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マスターリース契約とは?メリット・デメリットやサブリースとの違いを解説

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。

ざっくり要約!

  • マスターリース契約とは「サブリース業者が転貸借を目的として建物所有者と結ぶ賃貸借契約」のこと
  • マスターリースではサブリース業者が各入居者と賃貸借契約を締結するが、管理委託では建物所有者が各入居者と賃貸借契約を締結する

不動産投資やアパート経営をするのであれば、知っておきたい知識の1つにマスターリースがあります。

マスターリース契約は、シェアハウスのサブリースをしていた会社が倒産したことで社会問題化し、話題となった時期がありました。

その後、マスターリースの問題は国会でも取り上げられ、2020年には賃貸住宅管理業法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)が成立した次第です。

マスターリース契約とは、どのような契約なのでしょうか。この記事では「マスターリース契約」について解説します。

マスターリース契約(マスターリース)とは

マスターリース契約とは、端的にいうと「一括借り上げ契約」のことです。
「サブリース業者が転貸借を目的として建物所有者と結ぶ賃貸借契約」のことをマスターリース契約と呼びます。

日常的にはマスターリースとサブリースは、ほぼ同義で使用されていることが多いです。
サブリースについては「マスターリース契約とサブリース契約の違い」の章で解説します。

マスターリース契約の基本

マスターリース契約とは、賃貸物件の管理方式の1つとして利用される契約のことです。
サブリース業者が貸主から建物一棟全体を借り上げ、各戸の入居者とはサブリース業者が転貸借契約を締結することによって管理を行います。

サブリース業者は各戸の入居者から家賃を受け取り、管理料相当額の手数料を差し引いた残額を建物所有者である貸主に家賃として支払います。

マスターリース契約の本質は、建物所有者とサブリース業者の賃貸借契約であるということです。
賃貸借契約を締結しますので、サブリース業者の法律上の立場は借主となります。

貸主と借主の関係が生じると、借地借家法が適用されます。借地借家法は借主の権利を守る法律です。

つまり、借地借家法が適用されることで借主であるサブリース業者の権利が守られてしまい、管理会社を単なる業者として扱いにくくなることからさまざまな面で不都合が生じます。

マスターリース契約の仕組み

マスターリース契約は、転貸によって賃貸物件を管理するという仕組みです。
マスターリースでは、建物所有者とサブリース業者が賃貸借契約を締結し、サブリース業者と各入居者が転貸借契約を締結します。

そのため、建物所有者は入居者と直接契約することはなく、入居者から建物所有者は直接見えない存在となります。

各入居者にとって貸主はサブリース業者となりますので、各入居者が修繕や家賃の減額等のさまざまな要求をするのもサブリース業者です。

一方で、建物所有者とサブリース業者も貸主と借主の関係にあることから、管理会社も建物所有者に対して修繕や家賃の減額等のさまざまな要求をすることができます。

マスターリース契約の種類

マスターリース契約の種類について解説します。

パススルー型マスターリース

パススルー型マスターリースとは、転貸部分の空室状況に応じて管理会社から建物所有者に対して支払われる家賃が変動するタイプのマスターリースのことです。

例えば、サブリース業者の手数料を家賃収入の5%と固定します。
今月の各入居者からの合計家賃が100万円であった場合、5%の管理手数料は5万円です。
100万円から5万円を差し引いた95万円が建物所有者に対して家賃として支払われます。

次月は空室が生じてしまい、各入居者からの合計家賃が80万円になったとします。
80万円の5%は4万円ですので、80万円から4万円を差し引いた76万円が建物所有者に対して家賃として支払われるということです。

このようにパススルー型マスターリースは空室状況によって建物所有者に入ってくる家賃も変動するため、建物所有者は空室リスクを直接負っていることが特徴となります。

固定型マスターリース

固定型マスターリースとは、転貸部分の空室状況に関わらず、サブリース業者から建物所有者に対して支払われる家賃が固定となるタイプのマスターリースのことです。
空室状況によって家賃が変動しないことから、固定型マスターリースは「家賃保証」または「空室保証」と呼ばれることもあります。

例えば、サブリース業者が建物所有者に対して支払う毎月の家賃が75万円だとします。
今月の各入居者からの合計家賃が100万円でも、管理会社から貸主に対して支払われる家賃は75万円です。
次月は空室が生じて各入居者からの合計家賃が80万円になったとしても、サブリース業者から貸主に対して支払われる家賃は75万円となります。

このように固定型マスターリースは空室状況によって建物所有者に入ってくる家賃が変動しないことから、建物所有者は空室リスクを直接負っていないという点が特徴です。

マスターリース契約とサブリース契約の違い

マスターリースとサブリースは、どこの契約の部分を指すかの違いです。

マスターリースとは、建物所有者とサブリース業者との間の賃貸借契約のことです。
それに対して、サブリースとは、サブリース業者と各入居者との間の賃貸借契約のことを指します。
サブリースとは転貸という意味であり、サブリース業者と各入居者との賃貸借契約は建物所有者から見ると転貸借契約であるため、サブリースと呼んでいます。

マスターリースとサブリースは、契約の該当箇所が異なるだけであり、転貸による管理という点では同じです。

そのため、日常用語としてはマスターリースとサブリースはほぼ同義として用いられています。

パススルー型マスターリースもパススルー型サブリースと呼ばれることが多いですし、固定型マスターリースも家賃保証型サブリース(または単にサブリース)と呼ばれることが多いです。

用語としてはマスターリースよりもサブリースの方が浸透しており、日常会話としてマスターリースのことをサブリースと呼んでも何ら支障はないといえます。

マスターリース契約と管理委託の違い

マスターリース(サブリース)は転貸による管理方式であるのに対し、管理委託は委託による管理方式である点が違いです。

マスターリースではサブリース業者と賃貸借契約を締結しますが、管理委託では管理会社と委託契約を締結します。

また、マスターリースではサブリース業者が各入居者と賃貸借契約を締結しますが、管理委託では建物所有者が各入居者と賃貸借契約を締結する点も違いです。

マスターリースと管理委託では、概念上のお金の流れも違います。

マスターリースでは、あくまでも家賃という形でサブリース業者からの入金があります。それに対して、管理委託では各入居者からの家賃は貸主が直接受け取り、貸主が管理委託料を管理会社に支払うという流れになります。

ただし、実際には管理委託でもお金の管理は管理会社が行いますので、管理会社はいったん各入居者から家賃を預かり、管理委託料を差し引いた残額を貸主に送金することが一般的です。

管理委託では、建物所有者が各入居者と直接賃貸借契約を締結するため、空室が生じればその分入金が減ります。
管理委託は、建物所有者が空室リスクを直接負っている点が特徴です。

また、管理委託の管理委託料もパススルー型マスターリースの管理委託料相当額も、相場は家賃の5%程度となっています。

つまり、管理委託とパススルー型マスターリースは、空室リスクを直接負う点だけでなく収益性も基本的に同じです。

管理委託とパススルー型マスターリースは、建物所有者が結ぶ契約が委託契約か賃貸借家契約かの違いだけになります。

マスターリースのメリット

マスターリースのメリットは、以下のような点が挙げられます。

【マスターリースのメリット】

  • 契約がサブリース業者との賃貸借契約の1本だけで済む
  • 固定型マスターリースであれば家賃収入が安定する

1つ目は、契約がサブリース業者との賃貸借契約の1本だけで済むという点です。
管理委託であれば、入れ替えの度に新しい入居者と毎回、賃貸借契約を締結する必要があります。
マスターリースであれば各入居者とその都度賃貸借契約を締結する必要がないことから、特に戸数の多い物件では便利です。

2つ目は、固定型マスターリースであれば家賃収入が安定するという点です。
賃貸経営をする上では、一定の安心感を得ることができます。

マスターリースのデメリット

マスターリースのデメリットは、以下のような点が挙げられます。

【マスターリースのデメリット】

  • 固定型マスターリースでも家賃は保証されない
  • 解約しにくい

1つ目は、固定型マスターリースでも家賃は保証されないという点です。
借地借家法では借主から家賃を減額要求することは認められており、マスターリース会社は借主であるため、建物所有者に対して家賃の減額要求ができます。

固定型マスターリースでも空室が多く発生すれば建物所有者に対して家賃の減額要求があり、結局のところ固定型マスターリースでも空室は保証されません。

2つ目は、解約しにくいという点です。
マスターリースは賃貸借契約であることから、借地借家法が適用され、借主であるサブリース業者を簡単には退去(契約解除)させられないことになっています。

売買の場合、マスターリースがあることで買主が購入後にサブリース業者を切り替えにくくなることから、売却しにくくなることもあります。

マスターリース契約における重要事項説明のポイント

マスターリース契約書の重要事項について解説します。

重要事項説明とは

賃貸住宅管理業法では、マスターリース契約は特定賃貸借契約という名称で扱われており、特定賃貸借契約を締結する前はサブリース業者が書面を交付して重要事項を説明しなければならないことになっています。

重要事項説明で説明される内容は、サブリース業者の称号や支払われる家賃、解除に関する事項等です。

重要事項説明でチェックしておきたいポイント

重要事項説明では、契約解除に関する事項や借地借家法に関する事項も説明されます。
契約解除に関しては、サブリース業者から家賃が支払われない場合でもすぐには解除できないことをしっかり確認することがポイントです。

また、借地借家法に関する事項では、固定型マスターリースでも家賃の減額があり得ることも説明されます。
固定型マスターリースを選択している場合には、家賃はどういうときに減額要求があるのかを確認しましょう。

この記事のポイント

マスターリース契約の種類は?

マスターリース契約には「パススルー型マスターリース」と「固定型マスターリース」があります。

パススルー型マスターリースとは、転貸部分の空室状況に応じてサブリース業者から建物所有者に対して支払われる家賃が変動するタイプのマスターリースのことです。

固定型マスターリースとは、転貸部分の空室状況に関わらず、サブリース業者から建物所有者に対して支払われる家賃が固定となるタイプのマスターリースのことです。

詳しくは「マスターリース契約の種類」をご覧ください。

マスターリースのメリットは?

マスターリースのメリットには、契約がサブリース業者との賃貸借契約の1本だけで済む、固定型マスターリースであれば家賃収入が安定するなどがあります。

詳しくは「マスターリースのメリット」をご覧ください。

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