ざっくり要約!
- 不動産の売却益の所得区分は「譲渡所得」であり、他の所得との通算ができない「分離課税」に分類される。
- 不動産の売買に関する特例を適用すれば、課税所得を大きく下げられる。
勤務先から支払われる給料や事業から得た収益、物を売却して得た収入には税金がかかります。不動産を売却して得た利益も例外ではなく、一定のルールに従って税金を納めなければなりません。
税金の計算方法は「分離課税」と「総合課税」に分類され、計算方法が異なります。はたして不動産の売却益は、どのように計算する必要があるのでしょうか。今回は不動産の売却益にかかる税金の計算方法と、税金を抑えるための制度についてご紹介します。
記事サマリー
「分離課税」と「総合課税」の違いとは?
税金の課税方式は「分離課税」と「総合課税」に分類されます。収入の種類ごとに適用される課税方式が決まっており、税率も異なります。
分離課税
分離課税は、所得の種類ごとに定められた税率が適用される課税方式です。10種類に区分される所得のうち、以下のような高額になりやすい所得が分離課税の対象となります。
譲渡所得 | 資産を譲渡した際に得る所得 |
退職所得 | 会社を退職する際に受け取る退職金、または同じような性質を持つ所得 |
山林所得 | 山林から生じた立木を譲渡した際に得る所得 |
配当所得 | 株式などから受け取る配当金、分配金 ※総合課税と選択可能 |
利子所得 | 預貯金などから発生する利子 ※国外から支払われる利子などを除き分離課税に含む |
一時所得 | 生命保険の一時金など、一時的に得た所得 ※一部の保険金は分離課税に含む |
雑所得 | 他の所得に分類されない所得 ※株式等の譲渡や先物取引関連の所得は分離課税に含む |
なお、分離課税は所得の種類によって課税されるタイミングが異なります。配当所得や利子所得は入金時にあらかじめ税額が控除される「源泉分離課税」、その他の所得は確定申告で納税額を確定させる「申告分離課税」に分かれます。
総合課税
総合課税とは、複数種類の所得を合算して税金を算出する課税方式です。以下の所得を全て合算した課税所得に対し、所得額に応じた税率が掛けられます。
事業所得 | 個人が事業を通じて得る所得 ※株式等の譲渡や先物取引関連の所得は分離課税に含む |
不動産所得 | 所有する不動産の貸付けなどから得る所得 |
給与所得 | 被雇用者が会社などから受け取る給与、賞与 |
利子所得 | 預貯金などから発生する |
配当所得 | 株式などから受け取る配当金、分配金 ※総合課税と選択可能 |
利子所得 | 預貯金などから発生する利子 ※国外から支払われる利子などを除き分離課税に含む |
一時所得 | 生命保険の一時金など、一時的に得た所得 ※一部の保険金は分離課税に含む |
雑所得 | 他の所得に分類されない所得 ※株式等の譲渡や先物取引関連の所得は分離課税に含む |
不動産売却で出た譲渡所得税は分離課税
では所有する不動産を売却して得た所得は、総合課税と分離課税のどちらに分類されるのでしょうか。
不動産を売却して得た所得は「譲渡所得」に分類されるため、分離課税の対象となります。名称が似ている不動産所得はあくまで「貸し付けた不動産から得る所得」が対象となりますので、売却して得た所得は不動産所得には含まれません。
なお、譲渡所得は申告分離課税であるため、所得を得た時点では納税は済んでいません。不動産売却による所得を得た際は翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告を行い、納税額を確定させる必要があります。
・「確定申告」に関する記事はこちら 不動産売却時に確定申告が必要なケースと確定申告の方法について解説 |
不動産売却における譲渡所得税の算出方法
「譲渡所得税」とは、土地の譲渡にともない発生する所得税・住民税の通称です。分離課税の対象である譲渡所得は、納税額の計算に総合課税とは異なる計算式が適用されます。
譲渡所得の計算式
譲渡所得は以下の計算式で求められます。
譲渡所得の金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
取得費は、一般的に購入代金を指します。また購入時に必要な手数料や設備費などの費用も含まれます。ただし、使用した資産は減価償却費相当額を控除した金額が取得費として計上されます。
譲渡費用は、対象の資産を売却する際に発生した費用です。不動産を売却する場合、仲介手数料や売主負担の印紙税、土地を売るために必要な建物の解体費用などが対象になります。
税率
譲渡所得税は、条件によって税率が異なります。譲渡所得税の税率を分ける基準は対象の資産の所有期間です。5年を境目に「短期譲渡所得」「長期譲渡所得」に分類されます。
それぞれの譲渡所得に対する税率は以下の通りです。
所有期間 | 所得税 | 住民税 | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30.63%※ | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15.315%※ | 5% |
※所得税額×2.1%の復興特別所得税含む
なお、前述の50万円特別控除は、同年に短期譲渡所得と長期譲渡所得が発生した場合、短期譲渡所得から差し引きます。
・「長期譲渡所得」「短期譲渡所得」に関する記事はこちら 短期譲渡所得・長期譲渡所得の基礎知識!不動産売却で気をつけるべき点も |
不動産売却にかかる譲渡所得税を引き下げられる控除特例
不動産の売却益は高額になりやすいため、譲渡所得税の納税額も大きな金額になりがちです。少しでも多くの金額を手元に残せるよう、次に紹介する控除特例が適用できないか検討してみましょう。
3,000万円特別控除(マイホーム特例)
売却する不動産が居住用財産(マイホーム)であった場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除する「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(マイホーム特例)」を適用できます。
マイホーム特例を適用するための主な条件は以下の通りです。
- 自分が住んでいる家および敷地・借地権を売却する
- 売却した年の前年・前々年に特定の特例の適用を受けていない
- 売却した家および敷地に特定の特例の適用を受けていない
- 災害等によって滅失した家屋に住まなくなってから3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却する
- 親子や夫婦など特別な関係がある人と売買しない
・「マイホーム特例」に関する記事はこちら 3,000万円控除とは?制度の概要、適用条件や具体的な計算方法も解説! |
軽減税率の特例
一定の要件に当てはまる居住用財産を売却する際、譲渡所得6,000万円以下の部分に対して通常の譲渡所得税よりも低い税率を適用できます。
本特例の適用を受けるための主な条件は以下の通りです。
- 日本国内にある自分が住んでいる家屋および敷地を売却する
- 売却する年の1月1日の時点で所有期間が10年を超える
- 売却した年の前年・前々年にこの特例を受けていない
- マイホーム特例ではない特例の適用を受けていない
- 親子や夫婦など特別な関係がある人に売却していない
上記の条件を満たした場合、売却額の6,000万円以下の部分に対して以下の軽減税率が適用されます。
課税長期譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 10.21% | 4% |
6,000万円超の部分 | 15.315% | 5% |
※所得税額×2.1%の復興特別所得税含む
買い換え特例
一定の要件を満たす居住用財産を令和7年中に売却し、代わりのマイホームへ買い替えた場合は、譲渡所得に対する課税を翌年以降へ繰り延べることが認められています。繰延期間は買い替えた新居を譲渡する時までとされています。
ただし、あくまで課税の免除はされないため、新居の売却時には旧居分の税金も上乗せされる点には注意が必要です。
相続空き家の3,000万円特別控除
被相続人がひとりで住んでいた空き家を相続した場合、相続人が空き家を譲渡して得た所得から最大3,000万円の控除が認められています。
対象となる空き家は、以下の条件を満たしたものに限ります。
- 相続まで被相続人が一人で居住していた
- 昭和56年5月31日以前に建築された建物
- 相続から譲渡まで誰も居住していない
なお、対象の空き家を相続した相続人が3人以上である場合は、控除額は2,000万円が上限とされます。
取得費加算の特例
相続により取得した資産を、相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡した場合、相続税額の一部を譲渡資産の取得費に加算することが認められています。
取得費に加算できる額の計算式は以下の通りです。
取得費加算額 = 資産を売却した人の相続税額 × 譲渡した資産の相続税評価額 ÷ 資産を売却した人が相続した財産の総額
例として相続税500万円を納税したAさんが、遺産総額1億円のうち土地(評価額5,000万円)を相続し、即座に売却した場合の取得費加算額は以下の通りです。
500万円 × 5,000万円 ÷ 1億円 = 250万円
Aさんが相続した土地を5,000万円で売却し、同時に引き継いだ取得費が500万円だった場合、課税所得は以下の通りとなります。
5,000万円 - 500万円 - 250万円 =4,250万円
不動産売却で譲渡損失が出た場合に損益通算・繰越控除できる特例
譲渡所得は分離課税の対象であるため、他の所得の損益通算はできません。しかし不動産を売却した際の譲渡損失に限り、損益の通算や繰越を認める特例が用意されています。
買い換えで譲渡損失が生じた場合
居住用財産を令和7年12月31日までに売却し、その後別の物件を購入した際に損失が生じた場合、一定の要件を満たす場合に限り、他の所得との損益通算を認める「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用が認められます。
本特例の適用要件は以下の通りです。
- 自分が住んでいる家屋の譲渡であること
- 日本国内にある家屋であること
- 譲渡する年の1月1日における所有期間が5年を超える家屋の譲渡であること
- 新たに取得した家屋の床面積が50平方メートル以上であること
- 新たに取得した家屋へ、取得した年の翌年12月31日までに入居すること
- 新たに家屋を取得した年の12月31日時点において、償還期間10年以上の住宅ローンがあること
住宅ローンが残っているマイホームを売却した場合
居住用財産を令和7年12月31日までに売却し、売却金額が住宅ローンの残債を下回っている場合、譲渡損失の一部を他の所得と損益通算できる「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」が適用できます。
本特例の適用により認められる控除額は以下の式で算出できます。
売却代金 - 購入代金 = 譲渡利益(損失)
ローン残高 - 売却代金 = 損益通算限度額
譲渡損失の額が損益通算できる上限
例として、以下の条件で居住用財産を売却した場合の通算限度額を算出してみましょう。
購入代金:5,000万円
売却代金:1,500万円
ローン残高:2,000万円
1,500万円(売却代金) - 5,000万円(購入代金) = △3,500万円(譲渡損失)
2,000万円(ローン残高) - 1,500万円(売却代金) = 500万円(損益通算限度額)
3,500万円 > 500万円 →損益通算できる上限は500万円
なお、本特例における譲渡損失の繰越は最大3年間までに限定されています。上記の売却者の所得が300万円の場合、初年度には最大300万円まで控除でき、残りの200万円は翌年に繰り越せます。
ただし、売却者の所得が150万円である場合、3年目まで繰り越したとしても150万円×3年=450万円までしか控除されません。
まとめ
不動産の売却益は「分離課税」の対象である譲渡所得に分類されます。分離課税は課税所得が大きくなりやすいため、総合課税よりも税率が低く設定される傾向があります。とはいえ、売却により得られた利益の額によっては納税額が高額になる場合がある点には注意が必要です。
不動産の売買にはさまざまな特例が設けられており、売買する物件の条件によっては課税額に対して数千万円の控除を適用できます。不動産を売却する際には、自分の物件に適用できる特例がないか、条件を確認しておきましょう。
この記事のポイント
- 不動産を売却した利益は何の所得に分類されますか?
分離課税が適用される譲渡所得に分類されます。
詳しくは「不動産売却で出た譲渡所得税は分離課税」をご覧ください。
- 不動産を売却した利益にかかる税金は何%ですか?
所有期間が5年以下の場合は約20%、5年超の場合は約40%課税されます。
詳しくは「譲渡所得税の算出方法」をご覧ください。
- 不動産売却にかかる税金を安く抑えるには?
3,000万円特別控除など、所得控除や損益通算、繰り越し控除を受けられる各種特例を適用しましょう。
詳しくは「譲渡所得税を引き下げられる控除特例」をご覧ください。
ライターからのワンポイントアドバイス
近年、全国各地で空き家が大きな問題となっています。特に相続をきっかけにして実家が空き家化する問題は社会問題化しており、国税庁は、相続空き家の3,000万円特別控除などの制度を通じて問題解決を図っています。遠方で住む予定のない実家を相続した場合には、各種制度を活用して有利な条件での売却を検討しましょう。
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