ざっくり要約!
- 事業用定期借地権とは「専ら事業のように供する建物の所有を目的とした定期借地権」のこと
- 事業用定期借地権は、借地事業の中でも地代収入が相応に高いなどのメリットがある
土地活用の一つに事業用定期借地権があります。事業用定期借地権は、相応に高い収入を得ることができ、また借地期間も比較的短いことから、地主にとって取り組みやすい土地活用です。具体例としては、コンビニによる事業用定期借地権が挙げられます。
事業用定期借地権は、地主にとっては比較的メリットが優勢となると考えられますが、デメリットや注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。
この記事では、事業用定期借地権について解説します。
記事サマリー
事業用定期借地権とは?
事業用定期借地権とは、「専ら事業のように供する建物の所有を目的とした定期借地権」のことです。
事業のように供する建物とは、居住用以外の建物であり、例えば店舗や工場、倉庫、ビジネスホテル、オフィスビル等の建物が該当します。
借地権なので、土地を貸して地代収入を得る土地活用となります。つまり、土地の所有者は地主、建物の所有者は借地人(土地を借りる人)になるということです。
地主は建物所有者ではないため、建物投資は不要となります。また、地主は建物所有者ではないことから、将来の大規模修繕や建物の固定資産税、損害保険料、小修繕費用等もすべて不要です。
借入金を組む必要もなく、極めて低いリスクで地代収入を得られる点がメリットとなります。
なお、定期借地権とは、更新の概念のない借地契約のことです。契約期間が終了すると、確実に土地を取り戻すことができる点が大きな特徴となります。
事業の用途に限定して期間を決めて土地を貸し出す権利
事業用定期借地権に、わざわざ「事業用」という単語が使われているのは他の定期借地権と区別するためです。
定期借地権には、「事業用定期借地権」と「一般定期借地権」、「建物譲渡特約付借地権」の3種類があります。
事業用借地権とは、建物の用途が事業の用に限定された定期借地権のことです。一般定期借地権は、建物の用途に制限がない定期借地権のことであり、事業用借地権と建物譲渡特約付借地権以外の定期借地権のことを指します。
建物譲渡特約付借地権とは、「借地権設定後30年以上経過した日に借地人が建物を土地所有者に売る(譲渡)ことで借地契約が終了する借地権」のことです。
3つの定期借地権の特徴をまとめると、下表のようになります。
項目 | 事業用定期借地権 | 一般定期借地権 | 建物譲渡特約付借地権 | |
---|---|---|---|---|
存続期間 | 10年以上 30年未満 | 30年以上 50年未満 | 50年以上 | 30年以上 |
更新後の期間 | なし | なし | なし | |
利用目的 | 事業用に限る (居住用は不可) | 制限なし | 制限なし | |
契約書式 | 必ず公正証書で契約する | 公正証書等の書面により契約 | 規定なし | |
借地関係の終了 | 期間満了 | 期間満了 | 建物譲渡 | |
建物買取請求権 | なし | 特約で排除可能 | 特約で排除可能 | あり |
事業用定期借地権は、契約期間が10年以上50年未満となっており、他の定期借地権と比較すると契約期間を短くできる点が特徴です。契約書式に関しては、事業用定期借地権だけ公正証書で契約しなければならないとされています。
建物用途に関しては、事業用定期借地権だけ事業用に限るとされている点も特徴です。賃貸マンションやアパート等は居住用であるため、事業用定期借地権で契約することができません。
居住用建物で定期借地権を締結するには、一般定期借地権もしくは建物譲渡特約付借地権を選択することになります。
また、老人ホームは一見すると事業用建物のようにも思えますが、老人が居住する施設であることから、事業用定期借地権では締結できないと解されていることが一般的です。一方で、旅館やホテル等は特定人が継続的に居住するものではないことから、事業用建物であり、事業用定期借地権を選択することができます。
事業用定期借地権と普通借地権の違い
借地権には大きく分けて定期借地権と普通借地権の2種類があります。それぞれの違いについて解説します。
更新の有無
「普通借地権」とは更新がある借地権のことで、「事業用定期借地権を含む定期借地権」とは更新の概念のない借地権のことです。
普通借地権の場合、契約期間満了時、借地人(借主)が更新したいと申し出ればほぼ更新できる仕組みとなっています。
仮に地主が更新を拒絶したい場合、地主側に正当事由と財産上の給付が必要となります。
正当事由とは、地主が土地を必要とする事情のことです。地主側の土地の使用目的や生活状況、家族構成、他の土地の所有の有無等が考慮されて土地利用の必要性が判断されます。
土地利用の必要性が低いと判断されれば、正当事由は認められません。
財産上の給付とは、主には立ち退き料のことですが、地主が代替土地を提供することで認められる場合もあります。立ち退き料は弱い正当事由を補完する役割があり、正当事由に立ち退き料がプラスされることで借地人を退去させることが認められます。
一方で、事業用定期借地権を含む定期借地権は、そもそも更新の概念がない借地権になります。契約期間満了時に確定的に借地契約が終了するのが定期借地権の特徴です。
したがって、事業用定期借地権を含む定期借地権では、正当事由や立ち退き料がなくても土地を確実に取り戻すことができます。
なお、普通借地権は更新がありますので、更新時に借地人(借主)に更新料が発生します。それに対して、定期借地権はそもそも更新がないため、借地人に更新料が発生しない点も特徴です。
地代の相場
地代に関して特に法律上の決まりはありませんが、ある程度の相場は形成されています。
一般的に事業用定期借地権では年間地代が更地価格の6%前後になっていることが多いです。一方で、普通借地の場合、年間地代は土地の固定資産税の3倍程度が相場となっています。
権利金の授受
権利金は、普通借地権にはありますが、事業用定期借地権にはありません。
権利金とは、普通借地において借地権設定時に地主に対して支払う金銭のことです。
契約終了時に戻ってこない金銭であり、アパート等で見られる礼金と性質が似た金銭になります。
普通借地権は、半永久的に土地を借り続けることができるため、借地人は半分土地を取得したようなものです。
取得費用的な意味合いもあり、普通借地権には礼金が発生します。
保証金の授受
保証金は、普通借地権にはなく、事業用定期借地権にはある場合も多いです。保証金とは、借地契約終了後に戻ってくる金銭となり、アパート等で見られる敷金と性質が似ています。
事業用定期借地権のメリット・デメリット
事業用定期借地権にはメリット・デメリットがあります。それぞれ詳しく解説します。
メリット
事業用定期借地権のメリットについて解説します。
地代収入が相応に高い
事業用定期借地権は、借地事業の中では地代収入が相応に高い点がメリットです。
一般的に普通借地権の地代よりも高いですし、コインパーキングのような暫定利用よりも高い収入が得られます。
借地期間が比較的短い
事業用定期借地権は、借地の中でも契約期間が比較的短い点もメリットです。
例えば、子や孫が自分たちで土地を利用したいと考えた場合などでも、比較的短い期間で更地に戻りますので、家族に事情の変更があったときも対応しやすいといえます。
リスクが極めて低い
事業用定期借地権は、リスクが極めて低い点もメリットです。
建物投資を行わないため借入金も発生せず、また建物所有者ではないことから将来の建物の修繕対応も不要となります。
借地人(借主)は借地上で建物投資まで行っていますので、そう簡単には撤退しません。撤退リスクも基本的には低いため、低リスクで土地活用を行うことができます。
デメリット
事業用定期借地権のデメリットについて解説します。
借家事業に比べると収入が少ない
事業用定期借地権が成立するような土地は、良い土地に限られます。借地人がわざわざ建物投資を行ってまで借りたい土地となりますので、立地の良い土地でないと事業用定期借地権の話はありません。
立地の良い土地は、地主が自分で建物を建てて借家事業を行っても成功する可能性は高いです。一般的に収入は借地事業よりも借家事業の方が高くなります。
そのため、事業用定期借地権は、あえてあまり儲からない選択をしているという見方もできます。
相続税対策効果が薄い
事業用定期借地権は、建物を建てて貸す借家事業に比べると相続税対策効果が薄いです。
事業用定期借地権の相続税評価額は、契約期間が終了に近づくほど更地の評価額に近づき、評価額がだんだんと上がっていくという評価方法となります。
相続税対策をしたい人は、十分に検討した上で意思決定することが適切です。
事業者が倒産したときに建物が残ってしまう
事業用定期借地権では、契約期間中に事業者が倒産すると建物が残ってしまう点がデメリットです。
建物は地主の所有物ではないので、勝手に壊せないという問題が発生します。取り壊すには裁判の手続きも必要となり、建て替え費用も地主が立て替えざるを得ないことも多いです。
事業用定期借地権の注意点
事業用定期借地権の注意点について解説します。
設定契約は公正証書で締結しなければならない
契約書式は、事業用定期借地権だけ公正証書が必須となっています。公正証書で締結しなければならない理由は、定期借地制度の濫用を防ぐためです。
公正証書でなければ、事業用定期借地権としての効力は認められません。
保証金が高過ぎると相続で返還できないリスクがある
事業用定期借地権は契約期間が長いため、個人が行うと契約期間中に相続が発生することがあります。契約当初、親が多額の保証金を預かると、相続した子が保証金を返還できないリスクが生じてしまいます。
契約期間中に相続が発生しそうな場合には、子と相談しながら保証金の額を決定することが望ましいです。
隣接地と共同で設定することができる
事業用定期借地権は隣接地と共同で設定することもできます。
ホームセンターのような事業用定期借地権では、かなり広い土地が必要となるため、複数地権者が共同で事業用定期借地権を設定することもあります。
複数地権者で事業用定期借地権を設定する場合には、地権者同士でも十分に話し合い、地代や保証金の額、契約期間等を決めることが必要です。
この記事のポイント
- 事業用定期借地権とは何ですか?
事業用定期借地権とは、「専ら事業のように供する建物の所有を目的とした定期借地権」のことです。
借地権なので、土地を貸して地代収入を得る土地活用となります。つまり、土地の所有者は地主、建物の所有者は借地人(土地を借りる人)になるということです。
詳しくは「事業用定期借地権とは?」をご覧ください。
- 事業用定期借地権のメリット・デメリットは?
借地事業の中では地代収入が相応に高いといったメリットがある一方で、契約期間中に事業者が倒産すると建物が残ってしまうなどのデメリットもあります。
詳しくは「事業用定期借地権のメリット・デメリット」をご覧ください。
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