ざっくり要約!
- 不動産投資には、所得税・住民税・贈与税・相続税の納税額を抑える効果があります。
- 所得状況や物件によっては、期待している節税効果が得られない可能性があります。
不動産投資には、所得税や住民税、相続税、贈与税などの節税効果があります。ただし、給与所得や事業所得が少なかったり、賃貸物件の空室率が高かったりすると期待していた節税効果が得られない可能性があるので注意が必要です。
本記事では、不動産投資が節税になる仕組みと、節税額の計算シミュレーションを紹介します。
記事サマリー
不動産投資で節税できる税金
不動産投資で利益を得ると、所得税や住民税などの税金を納めることになります。しかし、不動産投資による損失があったり、相続が発生したりしたときには、以下の税金の納税額を抑えられる可能性があります。
- 所得税
- 住民税
- 贈与税
- 相続税
所得税
所得税は、個人が1月1日から12月31日までの所得に対してかかる税金で、納税額は「課税所得金額 × 税率 - 税額控除額」で求められます。
課税所得金額は年収や手取り額ではなく、収入から必要経費や所得控除を差し引いた金額となるので注意が必要です。税率は、下表のように所得金額が大きくなるほど高くなる「累進課税」が採用されています。
課税される所得金額 | 税 率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | - |
195万円超330万円以下 | 10% | 9.75万円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 42.75万円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 63.60万円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 153.60万円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 279.60万円 |
4,000万円超 | 45% | 479.60万円 |
代表的な所得には、サラリーマンが勤務先から受け取る「給与所得」や小売業や飲食業といった事業から生じる「事業所得」などが挙げられ、不動産所得を含めた10種類に分類されています。
住民税
住民税とは、公共施設や上下水道、学校教育といった行政サービスを維持するために都道府県や市区町村に納める税金です。住民税には、所得金額に応じて負担する「所得割」と、所得にかかわらず定額負担する「均等割」があります。
住民税の納税額は「所得金額 ×10%」で求めた所得割に、5,000円の均等割を加えることで求められますが、自治体によって税率と均等割が異なる場合があります。住民税の納税額を計算する際は、自治体の税率と均等割を確認しておきましょう。
贈与税
贈与税は、現金や不動産などの財産を個人から譲り受けたときに納める税金です。
贈与税には、年間110万円以内の贈与が非課税となる基礎控除があるため、基礎控除額以下の贈与をしても基本的に課税されることはありません。なお、複数人から贈与を受けた場合は、合計贈与額の110万円を超えた部分に課税されるので注意しましょう。
贈与税の税率は、所得税と同様に所得金額が大きいほど高くなる累進課税が採用されています。18歳以上の方が父母や祖父母から贈与を受けた場合は、税率が引き下げられる「特例税率」が適用されます。
・「贈与税」に関する記事はこちら 贈与税とは?贈与税の課税方式や課税時期について |
相続税
相続税は、相続や遺贈(遺言)によって財産を受け継いだときに納める税金です。
相続税には「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数」の基礎控除があるため、相続財産が基礎控除以下であれば相続税がかかることは基本的にありません。相続資産が基礎控除内に収まるのであれば確定申告は不要ですが、税額控除を受けて相続税がゼロになる場合は申告する必要があります。相続税の税率は、相続財産が大きくなるにつれて高くなり「10〜55%」の範囲で決められます。
・「相続税」に関する記事はこちら 相続税と相続手続きの流れ |
不動産投資で節税できる仕組み
不動産投資で節税できる仕組みには、以下の4つが挙げられます。
- 損益通算
- 減価償却
- 評価額の圧縮
- 法人化
節税できる税金の種類は、仕組みごとに異なるので、どのような特徴があるのかを確認しておきましょう。
損益通算
給与所得や事業所得などの黒字所得から不動産投資で発生した赤字を差し引くことにより、所得税や住民税の納税額を抑えられます。この仕組みを「損益通算」といいます。
不動産所得は「家賃収入 ー 必要経費」で求められ、修繕費や固定資産税、火災保険料などを必要経費として計上することが可能です。これらの支出が多く、不動産所得が赤字となる場合は損益通算ができないかを確認してみるとよいでしょう。
なお、不動産投資ローンの利息分は必要経費として認められますが、赤字になった場合は経費から除外されるので注意が必要です。
「不動産所得の申告手続きと損益通算の特例」に関する記事はこちら ・不動産所得の申告手続きと損益通算の特例について |
減価償却
建物や設備などの固定資産は、購入年度の経費として一括計上できるわけではなく、一定期間に配分することとなります。これを「減価償却」といい、以下の計算式で求められます。
建物・設備価格 ÷ 償却期間 = 1年間の経費計上額
償却期間は「耐用年数 ー 築年数」で求められ、固定資産の使用可能期間に応じて決定されるのが一般的です。耐用年数は、木造住宅が22年、RC住宅が47年等と財務省令によって定められており、国税庁のサイトで確認できます。
なお、時間の経過によって価値が減少しない土地は、減価償却の対象外となるので注意が必要です。土地の購入費を経費にすることはできませんが、購入時に納付した登録免許税や固定資産税などは必要経費として算入できます。
・「不動産の減価償却費と計算方法」に関する記事はこちら 不動産の減価償却費と計算方法について |
評価額の圧縮
不動産を財産として所有している状態は、贈与税や相続税の計算根拠となる評価額を圧縮する効果があります。
土地や建物の評価額は、不動産時価の80%程度になるのが一般的で、現金で所有しているより評価額が下がる傾向があります。そのため、贈与税や相続税の課税対象となる資産額が減り、納税額を抑えられるのです。
たとえば、5,000万円の現金で不動産を購入した場合は「5,000万円 × 80% =4,000万円」となり、1,000万円分の評価額を圧縮することができます。
なお、不動産を賃貸物件として活用している場合は、土地と建物の評価額から賃貸割合に応じた金額を差し引くことが可能です。賃貸割合は、実際に貸し出されている部屋や面積の割合のことを指し、この割合が大きいほど評価額が下がります。
土地と建物の評価額は、以下のように計算されます。
■貸家建付地(土地・建物が自己所有)
相続税評価額 = 路線価 × 土地面積 ×(1 – 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
■貸宅地(土地が自己所有で、建物が他者所有)
相続税評価額 = 路線価 × 土地面積 ×(1 – 借地権割合)
■貸家
相続税評価額 = 家屋の固定資産税評価額(新築価額の50〜60%) ×(1 – 借家権割合 × 賃貸割合)
路線価とは、道路に面している土地の評価額を算出するための1㎡あたり価額のことをいい、毎年1月1日を基準日として国税庁が公表しています。路線価は、不動産時価の80%程度になるのが一般的です。
このように財産の一部に不動産を取り入れることで、贈与税や相続税の節税効果が見込めるでしょう。なお、贈与税や相続税は、現金での納付が原則となるため、納税資金まで不動産にしないように注意しましょう
・「土地や家屋の相続税評価額の計算方式」の記事はこちら 土地や家屋の相続税評価額の計算方式、小規模宅地の特例や遺産分割協議の必要性について |
法人化
不動産所得の金額が一定金額を超えた場合は、法人化したほうが納税額が少なくなるケースがあります。
個人が不動産投資によって得た利益は、不動産所得として税率が段階的に上がる累進課税が適用されます。一方、法人にかかる法人税率は最大23.2%と上限が決まっているため、個人の所得税率が33%となる所得900万円を超えた場合は、法人化したほうが適用税率が低くなるのです。
不動産所得だけで900万円に達しない場合であっても、給与所得や事業所得との合計所得が900万円以上になる場合は、法人化によって納税額が抑えられる可能性があります。
なお、法人から給与を受け取るときには、1年間の合計所得に応じた所得税を納めることになります。ほかにも法人事業税や法人住民税によって税負担が増えてしまう可能性があるため、税理士や不動産会社に税金シミュレーションを依頼してみるとよいでしょう。
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【シミュレーション】サラリーマンの損益通算
ここでは、サラリーマンの給与所得と不動産所得を損益通算をした場合の節税シミュレーションを紹介します。シミュレーション条件は以下の通りです。
給与所得:600万円
不動産収入:215万円(4戸×4.5万円・うち1戸が半年間空室と想定)
経費:75万円(35万円〈3500万円、金利2%〉・火災保険や運営費用40万円と想定)
減価償却費:165万円(木造・築10年を想定)
まずは給与所得にかかる納税額を求めます。
600万円 × 20%(所得税率)– 42.75万円(控除額)= 77.25万円
次に不動産所得を計算します。
215万円 – 75万円 – 165万円 = –25万円
不動産所得は「25万円の赤字」となります。この赤字を給与所得と損益通算し、所得税額を求めます。
600万円 – 25万円 =575万円
575万円 × 20%(所得税率)- 42.75万円(控除額)= 72.25万円
最後に給与所得の納税額から、損益通算後の納税額を差し引きます。
77.25万円 – 72.25万円 = 5万円
計算の結果、給与所得と不動産所得を損益通算することで「5万円」の節税につながることがわかりました。損益通算による節税額は、所得税率や不動産所得の赤字額によって異なるので、どれほどの節税効果があるのか事前にシミュレーションをしておきましょう。
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節税の失敗要因
不動産投資には、損益通算や相続税評価額の圧縮など、さまざまな節税効果があります。しかし、所有物件によっては、資産が減ってしまったり節税効果が得られなかったりする可能性があります。
不動産投資で失敗しないためにも、節税の失敗要因を押さえておきましょう。
損益通算は「赤字」前提の節税の仕組み
先述した損益通算は、不動産所得が赤字であることを前提とした節税手段なので、黒字の状態では使うことができません。
赤字が大きくなるほど節税効果が得られるからといって、不動産を選ぶ際に「損益通算ができるから赤字でも問題ない」と収益性の低い物件を選んでしまうのは危険です。赤字不動産を所有していると、手元現金がなくなり、不動産を売却しなければならない状況に陥ることも考えられます。
このような状況にならないためにも、損益通算が赤字が前提である節税手段であること、赤字によって手元現金がなくなってしまうリスクがあることを認識しておきましょう。
節税ばかりを追い求めるのはNG
不動産投資によって所得税や住民税、相続税の節税効果が得られたとしても、赤字が原因で生活が苦しくなっては意味がありません。
節税目的で購入した不動産の買い手が見つからず、希望金額で売れない状況も考えられます。想定していた金額で不動産が売却できなければ、それまで得られた賃料収入を相殺することとなり、不動産投資による収支がマイナスになってしまう可能性もあります。
不動産投資を節税手段として活用することも大切ですが、あくまでも「投資」であることを忘れないようにしましょう。
評価額の圧縮効果が期待を下回ることも
財産の一部に不動産を組み入れることで、贈与税や相続税の評価額を引き下げる効果がありますが、期待しているほどの節税効果が得られないことがあります。
不動産投資が節税にならないケースには、土地の価格が上昇したり、賃貸物件の空室が増えて賃貸割合が低くなったりすることが考えられます。想定していた評価額の圧縮ができなければ、納税資金を確保するために不動産を売却しなければならない状況になりかねません。
不動産投資を活用して評価額を圧縮する際は、期待している節税効果があるのか、納税資金が確保できるのかを事前に確認しておくとよいでしょう。正確な評価額シミュレーションをするためには、税理士や不動産会社に相談するのがおすすめです。
不動産投資で節税できる物件の選び方
不動産投資で節税をする際は、物件の耐用年数に注目しましょう。
減価償却は、残りの耐用年数が短いほど経費計上できる金額が大きくなります。そのため、耐用年数が短い「木造住宅」や、減価償却の期間が短い「築年数の古い物件」を選ぶことで、より高い節税効果が期待できるでしょう。
ただし、減価償却によって計上できる経費より、給与所得や事業所得が少ない場合は、せっかくの経費が無駄になってしまうことも考えられます。また、所得が低くなるほど所得税率が下がるので、想定していたより納税額が減らないこともあるでしょう。
また、収益性が低い物件を購入すると、赤字額が節税額を上回ってしまう場合があります。収益性が低い物件は、買い手が見つかりにくい傾向があるので、赤字の状態が長く続いてしまうことも考えられます。
不動産投資で効率的に節税するためにも、物件の耐用年数と収益性、損益通算による節税額を確認しながら物件を選びましょう。
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不動産投資の確定申告
不動産投資で一定金額以上の所得がある場合は、確定申告をしなければなりません。
勤務先で年末調整を受けているサラリーマンは、給与所得以外の所得金額が20万円を超えた場合に確定申告が必要です。一方、個人事業主のように年末調整を受けていない方は、1年間の合計所得が48万円を超えたときに申告義務が発生します。
損益通算は、確定申告をしなければ適用が受けられないので、不動産投資で赤字が発生しているのであれば忘れずに申告しましょう。
青色申告と白色申告のどっちがいい?
不動産所得の申告方法には、青色申告と白色申告の2種類があります。それぞれの違いは下表の通りです。
白色申告 | 青色申告 | |||
---|---|---|---|---|
控除額 | 0円 | 10万円 | 55万円 | 65万円 |
e-taxの利用 | なし | あり | ||
記帳方法 | 単式簿記 | 複式簿記 | ||
提出書類 | 収支内訳書 | 損益計算書 | 損益計算書 貸借対照表 |
不動産所得を青色申告(電子申告)で申告すると、最大65万円の青色申告特別控除が受けられます。加えて、不動産の掃除や経費処理を家族に依頼している場合は、青色事業専従者として給与を支払うことができ、その給与を経費計上できます。
青色申告の適用を受けるには、申告年の3月15日までに青色申告承認申請書を税務署に提出しなければなりません。なお、1月16日以降に不動産投資を始めた場合は、事業開始から2ヶ月以内に申請することで適用が受けられるので、可能な限り早く申請書を提出しましょう。
一方、白色申告には控除制度が設けられておらず、家族への給与を経費化することもできません。提出書類などの事前準備に手間がかからないメリットはありますが、節税効果を得たいのであれば青色申告を選択するとよいでしょう。
まとめ
不動産投資には、所得税や住民税、相続税の納税額を抑える効果がありますが、所得状況や物件によっては節税効果が得られない可能性があります。不動産投資での節税を考える際は、物件の耐用年数や収益性、自身の所得金額などから総合的に判断することが求められます。
不動産投資で節税をしたい場合は、税理士や不動産会社に節税効果のシミュレーションを依頼してみましょう。
・「家賃収入」に関する記事はこちら 家賃収入とは?不動産投資による収益化までの流れと注意事項を解説 |
この記事のポイント
- 不動産投資では、どのような税金の節税ができますか?
所得税・住民税・贈与税・相続税の節税効果が期待できます。
詳しくは「不動産投資で節税できる税金」をご覧ください。
- 不動産投資で節税できる仕組みは、どのようなものがありますか?
損益通算や減価償却、評価額の圧縮、法人化などがあります。
詳しくは「不動産投資で節税できる仕組み」をご覧ください。
- 不動産所得の申告は、青色申告と白色申告のどちらがいい?
最大65万円の青色申告特別控除が受けられる「青色申告」がおすすめです。ほかにも不動産経営を手伝っている家族に支払った給与を経費計上できるメリットもあります。
詳しくは「青色申告と白色申告のどっちがいい?」をご覧ください。
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