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不動産売買の買い付け証明書の法的効力は?キャンセルの可否も解説

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

ざっくり要約!

  • 買付証明書とは、購入希望者が購入の意思と希望条件を示す書類
  • 買付証明書提出後も購入検討のキャンセルは可能だが、安易に提出するのは避けるべき

不動産取引では、購入の意思を示すため、希望者から売主に対して「買付証明書(かいつけしょうめいしょ)」を提出するのが一般的です。買付証明書の提出をもって売主と買主の交渉がスタートするため、この書類の持つ意味や重要性をしっかり認識しておきましょう。

この記事では、買付証明書の役割や法的効力、キャンセルの可否とリスクなどについて解説します。

買付証明書とは

買付証明書とは、不動産売買において購入希望者から売主に対して提出される書類です。

買付証明書を売主に渡すタイミングは?

不動産会社に不動産売却を委託すると、不動産会社は広告や独自のネットワークを活用して購入希望者を募ります。内覧などを経て購入を決意した希望者は、売主に買付証明書を提出します。
買付証明書は、具体的な契約交渉の開始を示す重要な書類です。売主が提出を受けると、売買価格や契約条件について詳細な話し合いが始まります。双方の合意が得られれば、正式な不動産売買契約の締結へと進みます。
ただし、買付証明書の提出によって交渉が始まるとは限りません。売主には、提示された内容を慎重に検討し、交渉を進めるかどうかを判断する権利があります。

買付証明書には何が書いてあるの?

買付証明書の記載事項は、法律で定められているわけではありません。しかし、内容はおおむね共通しており、不動産会社は書面の雛形を用意しているものです。

買付証明書に記載される主な内容は、以下の通りです。

  • 物件の特定情報(所在や面積など)
  • 購入希望価格と手付金額
  • 契約希望日と残金支払い時期
  • 買主の個人情報(住所・氏名)
  • 融資利用の有無と借入予定額
  • 書面の有効期限(通常1〜2週間)
  • 買主の年収や職業(必要に応じて)

購入希望者の予算が売り出し価格を下回る場合は、希望購入金額が提示されます。売主はこの金額を検討し、その他の条件も含めて交渉の可否を判断します。

買付証明書に法的効力はあるのか?

買付証明書は、売買を成立させるものでも契約を約束するものでもありません。法的効力はなく、あくまで購入の意思や条件の希望を示すものです。

買付証明書を提出するメリット・デメリット

買付証明書には法的効力がなく、購入希望者による買い付けの意思を示す慣習的な手続きです。提出の義務もありません。しかし、不動産取引のフローのなかで買付証明書のやり取りが果たす役割は非常に大きいことから、売主、買主、双方にとって重要なメリットがあります。

メリット

買付証明書は、買主にとって購入意思を明確に伝える手段となります。複数の希望者がいる場合は、最初に買付証明書を提出することで優先交渉権を得られる可能性が高まります

一方、売主にとっては、書面化された意思表示を受け取ることで、買主の真剣さを確認できます。これにより、両者がより本格的な交渉に臨む姿勢が整います。さらに、買付証明書は口頭での合意事項を文書化する役割も果たします。これにより、「言った・言わない」といった後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

デメリット

買付証明書に法的効力はないものの、買主の意思を示す重要な書類であることから、購入希望者は安易に提出すべきではありません。突然、取り下げたり、希望条件が二転三転したりすれば、売主や不動産会社からの信頼を損なうおそれがあります。

また、買付証明書には希望する金額や条件を記載することができますが、売主の希望価格や条件と大きく乖離していると、即座に拒否され、交渉権が得られない可能性があります。価格交渉を有利に進めるには、まず不動産会社を通じて売主の意向を探る必要があるでしょう。

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買い付け証明書から売買契約までの流れ

買付証明書の提出後、すぐに売買契約となるわけではありません。ここでは、買付証明書の提出から売買契約までの流れを解説します。

1.買付証明書の準備

内覧で購入の申し込みを決めた希望者は、不動産会社とともに買付証明書を作成します。記載は、手書きでもWordやExcelなどを使ってもどちらでも構いません。

人気の物件は、複数の希望者から買い付けが入っている可能性があります。優先的に交渉権を得るには、できるだけ早く買付証明書を提出する必要があります。希望や条件が固まっていないうちに買付証明書を提出することは避けるべきですが、購入したいという意思があればできる限り早く提出するようにしましょう。

2.売渡承諾の取得

買付証明書を受け取った売主は「売渡承諾書」を提示して交渉を開始します。この書類には、売主の希望価格や契約条件が記載されています。

売主の対応はさまざまで、値引きを拒否する場合もあれば、買主の希望にそのまま応じたり、折衷案として両者の希望額の間を取った価格を提示したりする場合もあります。いずれにしても、後のトラブル防止のため合意内容は売渡承諾書に明記されます。

3.売買契約

両者で売買条件に合意できれば、売買契約の運びとなります。合意した金額・条件になっているか確認してから契約書に署名・捺印しましょう。

買付証明書を提出した後にキャンセルできる?

買付証明書は、不動産の購入するという意思を示す書面です。法的効力はないことから、買付証明書を取り下げることはできます。しかし、次のようなリスクもあるため十分に考慮しなければなりません。

損害賠償請求されることも

買付証明書の提出をもって売買条件のすり合わせをしていくという間は、売主からすれば他の人との交渉機会を逃すことにもなります。買付証明書の提出だけで売買契約が成立することはありませんが、話が進んだ後に買付を取り下げ、契約をキャンセルすることになれば、売主は購入希望者に対する損害賠償請求も可能です。

平成7年の福岡高裁の判例では、分譲マンションの用地売買で売買契約書の作成や地鎮祭の日取りまで確認された後に購入希望者が契約締結を拒んだ事案において、売主からの損害賠償請求が肯定されました。

売主や不動産会社の信用を失いかねない

買付証明書を取り下げれば、売主からの信用は大きく損なわれます。条件を整えてまた買付を入れたとしても、交渉に臨んでもらえる保証はありません。

また、買付証明書のキャンセルは、売主との間を仲介する不動産会社の信頼をも損ないかねません。不動産会社は、買主の希望する不動産を希望する条件で購入できるよう尽力するものです。買主の気持ちが揺らいでしまっては、交渉もしづらくなってしまうでしょう。やむを得ず買付証明書を取り下げる場合は、売主に謝罪し、不動産会社にはあらためて状況や希望を伝えるようにしましょう。

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買付証明書は先着順?提出後の交渉の優先順位

買付証明書を提出しても、売主と交渉できない場合があります。それは、交渉の「優先順位」があるためです。

買付証明書を提出した順とは限らない

原則的には、買付を入れた順に売主との交渉権が得られます。しかし、当然ながら、売主はできる限り好条件で不動産を売りたいはずです。たとえば、一番手が2,500万円で買付を入れてきて、まだ住宅ローンの仮審査も取っていない状況だとすれば、二番手であっても3,000万円でキャッシュで購入してくれる人のほうが魅力的に映るでしょう。

買付が入った順に交渉しなければならないという決まりはありません。人気のある物件は、どんなに早く買付証明書を提出しても、価格や条件面で交渉が多いと優先的に交渉できない可能性があります。

買付証明書の有効期限を確認しておこう

買付証明書には、有効期限を記載しましょう。こちらもとくに決まりがあるわけではありませんが、有効期限は1〜2週間程度が一般的です。

有効期限を設けるのは、購入希望者のためでもあります。仮にいつまで経っても買付証明書が有効だとすれば、売主からの反応がなかったときに、交渉の余地があるのか、購入できる可能性があるのかを判断できません。逆に短すぎても、融資審査を通す時間が取れなくなるおそれがあります。

買い付け証明書を出した後の不動産会社の変更には注意

不動産会社を通して買付証明書を提出したにもかかわらず、たとえば「仲介手数料が安い」といった理由で、別の不動産会社に乗り換えたうえで再度、買い付け証明書を出す行為は「抜き行為」とみなされるおそれがあります。抜き行為は、媒介契約上の違反となる可能性があり、業界的にもタブーとされているため控えたほうが良いでしょう。

まとめ

買付証明書は、ただ希望を書けばいいというものではありません。提出自体が「交渉」になるため、売主に選んでもらえるかどうかという視点を持って作成することが大切です。

思い切った交渉ができるか否かは、物件の人気や販売開始からの経過日数などにもよります。売主が「少しでも早く売りたい」と考えていれば、ある程度の希望は通るでしょう。一方、少しでも良い条件を出してくれる希望者を待っている状況であれば、大幅な値下げなどを要求すると、交渉の場にすら着けない可能性があります。

買付証明書を提出する際には、自分の希望とともに相手の要望も想定し、不動産会社の担当者と相談しながら条件を調整しましょう。

この記事のポイント

買付証明書とはどのような書類ですか?

買付証明書とは、不動産売買において購入希望者から売主に対して提出される書類です。

詳しくは「買付証明書とは」をご覧ください。

買付証明書を提出するメリット・デメリットは?

売主に対し、購入希望の意思を明確に伝えられることがメリットです。一方、キャンセルした場合には、売主や不動産会社の信頼を損ねてしまうおそれがあるため、希望が固まっていないうちに安易に提出すべきではありません。

詳しくは「買付証明書を提出するメリット・デメリット」をご覧ください。

買付証明書は先着順で売主との交渉権が得られるのでしょうか?

先着順とは限りません。自分のすぐ後に自分より条件の良い買付証明書が提出された場合、交渉権が得られない可能性もあります。

詳しくは「買付証明書は先着順?提出後の交渉の優先順位」をご覧ください。

ライターからのワンポイントアドバイス

買い付け証明書は、買主が購入の意思を示すための書類です。そこに書かれた条件で取引が成立するとは限らず、売買条件や売買金額は売主と買主の交渉によって決まります。とはいえ、買主が売出価格とは程遠い低い金額の希望額を書いたり、売主が交渉の余地もないという姿勢を見せたりすると、交渉に進むことなく決裂してしまう可能性があります。スムーズかつ円満な取引とするためには、買主、売主ともに「買いたい」「売りたい」という気持ちが伝わる姿勢を見せることが大切です。

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