ざっくり要約!
- 日影規制とは1年の中で一番影が長くなる冬至の日を基準にし、周囲の敷地に日影ができる時間を一定時間以内に制限するための規制
- 日影規制による制限は建築基準法で定められているが、自治体によって規制時間が異なることもある
自分が所有する土地であっても、自由に建物を建築できるわけではありません。建築基準法や都市計画法、自治体の条例など、法令によって定められたルールを守って建築する必要があります。
たとえば建築基準法の規制の1つである日影規制は、建物の高さを直接的に制限するものではなく、周囲の敷地に日影ができる時間を規制するものです。
日影規制は地方公共団体の条例により規制区域を決定し、規制値を定めるため、同じ用途地域であっても自治体によって日影を規制する時間が異なることがあります。
この記事では、図解や表を交えながら、日影規制の制限内容や高さ制限について解説します。
記事サマリー
日影規制とは
日影規制は正式には「日影による中高層の建築物の高さの制限」といい、建築基準法の規制の1つです。
1年の中で一番影が長くなる冬至の日を基準にし、周囲の敷地に日影ができる時間を一定時間以内に制限するための規制です。
たとえば第一種中高層住居専用地域内にある高さが10mを超える建築物は、周囲の敷地が日影になる時間を敷地境界線から5~10mの範囲では3時間、10mを超える範囲では2時間までになるようにしなければなりません(基準日は冬至日で午前8時から午後4時まで。なお北海道のみ午前9時から午後3時まで)。
ちなみに日影を測定するのは地面ではなく、第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域、田園住居地域については地盤面から1.5mの高さで、その他の地域では4mもしくは6.5mです。
対象となるのは以下の地域で、かつ地方公共団体が条例で指定した区域内です。つまり同じ用途地域であっても、自治体によって日影時間が異なることがあります。
対象区域 | 第一種低層住居専用地域 第二種低層住居専用地域 田園住居地域 第一種中高層住居専用地域 第二種中高層住居専用地域 第一種住居地域 第二種住居地域 準住居地域 近隣商業地域 準工業地域 用途地域の指定のない区域 |
対象外区域 | 商業地域 工業地域 工業専用地域 ※日影規制対象区域以外であっても、建築物の高さが10mを超え、 冬至日において日影規制対象区域内に日影を及ぼす場合は規制対象となります。 |
【日影の規制時間等】 | |||||
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地域・区域 | 制限を受ける建築物 | 平均地盤面 からの高さ |
規制値の種別 | 規制時間 | |
敷地境界線からの水平距離が10m以内の範囲における日影時間 | 敷地境界線からの水平距離が10mを超える範囲における日影時間 | ||||
第一種低層住居専用 第二種低層住居専用 田園住居 |
軒の高さが7m超又は地上3階以上の建築物 | 1.5m | (一) | 3時間 北海道:2時間 |
2時間 北海道1.5時間 |
(二) | 4時間 北海道:3時間 |
2.5時間 北海道:2時間 |
|||
(三) | 5時間 北海道:4時間 |
3時間 北海道2.5時間 |
|||
第一種中高層住居専用 第二種中高層住居専用 |
高さが10m超の建築物 | 4m又は6.5m | (一) | 3時間 北海道:2時間 |
2時間 北海道1.5時間 |
(二) | 4時間 北海道:3時間 |
2.5時間 北海道:2時間 |
|||
(三) | 5時間 北海道:4時間 |
3時間 北海道2.5時間 |
|||
第一種住居 第二種住居 準住居 近隣商業 準工業 |
高さが10m超の建築物 | 4m又は6.5m | (一) | 4時間 北海道:3時間 |
2.5時間 北海道:2時間 |
(二) | 5時間 北海道:4時間 |
3時間 北海道2.5時間 |
|||
用途地域の指定の ない区域 |
軒の高さが7m超又は地上3階以上の建築物 | 1.5m | (一) | 3時間 北海道:2時間 |
2時間 北海道1.5時間 |
(二) | 4時間 北海道:3時間 |
2.5時間 北海道:2時間 |
|||
(三) | 5時間 北海道:4時間 |
3時間 北海道2.5時間 |
|||
高さが10m超の建築物 | 4m | (一) | 3時間 北海道:2時間 |
2時間 北海道1.5時間 |
|
(二) | 4時間 北海道:3時間 |
2.5時間 北海道:2時間 |
|||
(三) | 5時間 北海道:4時間 |
3時間 北海道2.5時間 |
出典:建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)|e-Gov法令検索
建築基準法制度概要集|国土交通省
日影規制の重要性と目的
日影規制とは、周囲の土地に一定以上の日影を作らないように、建物の高さを制限する規制です。
周囲に住む人々の日照権を保護し、住環境を守ることを目的としています。
日照権とは建物の日当たりを確保する権利ですが、実は日照権そのものを保護する法律はなく、日影規制や建築基準法などの法令がその役割を担っています。したがって、日照権や住環境を保全するために重要な規制の1つといえます。
ちなみに商業や工業の利便性を重視する、商業地域や工業地域、工業専用地域には日影規制はありません(対象区域に影響を及ぼす場合を除く)。
また地方公共団体が認めた場合は対象区域内であっても、日影規制による制限が緩和されることもあります。
出典:|用途地域による建築物の用途制限の概要|東京都都市整備局
規制値の種別・規制時間・基準日
日影規制は、用途地域や種別により規制時間が異なります。
日影規制による制限は建築基準法で定められていますが、地方公共団体がその区域や種別を設定し、必要に応じて緩和するため、自治体によって規制時間が異なることもあります。
なお基準日は1年で最も影が長くなる冬至日で、12月22日ごろです。対象となるのは午前8時から午後4時までの8時間で、北海道のみ午前9時から午後3時の6時間となっています。
・「日照権」に関する記事はこちら 日照権とは?隣家やマンションのトラブル例や対処法を紹介 |
建築物の高さと日影制限
日影規制は、建物の高さによっては規制の対象になりません。この章では、建物の高さと日影規制の関係について解説します。
中高層建築における高さ制限
中高層建築における高さ制限の対象となる建物は、第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・田園住居地域、用途地域の指定のない地域については軒の高さが7mを超える建物または地上3階以上の建物です。その他の地域においては、軒の高さが10mを超える建物が対象になります。
木造2階建ての軒高が、通常7mを超えることはありません。したがって基本的には、3階以上である中高層の建物が日影規制の対象となると考えてよいでしょう。
用途地域ごとの高さ規制の違い
第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域、田園住居地域には「絶対高さ制限」があり、建物の高さを10mもしくは12m(都市計画で定められた高さ)にしなければなりません。
しかし他の用途地域には絶対高さの制限がなく、10m以上の建物も建築できます。そもそも用途地域によって建物を建てられる高さが異なるため、日影規制の高さの規制についても、用途地域によって異なります。
出典:建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)|e-Gov法令検索
建築基準法制度概要集|国土交通省
日影規制がアパートや高層ビル経営に与える影響
投資目的でアパートや高層ビルを建築する場合、敷地に対する法令上の制限を把握しておく必要があります。高さ制限などにより十分な広さや部屋数を確保できない場合、想定した収益を得られない可能性があります。
自治体によっては、用途地域や道路の種類をホームページなどで検索することができます。また敷地の購入を検討する前に、建設会社やハウスメーカーにプランの作成を依頼し、収益予想や利回りを試算してもらうようにしましょう。
不動産売買にまつわる建築基準法に基づく制限の適用
建築基準法では、用途地域ごとに建ぺい率や容積率、日影規制、絶対高さ、斜線制限などが定められています。
不動産の売買契約締結前には、重要事項について説明がありますが、その重要事項説明書にも「建築基準法に基づく制限」という項目があります。
この項目には、建物を建築する上で、遵守しなければならない制限について記載されています。適用となる制限について不明点があれば、契約を締結する前に確認するようにしましょう。
建築基準法における日影規制の規制ライン
日影規制には2つの規制ラインが存在し、敷地境界線から5~10mの範囲と、10mを超える範囲では規制される日影時間が異なります。そしてこのルールからもわかるように、境界線から5mまでは日影規制の対象になりません。
また日影時間は地盤面ではなく、平均地盤面から1.5mもしくは4m(6.5m)の高さで測定した時間になります。
日影規制に関連する条例と規定
日影規制は、建築基準法で定める建築物に対する高さ制限の1つです。ただし、規制対象区域や規制値などについては、地方公共団体の条例で決定することになっています。
たとえば東京都では「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」によって、対象区域や規制値、測定面が定められています。
自治体ごとに条例で定めている内容が異なるため、実際の規制内容については役所で調査することをおすすめします。
出典:建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)|e-Gov法令検索
東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例|東京都
日影規制について|国土交通省
日影規制以外の制限とは
日影規制以外にも、建物周辺の採光や通風を確保するための高さ制限があります。この章では、斜線制限について解説します。
斜線制限とは
斜線制限とは、道路や隣地との境界線からの距離に応じて、建築物の高さを規制する制限です。
斜線制限には道路斜線制限や隣地斜線制限、北側斜線制限があり、それぞれ対象となる用途地域や高さの制限が異なります。
たとえば、第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域、田園住居地域には絶対高さ制限があるため、隣地斜線制限がありません。
引用:用途地域と高さの制限(建築基準法第56条の図解)|東京都都市整備局
土地利用と斜線制限
建物を建築する場合、用途地域ごとに定められた容積率の上限まで建築することができます。しかし土地の形状や大きさ、斜線制限によっては、その上限まで建てられないこともあります。
土地を購入するときは斜線制限も考慮し、希望する建物が建築できるのか確認するようにしましょう。
北側斜線制限とは
北側斜線制限とは、建築基準法上の建築物の高さを規制する制限の1つで、建築物の北側に位置する隣地(道路を含む)の日照や通風を確保するための制限です。
住居専用地域や田園住居地域など、住宅地の環境を守ることを目的としています。
【北側斜線制限対象区域】
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 田園住居地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
対策と活用方法
たとえば第一種低層住居専用地域の場合は、北側隣地境界線から垂直に5mの高さから、一定の勾配をつけて後退しなければなりません。北側の一部がそぎ落とされたような形状の建物を、一度は街で見かけたことがあるのではないでしょうか。
マンションなどでは、北側斜線の部分を北側の住戸のルーフバルコニーとして活用していることがよくあります。また北側の居室の天井を、一部勾配をつけて低くすることで、床面積を確保することもできます。
間取りやレイアウトを工夫し、希望する広さを確保できるようにしましょう。
この記事のポイント
- 日影規制とはどんな規制?
日影規制とは、周囲の土地に一定以上の日影を作らないように、建物の高さを制限する規制です。
周囲に住む人々の日照権を保護し、住環境を守ることを目的としています。
ちなみに商業や工業の利便性を重視する、商業地域や工業地域、工業専用地域には日影規制はありません(対象区域に影響を及ぼす場合を除く)。詳しくは「日影規制とは」をご覧ください。
- 建築基準法における日影規制の規制ラインとは?
日影規制は、建築基準法で定める建築物に対する高さ制限の1つですが、規制対象区域や規制値などについては、地方公共団体の条例で決定することになっています。
たとえば東京都では「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」によって、対象区域や規制値、測定面が定められています。詳しくは「建築基準法における日影規制の規制ライン」をご覧ください。
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