記事監修・取材先 さくら事務所会長 長嶋 修 |
1967年、東京生まれ。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社・さくら事務所を設立、現会長。 業界の第一人者として不動産購入のノウハウにとどまらず、業界・政策提言にも言及するなど精力的に活動。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動など、様々な活動を通じて『第三者性を堅持した不動産コンサルタント』第一人者としての地位を築く。 2022年6月現在、登録者数6.46万人のyoutubeチャンネル(長嶋修の「日本と世界を読む」)を運営。不動産投資・政治・経済・金融全般についての情報発信をするyoutuberとしても活動中。 |
東京外国為替市場の円相場は10月20日、一時「1ドル=150円」まで値下がりしました。ここまで円安が進んだのは、実に32年ぶりのことです。
歯止めの効かない円安は、日本の不動産市場にどのような影響を与えるのでしょうか?さくら事務所の会長で不動産コンサルタントの長嶋修さんに、円安の影響や要因、今後の日本経済・不動産市場の見通しについて聞きました。
出典:TradingView USDJPYチャート 終値ベースを基に作成(2022年1月3日〜2022年10月31)
円安で日本の不動産が注目される
急激に円安が進んだ要因は、米国と日本の金利差にあります。米国の30年固定住宅ローン金利は10月、7.0%を突破しました。一方、日本では固定金利が上昇基調にあるものの、まだまだ低金利を維持しています。
長嶋さんは、この金利差が日本の不動産市場に与える影響について次のように考察します。
「住宅ローン金利の上昇により、米国の住宅市場が冷え込んでいくのは明白です。一方、まだまだ低金利を維持している日本の不動産市場。この構図から、特にドル経済圏の方からすれば、日本の不動産はかなり魅力的に映るでしょう。そもそも、日本の不動産は他の先進国と比較すれば割安です。元々、魅力的だった日本の不動産が、円安・ドル高でさらに魅力を増したわけです」
民主党から自民党へ政権交代してからというもの、日本の不動産価格は低金利を背景に、大きく高騰してきました。しかし、他の先進国と比較すればまだまだ割安。コロナ禍前は1ドル=110円以下であったことを考えれば、日本の不動産はドル経済圏の人からすると、まさに“バーゲンセール”のような状況になっているのです。
海外投資家の「爆買い」はあるのか
「これまで、日本の不動産の『爆買い』が見られていたのは、中国・香港・台湾などアジア圏が中心でした。現在もゼロになっているわけではありませんが、中国の不景気もあって、この勢いは衰えています。今後、日本の不動産の爆買いが見られるとすれば、欧米でしょう。
ただすでに、2020年後半からファンド系のマネーは日本の不動産市場に入ってきています。日本の不動産が割安ということもありますが、その頃はコロナが蔓延した時期。日本はとりわけコロナの影響が少なかった国ですから、各ファンドのポートフォリオにおける日本の不動産の比率が高まったのです。そして円安によってさらに、この比率は高まっていくものと考えられます。もちろんファンドのみならず、個人のお金も日本の不動産や株などに向くことになるでしょう」
円安によって日本の不動産市場に大量の海外マネーが流入すると推測されますが、その影響は局所的だと考えられます。国外のみならず、国内投資家においても、投資の対象とするのは主に都市部の物件です。円安の影響を受けるのも、東京・大阪・名古屋・福岡・仙台・札幌など大都市圏が中心となるでしょう。加えて長嶋さんは、次のようなエリアも円安の影響を受ける可能性があると言います。
「台湾の半導体メーカーが熊本県に進出するということで話題になりましたが、物価も人件費も安いということで、日本に進出する海外企業は今後さらに増えてくるかもしれません。海外企業が進出してくるとすれば、その周辺の不動産は影響を受ける可能性があります。これまで、日本の人件費が高いからと中国や東南アジアに工場を作っていたわけですが、いまや立場が逆転してしまっていますからね」
不動産価格は、需要と供給のバランスによって変動します。当然ながら、需要が高まれば価格は高騰。円安によって日本の不動産の魅力が高まったことにより需要が上がれば、今後、局所的に不動産価格の高騰が見られる可能性があります。
なぜこれほどまでに米国との金利差が広がっているのか?
新型コロナウイルス感染症の蔓延やロシア・ウクライナ情勢によってもたらされた、世界的な物価高。各国共に影響を受けているにもかかわらず、なぜ米国と日本の金利差がここまで広がっているのでしょうか?
「日本の消費者物価指数も、9月には3%を超えました。海外と比較すれば可愛いものですが、経済学の常識としては、インフレ率より金利のほうが高くなければおかしいわけです。低金利で資金調達して事業ができてしまえば、インフレ率が収まることはありませんからね。米国は、インフレ率が高まっているからこそ利上げをしているわけですが、本来であればこちらが自然な流れなのです」
日本は、いまだ粘り強く金融緩和政策を続けています。10月28日の金融政策決定会合では、今年度の物価上昇率の見通しを2.3%から2.9%に引き上げながらも、大規模な金融緩和の維持が決定。黒田総裁からは「必要があれば躊躇なく追加緩和措置を講じる」との発言も出ています。長嶋さんは、日本が利上げに踏み切らない要因について次のように推測します。
「日本は、利上げ『しない』のではなく『できない』のでしょう。金利を上げてしまうと、国債が消化できなくなってしまいます。すでに、最近では国債の入札がゼロの日もみられますが、そういったときには日銀が国債を買っているわけです。金利を上げるということは、国債の評価が下がるということ。一定率、金利が上がれば、日銀は債務超過に陥ってしまいます」
今後の日本経済・不動産市場の行方は
2023年4月には、日本銀行の黒田総裁が任期満了を迎えます。長嶋さんは「総裁が変わるタイミングで政策も変わる可能性はある」と言いますが、それ以前に金利が上がる可能性もあると続けます。
「『黒田総裁が変われば政策が変わる』と考える人は少なからずいらっしゃるでしょう。任期を迎える前に、市場が先読みをして金利が上がるという可能性がないとは言い切れません。いずれにしても、日本も今後、金利を上げざるを得ない状況です。それが、いつ・どれくらいなのかというのが皆さんの気になるところだと思います。
たとえば、2023年4月前後に、0.25%〜0.5%上がる程度であれば、そこまで影響はないと考えます。しかし、いきなり0.75%〜1%上がったり、段階的にそれ以上引き上げられたりすれば、随分、市場の様相は変わってくるでしょうね。私は常々、不動産市場は『三極化』が進んでいると申し上げているのですが、円安やインフレ、利上げという状況で、さらにこの傾向が進むものと考えられます」
長嶋さんの言う「市場の三極化」というのは「価格維持・あるいは上昇する地域」「なだらかに下落を続ける地域」「限りなく無価値・あるいはマイナスの地域」の格差が広がるということを指します。
すでに地方の一部地域には過疎化がみられ、多くの地方都市で居住区域を限定するコンパクトシティの形成が計画されています。「新築マンション価格がバブル期を超えた」とのニュースもありましたが、昨今は、新築マンションの供給エリアもほぼ都市部。中古住宅においても、価格が高騰しているのは大都市圏や駅近エリア、郊外の中でも利便性の高いエリアなどと限定的です。
そして、円安の影響を受けて不動産価格が高騰する可能性があるのも、都市部など局所的です。不動産価格が高騰した現在の状況は「不動産バブル」と称されることもありますが「昭和期のバブルとは随分、様子が異なる」と長嶋さんは言います。
「バブル当時の日本の土地総額は、約2,000兆円でした。それが今では、約1,000兆円。この30年余りで半分になってしまったのです。不動産価格が高騰しているといいますが、それはあくまで平均値であり、日本全国すべての不動産価格が高騰しているわけではありません。円安だからといって、日本の田舎の不動産を買う外国人もいないでしょう。
円安によってもたらされるのは、市場全体の高騰ではなく『莫大なマネーが入るごく一部』と『そうではない大半』の二極化、三極化です。世帯数の減少は2050年頃まで続くといわれていますので、エリアによる格差の広がりはその頃まで続くものと考えられます」
まとめ
市場の三極化がますます進むとみられる今、大半のエリアの不動産は「売りたい」と思ったときが売り時となるでしょう。都市部や駅近、利便性の高いエリアの不動産については、円安によって価格が高騰する可能性があります。日経平均や金利動向を注視しながら、売り時を待つのも選択肢の1つです。
一方、いまだ住宅ローン金利が低い今は不動産の買い時といえますが、住宅ローン選びには気をつけましょう。金利上昇やインフレに耐えうる資産としたい場合には固定金利を、金利上昇局面に備えた資金や算段がある場合には変動金利を選択するなど、長期的な視点をもって不動産およびローンを選択することが大切です。
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