更新日:  

原状回復ガイドラインとは?耐用年数との違いや費用を解説

執筆者プロフィール

桜木 理恵
資格情報: Webライター、宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、管理業務主任者

大学在学中に宅地建物取引士に合格。新卒で大手不動産会社に入社し、売買仲介営業担当として約8年勤務。結婚・出産を機に大手ハウスメーカーのリフォームアドバイザーに転身し約5年勤務。その他信託銀行にて不動産事務として勤務経験あり。現在は不動産の知識と経験を活かし、フリーランスのWebライターとして活動。不動産や建築にまつわる記事を多数執筆。「宅地建物取引士」「2級ファイナンシャル・プランニング技能士」「管理業務主任者」所持。

ざっくり要約!

  • 原状回復にかかった費用は賃貸借契約時に貸主に預けた敷金から差し引かれ、残った敷金は借主に返還されるのが一般的
  • 原状回復にかかる費用のうち、借主の故意や過失による汚れや傷は借主の負担

賃貸物件を退去する際に、借主は原状回復する必要があります。つまり借主は入居したときの状態に復旧して、貸主に返還する義務があります。原状回復にかかった費用は、賃貸借契約時に貸主に預けた敷金から差し引かれ、退去後に精算するのが一般的な流れです。

しかし、原状回復に対する認識の違いから貸主借主間でトラブルになることが多く、これを重くみた国土交通省は、原状回復に関するガイドラインを定めています。

この記事では原状回復の基礎知識から経年劣化との違い、原状回復の相場や費用負担について解説します。さらに原状回復工事から精算までの流れも紹介しますので、賃貸物件から退去する予定の方はぜひ参考にしてください。

原状回復の基礎知識

原状回復とは、元の状態に復旧することです。賃貸物件を借りた人は、退去の際に原状回復する必要があります。

この章では、原状回復の考え方と国土交通省が定めた原状回復に関するガイドライン、また経過年数に対する考え方も紹介します。

原状回復とは?

原状回復義務とは、借主が賃貸物件から退去する際に、入居したときの状態に戻して、貸主に返還する義務のことをいいます。

そして原状回復するのにかかった費用は、賃貸借契約時に貸主に預けた敷金から差し引かれ、残った敷金は借主に返還されるのが一般的な流れです。

しかし貸主と借主で原状回復に対する認識が異なることがあり、実際トラブルになるケースが多いことから、国土交通省は1998年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しています。

このガイドラインによれば、日常生活を送っているうちに通常損耗するような部分や経年劣化した部分については貸主の費用負担とし、故意や過失による汚れや傷は、借主が原状回復する義務を負うとしています。

そして2020年4月の民法改正により、原状回復のルールが民法においても明文化されました。

出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)|国土交通省
2020年4月1日から賃貸借契約に関する民法のルールが変わります|法務省

国土交通省によるガイドラインと耐用年数

借主の故意や過失による汚れや傷は、基本的には借主が原状回復して貸主に返還するのが、ガイドラインに沿ったルールです。

しかし耐用年数を過ぎたクロスや畳の汚れや傷も、借主の故意や過失であれば、新品のクロスに貼り替える費用をすべて負担しなければならないのでしょうか。

結論からいえば、基本的には新品に貼り替える費用のすべてを借主が負担する必要はありません。

ガイドラインによれば、借主が原状回復にかかる費用を負担する場合、新品の価格ではなく経過年数を考慮するとしています。

たとえばクロスの耐用年数は6年です。つまり6年で残存価値が1円になるようにして、それぞれの負担割合を計算します。

しかし耐用年数を超えている場合でも、部屋中に落書きをするなど度を超えたケースに対しては、借主にクロス張り替え費用の負担を容認した判例があります。

賃貸物件は貸主から借りているものです。賃料を払っているとしても、大事に使うようにしましょう。

経年劣化と原状回復の違い

この章では、経年劣化と見なされる状態と原状回復が必要になるケースの見分け方を、具体例を挙げて紹介します。

経年劣化と原状回復の異なる点とは

一般的に経年劣化と判断される状態と、原状回復の義務を負う可能性があるケースを具体的に紹介します。

経年劣化と見なされる状態
(貸主の費用負担となるケース)
原状回復が必要な状態
(借主の費用負担となるケース)
冷蔵庫を置いたことによるクロスの黒ずみ(電気ヤケ)タバコを吸ったことによるクロスの黄ばみ
長期間太陽光が当たったことによるフローリングの変色結露を長期間放置したことによるフローリングの変色
エアコン設置のためのビス穴(貸主の承諾がある場合)やカレンダーを掲示したことによる画鋲の跡貸主に承諾なく設置した棚の釘穴やビス穴
経年により故障した給湯器の交換間違った使い方をしたことによる給湯器の修理や交換
自然発生的に生じた網入りガラスの亀裂借主が故意に割ったガラス
家具を長期間置いたことによる設置跡家具を移動した際についたフローリングの傷
何度も歩くことで表面が摩耗した畳の張り替え掃除や換気を怠ったことで生えたカビによる畳の張り替えや交換
自然災害などによる壁や床の破損ペット飼育不可物件で、犬を飼ったことにより生じたひっかき傷
入退室による鍵・シリンダー交換鍵を紛失したことによるシリンダー交換

出典:これでわかる!賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント|国土交通省 住宅局 参事官(マンション・賃貸住宅担当)公益財団法人日本賃貸住宅管理協会

経年劣化に関する基本的なルール

経年劣化とは、年数とともにその価値が減少することを意味します。

たとえばキッチンやトイレの便器には経過年数がそれぞれ定められており、貸主の故意や過失によって交換する場合でも、耐用年数を超えている場合は残存価値を1円として計算します。

しかし、すべてが経過年数を考慮されるわけではありません。

たとえば畳やフローリングは経過年数が考慮されないため、もし借主が故意に傷つけたり汚したりした場合は、原状回復費用として新品に貼り替える費用を請求される可能性があります。

原状回復の準備と流れ

原状回復の主な流れと、退去前にチェックすべき項目を紹介します。納得がいく敷金の精算をしてもらうためにも、敷金の一般的なルールも把握しておきましょう。

原状回復の主な流れ

原状回復の主な流れは、以下の通りです。

  1. 退去の立会い
  2. 原状回復工事の見積もり
  3. 工事の実施
  4. 敷金の精算
  5. 残った敷金が指定した口座に振り込まれる

まず退去後の状態を、不動産会社の担当者と借主双方が立会いのもと確認します。入居前からついている傷や造作物がある場合は、その旨を伝えましょう。

その後、原状回復工事にかかる費用の見積額が提示され、賃貸借契約時に預けた敷金から差し引かれます。敷金で足りない場合は別途請求されます。 残った敷金は、貸主から借主が指定した口座へ振り込まれます。

退去前にチェックすべき項目

退去の立会いの日を迎える前に、敷金を精算する際のルールや特約事項の有無を確認しておきましょう。また物件の状態を確認し、自分が持ち込んだものは撤去し忘れないようにします。

敷金のルール

敷金として貸主に預ける金額は、借りる物件によって異なります。なしの場合もありますが、家賃の1〜2カ月分としているケースが多いです。

敷金は、原状回復工事に備えて貸主に預けておくお金ですが、原状回復費用が高額になった場合は敷金で足りず、別途請求されることもあるので注意しましょう。

ちなみに賃料の未払いがあったときも、敷金から差し引かれます。

また敷金の精算について、原則とは異なる特約をつけていることがあります。
たとえば以下のような特例です。特約にはおおまかな費用を記載する必要があり、通常かかる費用も記載されています。

  • 原状回復の費用をあらかじめ定額としておく特約
  • ハウスクリーニングにかかる費用は借主の負担とする特約
  • 畳の張り替え費用は借主の負担とする特約

原状回復に関するガイドラインの原則とは異なっていたとしても、特約で定めた内容は、よほど暴利的な内容でない限り有効になります。契約締結時にはよく理解したうえで署名してください。

物件の状態

ある程度荷造りができたら、物件の状態をチェックしておきましょう。

また賃貸借契約書や重要事項説明書の他に付帯設備表や現況確認書があれば、内容を確認しておきます。

その際、付帯設備表に「あり」と記載されているものを、間違って撤去しないようにしましょう。また自分が設置したガスコンロやエアコンがあれば、撤去しておきます。つまり借りたときと同じ状態にします。

自分が設置したものを置いたままにすると、撤去処分費を請求される可能性があるので注意しましょう。逆に備え付けられていたものを間違って撤去した場合は、原状回復費用として請求される可能性があります。

コンロなどまだ使えると思われるようなものがあれば、事前に置いていくことができるか相談しておきましょう。

原状回復の費用は誰が負担する?

原状回復にかかる費用のうち、借主の故意や過失による汚れや傷は借主の負担になります。この章では一般的な原状回復の相場と、賃借人と貸主の費用負担について解説します。

原状回復費用の相場と計算方法

原状回復費用の一般的な相場を紹介します。依頼先や地域によって異なることもありますので、参考としてお考え下さい。

なおトラブルを避けるためにも、緊急を要する場合を除いて、不動産会社に相談なく修理やリフォームをしないようにしてください。

工事内容一般的な相場
壁や天井のクロスの張り替え1,000~3,000円/㎡(別途廃材処分費)
フローリングの張り替え30,000円/帖~(別途廃材処分費)
畳の張り替え・交換5,000~30,000円/畳
クッションフロアの張り替え10,000円/帖~
網戸の張り替え・交換5,000円/枚~
ハウスクリーニングワンルーム・1K:15,000~30,000円
1DK・1LDK:20,000~50,000円
2DK・2LDK:30,000~60,000円
3DK・3LDK:50,000~70,000円
4DK:4LDK:80,000円~
フローリングやクロスの傷や穴の補修10,000~60,000円/カ所

賃借人と貸主の費用負担はどうなる?

借主の故意や過失によって生じた汚れや傷の修復は借主の負担、経年劣化や通常損耗による修理や改修は貸主の負担になります。

ただし、借主の故意や過失によりクロスを貼り替える場合でも、耐用年数を超えている場合は、新品を貼り替える費用までは負担する必要はありません。

現状よりも良くするためにかかる費用については、貸主の負担になります。

原状回復のトラブル対策

原状回復や敷金のルールを理解しておくことで、防げるトラブルもあります。最後に、よくあるトラブル例と対策を紹介します。

原状回復のよくあるトラブルと対策

原状回復のよくあるトラブルと対策を3つ紹介します。

退去直前に賃貸借契約に「特約」がついていることに気づいた

賃貸借契約に特約をつけている場合、一般的な原則とは異なる条件や取り決めがあるということです。とくに原状回復の費用負担や精算はトラブルになるケースが多いため、契約内容をよく確認するようにしてください。

入居前の傷や汚れの原状回復費用を求められた

もともとあった傷や汚れについても、間違って原状回復費用を求められることがあります。室内に傷や汚れがある場合は、入居前に写真を撮っておき、不動産会社にもその旨を確認してもらいましょう。退去の立会いにときにもその写真を提示し、自分がつけた傷や汚れでないことを説明するようにします。

入居中に窓ガラスが割れた

もし窓ガラスが割れた場合などは、まず不動産会社に連絡するようにし、勝手に修理や交換をしないようにします。

内容によっては保険が適用になり、保険金で修理できることもあります。割れた状態の写真が必要になることもあるため、念のため証拠となる写真を残しておきましょう。

この記事のポイント

経年劣化と原状回復の違いは?

一例として、冷蔵庫を置いたことによるクロスの黒ずみ(電気ヤケ)は経年劣化と見なされる状態(貸主の費用負担となるケース)で、タバコを吸ったことによるクロスの黄ばみは原状回復が必要な状態(借主の費用負担となるケース)に該当します。

詳しくは「経年劣化と原状回復の違い」をご覧ください。

原状回復の費用は誰が負担する?

基本的には、借主の故意や過失によって生じた汚れや傷の修復費用は借主の負担、経年劣化や通常損耗による修理や改修の費用は貸主の負担になります。

詳しくは「原状回復の費用は誰が負担する?」をご覧ください。

物件探しや売却がもっと便利に。

無料登録で最新物件情報をお届けいたします。

Myリバブルのサービス詳細はこちら