ざっくり要約!
- 譲渡所得とは一戸建てやマンション、土地といった不動産をはじめとする個人の資産や権利を売却して生じた所得のこと
- 譲渡所得税の節税ポイントは所有期間で、長期譲渡所得なら短期譲渡所得に比べて税率が半分近くになる
不動産を売却し、売却益(譲渡益)が発生した場合、譲渡所得税が課税されます。この記事では、この譲渡所得に関する基本的な知識や譲渡所得税の計算方法について解説します。不動産を売却する前に知っておいて損はありません。ぜひ今回紹介する内容を覚えておきましょう。
記事サマリー
譲渡所得の基礎知識
最初に譲渡所得に関する基礎知識を紹介します。
譲渡所得とは
一戸建てやマンション、土地といった不動産をはじめとする個人の資産や権利を売却して生じた所得を譲渡所得といいます。
譲渡所得は、プラスの場合もマイナスの場合もあり、特に譲渡所得がプラスになった(譲渡益が発生した)場合、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税の内訳は所得税と住民税となっており、売却した不動産の所有期間に応じて「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の2つに区分され、それぞれ税率が異なります。
譲渡所得は、収入金額(売却した不動産の対価として受け取った金額)から取得費(売却した不動産を取得した金額と取得にかかった費用)と譲渡費用(売却にかかった費用)を差し引いて求められます。
さらに、そこから一定の要件を満たした場合は、特別控除を引いて課税譲渡所得となります。ただし、特別控除を引いてマイナスになった場合でも所得金額はゼロとなります。
また、譲渡所得は、給与所得や事業所得など他の所得とは合算できず、分離して計算する分離課税制度が採用されます。
短期譲渡所得・長期譲渡所得とは
譲渡所得は、売却した不動産の所有期間が売却した時点で5年以下の場合は「短期譲渡所得」、5年を超えていた場合は「長期譲渡所得」の2つに区分されます。
ここで注意しておきたいのが、譲渡所得を区分する際の所有期間の考え方です。
譲渡所得の考え方では、譲渡(売却)した年の1月1日の時点で、その不動産を何年所有していたかで判断されます。
そのため、売却した月日に関係なく、売却した年の1月1日時点までの経過年数が所有期間となります。
たとえば、2018年(平成30年)5月31日に取得した不動産を2023年(令和5年)6月1日に売却した場合、取得日からは暦の上では所有して満5年を超えていますが、売却した年(2023年(令和5年))の1月1日時点では5年を超えていないため、短期譲渡所得となってしまいます。
長期譲渡所得となるには、2024年(令和6年)1月1日以降に売却する必要があります。(下図参照)
<所有期間の考え方>
赤字:実際の所有期間 青字:譲渡所得上の所有期間
短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率
短期譲渡所得と長期譲渡所得では、税率が異なり、以下のような税率となっています。
所得区分 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 | |
---|---|---|---|
所有期間 | 5年以下 | 5年超 | |
税率 | 39.63% | 20.315% | |
(内訳) | 所得税 | 30% | 20% |
復興特別所得税 | 0.63%(所得税の2.1%) | 0.315%(所得税の2.1%) | |
住民税 | 9% | 5% |
上記の税率をみると、短期譲渡所得の税率は長期譲渡所得の税率のほぼ倍といっていいほどの差があります。
当然ながら譲渡所得金額が同じなら、支払う税金の額も倍近い金額となります。
譲渡所得税の計算方法
次に譲渡所得税の計算方法について説明します。譲渡所得税を計算するには、まず譲渡所得金額を求め、そこから適用される場合は特別控除を差し引いて課税譲渡所得金額を計算します。求められた課税譲渡所得金額に該当する税率を掛けて税額を求めるという手順になります。
以下、順番にみていきましょう。
譲渡所得の計算
譲渡所得を求める計算式は、以下のようになります。
譲渡所得 = 譲渡収入金額(譲渡価額等) – ( 取得費 + 譲渡費用 )
譲渡収入金額は、物件の売却代金(譲渡価額)と買主から受け取る固定資産税・都市計画税の清算金を合算した額です。
また、取得費は以下の計算式となり、購入したときの物件代金に、仲介手数料や印紙代、土地の測量費や造成費などの購入時の経費を加算した金額から建物の減価償却費相当額を引いた金額となります。
取得費=物件代金+購入にかかった費用-建物の減価償却費相当
建物の減価償却費については、以下の計算式で計算します。
減価償却費 = 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数(※)
(※) 1年未満の端数は、6月以上は1年、6月未満は切り捨てます。
建物の構造によって償却率が異なりますので、詳しくは国税庁などが公表しているものを確認するとよいでしょう。
なお、土地や建物の取得費がわからない場合や実際の取得費が物件の譲渡価額の5%よりも少ないときは、譲渡価額の5%を取得費(概算取得費)とすることができます。
さらに、売却した不動産が一定の要件を満たす場合、特別控除が適用され、譲渡所得から特別控除を差し引くことができ、差し引いたものが課税譲渡所得金額となります。特別控除が適用とならない場合は、そのまま譲渡所得金額が課税譲渡所得金額となります。
課税譲渡所得金額=譲渡所得-特別控除
特別控除については、代表的なものを後述します。
税額の計算
譲渡所得税額の計算は、上記で求めた課税譲渡所得に短期譲渡所得に該当する場合は39.63%、長期譲渡所得に該当する場合は20.315%の税率を掛けて求めます。
例えば、物件の売却代金5,000万円(清算金等含む)、売却にかかった費用350万円、購入時の物件代金3,500万円、購入時の費用250万円、建物の減価償却費500万円で、特別控除が適用にならない場合は、以下のような計算になります。
譲渡所得 = 5,000万円 – (3500万円+250万円―500万円 +350万円)=1,400万円
売却時の所有期間が5年以下で、短期譲渡所得に該当する場合は
譲渡所得税額=1,400万円×39.63%=5,548,200円
一方、所有期間が5年超で、長期譲渡所得に該当する場合は
譲渡所得税額=1,400万円×20.315=2,844,100円
となり、短期譲渡所得に該当するか、長期譲渡所得に該当するかで、納税額が大きく異なります。
・「譲渡所得税」に関する記事はこちら
譲渡所得税とは?不動産売却でかかる税金の計算方法や特例を解説
譲渡所得税の節税方法と注意点
譲渡所得税の節税ポイントは、所有期間です。先の例でもわかるように、長期譲渡所得なら短期譲渡所得に比べて税率が半分近くになります。
売却時期が決まっていない場合やもうすぐ所有期間が5年を超える場合などは、長期譲渡所得に該当するのを待って売却することで、大きく節税することができます。
また、10年を超えて所有していたマイホームを売却し、一定の要件を満たしている場合、軽減税率の特例の対象になり、さらに税率が低くなります。
この特例が適用になった場合、課税譲渡所得の6,000万円以下の部分の税率が14.21%(所得税10% + 復興特別所得税0.21% + 住民税4%)、6,000万円超の部分については20.315%(長期譲渡所得と同じ税率)になります。
特例を受けるための主な適用条件は国税庁の公式ページなどを確認ください。
特別控除
譲渡所得には、一定の要件を満たした場合に適用される特別控除がいくつかあります。その中でも特に適用されやすいものを挙げてご紹介します。
マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
自らの居住用として使用している住宅を売却し、要件に当てはまる場合は、譲渡所得から最大3,000万円までの控除することができます。ただし、要件を満たしていた場合でも売却した翌年の確定申告で申告する必要があります。
また、この特別控除は前述の軽減税率の特例との併用が可能で、10年超住んでいた自宅を売却し、要件を満たしている場合は、特別控除と特例を併せて利用するとより節税になります。
なお、居住用財産を売った場合の3,000万円特別控除を利用した場合は住宅ローン控除が利用できなくなるため、今の自宅を売却し、新たに住宅ローンを利用して新居を購入する住み替えの場合には注意が必要です。
被相続人の居住用財産(空き家)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
一定の要件を満たす被相続人が居住していた住宅を相続し、空き家となった住宅を売却する場合に要件を満たしていれば、最大3,000万円の特別控除を受けることができます。この特別控除も確定申告する必要があるので注意してください。
特別控除にはその他の特別控除がありますので、不動産を売却する前に気になる場合は国税庁の公式ページを確認してみるとよいでしょう。
・「3,000万円控除」に関する記事はこちら
3,000万円控除とは?制度の概要、適用条件や具体的な計算方法も解説!
特別控除以外の特例
譲渡所得に関係して特別控除以外の特例もありますので、簡単にご紹介します。
特定の居住用財産の買換えの特例
特定のマイホーム(居住用財産)を、令和7年12月31日までに売却し、新たなマイホームに買い換えた場合、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができます。ただし、この特例で譲渡益が非課税となる訳ではないので、注意してください。
マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マイホームを令和7年12月31日までに売却し、新たにマイホームを購入した場合に、従前のマイホームの売却による損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たす場合、その譲渡損失をその年の給与所得など他の所得から控除(損益通算)することができます。
さらに、損益通算で控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除することができます。
特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
令和7年12月31日までに住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たす場合、その譲渡損失をその年の給与所得など他の所得から控除(損益通算)することができます。
さらに損益通算で控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年間繰り越して控除することができます。
なお、この特例は新たなマイホームを取得しない(買い換えしない)場合であっても適用することができます。
・「買換え特例」に関する記事はこちら
居住用財産の買換え特例とは?併用できない特例と適用要件をわかりやすく解説
確定申告
不動産を売却した場合、譲渡益が発生しなければ、原則として確定申告は不要です。
ただし、特別控除や各種の特例を受ける場合は、申告が必要です。
特別控除や特例が適用されれば譲渡所得税の支払いが不要になる場合でも、申告しなければ適用になりませんので注意しましょう。
また、譲渡所得がマイナスになる(譲渡損が発生した)場合に適用できる特例があるので、マイナスでも申告が必要なケースもあります。
なお、譲渡益があるのに確定申告をしないままにしておくと、無申告加算税や延滞税といったペナルティを受ける場合があります。
法務局と税務署は連携しており、登記簿の情報は税務署も把握できるようになっていますので、不動産を売却し、譲渡益が発生した場合は申告を怠らないようにしましょう。
・「不動産売却時の確定申告」に関する記事はこちら 不動産売却時に確定申告が必要なケースと確定申告の方法について解説 |
この記事のポイント
- 譲渡所得とは何ですか?
一戸建てやマンション、土地といった不動産をはじめとする個人の資産や権利を売却して生じた所得を譲渡所得といいます。
譲渡所得は、プラスの場合もマイナスの場合もあり、特に譲渡所得がプラスになった(譲渡益が発生した)場合、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税の内訳は所得税と住民税となっており、売却した不動産の所有期間に応じて「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の2つに区分され、それぞれ税率が異なります。
詳しくは「譲渡所得の基礎知識」をご覧ください。
- 譲渡所得税の節税方法と注意点は?
譲渡所得税の節税ポイントは、所有期間です。先の例でもわかるように、長期譲渡所得なら短期譲渡所得に比べて税率が半分近くになります。
売却時期が決まっていない場合やもうすぐ所有期間が5年を超える場合などは、長期譲渡所得に該当するのを待って売却することで、大きく節税することができます。
また、10年を超えて所有していたマイホームを売却し、一定の要件を満たしている場合、軽減税率の特例の対象になり、さらに税率が低くなります。
詳しくは「譲渡所得税の節税方法と注意点」をご覧ください。
税金が心配? 無料税務・法律相談会
不動産に関する税務、不動産取引上の法律問題などについて詳しくお答えいたします。
無料税務・法律相談会