ざっくり要約!
- 家の売却で課される税金は印紙税・消費税・登録免許税・譲渡所得税
- 各種控除特例の適用期限は住まなくなってから、あるいは相続してから「3年」が目安
家の売却には、さまざまな税金が課されます。中でも、売却益に対して課される譲渡所得税は高額になる可能性があります。しかし、マイホームや相続した家は控除特例の適用によって税額を抑えることも可能です。
この記事では、家の売却でかかる税金と控除特例について解説します。
記事サマリー
家の売却にかかる4つの税金
家の売却でかかる税金は、次の4つです。
印紙税
印紙税とは、家を売却するときに取り交わす売買契約書の作成に課せられる税金です。家が高く売れると、その分印紙税も高額になります。不動産を売買する際の印紙税は以下の通りです。なお、2027年3月31日までに作成される契約書は、軽減税率の対象となります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 1,000円 | 500円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 2,000円 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 1万円 | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億を超え10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
たとえば、2024年8月31日に実家を5,000万円で売却する契約をしたときは、売買契約書には1万円の印紙を貼る必要があります。
消費税
不動産売却にかかる諸費用のうち、以下の費用には消費税が課されます。
仲介手数料
仲介手数料とは、不動産会社に支払う手数料です。法律で「売却金額×3%+6万円」が上限と定められており、手数料に対して消費税が課されます。(売買価格800万円以下の場合は仲介手数料33万円(税込み))
住宅ローン完済手数料
家を売却する際に住宅ローンを完済する場合は、金融機関に消費税を含めて完済手数料を支払います。金額は金融機関によって異なりますが、1〜5万円+消費税程度が一般的です。
司法書士報酬
住宅ローンを完済するときには、抵当権を抹消しなければなりません。抵当抹消は司法書士に委託するのが一般的です。報酬は1.5〜1.8万円程度で、消費税が課されます。
登録免許税
抵当権抹消は登記手続きのため、登録免許税が課されます。税額は、1つの不動産につき1,000円です。
・「抵当権抹消」に関する記事はこちら
抵当権抹消とは?抹消が必要になるケースや費用、手続きの方法を解説
譲渡所得税(住民税・所得税・復興所得税)
譲渡所得税は「譲渡所得」が出た場合に限り課される税金です。譲渡所得の計算方法については後述しますが、簡単にいえば家を売ったことのよる利益を指します。「譲渡所得税」とまとめていわれることが多いですが、内訳は住民税・所得税・復興所得税という3つの税金です。
譲渡所得は「家を買った金額−売った金額」ではない
譲渡所得は売却益を指すものですが、単に「家を買った金額」から「売った金額」を引いた金額ではありません。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、次の計算式で算出します。
譲渡所得=総収入金額−(取得費+譲渡費用)
総収入金額
総収入金額とは、家の売却によって得た金額を指します。売却金額のほか、固定資産税や都市計画税の精算金として受領した金額も含まれます。
取得費
取得費は、家の取得にかかった費用から建物の「減価償却費」を控除した金額です。減価償却とは、経年によって価値が減っていく資産を複数年に分けて経費計上する会計上の手続きを指します。不動産のうち、土地は減価償却資産ではありませんが、建物は減価償却資産にあたります。建物の減価償却費は、次の計算式で算出します。
減価償却費=購入代金×0.9×償却率×経過年数
住宅用建物の定額法償却率は、次のとおりです。
構造 | 非業務用 | 業務用 | |||
---|---|---|---|---|---|
耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | ||
木造 | 33年 | 0.031 | 22年 | 0.046 | |
鉄骨造 | 4mm超 | 51年 | 0.020 | 34年 | 0.030 |
3mm超4mm以下 | 40年 | 0.025 | 27年 | 0.038 | |
3mm以下 | 28年 | 0.036 | 19年 | 0.053 | |
鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 | 47年 | 0.022 |
なお、取得費には、購入金額のほか、仲介手数料や印紙税などの諸費用も含まれます。
譲渡費用
譲渡費用とは、仲介手数料や印紙税など、家の売却にかかった費用です。売却するためにかかった解体費や入居者に退去してもらった際の立退料なども、譲渡費用に含まれます。
税率は家を所有していた期間によって異なる
住民税・所得税・復興所得税の税率は、家を売却した年の1月1日時点の所有期間によって以下のように異なります。
所有期間 | 住民税 | 所得税 | 復興特別所得税 |
5年以下(短期譲渡所得) | 9% | 30% | 0.63% |
5年超(長期譲渡所得) | 5% | 15% | 0.315% |
自宅・相続した家の売却で利用できる控除特例
自宅や相続した家の売却で譲渡所得が発生した場合は、次のような特例の適用で控除できます。
自宅の売却
自宅を売却した際は、次の3つの税控除制度を利用できます。「3,000万円特別控除」と「軽減税率の特例」のみ併用が可能です。
3,000万円特別控除(マイホーム特例)
自宅を売却したときは「マイホーム特例」と呼ばれる「3,000万円特別控除」という特例が適用できます。この特例では、所有期間の長さを問わず最高3,000万円まで控除可能です。
国税庁「マイホームを売ったときの特例」
・「3,000万円控除」に関する記事はこちら
3,000万円控除とは?制度の概要、適用条件や具体的な計算方法も解説
軽減税率の特例
10年以上所有していたマイホームで、3,000万円特別控除を適用しても譲渡所得が控除しきれない場合には「軽減税率の特例」が適用となります。税率は、以下のように軽減します。
国税庁「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」
買い換え特例
「買い換え特例」は、譲渡所得の控除ではなく、課税自体を繰り延べられる特例です。繰り延べられるのは、買い換え先を売却したときまでです。
国税庁「特定のマイホームを買い換えたときの特例」
・「居住用財産の譲渡の特例」に関する記事はこちら
自宅売却の特例と特例対象となる自宅売却の形態について
・「買い換え特例」に関する記事はこちら
居住用財産の買換え特例とは?併用できない特例と適用要件をわかりやすく解説
相続した実家の売却
相続した家を売却した際は、次の2つの税控除制度を利用できます。2つの制度はそれぞれ要件が異なり、重複しての利用はできません。
相続空き家の3,000万円特別控除
被相続人が一人暮らししていた家を相続し、空き家になっている家を売却するときに利用できるのが「相続空き家の3,000万円特別控除」です。マンションなど区分所有物件は適用対象外となりますのでご注意ください。
・「相続空き家の3,000万円特別控除」に関する記事はこちら
相続空き家に係る居住用財産の3,000万円特別控除の適用要件と取扱について
取得費加算の特例
相続した土地や建物を一定期間内に譲渡した場合に、すでに納めている相続税の一部を取得費用に加算できます。取得費が増えるということは、譲渡所得が下がるということ。その分、譲渡所得税が抑えられるというわけです。
国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
住んでいない家は税金が高くなる⁈空き家になってから「3年以内」を目安に売却すべき理由
マイホームや相続した実家の売却で譲渡所得が発生したとしても、控除特例によって税額を抑えたり、ゼロにしたりすることができます。しかし、各特例には適用期限があります。適用期限は特例ごとに定められていますが、いずれも自宅に住まなくなったり、相続したりしてから「3年」程度です。
家の売却には、一定の期間がかかります。たとえば、2021年11月まで住んでいた自宅の売却で3,000万円特別控除を適用させるには、3年後の年末、つまり2024年12月31日までに売買契約を締結しなければなりません。住まなくなってから3年後の2024年11月に売却活動を始めたとしても、売れるころには適用期日を過ぎてしまっているおそれもあります。
譲渡損失を損益通算・繰越控除できるケース
譲渡所得がマイナスになることを「譲渡損失」といいます。譲渡損失に対して譲渡所得税が課されることはありません。しかし、譲渡損失を給与などその他の所得と損益通算および繰越控除できる特例を適用することで、所得税を抑えられる可能性があります。
損益通算とは、家の売却で出た損失と給与などその他の所得を相殺することを指します。所得が減る分、税額を抑えられます。また、損益通算をしても控除しきれなかった譲渡損失は、売却翌年以後3年間にわたって繰越控除が可能です。
ただし、譲渡損失を損益通算・繰越控除できるのは、以下2つのケースに限られます。
- マイホームを買い換えたとき
- 住宅ローン残高を下回る金額でマイホームを売却したとき
国税庁「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」
国税庁「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」
譲渡所得がでたとき・控除特例を適用するときは確定申告を
家の売却で譲渡所得がでた場合は、確定申告が必要です。控除特例を適用することで税額がゼロになるとしても、控除特例の適用には確定申告が求められます。譲渡損失がでた場合は確定申告が必須ではありませんが、損益通算および繰越控除の特例を適用するには確定申告が必要です。
申告期間は、家を売却した翌年の2月16日〜3月15日です。納税地の税務署に確定申告書を提出しましょう。
【シミュレーション】家の売却で1,000万円高く売れたときの税金を計算してみよう
最後に、家が購入時より1,000万円高く売れたときの譲渡所得税を計算してみましょう。
シミュレーション条件は、以下のとおりです。
売却した家:10年住んだ木造一戸建て
- 売却時期:住まなくなってからすぐ
- 購入時の金額:3,500万円
- 購入にかかった費用:200万円
- 売却時の金額:4,500万円
- 売却にかかった費用:150万円
譲渡所得を計算
まずは、取得費を算出するため減価償却費を計算します。
減価償却費=購入代金×0.9×償却率×経過年数
木造の居住用の一戸建てのため、償却率は「0.031」です。
購入代金[3,500万円]×0.9×償却率[0.031]×経過年数[10年]=976.5万円
減価償却費は「976.5万円」と計算できました。続いて、取得費を計算します。取得費は、購入金額に購入にかかった費用を足し、減価償却費を引いたものです。
購入代金[3,500万円]+購入にかかった費用[200万円]-減価償却費[976.5万円]=2723.5万円
取得費は「2723.5万円」と算出できました。
続いて、譲渡所得を計算していきます。譲渡所得の計算式は、以下のとおりです。
譲渡所得=総収入金額−(取得費+譲渡費用)
総収入金額[4,500万円]-(取得費[2723.5万円]+譲渡費用[150万円])=1,626.5万円
この家の譲渡所得は「1,626.5万円」と計算できました。
3,000万円特別控除を適用した場合
譲渡所得は「1626.5万円」と3,000万円以下のため、3,000万円特別控除が適用となれば税額をゼロとすることができます。
控除特例が適用とならない場合の税額
控除特例が適用とならない場合は、所有期間が10年のため長期譲渡所得となり、住民税・所得税・復興所得税合計で20.315%の税金が課されます。
譲渡所得[1,626.5万円]×20.315%=約330.4万円
譲渡所得税は「約330.4万円」と計算できました。
まとめ
家の売却ではさまざまな税金が課されますが、高額になり得る譲渡所得税については、控除特例の適用で税額を抑えることができます。しかし、どのような家でも特例が適用になるわけではありません。売却のタイミングによって適用とならない場合もあります。各特例の適用要件を事前に確認したうえで、売却の時期や方法を検討しましょう。
この記事のポイント
- 家を売却する際にはどのような税金がかかりますか?
家を売却する際は4つの税金がかかります。
詳しくは「家の売却にかかる4つの税金」をご覧ください。
- 空き家のままおいている家の税金はどうなりますか?
各特例には適用期限があります。適用期限は特例ごとに定められていますが、いずれも自宅に住まなくなったり、相続したりしてから「3年」程度です。
詳しくは「住んでいない家は税金が高くなる⁈空き家になってから『3年以内』を目安に売却すべき理由」をご覧ください。
- 家を売却して利益が出た場合、確定申告は必要でしょうか?
家の売却で譲渡所得がでた場合は、確定申告が必要です。控除特例を適用することで税額がゼロになるとしても、控除特例の適用には確定申告が求められます。
詳しくは「譲渡所得がでたとき・控除特例を適用するときは確定申告を」をご覧ください。
ライターからのワンポイントアドバイス
家の売却で課される税金のうち譲渡所得税は控除特例の適用で税額を抑えることができますが、特例には要件があります。控除特例が適用されるかどうかで税額には数十万円、数百万円の差が生じることもあるため、事前に要件をよく確認するようにしましょう。税金の計算や特例の適用に疑問や不安がある場合は、税理士や不動産会社に相談しましょう。
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