都市部や地方などに拠点を持つ「二地域居住」を促進する「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律(広域的地域活性化基盤整備法)」の改正法が5月15日、参院本会議で可決・成立しました。公布から6ヶ月以内に施行される予定です。
二地域居住については明確な定義はないものの、主な生活拠点とは別に特定の地域に生活拠点を持つ住まい方を指します。別荘を持つことと似ていますが「拠点」となることから、年間を通して1ヶ月以上など、一定の期間を主な生活拠点ではない場所で過ごすことを指すことが多いようです。
コロナ禍を経て注目されている二地域居住ですが、住まいや仕事などが課題になることも多いことから、制度面で一層の促進をするため同法が改正されます。
記事サマリー
広域的地域活性化基盤整備法とは?何が改正されたの?
日本では、人口の減少が始まっています。人口は、すべてのエリアで一律に減っていくものではなく、地方部から減少していきます。人口減少が著しい地域では持続可能な生活環境を維持していくのが難しく、人口の流出に拍車をかけてしまうという悪循環が生まれます。
広域的地域活性化基盤整備法とは、二地域居住を促進し、地方への人の流れを創出・拡大するための法律です。今回、可決・成立した主な改正点は、次の3つです。
二地域居住促進のための「市町村計画制度」の創設
市町村によって、人口流出の状況やそのエリアの魅力、人口流入に足りないものなどは異なります。そのため、改正法では、地域の実情を踏まえた居住環境の整備に向け、市区町村が二地域居住の促進に関する計画(特定居住促進計画)を作成可能としています。
この計画には、基本方針や拠点施設の整備に関する事項を記載し、計画に定められた事業の実施に向け法律上の特例を措置することができます。特例とは、たとえば住居専用地域にコワーキングスペースを開設できるようにすることなどが想定されます。
二地域居住等支援法人の指定制度の創設
国土交通省によれば、コロナ禍以降、若者や子育て世帯を中心に二地域居住へのニーズが高まっているといいます。しかし、現実問題として、人の流れを創出・拡大するには、住む場所や働く場所を整備しなければなりません。加えて、人と人とのつながりの創出も不可欠であることから、国や自治体の支援だけでは限界があります。
こうした課題を受け、改正法では、市町村長が二地域居住促進に関する活動を行うNPO法人や民間企業を「二地域居住等支援法人」として指定することを可能としました。市町村長は、支援法人に対し、空き家や仕事、イベント情報などの関連情報を提供できます。一方、支援法人は市町村長に対し、特定居住促進計画の作成や変更の提案が可能です。
二地域居住促進のための協議会制度の創設
改正法では、以下を構成員とする「二地域居住等促進協議会」の組織を可能としています。
- 都道府県や市区町村
- 地域住民
- 二地域居住等支援法人や不動産会社
- 交通事業者や商工会議所、農協 など
二地域居住は「都道府県や自治体だけ」あるいは「民間企業だけ」では促進できません。促進のための官民連携の協議会の組織は、関係者の連携強化が目的です。
二地域居住の魅力
ますます人口の減少が加速していくと見られる中、すべてのエリアで定住人口を増やすことは不可能です。しかし、二地域居住が促進されれば、各地域の関連人口が増え、地方創生につながります。また、二地域居住する人にとっても次のようなメリットがあります。
ゆとりある暮らしが実現する
都市部は生活利便性が高く、通勤・通学もしやすいというメリットがあります。その一方で、緑が少なく、心からくつろげる環境とは言い難い場所です。
二地域居住により、平日は都市部、週末や長期休暇は地方で過ごすことができれば、日常の利便性は損なわず、ON・OFFのメリハリがつきやすくなり、ゆとりある暮らしが実現します。
多様な暮らし方ができる
コロナ禍を経て、働き方がフレキシブルになった方も少なくないのではないでしょうか。出社にとらわれない働き方ができるようになった今、暮らし方にも多様性をもたせることが可能になりつつあります。
SDGsでも多様性(ダイバーシティ)は重要項目の1つに位置付けられていることから、多様な暮らし方ができる二拠点居住は、これからの住まい方、暮らし方、生き方に合った選択と考えられます。
多くの人・コミュニティと関われる
暮らしの拠点が増えれば、それだけ多くの人と関わることができます。また、地方の企業やコミュニティとの出会いは、暮らしだけでなく、仕事の新たなアイデアや新規事業にもつながる可能性があります。
とくに、生まれ育った街や思い入れのある街では、自分の価値観や暮らしに合う仲間や団体を見つけやすいものです。二地域居住をきっかけに人との関わりが創出され、地域の活性化や魅力向上につながれば、さらにその場所が好きになるという好循環が生まれます。
二地域居住を後押しする補助金などの制度
行政や民間企業による二地域居住を後押しする取り組みや制度は、広域的地域活性化基盤整備法の枠だけにとどまりません。
フラット35はセカンドハウスでも利用可能
全期間固定金利でおなじみのフラット35は、生活拠点としている自宅以外に、週末などに自分が利用するセカンドハウスの購入にも利用できます。セカンドハウスも、融資条件は同じです。
また、フラット35には、地方公共団体による移住支援金の交付とセットでフラット35の借入金利を一定期間引き下げる「移住支援型」というプランも用意されています。移住支援型は、当初5年間の金利が年0.6%引き下げられます。
地方創生移住支援事業
地方公共団体が主体となって行う「地方創生移住支援事業」では、東京23区に在住あるいは通勤する方が東京圏外へ移住し、企業や就業などを行う場合に交付金を支給しています。交付金は、世帯の場合は100万円以内、単身の場合は60万円以内で都道府県が設定しています。
移住先での要件は、次の4つのいずれかです。
- 地域で中小企業等へ就業
- テレワークによる業務継続
- 市区町村ごとの独自要件
- 地方創生企業支援事業を活用
移住先の企業へ就業する方のみならず、テレワーク主体の勤務環境の方も、支援金を得て移住や二地域居住ができます。また、二地域居住に不可欠な「移動」を後押しするため、新幹線乗車券購入支援金などがある自治体も見られます。
空き家・空き地バンク
地域の空き地や空き家の情報を発信する「空き家・空き家バンク」は以前から存在していましたが、自治体ごとに設置されており、情報も見にくいといった課題がありました。しかし、2018年度からは不動産ポータルサイトを運営するLIFULLやアットホームが参入し「全国版空き家・空き地バンク」の本格運用が開始しました。現在は、両社のサイトで自治体や国が管理する全国の空き家や空き地の物件情報を見ることができます。
全国版空き家・空き地バンク 参画自治体数・物件掲載件数 推移
全国版空き家・空き地バンクの運用が開始した当初の参画自治体数は430、掲載物件数は2,000件あまりでしたが、2024年2月時点で自治体数は1,000を超え、1万5,000件弱の物件が掲載されています。
多様化していく暮らしに合わせた住まい選びを
二地域居住の促進は、都市部一極集中や地方の過疎化、空き家問題といった課題を解決する糸口になります。広域的地域活性化基盤整備法の改正により、二地域居住に興味のある方の暮らしの選択肢を増やし、暮らし方が変わったあとの生活の持続可能性を高めることに寄与していくものと考えられます。
今後、二地域居住や移住は、さらに身近なものとなっていくでしょう。一昔前までは「終の住処」として不動産を取得する方が大半を占めていましたが、これからの時代は暮らし方や働き方の変化に合わせ、フレキシブルに場所や住まいを変えていく生き方も増えていくのかもしれません。これに伴い、住まいの選び方にも変化が見られる可能性があります。
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