親が亡くなって実家を相続することになったとき、実家の敷地が実は借地だったということがよくあります。借地は所有権と異なり、地主との契約関係があるため、さまざまな制約を受けます。
相続した建物が借地上にある場合には、当然に相続することができるのかも気になるところでしょう。借地権の相続では、通常の不動産の相続と何が違うのかを正確に理解しておくことが重要です。
そこで、借地権とはなにか、地主から許可を得なければならない事項や、借地権の相続でよくあるトラブルなどを解説します。
記事サマリー
借地権の相続では権利の内容を把握することが大切
亡くなった人の住んでいた家を相続する場合、土地の権利を把握しておく必要があります。
土地の権利としては所有権と借地権があるところ、いずれであるかによって相続手続きに違いがあります。
以下では、借地権に関する基礎的な知識を解説します。
借地権とはどのような権利なのか
借地権とは、建物の所有を目的として他人の土地を借りる権利をいいます。
借地権は相続の対象となります。したがって、借地権を相続した方は、地主に対してこれまでどおり住み続ける権利を主張することができます。
ただし、当然ながら借地契約に基づく地代の支払いは必要です。
借地権には相続税がかかる
借地権は経済的価値を有する権利であるため、ほかの相続財産と同様に相続税がかかることには注意が必要です。
借地権に関する相続税の詳しい計算方法は後で説明します。
借地権には更新料がかかることも
借地権は借地契約において存続期間が定められます。期間満了後に借地契約を更新する場合には更新料を請求されることがあります。
借地権の更新料の相場は、借地権価格の5%~10%程度といわれています。
なお、更新料はあくまでも借地契約に基づき、支払い義務が発生するものです。裏を返せば、借地契約に更新料の定めがなければ、借地人は更新料を支払う義務を負いません。
ただし、借地契約は先祖代々の長年の付き合いに基づくことも少なくありません。このため、借地契約の内容にかかわらず、地主に請求されたどおりに借地人が慣習的に更新料を支払っているケースがあります。
借地上の建物が滅失しても借地権は消滅しない
借地権は、建物所有を目的とする権利です。そのせいか、建物が火事などで滅失すると、借地権も一緒に消滅すると誤解されていることがあります。
しかし、借地権について定める借地借家法及び旧借地法のいずれにおいても、建物が滅失したことを理由に借地権が消滅するとの規定はありません。
ただし、借地上の建物が滅失して再建築する場合、借地契約において地主の承諾を要すると定められていることがあるため注意が必要です。
借地権を相続するときは地主の許可は原則不要
相続では、亡くなった方が有していた権利や義務が、一括して相続人に承継されます。このような承継を「包括承継」と呼び、売買などによる権利の移転とは区別されています。
相続が包括承継であるということは、借地権の相続人が借地権を相続することについて地主から個別に許可を得る必要がないことを意味します。
地主の許可が必要となるケース
相続以外の場面では、地主の許可が必要となることがあります。そもそも、借地権には、厳密には地上権と賃借権の2種類があります。
そして、後者の賃借権の場合には、借地権者が借地上の建物を譲渡するとき、借地権も同時に移転することになるため地主の許可が必要とされています。
このほか、借地契約において、建替え、増改築、大規模修繕などについて地主の許可が必要と定められていることがあります。
このように地主の許可が必要であるにもかかわらず、地主から許可を得られないとか法外な承諾料の支払いを求められるというトラブルがときどきあります。
地主から許可が得られなければ、借地権者は借地を利用することが事実上困難となり非常に困ったことになります。
そこで、地主の許可を得られない借地権者を救済するため、地主の許可が得られない場合に、裁判所が相当と認めれば、地主の承諾に代わる許可を出すという制度が存在しています。
この制度を「借地非訟事件」と呼びます。借地の利用について地主の許可を得られず困っているという場合には、借地非訟の手続きも視野に入れておくとよいでしょう。
借地権の価値を計算する
借地権を相続した場合、相続税の対象となるか否かを判断するためにも借地権の価値を計算する必要があります。相続税における借地権の評価方法は次のとおりです。
借地権の評価額 = 自用地としての評価額 × 借地権割合
「自用地」とは、他人が使用する権利のない土地をいいます。要するに、「自用地としての評価額」とは借地が更地であった場合の評価額を指します。
自用地としての評価額を算定する方法としては、路線価方式と倍率方式の2種類があります。路線価方式とは、国税庁により路線価が定められている地域の評価方法です。
路線価とは、単位を千円とする宅地の1㎡あたりの価額です。全国の路線価は国税庁の公式サイトから調べることができます。
ただし、地域によっては路線価が定められていないことがあります。そのような地域は、倍率方式によって土地を評価します。
倍率方式においては、固定資産税評価額にその土地について定められる倍率をかけ合わせて自用地としての評価額を算出します。
この倍率も路線価方式と同様に、国税庁の公式サイトで調べることができます。
借地権を相続する場合の一般的な選択肢
借地権を相続した場合に相続人の取りうる選択肢としては、借地権をそのまま利用するか借地権を手放すかの2つがあります。
借地に住み続ける場合
相続した家を手放さずそのまま住み続ける場合には、被相続人が締結した借地契約に従って地代を払い、借地を使用することになります。
この場合、相続人が借地を使用し続けることについて地主の許可は不要です。
ただし、地主に借地権者が変更となったことを伝える必要があります。
具体的には、名義変更などの各種手続きを求められることが多いでしょう。
名義変更は、借地契約で手数料が定められていないことが通常です。そして、借地契約にその旨の定めがないのであれば、手数料の支払いは不要です。
借地権を手放す場合
相続に伴い借地権を手放す場合、地主に借地権を買い取ってもらう方法が現実的です。借地権は流通が予定されていない権利であり、売却が難しいことが多いためです。
なお、借地権を売却できるかは、借地権の法的な性質によって異なります。すなわち、借地権には前述のとおり、賃借権と地上権の2種類があります。
このうち、借地権が賃借権である場合には、地主の承諾なく売却できません。
一方で、借地権が地上権である場合には、地主の承諾がなくても自由に売却できます。
宅地の借地権は賃借権であることが多いため、現実には借地権の売却のため地主の承諾を要することが一般的です。
地主としては、長年の人間関係を背景に借地権を設定していることが多く、見ず知らずの第三者に借地権が渡ることに拒否感を持つことが少なくありません。
このため、借地権の売却について地主の許可が得られないことが起こりがちです。
なお、建物とあわせて借地権を第三者に売却する場合、それにより地主に不利となるおそれがなければ、上で説明した「借地非訟事件」として裁判所が地主の承諾に代わる許可を出すことができます。
ただし、借地非訟事件となりうるのは、建物の譲渡に伴う借地権の移転です。借地権のみを譲渡する場合には、地主が承諾しない限り売却することはできません。
借地権の相続でよくあるトラブルと解決策
最後に、借地権の相続でよくあるトラブル事例を解説します。
借地権の転貸
借地権が土地の賃借権である場合、借地権の転貸のためには地主の承諾が必要です。
まったくの第三者に借地権を転貸することは、あまりないと思われますが、実家の建っている借地上に借地権者の子どもが、自分名義の家を建てるような場合にも地主の承諾が必要です。
このような身内どうしの転貸では、地主の承諾を取るのを忘れがちなので注意しましょう。
相続後に地主から必要な承諾を得ていなかったことが発覚すると、地主から高額な承諾料を求められるなどトラブルに発展するリスクがあります。
地代の値上げ
借地契約は数十年単位の長期にわたることが通常です。このため、契約期間中に周辺の土地の価格が変動する可能性があります。
周辺の土地価格の相場が上昇すると、地主から地代の増額を求められることがあります。この地代の増額請求権は借地借家法により認められている権利です。
反対に、周辺の土地価格の相場が大幅に下落したような場合には、借地権者から地主に対して、地代の減額請求をすることもできます。
地代の増減額請求について地主と借地権者との間で協議がととのわなければ、裁判を起こすこともできます。適正な地代は、最終的に不動産鑑定評価などに基づき判断されることになります。
新地主からの立ち退き請求
借地権の存続期間中に地主が借地権の対象となっている土地を売却して、地主が交代することがあります。この場合、新しい地主から借地権者が立ち退きを求められるのではないかが気になるところです。
結論としては、借地権者が借地上に自己の名義の建物を所有しており、建物の保存登記がされていれば、新地主からの立ち退き請求に応じる必要はありません。
借地権の返還を求められた、あるいは更新を拒否された
借地契約で定められた期間の満了時に、地主から契約更新を拒絶され借地権の返還を求められるトラブルがあります。
もっとも、地主の事情による更新拒絶には制約があります。
借地借家法によれば、更新拒絶が許容されるためには、地主が借地の使用を必要とする事情があるだけでなく、借地に関する従前の経過や土地の利用状況からみてやむを得ないといえる事情が必要です。
また、地主が借地権者に対する立ち退き料を支払わなければならないこともよくあります。
したがって、借地権者としては契約更新時に借地権の返還を求められてもただちに応じる必要はありません。地主の要求が法的に認められるかをよく検討した上で、立ち退き料を含めた交渉をするとよいでしょう。
借地権の相続手続きは早めに専門家に相談を
借地権を相続したとき、相続人自身が借地権について理解しておくことは大切です。
もっとも、借地権は所有権と比べて権利関係が複雑でわかりにくいことが多いです。
また、借地権の内容は借地契約によっても左右されますので、契約書を正確に解釈することも必要となります。
借地権に関しては、当該地域において長年にわたり継続していることが多くあります。このため、相続人が相続した借地に住み続ける場合には地主との人的関係に配慮する必要もあります。
したがって、地主も借地権者も法的なトラブルに発展することを避けようとする傾向にあり、結果として手続きが進みにくいことがあります。
借地権の相続について相続人自身による解決が難しい場合には、弁護士や司法書士などの専門家への相談を検討するとよいでしょう。当事者同士では難航する交渉や手続きであっても、第三者が間に入ることによってスムーズに進むことがあります。
この記事のポイント
- 借地権を相続する時に地主の許可は必要?
借地権を相続する時に地主の許可は原則不要です。
相続では、亡くなった方が有していた権利や義務は「包括承継」で一括して相続人に承継されるため、借地権の相続人が借地権を相続することについて地主から個別に許可を得る必要はありません。詳しくは「借地権を相続するときは地主の許可は原則不要」をご確認ください。
- 借地権にも相続税はかかる?
借地権は経済的価値を有する権利であるため、ほかの相続財産と同様に相続税がかかります。
借地権を相続した場合、相続税の対象となるか否かを判断するためにも借地権の価値を計算する必要がありますので注意しましょう。詳しくは「借地権の相続では権利の内容を把握することが大切」をご確認ください。
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