ざっくり要約!
- 自宅で介護をするときは、介護保険の申請して要介護度の認定を受けよう
- 在宅介護は施設介護よりも費用を抑えられるものの、介護を担う家族の負担は重くなりがち
- 介護サービスや補助金などを利用しながら家族の負担を軽減するのが、在宅介護をうまく乗り越えるポイント
在宅介護は住み慣れた自宅で自由に過ごせることから、多くの人が希望する介護のスタイルです。金銭的なメリットもある在宅介護ですが、初めて介護を担う家族にとっては不安も大きいでしょう。
そこで、介護される本人と家族が快適に過ごせるように、介護保険を利用して状況に合わせたサービスを受けることをおすすめします。ここでは、在宅介護における家族の負担を軽減する介護サービスや補助金について解説します。
記事サマリー
介護が必要になったらまずは「介護保険」の申請を
家族に介護が必要になったら、まずは市区町村役場の窓口で介護保険を申請しましょう。
外部の人を頼らず家族が介護を担う場合でも、介護保険の申請をおすすめします。介護保険を利用することで、より快適な環境を作れたり介護者の負担を軽減できたりするからです。
そもそも介護保険とは?
介護保険とは、40歳になると加入する制度です。万が一、介護が必要になったとき、少ない負担で介護サービスを受けられるように、2000年から制度が開始されました。日本では、40歳以上の人は毎月、介護保険料を支払っています。
ただし、40歳以上の人はすべて介護サービスが受けられるわけではありません。
65歳以上の人は要介護認定を受けて介護が必要な状態と認められると、介護サービスを受けられます。40歳から64歳までの人が介護サービスを受けられるのは、介護保険の対象となる特定疾病が原因で要介護状態になったときのみです。
介護保険の対象となる特定疾病は、認知症や脳血管疾患など老化が原因とされる病気のことです。事故による障害で要介護状態になっても、64歳までの人は介護保険を利用することができません。
要支援・要介護認定は介護保険の利用に必要
介護保険を利用したいとき、行わなければならないのが要支援・要介護認定の申請です。市区町村役場で申請をすると、その後、職員の訪問による認定調査があります。
認定調査や主治医の意見書などの結果をもとに、コンピューターや介護認定審査会が判定します。その結果、どのくらい介護が必要な状態なのかを表した要介護度が決まります。要支援・要介護認定には約1ヵ月かかるので、必要な際は早めに申請しましょう。
要介護度は、全部で7つに分けられています。要介護者の状態によって実際に区分は変わりますが、目安は以下の通りです。
- 要支援1:要介護認定等基準時間が25分以上32分未満又はこれに相当すると認められる状態
- 要支援2:要介護認定等基準時間が32分以上50分未満又はこれに相当すると認められる状態
- 要介護1:同上
- 要介護2:要介護認定等基準時間が50分以上70分未満又はこれに相当すると認められる状態
- 要介護3:要介護認定等基準時間が70分以上90分未満又はこれに相当すると認められる状態
- 要介護4:要介護認定等基準時間が90分以上110分未満又はこれに相当すると認められる状態
- 要介護5:要介護認定等基準時間が110分以上又はこれに相当すると認められる状態
(引用:厚生労働省)
・「介護保険制度」に関する記事はこちら 介護保険制度の仕組みや対象者となる条件、受けられるサービス内容を紹介 ・「要介護 要支援」に関する記事はこちら 要介護や要支援はどんな状態?認定を受ける流れや受けられるサービスを解説 |
介護度に応じたケアプランの作成
要介護度の区分に応じて、地域包括支援センターの職員やケアマネジャーがケアプランを作成します。ケアプランとは、介護サービスを受けるための計画書のことです。
要介護度によって、受けられるサービスの内容や時間が決められています。ケアマネジャーは要介護者本人や介護者の状況に合わせて、ケアプランを作成します。
在宅介護のメリット
在宅介護のメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
- 住み慣れた自宅で要介護者が暮らせる
- 介護費用を抑えられる
- 介護の自由度が高い
介護を受ける本人にとって、生活環境が変わらないことは大きなメリットです。長年住み慣れた自宅や近所の人々、家族と離れないで済む安心感はとても大きいでしょう。
また、介護にかかる費用を抑えられるのも、在宅介護のメリットです。必要な介護サービスのみを利用することで、要介護者や家族の負担を軽減できます。
介護の自由度が高いということは、要介護者本人や家族が好きなように暮らせるということです。施設に入所してしまうと旅行や外食は難しくなりますが、在宅介護であれば介護者の協力や準備によって、自由に出歩くこともできます。
在宅介護にかかる費用
在宅介護にかかる費用には、主に2つのタイプがあります。在宅介護を始めるときにかかる初期費用と定期的にかかる費用です。
- 初期費用:福祉用具の購入・住宅改修など
- 定期的にかかる費用:福祉用具のレンタル・訪問介護など
在宅介護と施設介護にかかる費用の比較(月額)
公益財団法人 生命保険文化センターが2021年に実施した「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護の初期費用にかかった平均金額は約74万円でした。
一方、定期的にかかる費用については、在宅介護の場合、毎月平均で約4.8万円の自己負担があるという結果でした。施設介護での自己負担額は平均で約12.2万円なので、在宅介護のほうが施設介護よりも費用を抑えられることがわかります。
初期費用に関しては、国や自治体が行っている補助金や助成金の制度を利用すると負担を軽減できます。定期的にかかる費用については、利用者の負担は原則的に実際にかかった費用の1割です。一定以上の所得者の場合は、2割負担や3割負担になることもあります。
また、受けられる介護サービスの限度額は要介護度によって異なります。より介護が必要な人ほど、介護サービスの金額は大きくなります。
施設介護は在宅介護と何が違う?
介護サービスのなかには、介護を受ける場所によって施設介護と在宅介護があります。在宅介護は要介護者やその家族の自宅での介護ですが、施設介護では施設に入所して介護を受けます。
施設介護の特徴
施設介護とは、要介護者が自宅を離れて施設で生活しながら受けられる介護サービスです。一口に施設介護といっても、施設のタイプによって受けられる介護サービスや規模は異なります。
主な介護施設は、公的施設と民間施設合わせて以下の8つです。
【公的施設】
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
- ケアハウス
【民間施設】
- 介護付き有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
- グループホーム
公的施設のほうが費用は安く、民間施設は費用が高い傾向にあります。施設介護のなかでは、比較的費用が安いうえに要介護度が高い人にも対応できることから、特別養護老人ホームは人気の高い施設です。地域によっては、常に満床状態が続いていて、希望してもなかなか入所できないケースもあります。
また、施設介護では要介護度や状況によって入所できる人が制限されることもあります。医療ケア、認知症への対応、看取りできるかどうかなどは施設によって異なります。
・「有料老人ホームの種類」に関する記事はこちら 有料老人ホームの種類ごとの特徴や費用を解説!介護付きや住宅型、健康型も紹介 |
施設介護のメリット・デメリット
施設介護では、要介護者が過ごしやすい環境で介護サービスを受けられます。施設内はバリアフリーでトイレや浴室なども使いやすくなっているので、自宅での生活が困難な場合でも安心して暮らせるでしょう。また、施設内には介護士が常駐しているので、緊急事態にも対応しやすいのがメリットです。
一人暮らしで介護する人がいない場合や介護者の負担が大きい場合などは、施設介護を利用するのがよいでしょう。
一方、施設介護のデメリットとしては、金銭的な負担が大きかったり生活に自由が少なかったりすることが挙げられます。食事や排泄、入浴などさまざまなサービスを受けられる分、施設介護は自己負担額が大きくなりがちです。また、集団生活になるので、ある程度施設内のルールに従わなければなりません。
・「介護施設の費用やサービス」に関する記事はこちら 介護施設を利用者の状態別に解説!費用やサービス内容ごとの選び方も紹介 |
在宅介護に必要なもの
在宅介護を始める際は、要介護者が自宅で快適に過ごせるように介護に必要なものを揃えなければなりません。必要なものは要介護者の介護度や状況によって異なります。
介護度に応じた介護用品・環境を整える
介護度に応じて、介護用品や環境を整える必要があります。たとえば、全面的な介助がなければ生活できない人と介助をすれば自力で排泄や入浴が可能な人とでは、必要な介護用品は異なるでしょう。
ここでは、一般的な例として必要な介護用品を紹介しますが、実際に導入する際にはケアマネジャーに相談することをおすすめします。
- 電動ベッド
- 歩行器(もしくは杖)
- 車いす
- ポータブルトイレ
- シャワーチェア
- 介護用の食器類
- 呼び出しベル
自宅で介護をする際は、住みやすく危険のない環境に整える工夫も必要です。段差を解消したり手すりを付けたりする、住宅改修工事を行うケースも多くなっています。
認知症の方の介護に必要なもの
認知症の方を介護するときに、特別に必要な介護用品はありません。しかし、介護する方の心構えや事前準備は必要です。
認知症になると、記憶力や判断力が低下したりこだわりが強くなったりする傾向があります。今までの家族とは違う姿に、介護者はいらだちや不安を感じることがあるでしょう。このため、介護者はストレスをためすぎないように、第三者に相談したり介護から離れたりする時間を作ることが大切です。無理をしないで介護する方法を、事前に考えておくとよいでしょう。
また、認知症の方に多い事例として、物盗られ妄想や徘徊があります。
物盗られ妄想とは、実際には物を置き忘れただけなのに、誰かに盗まれたと思い込む被害妄想です。「泥棒が入った」や「家族に盗まれた」などと、認知症の方が訴えることがあります。
徘徊は、本人なりの目的を持って歩き回る行為です。しかし、家族は目的地がわからないため、行方不明になる可能性があります。
このような認知症に多い事例に対応するために、近所の人や警察、地域包括支援センターなどと協力して、地域で見守るようにすることが大切です。徘徊が多い場合は氏名や連絡先がわかる名札を持たせるなど、要介護者の状況に合わせた準備をしておきましょう。
胃ろうの方の介護に必要なもの
胃ろうは、終末期の延命治療の1つ。食べることができない人の胃にカテーテルを入れ、直接栄養を送り込む処置です。家族が胃ろうの方の介護を担う場合、事前に研修を受ければ栄養剤の注入ができます。
胃ろうの方の介護に必要なものは、主に以下の通りです。
- 栄養剤(医師から指示されたもの)
- 注入容器
- 栄養セット
- 懸濁ボトル
- カテーテルチップ
- お湯
- 酢水
必要なものは、研修時に医師や看護師に聞いて準備しましょう。
在宅介護で利用できる補助金・助成金
自宅を介護できる環境に整えたり家族が介護する時間を割いたりと、在宅介護では金銭的にも肉体的にも負担が大きくなります。在宅介護で利用できる補助金・助成金を申請すれば、家族の負担は軽減できるでしょう。
該当する補助金・助成金があれば、積極的に申請しましょう。申請先は国だったり地方自治体だったりするので、確認して確実に利用することをおすすめします。
介護休業給付
介護休業給付の流れ
介護休業給付とは、家族の介護をするために休業を取得した人に対して給付されるお金です。介護休業給付は、介護のために休職したものの職場に復帰することを想定している人に支給されます。介護のために退職した人は対象ではないので、注意しましょう。
介護休業給付を受けるには、以下のような条件があります。
- 休業開始時に比べて休業中の賃金が80%未満に落ち込んだ
- 休業開始前2年間に、11日以上働いている月が12ヵ月以上ある
- 同一の対象家族につき、支給されるのは93日を限度に3回まで
申請先は、会社の所在地を所轄するハローワークです。介護休業給付の要件や支給される金額を確認して申請しましょう。
家族介護慰労金
家族介護慰労金とは、市区町村から支給されるお金です。家族介護慰労金は、自治体によっては支給していない場合もあります。支給している自治体は、1家族あたり10万円程度の慰労金を出しています。住所地の市区町村役場に確認してみましょう。
支給の要件は自治体によって異なりますが、八王子市の場合は以下のような要件となっています。
- 要介護4、もしくは5に該当する人を在宅介護している
- 申請した月の前月までの1年間、介護保険のサービスを利用していない
- 対象期間中、介護保険施設以外の診療所・病院に90日以上入院していない
- 対象期間初日の時点で、世帯全員が市民税非課税
- 要介護高齢者が申請日に八王子市民である
該当すれば支給される家族介護慰労金ですが、かなり要件が厳しいことが多いでしょう。
(出典:八王子市「家族介護慰労金」)
特定福祉用具購入費の支給
腰掛け便座の例
指定を受けている事業者から特定福祉用具を購入した場合、申請をすればその一部が支給されます。支給限度額は同じ年度内に10万円で、介護サービスと同じ割合の負担で特定福祉用具を購入できます。たとえば、1割負担の人が10万円分の特定福祉用具を購入した場合、申請すればあとから9万円が戻ってくるということです。
申請先は市区町村役場ですが、購入する前に必ず担当のケアマネジャーに相談しましょう。
支給の対象となる特定福祉用具は以下の通りです。
- 腰掛便座
- 特殊尿器
- 排泄予測支援機器
- 入浴補助用具
- 簡易浴槽
- 移動用リフトのつり具部分
居宅介護(介護予防)住宅改修費の支給
要支援、もしくは要介護と認定された人の自宅をリフォームするときは、住宅改修費用の一部が支給されます。支給限度額は1住所につき20万円で、介護サービスと同じ割合の負担で、リフォームを実施できます。たとえば、1割負担の人は2万円の負担のみで20万円分の住宅改修を受けられるということです。
申請先は住所地の市区町村役場ですが、ケアマネジャーが作成する「住宅改修が必要な理由書」の提出が必要です。住宅改修を希望する際は、担当ケアマネジャーに住宅改修したい旨を相談してください。
支給の対象となる住宅改修は以下のような内容です。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消やスロープの設置
- 滑り止め仕様にするなど、床材の取り替え
- 開き戸から引き戸にするなど、扉の取り替え
- 和式から洋式に便器の取り替え
(出典:杉並区「居宅介護(介護予防)住宅改修費の支給について」)
在宅介護に限界を感じる前に利用したい4つの介護サービス
在宅介護ではどうしても家族に負担がかかります。限界を感じる前に、介護者は介護から離れる時間を作ることが大切です。介護から離れるときに利用したい4つの介護サービスをご紹介します。
訪問型
訪問型とは、自宅に医師や看護師、介護士が訪問して医療・介護サービスを行うものです。以下のようなサービスが訪問型です。
- 訪問介護
- 訪問リハビリテーション
- 訪問入浴介護
- 居宅療養管理指導
- 訪問看護
在宅介護では、訪問型のサービスを組み合わせることで家族の負担を軽減できます。
通所型
通所型とは、介護施設に日帰りで通って、食事や入浴などのサービスを受けることを指します。以下のようなサービスが通所型です。
- 通所リハビリテーション
- 通所介護(デイサービス)
要介護者は介護施設に通うことで、家族以外の人と接することができます。デイサービスは社会参加や自立支援を目的にしているため、要介護者にとってよい刺激になるでしょう。
短期入所型
短期入所型とは、短期的に施設に入所して介護や機能訓練を受けることを指します。短期入所型には以下のような種類があります。
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 短期入所療養介護(医療型ショートステイ)
在宅介護しているとき、介護者が病気になったり外出したりするときは短期入所型の介護サービスを利用するとよいでしょう。
小規模多機能型
小規模多機能型とは、1つの事業所の通所・訪問・短期入所を組み合わせて利用することを指します。
在宅介護ではさまざまな介護サービスを組み合わせて利用しますが、従来は通所・訪問・短期入所を別々の事業所に依頼して、その都度契約締結をするのが一般的でした。しかし、別々の事業所で介護サービスを受けるとき、手続きが煩雑になりがちで、スタッフと利用者の信頼関係が生まれにくいというデメリットがあります。
介護サービスを利用するうえでのデメリットを解決するために、新しく登場したのが小規模多機能型です。小規模多機能型事業者は地域密着で、通所サービスを中心に訪問サービスや宿泊サービスも行っています。
月額定額制で、要介護者や家族の状況に応じてサービスを組み合わせることも可能です。普段と違うサービスを受ける場合にも、顔なじみのスタッフが対応することが多く、要介護者や家族の安心につながります。
在宅介護をする際の注意点
在宅介護をする際は、介護を担う家族が倒れないように、負担を軽減することが大切です。住み慣れた自宅で家族が介護してくれることは、要介護者にとって嬉しいことでしょう。しかし、要介護度が高くなると、介護の負担はどんどん大きくなります。
このため、在宅介護から施設介護に切り替えるタイミングを見極めたり、さまざまな介護サービスを利用したりして、介護者に無理のないようにしましょう。
まとめ
在宅介護をする際は、上手に介護サービスを利用しながら介護を担う家族の負担を軽減することが大切です。また、要介護者が安全で快適な生活を送れるように、自宅を暮らしやすい環境にしましょう。利用できる介護サービスや住宅改修は、すべて担当のケアマネジャーが手配します。ケアプラン作成時や困り事が出てきたときなどは、要介護者本人や家族の状況をケアマネジャーに伝えて介護サービスの内容を考えてもらいましょう。
この記事のポイント
- 在宅介護を始めるときは何をしたらいい?
まずは、介護保険の申請を。要介護度の認定をうけて、それに応じたケアプランを作成してもらいましょう。
詳しくは「介護が必要になったらまずは『介護保険』の申請を」をご覧ください。
- 在宅介護のメリットとは?
在宅介護は、施設介護に比べると介護費用を安く抑えられます。住み慣れた環境で生活できることは、要介護者にとって大きなメリットです。
詳しくは「在宅介護のメリット」をご覧ください。
- 在宅介護で家族の負担を軽減するための方法は?
介護を担う家族が介護から離れる時間を持てるように、介護サービスを利用しましょう。訪問型だけでなく、通所型や短期入所型を組み合わせることがおすすめです。在宅介護の費用面での負担は、介護保険や補助金を申請することで軽減できる可能性があります。
詳しくは「在宅介護に限界を感じる前に利用したい4つの介護サービス」をご覧ください。
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