予定している場合、敷金はいつ戻って来るのか気になっている人もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、敷金は全額戻って来るとは限らないため、いくら戻ってくるのかも気になるポイントです。
敷金の返還金額に関しては、退去前に再度、賃貸借契約書を見直すことが望ましいといえます。
この記事では、「敷金はいつ返ってくる」かについて解説します。
記事サマリー
退去時に敷金は返ってくる?返還までの流れ
退去時の敷金返還の流れについて解説します。
敷金はいつ返ってくる?
敷金とは「預り金的性格を有する一時金」のことであり、借主に債務不履行(約束を破ること)がなければ原則として退去時に返還されます。
賃貸物件の入居時には、礼金という一時金が徴収される場合もあります。
礼金とは「賃料の前払い的性格を有する一時金」のことであり、家賃の一部であることから借主には戻ってこないお金です。
敷金は、民法では「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されています。
店舗等の賃貸物件では、保証金と呼ばれる敷金と類似の金銭も存在していますが、民法では「いかなる名目によるかを問わず」借主の債務を担保する目的で預かっている金銭を敷金としています。したがって、民法上は保証金も敷金の1つです。
敷金がいつ返って来るかについては、法律上の解釈が明確になっています。
敷金は賃貸借契約終了時ではなく、契約が終了し、借主が賃貸不動産の明渡を完了したときに、借主に敷金返還請求権が発生します。
敷金の返還に関しては「明渡を完了したとき」という点がポイントです。「明渡時説」とも呼ばれ、多くの判例で明渡時説を前提とした判例が出されています。
明渡とは、引っ越しを完了させてがらんどうの状態で貸主に返すことです。
借主は明渡をしてからはじめて貸主に対して敷金の返還を請求できますので、賃貸借契約の終了を申し出ただけのタイミング、賃貸借契約を終了しただけのタイミングでは敷金は返還されません。
敷金は、明渡後に借主が指定した口座に後日振り込まれます。
賃貸借契約書では、敷金は「明渡し後、遅滞なく、その残額を乙に返還しなければならない」と記載されていることが多いです。
URの賃貸物件では、敷金は契約解除日から原則30日以内に振り込まれます。
敷金の返還時期は賃貸借契約書で期限が明記されている場合もありますが、明記されていない場合でも通常は1カ月以内、遅くても2カ月以内には返還されることが一般的とされています。
出典:民法|e-Gov法令検索
退去時の敷金返還の流れ
敷金の返還のタイミングが明渡以降となっているのは「原状回復」を確認するためです。
敷金からは、借主が不払いした家賃だけでなく、借主が生じさせた毀損や汚損に対する損害賠償等も差し引くことができます。
借主の費用負担で原状回復しなければならない箇所がある場合は、貸主は敷金からその費用を差し引くことができるということです。
原状回復とは、借主の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することを指します。
定義は少し長い文章ですが、借主の費用負担で原状回復しなければならない点は、以下の3つです。
- 借主の故意・過失による損傷
- 善管注意義務違反による損傷
- その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損
1つ目の「故意・過失による損傷」とは、わざともしくはうっかり壊してしまった部分のことです。
例えば、借主が壁を殴打してへこみを発生させた場合等が該当します。
2つ目の「善管注意義務違反による損傷」とは、日常の不適切な手入れによって生じさせた損傷のことです。
例えば、結露が発生しているのに貸主に告げず、そのまま放置して生じさせたカビ跡等が該当します。
3つ目の「その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」とは、禁止事項を犯して住んだ場合に生じさせた損傷のことです。
例えば、ペット不可の物件であるにもかかわらずペットを飼って傷付けた損傷等が該当します。
明渡の結果、上記のような借主が負担すべき損傷が生じていれば、これらの修繕費用が差し引かれて敷金が返還されることになります。
敷金返還の法律と実際の割合
敷金返還の法律と実際の割合について解説します。
敷金返還に関わる法律の基礎知識
敷金とは、民法上、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭のことです。
法律上は、明渡を完了した後に借主にようやく敷金返還請求権が発生することになります。
敷金の定義では、「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務」を担保することが目的ですので、法律上は以下のものが敷金によって担保されることになります。
【敷金によって担保されるもの】
- 家賃の不払い
- 原状回復とされている借主の毀損・汚損に対する損害賠償
- 借主が無権限で行った工事の復旧費
- 賃貸借終了後、明渡までの賃料相当額の損害金
借主が無権限で行った工事の復旧費とは、例えば借主が貸主に無断でリフォーム工事等を行った場合に、それを復旧するための工事費用のことです。
賃貸借終了後の明渡までの賃料相当額の損害金とは、例えば賃貸借が終了したにもかかわらず、無断で居座った場合に居座った期間の賃料が敷金から差し引かれるということを指します。
敷金が返ってくる割合とは?相場と実例
国土交通省の「令和4年度住宅市場動向調査報告書」によると、2022年度における敷金は1カ月分の世帯が64.9%、2カ月分の世帯が25.0%となっています。
そのため、統計上の敷金は1カ月が最も多いといえます。
敷金の相場は1カ月が主流で、2カ月は全体の4分の1程度です。
敷金は全額戻ってくるケースもありますが、一方で借主が負担すべき原状回復費用が多い場合や家賃を滞納している場合には戻ってこない可能性もあります。
・「賃貸の退去費用の相場」に関する記事はこちら 賃貸の退去費用の相場は?支払額を抑えるためのポイントを紹介 |
居住期間が長い場合に敷金は返ってくる?
居住期間が長い場合に敷金は返ってくるかどうかについて、解説します。
敷金返還は何年後まで可能?
敷金返還は何年後まで可能かどうかというルールや商習慣は特にありません。
借主がキレイに使っており、家賃の不払いもなければ、20年以上借りていたとしても敷金が全額戻ってくるケースもあります。
原状回復は「通常損耗」と「経年劣化」の部分は原則として対象外です。
通常損耗とは、借主の通常の使用により生じる損耗等のことであり、例えば家具の設置によるカーペットのへこみや画鋲の穴等を指します。
経年劣化とは、建物や設備等の自然的な劣化または損耗のことであり、例えば日照等による畳やクロスの変色等のことです。
通常損耗や経年劣化は、原則として借主が負担すべき原状回復費用ではないことから、何年住んでいても借主に請求されることはありません。
10年経過しても敷金は返ってくる?
10年経とうが、何年経とうが、家賃の不払いや借主が負担すべき原状回復が生じていなければ敷金は戻ってきます。
逆にいえば、1カ月しか住まなかったとしても、家賃の不払いや借主が負担すべき原状回復が生じていれば敷金が全額戻ってくることはありません。
いくら戻ってくるかどうかは、借りた年数では決まらないということです。
借り方が良ければ多く戻ってきますし、借り方が悪ければ少なく戻ってきます。
ただし、例外として賃貸借契約書で通常損耗や経年劣化を借主負担としている場合には、長期間借りると通常損耗や経年劣化が多く生じるため、敷金が戻ってこないことはあり得ます。
特約で通常損耗や経年劣化を借主負担とさせるには、以下の3つの要件を満たしていることが必要です。
【通常損耗や経年劣化を借主負担とする特約を有効にする要件】
- 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
仮に賃貸借契約が上記の条件を満たしていれば、通常損耗や経年劣化は借主負担です。
なお、例えば単に「原状回復は、理由の如何を問わず借主負担とする」と定められているだけでは合理的理由が存在するとは言い難いため、特約が無効となる場合があります。
また、退去時にクリーニング費用を借主負担としている賃貸借契約書も見受けられます。
クリーニング費用が借主負担となるには、上記の要件を満たしていることが必要です。
返ってくる敷金の計算方法
返ってくる敷金の計算方法について解説します。
敷金返還の計算方法
敷金返還の計算方法は、以下の通りです。
敷金 = 不払い家賃 - 借主が負担すべき原状回復費用等
敷金から差し引くべき不払い家賃や借主が負担すべき原状回復費用等が存在しなければ、敷金は満額戻ってくることになります。
敷金トラブルを避けるための対策
敷金トラブルを避けるための対策について解説します。
契約書の内容を確認しておく
敷金の返還に関しては、賃貸借の解約を申し出る前に賃貸借契約書をしっかりと確認することが適切です。
確認のポイントは、原状回復の規定です。
例えば「本物件の明渡し時において、乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年劣化を除き、本物件を原状回復しなければならない」と記載されている場合には、原則通り通常損耗や経年劣化は原状回復から除外されています。
一方で、特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在する等の要件を満たしており、通常損耗等も借主負担とする特約があれば、敷金から多くの額を差し引かれる可能性があります。
場合によっては、敷金が全額戻ってこないだけでなく、追加で費用を徴収されることもあり得ます。
国民生活センター等に相談する
管理会社は基本的に貸主側に立っているため、管理会社や貸主に対しては敷金に関する相談がしにくい人が多いでしょう。
敷金に関する相談をしたい場合には、国民生活センター等の公的な第三者機関が望ましいといえます。
また、東京都には、その他に都庁の賃貸ホットラインや不動産取引特別相談室、消費生活総合センター等の相談窓口もあります。
この記事のポイント
- 退去時に敷金は返ってくる?返還までの流れは?
敷金は賃貸借契約終了時ではなく、契約が終了し、借主が賃貸不動産の明渡を完了したときに、借主に敷金返還請求権が発生します。
借主は明渡をしてからはじめて貸主に対して敷金の返還を請求できますので、賃貸借契約の終了を申し出ただけのタイミング、または賃貸借契約を終了しただけのタイミングでは返還されません。
詳しくは「退去時に敷金は返ってくる?返還までの流れ」をご覧ください。
- 居住期間が長い場合に敷金は返ってくる?
敷金返還は何年後まで可能かどうかというルールや商習慣は特にありません。
借主がキレイに使っており、家賃の不払いもなければ、20年以上借りていたとしても敷金が全額戻ってくるケースもあります。
詳しくは「居住期間が長い場合に敷金は返ってくる?」をご覧ください。
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