ざっくり要約!
- 買戻し特約とは、不動産売却後でも一定期間内であれば売主が不動産を買い戻せる特約
- 期間が満了した買戻し特約は効力を失うため、登記の抹消が必要となる
不動産の売却・購入時に登記事項証明書を確認すると、買戻特約の登記がされているケースがあります。買戻し特約が残ったままの不動産は売却できるのか、買戻し特約の登記がある不動産を購入しても大丈夫かと不安に感じる方もいるでしょう。
そこで本記事では、以下の内容を解説します。
・買戻し特約の基礎知識
・買戻し特約の注意点
・買戻し特約の抹消登記について
・買戻し特約と再売買契約の違い
・買戻し特約登記の費用
令和2年の法改正で変更された点があるので、これらも含め解説します。
記事サマリー
買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)とはどんな制度?
買戻し特約とは、不動産売却後でも一定期間内であれば、売主が不動産を買い戻せる特約のことで、民法第579条に定められています。
実務上、目にする買戻し特約は、買戻し権者が公的機関であることが大半です。
バブル期に住宅供給公社や日本住宅公団(現在のUR都市機構)の物件を購入する際は、買戻し特約が付された売買契約が結ばれました。これは当時、公社の物件が民間の物件より比較的安価だったことから、転売目的で購入されるのを防ぐために買戻し特約が利用されたケースで、「一定期間は売らずに定住すること、これを破り売却した場合には買戻ししますよ」という趣旨です。このように不動産の利用条件を守らせる目的で買戻し特約が利用される場合があります。
また、買戻し特約は担保目的でも利用されることがあります。
お金を貸す側が不動産を購入する形式をとり、売却代金を貸し付けと見立てる方法です。売主(債務者)が一定期間内にお金を返済すれば不動産を取り戻すことができ、返済ができなければ買主(債権者)が不動産を取得します。一方で、個人間の売買で買戻し特約が利用されることはまれです。
買戻し特約を付して不動産を売却するメリットは次のとおりです。
不動産を買い戻すチャンスが残る
買戻し特約付きで売却すると、売却金額(または双方で合意した金額)と契約金額を返還すれば、売主は不動産を買い戻すことが可能です。
ただし、買戻し特約には、買戻し期間が法定されており、その期間内に買い戻さなければ特約は効力を失います。
買戻し特約と同様に、売主が将来的に不動産を買い戻すことができる制度にリースバック制度があります。
リースバック制度の場合は、後に触れる再売買予約が利用されることが一般的です。再売買予約であれば、買戻し期間の制限がないなど、買い戻し特約と比べて利用しやすいことがその理由です。
・「リースバックの仕組み」に関する記事はこちら リースバックの仕組みとは?メリットやデメリット、実際の取引の流れもわかりやすく解説 |
売却代金を受け取れる
買戻し特約付き売買であっても、売主は売却代金を受領でき、まとまった資金を手にすることが可能です。
買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)の期間
買戻し特約の買戻し期間は、民法第580条で次のとおり定められています。
期間は10年
買戻し特約の買戻し期間は以下のとおりです。
買戻し期間の定めあり | 最長10年 |
買戻し期間の定めなし | 5年 |
買戻し期間を定めた後に期間の延長はできず、10年以上の期間を定めた場合でも10年となります。また買戻し期間を定めない場合は自動的に5年になります。
期間満了後は抹消手続きが必要
買戻し期間が満了した買戻し特約は効力を失うため、登記の抹消が必要です。
期間満了となっても、売主(買戻権者)から連絡が来ることはありませんし、自動的に買戻し特約の登記が抹消されることもありません。不動産を売却する際も、買戻し特約を残したままだと買主を見つけることが困難になるため、忘れずに抹消登記をしましょう。
以前は、買戻権者(売主)と不動産所有者(買主)が共同で抹消登記申請する必要がありました。
しかし売買契約から10年を経過した買戻し特約は、令和5年4月1日より不動産所有者が単独で申請可能になりました。
10年を経過した買戻し特約抹消登記の必要書類は以下のとおりです。
【必要書類】
・買戻し特約抹消登記申請書
・委任状(司法書士に依頼する場合)
買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)の注意点
買戻し特約を付して不動産を売却する場合は、以下の点に注意が必要です。
買主が見つからない可能性がある
買戻し特約付きの不動産を購入した場合、買戻し行使期間内は買戻権者により不動産を買い戻される可能性があります。
よって、買戻し特約付き不動産を購入した買主は、買戻し行使期間満了までは確定的に所有権を得ることができず不安定な立場に置かれます。
そのような事情があるため、買戻し特約付き不動産は買主が見つからない、買主が見つかっても相場より安い売却価格となる可能性があることに注意しましょう。
買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)と再売買予約権との違い
買戻し特約と類似する制度に再売買予約があります。どちらも将来、売主が不動産を買戻せる仕組みですが、再売買予約は買戻し特約に比べ、個別の状況に応じて柔軟な取り決めが可能です。2つの違いについて解説します。
買戻し特約 | 再売買の予約 | |
目的物 | 不動産 | 制限なし |
行使期間 | 最長10年 | 制限なし(※時効5年) |
成立時期 | 売買契約と同時にする | 制限なし |
対抗要件 | 買戻し特約の登記 | 仮登記(所有権移転請求権) |
法的性質 | 売買契約の解除 | 売買 |
目的物や成立時期が異なる
買戻し特約では、行使期間が最長10年とされていますが、再売買予約はその時期に制限がなく自由に定めることが可能です。なお、買戻し特約は、買戻し金額においても制限がありましたが、令和2年の法改正により買戻し金額を自由に定めることが可能になりました。
売買契約後に付加することも可能
買戻し特約は、対象となる不動産の売買契約と同時に特約を結ぶ必要があります。
一方、再売買の予約は、最初の売買契約とは別個の契約のため、時期に制限はなくいつでも契約可能です。
なお、買戻し特約を第三者に対抗するには、買戻し特約の登記が必要ですが、再売買の予約を第三者に対抗するには所有権移転請求権の仮登記をします。
買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)を利用して売却する方法
買戻し特約を利用して不動産を売却するポイントについて解説します。
売買契約と同時に手続き
買戻し特約は不動産売買契約に付随した特約のため、売買契約と同時に特約の内容を取り決め締結します。
具体的には買戻し金額や買戻権の行使期間を定め、売買による所有権移転登記と同時に買戻し特約の登記を申請します。
登記に必要な申請内容
買戻し特約の登記は、売買時の名義変更(所有権移転登記)と同日に連続して申請します。再売買予約の仮登記と異なり、登記の時期にも制限があることに注意が必要です。
買戻し特約は以下の内容を登記事項として登記する必要があります。
絶対的記載事項 (必ず記載) | ・買主が支払った金額(別段の合意をした場合はその金額) ・契約費用 |
相対的記載事項 (定めがあれば記載) | ・買い戻し期間 (定めがない場合は5年) |
加えて、買戻し特約の登記をするためには、売買契約書や覚書きに上記の内容が盛り込まれている必要があります。
買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)に必要な登記費用
買戻し特約の設定登記にかかる費用は下記のとおりです。また、売主から買主への名義変更(所有権移転登記)と同時に申請するため、所有権移転登記費用も別途必要です。
【買戻し特約設定登記の費用】
登録免許税 | 不動産の数×1,000円 |
登記事項証明書取得費 | 不動産の数×600円 |
法務局への交通費・通信費 | 実費 |
買戻し特約の設定登記を司法書士に登記を依頼する場合には、別途司法書士報酬が必要になり、相場は3万円から5万円程度です。
買戻し特約の期間満了による抹消登記の費用は以下のとおりです。
【買戻し特約抹消登記の費用】
登録免許税 | 不動産の数×1,000円 |
登記事項証明書取得費 | 不動産の数×600円 |
法務局への交通費・通信費 | 実費 |
買戻し特約の抹消登記を司法書士に依頼する場合の報酬は、1万5,000円~2万円程度が相場です。
ただし10年を経過し期間満了した買戻し特約の抹消登記は、必要書類も少なく難易度が高くはないため、自分で抹消登記をすることも検討してみるとよいでしょう。
この記事のポイント
- 買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)とはどんな制度?
買戻し特約とは、不動産売却後でも一定期間内であれば、売主が不動産を買い戻せる特約のことで、民法第579条に定められています。
買戻し特約付きで売却すると、売却金額(または双方で合意した金額)と契約金額を返還すれば、売主は不動産を買い戻すことが可能です。ただし、買戻し特約には、買戻し期間が法定されており、その期間内に買い戻さなければ特約は効力を失います。
買戻し特約と同様に、売主が将来的に不動産を買い戻すことができる制度にリースバック制度があります。
詳しくは「買戻し特約(買い戻し特約・買戻特約)とはどんな制度?」をご覧ください。
- 買戻し特約と再売買予約権との違いは?
買戻し特約では、行使期間が最長10年とされていますが、再売買予約はその時期に制限がなく自由に定めることが可能です。
なお、買戻し特約は、買戻し金額においても制限がありましたが、令和2年の法改正により買戻し金額を自由に定めることが可能になりました。
詳しくは「買戻し特約と再売買予約権との違い」をご覧ください。
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