ざっくり要約!
- 日照権を侵害していると判断された場合、建設を差し止めることや損害賠償を請求することが可能
- 日照権が侵害されていると感じたら、天窓や吹き抜けを作る、床材やクロス、カーテンなどの色を明るくするなどの工夫を取り入れてみるのもひとつの方法
日照権とは、建物の日当たりを保護する権利です。ただし、日照権そのものを規定する法律はなく、建物の高さや形状は建築基準法によって制限されています。
この記事では日照権にまつわる法律と日照権侵害の判断基準、日照権に関連するトラブル例、対処法を紹介します。
日照権に関するトラブルを解決したい方や、対処する方法を知りたい方はぜひ参考にしてください。
記事サマリー
日照権とは
日照権とは、建物の日当たりを保護する権利です。しかし日照権そのものを規定する法律はなく、建築基準法で定められた斜線制限や日影規制によって、建物の高さは制限されています。
建物を建築する際には建築確認申請が必要です。したがって基本的には、建築基準法で定められた条件を無視してマンションや戸建てが建築されることはありません。つまり最低限の日照権は確保していることになります。
とはいえ、明らかに周囲の建物の日照権を侵害していると判断された場合は、建設を差し止めることや損害賠償を請求することが可能です。
日照権にまつわる法律
日照権にまつわる法律として挙げられるのが、建築基準法の斜線制限と日影規制です。
隣地や道路、北側の日照を保護するために、建築基準法の斜線制限と日影規制によって、建物を建てられる高さが用途地域ごとに定められています。
それぞれ詳しく解説します。
- 斜線制限(隣地斜線制限・道路斜線制限・北側斜線制限)
- 日影規制
斜線制限
斜線制限とは、隣地や道路との境界線から距離に応じて建物の各部分の高さを制限することにより、隣地建物および道路の日当たりや通風を確保するための制限です。
斜線制限には、隣地斜線制限・道路斜線制限・北側斜線制限という3つの斜線制限があります。
隣地斜線制限
隣地斜線制限とは、隣地に建つ建物の日当たりや通風を確保するための制限です。したがって隣地との境界線を起点として、建物の高さと建物の勾配が定められています。
住居系の用途地域では、建物の高さが20ⅿを超える部分の建物の勾配を「1:1.25」、商業・工業系の用途地域では、建物の高さが31ⅿを超える部分の建物の勾配を「1:2.5」にしなければなりません。
なお建物の絶対高さの制限がある用途地域(第一種および第二種低層住居専用と、田園住居地域)には適用されません。
引用:用途地域と高さの制限(建築基準法第56条の図解)|東京都都市整備局
道路斜線制限
道路斜線制限とは、道路の日当たりや通風を確保することによって、道路に面する周辺の建物の日当たりや通風を確保するための制限です。
道路斜線制限が適用されない地域(用途地域)はなく、すべての用途地域が対象になります。
敷地に接する道路の反対側の境界線までの距離の1.25倍(住居系)、もしくは1.5倍(商業系・工業系)以下に建物の高さが制限されます(傾斜勾配)。
なお、道路から一定以上(用途地域によって異なる)離れたところには、制限はかかりません。
北側斜線制限
北側斜線制限とは、建物の北側隣地の日当たりや通風を確保するための制限です。北側が道路であれば反対側の道路境界線、建物があれば隣地境界線に面した建物の高さに制限が生じます。
第一種および第ニ種低層住居専用地域と田園住居地域は5ⅿ、第一種および第ニ種中高層住居専用地域は10ⅿの基準の高さから、北側の境界線までの距離の1.25倍以下(傾斜勾配)に建物の高さが制限されます。
なお、第一種および第ニ種低層住居専用地域、田園住居地域、第一種および第ニ種中高層住居専用地域以外の地域には北側斜線制限は適用されません。
日影規制
日影規制とは、「日影による中高層の建築物の制限」の略です。1年のうちで最も日照条件が悪くなる冬至の日(12月22日ごろ)を基準として、周囲の日照を確保するために建物の高さを制限するものです。
日影規制の対象となる区域は、用途地域の中で住居系地域・近隣商業地域・準工業地域と用途地域の指定がされていない地域です。
つまり商業地域と工業地域は規制対象外ですが、高さが10ⅿを超える建物で、対象区域内に影を落とす場合は日影規制の対象になります。
第一種・第二種低層住居専用地域と用途地域が定められていない区域では、軒高が7mを超える建物また地上3階以上の建物が対象になり、その他の地域では軒の高さ10mを超える建物が対象になります。
用途地域ごとに規制が定められていますが、敷地の境界線からの距離が5~10ⅿの部分と10ⅿを超える部分では規制が異なり、それぞれ規制される日影時間(2~5時間)が定められています。
平均地盤面から高さにおいて、建物の影を日影時間以上落としてはいけません。つまり建物の影によって周囲に日影を作ってしまう場合は、用途地域ごとに定められた日影時間を越えないようにする必要があります。
日照権の侵害の判断基準
建築基準法上の規制を守って建物を建設していたとしても、日照権を侵害していると判断されるケースがあります。つまり日照権侵害と判断された場合は、損害賠償や工事の差し止め請求などが認められることがあります。
受忍限度を基準として判断されますが、明確な数値が規定されているわけではありません。
判断基準となる受忍限度とは
日照権の侵害を判断するものとして「受忍限度」があります。建築基準法上の規制を守って建設されていたとしても、容認できる限度を超えた場合には、日照権侵害があると判断されます。
しかし受忍限度は、具体的な数値で判断されるものではありません。その事案によって判断は異なります。
日照権侵害の受忍限度を超えたかどうかを判断する基準として、具体的には以下のようなものがあります。
- 日照権侵害の程度
- 建築基準法の違反の有無
- 用途地域や地域性(住宅地なのか商業地域なのか)
- 日照侵害の程度(日照の程度と時間)
- 日照侵害を回避できる可能性
- 建物を建築する際の説明や交渉の有無(配慮の有無)
- 建物の使用用途
- どちらが先に住んでいるか(どちらが先に建設されたか)
日照権にまつわるトラブル例
日照権のトラブルになる原因を知ることによって、それを未然に防ぐこともできます。ここでは、日照権にまつわるトラブル例を紹介します。
隣家の庭の木が大きくなり日当たりが悪くなった
日当たりが悪くなることでトラブルになる場合、建物が原因とは限りません。庭木が原因となる場合もあります。
自分が所有する敷地内で、庭木を育てること自体は問題ありません。しかし庭木が大きくなることで建物に日影を作ることになれば、トラブルになる可能性があります。
隣に建物が立って太陽光発電システムの日当たりが悪くなった
屋根に太陽光発電システムを設置している場合、隣地に建物が建てられて屋根に日影ができると、その分発電量は減ってしまいます。
発電する電気や売電できる量が減ってしまうため、トラブルに発展することがあります。
隣家が建替えによって大きくなり日当たりが悪くなった
日当たりが悪くなるのは、隣地の所有者が変わるタイミングとは限りません。
隣家が建替えられたことによって建物が大きくなる場合や家の配置が変わるときは、以前よりも日当たりが悪くなることがあります。
日照権でトラブルが起こった場合の対処法
日照権でトラブルになった場合、どのような対処法があるのでしょうか。ここでは段階別に5つの対処法を紹介します。
まずは自分でできる工夫を取り入れる
まずは自分でできる工夫をしてみましょう。泣き寝入りするという意味ではありませんが、こちらが後から家を建てる場合、相手側に日照権を要求するのが難しい可能性もあります。
例えば住居を新築する場合は天窓や吹き抜けを作るなど、室内に自然光を取り込みやすいプランを採用しましょう。また2階にリビングを配置することで、長時間滞在するリビングを明るい空間にすることも可能です。
すでに家を建てている場合は、室内の色選びによって明るさを演出することもできます。床材やクロス、カーテンなどを明るい色調にすることで、室内全体が明るく感じられるようになります。
カーテンの新調やクロスの張り替え程度であれば、リフォームのタイミングでも取り入れやすい工夫です。
相手との話し合いの場を設ける
相手側へのアクションをする場合は、まず相手側に話し合いの場を設けてもらいましょう。そしてこちら側の日照が侵害されている状況を説明して、改善を求めます。
もし隣地にマンションが建設される場合などで、訴えたい住民が他にもいる場合は、説明会などを設けてもらうとよいでしょう。単独で行うよりも、大勢で行う方が効果的です。
各都道府県の建築指導課に相談する
改善を要求しても相手側が聞き入れてくれない場合は、行政に相談しましょう。担当窓口は、各都道府県の建築指導課になります。
建物を建てる際は建築確認申請が必要になりますが、その相談や申請を行うのが建築指導課です。建物の計画を把握しているため、どのような建築計画をしているのかも確認することもできます。
また、状況によっては建築紛争調整による支援を受けることもできます。行政には建築を一定期間ストップさせる権限もあるため、一定の効果も期待できます。
弁護士に相談する
個人で行政に相談することが難しい場合や、日照権侵害について主張できるのか相談したい場合は、弁護士への相談をおすすめします。アドバイスを受けるだけでなく、相手への交渉なども代理人として任せることができます。
建築や日照権に関する知識がなくても、弁護士のアドバイスを受けることにより、交渉をスムーズに進めることができます。また相手側も相手が弁護士ともなれば、対応も異なってくるでしょう。
弁護士はそれぞれ得意とする分野があるため、不動産や日照権を専門としている弁護士を選ぶことをおすすめします。
裁判所に仮処分を申し立てる
裁判所に建築工事差し止めの仮処分を申し立てて、建設工事を止める方法があります。ただし基本的には建築基準法に違反しているケースでなければ、仮処分の申し立ては難しいでしょう。
仮処分の申し立てがなされた場合、その後相手側とは和解する方向で話が進むことが多く、金銭を請求するか設計の変更を求める、もしくはその両方を求めて和解することになります。
この記事のポイント
- 日照権にまつわる法律とは?
日照権にまつわる法律には、建築基準法の斜線制限(隣地斜線制限・道路斜線制限・北側斜線制限)や日影規制があります。
これらの法律の目的は、隣地や道路、北側の日照を保護することです。そのために、建物を建てられる高さを用途地域ごとに定めています。
詳しくは「日照権にまつわる法律」をご覧ください。
- 建築基準法上の規制を守っていても日照権の侵害と判断されることがある?
建築基準法上の規制を守って建設されていたとしても、受忍限度を超えた場合には、日照権侵害があると判断されます。
しかし受忍限度は、具体的な数値で判断されるものではありません。その事案によって判断は異なります。
詳しくは「日照権の侵害の判断基準」をご覧ください。
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