ざっくり要約!
- 鑑定評価基準とは「国家資格者である不動産鑑定士が不動産鑑定評価を行う際に評価のよりどころとする基準」のこと
- 不動産鑑定士による不動産鑑定評価と不動産会社の無料査定の違いは「不動産会社の無料査定は鑑定評価基準に基づかなくても良い」という点
不動産の適正価格を知る方法の一つに「不動産鑑定」があります。
不動産鑑定は、不動産鑑定士と呼ばれる国家資格者のみしかできない独占業務であり、不動産鑑定士は「不動産鑑定評価基準」をよりどころに評価を行っています。
不動産鑑定評価は、不動産鑑定評価基準と呼ばれる評価のルールがあるからこそ、信頼性の高い評価額を算出できるようになっています。
不動産の鑑定評価で使用される鑑定評価基準とは、一体どのようなものなのでしょうか。
この記事では「不動産鑑定評価基準」について解説します。
記事サマリー
不動産鑑定評価基準とは
まずは不動産鑑定評価基準(以下、鑑定評価基準)について解説します。
不動産鑑定評価基準の概要
鑑定評価基準とは「国家資格者である不動産鑑定士が不動産鑑定評価を行う際に評価のよりどころとする基準」のことです。
詳細なマニュアルというわけではなく、あくまでも原則的な考え方を示した指針であり、不動産鑑定士は鑑定評価基準に基づいて鑑定評価をしなければいけないことになっています。
別の表現をすると、不動産鑑定士の鑑定評価は鑑定評価基準に縛られているということになります。
不動産鑑定士が自分の考えで勝手に評価することは許されず、鑑定評価基準の考え方に従って評価しなければならないということです。
不動産会社の無料査定との違いは「不動産会社の無料査定は鑑定評価基準に基づかなくても良い」という点です。
不動産会社の無料査定には査定方法のルールが定められていませんので、経験則で自由に回答しても良いといえます。
実際のところ、相場に精通している地域であれば、不動産鑑定士も不動産会社の営業担当者もすぐに価格を回答することができます。
そのため、不動産会社の査定であればすぐに「坪200万円」などと査定書に記載しても良いのですが、不動産鑑定士の鑑定評価ではしっかりと鑑定評価基準に基づいて評価を行った上で「坪200万円」と評価書に記載しなければいけないということです。
不動産鑑定士には鑑定評価基準に基づいて相応の評価作業が発生するため、鑑定評価はどうしてもそれなりの手数料を頂く形となっています。
不動産鑑定評価の目的と重要性
鑑定評価基準は国が定めた不動産の評価方法の基準であるため、鑑定評価は国の考えに基づいて不動産を評価しているということになります。
そのため、不動産鑑定士による鑑定評価書は、「税務署に対する説明資料や裁判における証拠資料となる」という点が特徴です。
税務署も裁判所も国の機関であるため、自分たちが定めたルールで評価しているものであれば、一定の信頼性を持って受け入れざるを得ないということになります。
税務署に対する説明資料というのは、例えば「親会社と子会社との間で不動産を売買するときの価格を決める場合」に必要です。
親会社と子会社は力関係に優劣があり、実際のところ親会社が勝手に不動産の売却価格を決定することができます。加えて関連会社間の売買は、親会社が本業で大きな利益が出たときに、子会社に不動産を損する形で売りつけ、利益を小さく見せて脱税することも可能です。
このような脱税を防ぐためには、関連会社間の売買であっても適正な価格で取引される必要があります。
そのため、関連会社間の売買では、適正な取引であることを税務署に対して説明する資料として不動産鑑定士による鑑定評価を残しておく必要があります。
もし税務署に対する説明資料が、勝手なルールで評価したものであれば、そのルールの妥当性から検証しなければなりません。
勝手なルールとは、例えば「隣の人が坪100万円くらいと言っていたので、坪100万円と評価した」という評価方法も考えられます。
隣の人が不動産に詳しい人なのかもわかりませんし、100万円の根拠は何なのかもわかりません。
勝手なルールで評価されても、そもそもその評価方法自体が怪しくなるため、税務署は根拠資料として認めにくいのです。
同様に裁判における証拠資料においても、勝手なルールで評価されたものは評価方法自体から検証していく必要があり、裁判所は証拠資料として認めにくいといえます。
このように不動産鑑定士による鑑定評価は、鑑定評価基準に基づいているからこそ信頼性があるといえます。
もちろん、不動産鑑定士が評価しても、隣の人と同じ結果の100万円となることはあり得ます。そのため、不動産鑑定士が評価したからといって価格の精度が高くなるわけではありません。
ただし、結果が同じでもプロセスが異なるため、鑑定評価は精度ではなく信頼性が高いといえるのです。
不動産鑑定評価の方法
鑑定評価基準では、不動産を原則として費用性と市場性、収益性の3つの観点から評価することを求めています。
この章では鑑定評価基準に記載されている不動産鑑定評価の方法について解説します。
原価法
原価法とは、費用性に基づく不動産の評価方法です。
「建てたらいくらかかるか」という発想から価格を求めていきます。
原価法は、主に戸建てや工場、自社ビル等を評価するときに重視すべき評価手法として用いられます。
原価法では、土地価格と建物価格を別々に求めた後に、両者を合算して価格を試算することが特徴です。
土地価格に関しては、次節で示す取引事例比較法によって更地価格を求めます。
建物価格に関しては、再調達原価と呼ばれる現在の建築費で建物を建てたときの価格を求め、そこから築年数等に応じた減価修正を行って評価時点の建物価格を求めます。
原価法によって求められた価格は「積算価格」と呼ばれます。
取引事例比較法
取引事例比較法とは、市場性に基づく不動産の評価方法です。
「似たような不動産がいくらで取引されているか」という発想から価格を求めていきます。
取引事例比較法は、主に更地や中古マンションの専有部を評価するときに重視すべき評価手法として用いられます。
取引事例比較法では、複数の規範性の高い取引事例を収集し、そこから価格を試算します。
規範性の高い取引事例とは、似たような条件の不動産で、かつ最近取引された事例のことです。
取引事例比較法によって求められた価格は「比準価格」と呼ばれます。
収益還元法
収益還元法とは、収益性に基づく不動産の評価方法です。
「貸したらどれくらい儲かるか」という発想で価格を求めていきます。
収益還元法は、主にアパートやオフィスビル等の収益物件を評価するときに重視すべき評価手法として用いられます。
収益還元法では、対象不動産から生み出される純収益を還元利回りで割ることで価格を試算していきます。
還元利回りとは、家賃収入から所定の費用を差し引いた純収益に対する利回りのことです。
収益還元法によって求められた価格は「収益価格」と呼ばれます。
不動産価格の適正評価を受けるためのポイント
不動産価格の適正な評価を受けるためのポイントについて解説します。
目的と必要性を把握して依頼する
不動産鑑定士による鑑定評価は有料となるため、評価の目的と必要性を把握してから依頼する必要があります。
不動産鑑定士による鑑定評価を取得する際の目的は自由です。
売却や購入だけでなく、単に資産価値を知りたいときにも利用できます。
それに対して、不動産会社の無料査定は、取得する際の目的は売却だけに限定されています。
購入や単に資産価値を知りたいだけの場合には、不動産鑑定士による鑑定評価が必要です。
【売却】
第三者に不動産を売却する場合には、不動産会社による無料査定で十分です。
不動産会社の無料査定は、仲介の営業行為の一環として行われるため、無料となります。
不動産会社の営業担当者も、査定を行うにあたっては当然に手間がかかっていますが、売却したときに得られる仲介手数料で作業コストを回収しています。
一方で、不動産の売却においても、関連会社間や会社と社長との間で不動産の売買を行う場合は脱税の懸念があることから不動産鑑定士による鑑定評価が必要です。
【購入】
不動産の売買では、買主が適正価格を知りたいというニーズも存在します。
買主が適正価格を知りたい場合には、不動産会社の無料査定は利用できないため、不動産鑑定士による鑑定評価が必要です。
個人が購入で不動産鑑定を取得するケースは少ないですが、法人にはニーズがあります。
例えばM&Aで企業を買収するときに、相手方の保有している不動産価格を把握したいときに鑑定評価の取得が行われます。
【資産価値の把握】
不動産は、相続の遺産分割協議や離婚の財産分与等において「売却はしないけれども単に資産価値を把握したい」というニーズも存在します。
単に資産価値を把握したい場合は、不動産会社の無料査定は利用できないため、不動産鑑定士による鑑定評価が必要です。
評価を受ける際の注意点
不動産鑑定事務所では、「鑑定評価書」と「査定書」の2種類のメニューを用意しています。
鑑定評価書は鑑定評価基準に基づいて行う評価ですが、不動産鑑定事務所の査定書は評価のプロセスを簡素化した査定になります。
いずれも有料ですが、査定書の方が手数料は安いことが一般的です。
税務署や裁判所への提出を目的とした資料「以外」の使用方法である場合、査定書で十分であることも多いです。
依頼をする際は、鑑定評価の依頼目的を伝え、手数料が安い査定書でも問題ないかどうかを確認することが注意点となります。
不動産鑑定評価基準における不動産鑑定士の役割
不動産鑑定士の役割について解説します。
不動産鑑定士とは
不動産鑑定士とは、不動産の適正な価格を評価するための国家資格者です。
不動産鑑定評価書と名前の付く評価書を発行できるのは不動産鑑定士のみであり、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務となっています。
不動産鑑定士に鑑定評価を依頼するには
不動産鑑定評価書が必要となるケースは、前もって税理士や弁護士、銀行等に事案を相談していることが多いです。
そのため、税理士や弁護士、銀行等に不動産鑑定士を紹介してもらうのが良いといえます。
また、直接依頼する場合には、各都道府県の不動産鑑定士協会のホームページから近隣の不動産鑑定事務所を探して直接電話をする形でも問題ありません。
鑑定評価を依頼すると、不動産鑑定士から評価に必要な資料を求められます。
鑑定評価書の作成には、依頼から3~4週間程度の時間がかかることが通常です。
評価は鑑定評価基準に従う必要があり、不動産会社の無料査定のように即日査定というわけにはいかないため、余裕をもって依頼する必要があります。
・「不動産査定」に関する記事はこちら 不動産査定は匿名でできる?匿名査定に向いているケース3つ |
この記事のポイント
- 不動産鑑定評価基準とは何ですか?
鑑定評価基準とは「国家資格者である不動産鑑定士が不動産鑑定評価を行う際に評価のよりどころとする基準」のことです。
詳細なマニュアルというわけではなく、あくまでも原則的な考え方を示した指針であり、不動産鑑定士は鑑定評価基準に基づいて鑑定評価をしなければいけないことになっています。
詳しくは「不動産鑑定評価基準とは」をご覧ください。
- 不動産価格の適正評価を受けるためにはどうしたらいい?
不動産鑑定士による鑑定評価は有料となるため、評価の目的と必要性を把握してから依頼する必要があります。
不動産鑑定士による鑑定評価を取得する際の目的は自由です。売却や購入だけでなく、単に資産価値を知りたいときにも利用できます。
詳しくは「不動産価格の適正評価を受けるためのポイント」をご覧ください。
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