ざっくり要約!
- 原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(きそん)を復旧すること
- 現状回復や原状復帰など、似た言葉があるが、それぞれ意味が異なる
- 原状回復にかかる費用は、借主と貸主のどちらが負担するのかがポイントとなる
- 退去時にスムーズに対応するために、原状回復のルールを理解しておくことが重要
賃貸物件に住んでいると、退去時に「原状回復」という言葉をよく耳にします。これは、入居時の状態に戻すための作業を指しますが、実際にどこまで行えばよいのか、誰が費用を負担するのかなど、詳しい内容が分からず不安に感じる方も多いのではないでしょうか。また、「現状回復」や「原状復帰」という似たような言葉もあり、それぞれの違いも気になるところです。
この記事では、原状回復の基本的な定義から、現状回復・原状復帰との違い、さらには賃貸アパートやマンションでの回復にかかる具体的な費用について詳しく解説します。物件を貸出し中の方や、将来物件を貸す予定の方にとって、ぜひ知っておきたい重要な情報をお届けしていきます。
記事サマリー
原状回復とは
原状回復とはそもそも何?
原状回復とは、アパートやマンションなど賃貸住宅の契約が終了し、借主が退去する際に、部屋を「入居時の状態」に戻すことをいいます。ただし、賃貸借契約で定められた使用方法の範囲内で生活をしていても、壁紙や床などは経年劣化してしまうので、それらも含めて全てが借主負担になるというわけではありません。
また、入居時に支払う敷金がありますが、これらは万が一、借主が部屋を汚したり損傷させたりした場合、その修繕費用に充てるために貸主が事前に預かっているお金です。敷金は、家賃の滞納リスクにも対応できるため、貸主にとっても安心材料となっています。
国土交通省ガイドラインから見る原状回復の定義
賃貸住宅で生活していると、日常的な使用によって自然に生じる汚れや傷、色あせなどがあります。こういった現象については、どこまでが借主の責任で修繕すべきかが曖昧だったため、過去には敷金返還をめぐるトラブルが少なくありませんでした。
そこで、国土交通省は1998年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定しました。このガイドラインでは、原状回復について「賃借人の故意・過失、または通常の使用を超えるような使い方による損傷や破損を修復すること」と定義しています。これにより、通常の生活の中で自然に生じる損耗や経年変化は、原則として借主の責任ではないとされています。
簡単に言えば、「普通に住んでいてできた汚れや損傷は借主が負担する必要はない」という考え方がガイドラインによって明確にされたのです。
2020年4月1日に原状回復にまつわる民法改正
2020年4月1日に施行された民法改正により、原状回復に関するルールがさらに明文化されました。これまで国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、通常損耗や経年変化は原状回復の対象外とされてきましたが、これらは民法上で明確には規定されていませんでした。
しかし、2020年の民法改正により、賃借人の責任によらない通常損耗や経年変化については、借主が原状回復義務を負わないことが明記されました。具体的には、改正民法621条において、「通常の使用及び経年変化によって生じた損耗は借主が修復する必要はない」とされています。これにより、借主の落ち度がない部分については、原状回復義務を負わないことが明確に定められたのです。
【改正民法621条】(賃借人の原状回復義務) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用および経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了した際には、その損傷を原状に復する義務を負います。ただし、その損傷が賃借人の責任でない場合は、この限りではありません。
ただし、契約の内容や修復箇所によっては、例外となるケースもあります。修繕が必要な箇所については、不動産会社や大家さんと十分にコミュニケーションをとり、双方で認識を一致させておくことが重要です。
・「原状回復ガイドライン」に関する記事はこちら
原状回復ガイドラインとは?耐用年数との違いや費用を解説
現状回復とは?原状回復との違い
「原状回復」と「現状回復」は、一見似たような言葉ですが、意味が異なります。
まず、「原状回復」とは、賃貸借契約において、借主が退去する際に部屋を入居時の状態、つまり「元の状態」に戻すことを指します。これは、賃貸物件の契約上、非常に重要な概念であり、通常の使用によって生じた経年劣化を除き、借主の故意や過失による損傷や汚れを修繕して、部屋を元通りにするという義務を意味します。
一方、「現状回復」とは、現在の状態を回復するという意味になります。つまり、現在の状況に戻すという意味合いになってしまうため、賃貸借契約の文脈では適切ではありません。賃貸物件の場合に使うべき言葉は「原状回復」であり、「現状回復」と混同して使うのは誤りです。
よくある誤解として、「原状回復」と表記すべきところを「現状回復」と誤って書いてしまうケースが見受けられますが、正しくは「原状回復」が正しい用語です。契約時には、正確な用語を使うことが重要ですので、混同しないように注意しましょう。
原状復帰とは?原状回復との違い
「原状回復」と「原状復帰」は、基本的には同じ意味合いを持つ言葉ですが、使用される場面やニュアンスに若干の違いがあります。
まず、「原状回復」は、賃貸借契約書や法律で使用される一般的な用語で、賃借人が退去する際に部屋を「元の状態」に戻す義務を意味します。これは、特に住宅やアパート・マンションなどの賃貸物件において、入居時と同じ状態に戻すことを目的として使われる言葉です。たとえば、故意や過失による損傷部分を修繕し、通常の使用による経年劣化を除いた部分を修復して、入居時の状態に戻すことが求められます。
一方、「原状復帰」は、建設業界や建設業に携わる人々の間で使われることが多い言葉です。原状回復と同様に「元の状態に戻す」ことを意味しますが、特に「元の状態に戻すための行為や工事そのもの」を指す場合が多いです。
たとえば、オフィスや店舗として使用されていた物件では、入居者が設置したカウンターや仕切りなどの設備を撤去するなど、大規模な工事が必要になることがあります。このような一連の工事を「原状復帰工事」と呼びます。
個人が居住する賃貸住宅の場合、通常の原状回復は壁紙の張り替えやクリーニング程度で済むことが多いですが、オフィスや店舗の原状復帰工事は、デスクやドアの解体、内装の大幅な修繕、設備の撤去などが含まれ、より大掛かりな作業となることがあります。
このように、原状回復は法律や契約書でよく使われる言葉である一方、原状復帰は工事や実際の作業に焦点を当てた表現として、業界によって使い分けられているのです。
なお、「原状復帰」と誤用されることの多い「現状復帰」は、「もとのままの状態に戻ること」という意味を指すことになり、成立しないものとなってしまいますので注意が必要です。
貸主・借主の原状回復を負担する範囲
経過年数による減価償却や負担割合の考え方
賃借人が故意や過失で建物を損傷し、その修繕費用を負担する場合でも、建物の経年劣化や通常の使用による損耗分は、賃料の中に含まれています。
もし賃借人が引き渡し時にこの経年劣化や通常損耗分まで負担しなければならないと、同じ部分を二重に支払うことになってしまいます。
そのため、修繕費の負担を決める際には、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が長いほど賃借人の負担割合を減らすのが適切です。
経過年数による負担割合の減少については、本来は個々のケースで判断するべきですが、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)では目安として法人税法などで使用される減価償却の考え方を取り入れています。
具体的には、設備ごとに法定耐用年数が定められ、それをもとに経年で価値が減少する直線を描いて賃借人の負担額を決定するという方法です。実務では、建物の経過年数ではなく、賃借人が住んでいた期間(居住年数)を基準にして負担を計算することが一般的です。
貸主が原状回復を負担する範囲
貸主が負担する原状回復の範囲は、物件の経年劣化や通常の使用によって生じる損耗です。これらは、どの入居者にも起こりうる自然な変化や、避けられない損傷に該当します。具体的には以下のようなものが貸主の負担となります。
重い家具や家電による床のへこみ
大きな家具を設置していた場所にできるへこみは、一般的に通常損耗とみなされ、貸主の負担になります。
畳や壁紙(クロス)の変色
長期間住んでいれば、日光による畳やクロスの色あせが発生することがあります。これも経年劣化と判断され、借主の責任ではありません。
自然災害による破損
地震や台風などの自然災害で物件が損傷した場合は、借主の過失ではないため、貸主が修繕を負担します。
画鋲やピンの穴
一般的な生活の範囲内での画鋲の使用による小さな穴は、通常損耗とされることが多く、貸主が修復を行います。
借主が原状回復を負担する範囲
一方で、借主の過失や故意による損傷や汚れは、借主が責任を持って原状回復を行わなければなりません。これには、手入れ不足や誤って引き起こした損傷などが含まれます。以下の例が該当します。
カビや水あか
手入れを怠った結果発生したカビや水あかは、借主の責任です。特に浴室やキッチンの水回りは、定期的な掃除が必要です。
飲み物や食べ物によるシミ
飲み物をこぼしたり、食べ物を落としたりしてできたシミは、借主の過失によるものとして、修復の義務があります。
ものを落としたことによる傷や破損
家具や物を落として床や壁にできた傷や破損も、借主が修復費用を負担しなければなりません。
たばこのヤニ汚れ
喫煙による壁や天井のヤニ汚れも、借主の過失とされます。この場合、壁紙の張り替えなどが必要になることが多いです。
ペットによるひっかき傷
ペットを飼っている場合、壁や床にひっかき傷ができることがありますが、これも借主が修復を行うべき範囲です。
鍵の紛失・破損
鍵を紛失したり、破損したりした場合も、借主が交換や修理の費用を負担する必要があります。
賃借人が原状回復の負担費用をなるべく減らすためのポイント
入居時の写真を事前に撮っておく
入居時にすでに存在する汚れや傷は、退去時に自分がつけたものではないと証明するために、早めに写真を撮って記録を残しておくことが重要です。できれば、入居してから数日以内に、部屋の各所を撮影して貸主に提出しましょう。これにより、貸主側にも物件の状態を把握してもらえ、後々のトラブル防止につながります。
また、多くの賃貸物件では「入居時チェックリスト」という、入居時点での状態を記録する書類が用意されています。どこにどのような汚れや傷があるかを詳細に記録しておくことで、退去時の原状回復における負担を軽減することができます。
賃貸物件では暮らし方に気をつける
原状回復の負担を減らすためには、日々の生活でも注意が必要です。不注意によって発生した汚れや傷は、借主の責任で修繕費用を負担しなければならないことが多くあります。汚れや傷が付いた場合は放置せず、早めに対応することが大切です。
特に水回りのカビや水あかは、放置すると落ちにくくなるため、定期的に掃除をして清潔に保つことが推奨されます。また、エアコンの定期的な手入れも重要です。エアコンが故障すると、修理費用を借主が負担するケースがあるため、こまめに手入れをして故障を防ぎましょう。
さらに、賃貸物件では喫煙に関する制限が設けられていることが多く、契約上で禁止されている場合がほとんどです。隠れて喫煙しても、たばこの臭いやヤニによる壁の黄ばみが残り、退去時にクロスの張り替えやエアコン、換気扇の清掃などの費用が発生することがあります。これらは契約違反として、原則は修繕費用を借主が負担することになります。
また、ベランダでの喫煙も、近隣住民に迷惑をかけてトラブルにつながる恐れがあるため、賃貸物件では喫煙しないほうが賢明です。
契約内容を事前に確認しておく
2020年4月に借主の原状回復義務に関する民法改正が行われ、原状回復に関する新たな規定が追加されました。改正民法第621条には、借主が物件に通常の使用や経年劣化によって生じた損耗に対して原状回復義務を負わないことが明記されています。これにより、一般的な居住による損耗や劣化については、借主の負担ではなくなりました。
ただし、賃貸借契約には、借主と貸主の合意に基づく特約が設けられていることがあり、この点には注意が必要です。例えば、「ハウスクリーニング費用を借主が負担する」という特約が契約書に記載されていることがあります。入居後に特約の存在を知って驚くことがないよう、契約時には特約の有無を含め、契約書の内容をしっかりと確認しておくことが重要です。
原状回復の費用はどこから賄う?
原状回復の費用は、通常、入居時に借主が支払った敷金から賄われます。敷金は、賃貸物件を退去する際の損耗や汚損の修繕費として、あらかじめ貸主に預けているお金です。原状回復に必要な工事の費用が敷金の範囲内で収まった場合、その差額は借主に返還されます。
しかし、敷金が全額消費されたり、そもそも敷金が設定されていない「敷金ゼロ物件」の場合は、追加で修繕費を支払う必要があります。たとえば、借主の過失で生じた損傷が大きい場合など、敷金だけでは修繕費が賄いきれないケースも考えられます。こうした場合、敷金を超えた部分については借主が直接費用を負担しなければなりません。したがって、退去時に追加の出費が発生しないよう、日常的に物件の手入れを心がけることが大切です。
原状回復の費用相場
原状回復の費用相場は、修繕が必要な箇所やその範囲によって大きく変わります。たとえば、水回りのカビや水垢の除去には5,000円~2万円程度かかることが一般的です。また、キッチン周りの油汚れの場合、1万5,000円~3万円程度が目安となります。これらの費用は汚れの広がり具合や除去の難易度によって変動します。
他にも、たばこの煙による天井や壁の汚れの場合、1㎡あたり800円~1,500円が相場とされています。これは、面積が大きければその分コストも増えるため、広範囲にわたる汚れや損傷はより多くの費用がかかることになります。原状回復費用は、修繕箇所やその範囲に応じて異なるため、あらかじめ見積もりを確認することが重要です
原状回復の費用負担割合の計算方法
原状回復費用を計算する際には、借主がどれだけの期間その物件に住んでいたか、つまり居住年数と、物件内の各設備や材料の耐用年数を考慮して残存価値を算出する必要があります。この残存価値を基に、借主が負担すべき原状回復費用を決定します。
具体的には、以下の計算式を使って求められます。
原状回復費用=費用原状回復の総額×残存価値割合
残存価値割合の計算は、次のようになります。
残存価値割合=1-(居住年数÷原状回復が必要な箇所の耐用年数)
この耐用年数は、設備や材料ごとに異なります。たとえば、流し台や壁紙のように後から交換できる部分には、法律で定められた耐用年数が適用されます。フローリングや柱など、建物に固定されているものについては建物自体の耐用年数に従います。畳表やふすま紙などの消耗品は、基本的に退去時に全交換するものとして計算されます。
このようにして、原状回復費用の負担は、借主の居住年数や各設備の劣化状況に応じて公平に計算されることが求められます。
民間住宅と店舗・オフィス物件の原状回復の違い
民間住宅の賃貸契約と、法人が借りる店舗やオフィス物件の賃貸契約では、原状回復の対象や範囲に大きな違いがあります。特に重要なのは、「経年変化や通常消耗を考慮するかどうか」という点です。経年変化とは、時間の経過によって避けられない老朽化や劣化のことを指し、通常消耗は、日常生活の中で自然に発生する使用による損傷や痛みを指します。
民間住宅の原状回復の範囲
個人が借りる賃貸住宅の場合、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が基本的な指針となります。このガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住や使用により発生した建物の価値の減少のうち、故意や過失、注意義務の怠り、または通常の使用を超える損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。つまり、故意や過失による損傷は借主が負担するものの、経年劣化や通常の使用による消耗については借主の負担ではないとされています。
具体的には、経年劣化や通常使用による損耗についての修繕費用は、賃料に含まれているため、借主が負担する必要はないというのがガイドラインの考え方です。これにより、賃貸物件における原状回復は、入居当初の完全な状態に戻す必要がないことが明確化されています。時間の経過に伴う自然な劣化は、賃貸借契約の一部として許容され、入居者が修繕費を負担しなくても良いとされています。
店舗・オフィス物件の原状回復の範囲
一方で、法人が借りる店舗やオフィス物件では、原状回復の基準は異なります。法人向けの賃貸契約では、基本的に「入居時の状態に戻すこと」が求められます。これは、入居時に取り交わした契約書の内容に従い、契約当初の状態に復旧させるという意味です。経年劣化や通常消耗を考慮することなく、物件を入居時と同じ状態に戻す必要があるのが、法人契約の特徴です。
このため、法人が借りるオフィスや店舗では、賃借人が原状回復に関するすべての責任を持ち、退去時には改装や内装の解体、設備の撤去などの作業が必要になることが多いです。特に、オフィスや店舗では、内装や設備の変更が行われることが多いため、退去時の原状回復作業は個人住宅に比べて大規模になることが一般的です。
また、原状回復の範囲は、契約書に明確に記載されているため、法人が物件を借りる際には、契約書を事前によく確認して、どこまでが原状回復の対象となるのかを把握しておくことが重要です。各物件で原状回復の範囲は異なるため、契約内容に基づいてしっかりと準備を進める必要があります。
原状回復工事にありがちなトラブル事例
見積もりが高いのか適正なのかわからない
原状回復工事の見積もりが妥当かどうかを判断するには、一定の経験や知識が必要です。特に、工事はA工事、B工事、C工事と呼ばれる区分に分けられており、それぞれの工事が正しく区分されているかどうかが重要です。
たとえば、必要のない工事がB工事やC工事に割り振られてしまうと、テナント側に不必要な費用負担が発生する可能性があります。そのため、工事内容と見積もりが契約内容に沿っているか、工事区分が適正であるかを確認することが非常に大切です。
見積もりが想像していた以上に高額だった
B工事と呼ばれる工事は、オーナーが指定した施工会社によって行われ、費用はテナントが負担するものです。この場合、工事費用が思った以上に高額になることがよくあります。
B工事が高額になる理由としては、主に以下の3つが挙げられます。
競争原理が働かない
オーナーが指定する施工会社により、他の業者と価格競争が行われないため、価格が高止まりしやすい傾向があります。
指定業者が交渉に応じない
オーナーの指定によって施工業者が選定されるため、テナントからの費用交渉に応じることが少なく、工事費がそのまま高くなります。
中間マージンが発生している
元請け業者や下請け業者を経由することで、中間マージンが上乗せされ、工事費が膨らむケースも多々あります。
見積もりが発注期日の直前に出てきた
一部の工事会社では、発注者が見積内容を十分に確認する時間を与えないために、見積提出を遅らせることがあります。この戦略は、発注者が見積もりの精査や比較を行う時間を奪うことで、工事会社に有利な条件で契約を進めるためのものです。
また、必要な図面や詳細資料が揃わないまま見積が出されることもあります。これでは、見積内容が妥当かどうかの判断ができず、不利な条件で工事が進められてしまう可能性があります。
原状回復工事のトラブルを防ぐポイント
工事内容や工事区分をチェックして適正なものに調整する
原状回復工事を行う際には、まず賃貸借契約書や特約事項、図面、見積書などを細かく確認し、工事範囲や指定された施工業者の有無、解約予告期間をしっかり把握することが重要です。
特に、A工事、B工事、C工事といった区分は、工事区分表で確認できるため、費用負担がどの工事に該当するのかを把握しておく必要があります。B工事はテナント側が費用を負担するため、できる限り範囲を小さくし、コストを抑えるのが理想です。
もし工事が建物全体に関わるような内容であれば、オーナーが負担するA工事に該当する可能性がありますし、テナント側で施工会社を選べるC工事に変更することも考慮できます。契約書や見積書の内容を正確に読み解き、工事区分を適正に調整することが、無駄な費用を抑えるためのカギです。
適切なスケジュールを設定して運用を実施する
工事をスムーズに進めるためには、スケジュールをしっかり立てることが必要です。物件の明け渡し期日から逆算して、工事発注の期日、見積もりの精査期間、実際の工事期間を考慮しながらスケジュールを作成しましょう。スケジュールを立てる際には、何をいつまでに終わらせなければならないかというタスクを正確に把握することも欠かせません。
通常、解約の通知は6ヶ月前に行うことが一般的です。オフィスの移転を伴う場合、この6ヶ月の間に原状回復工事や移転先の内装工事の手配、各工事の見積もり取得、施工会社の選定、交渉など、さまざまな準備を進める必要があります。しっかりとスケジュールを組むことで、余裕をもって適切なコストで工事を完了させることが可能になります。
見識を持っている第三者に相談を行う
原状回復工事を適切に進めるためには、契約の内容や商流、ステークホルダー間の利害関係を把握することが非常に重要です。また、オーナーや施設管理者と工事費用に関する交渉を行う際には、業界特有の用語や商慣習が壁となることもあります。そのため、工事経験の浅い発注者が自力で進めるのは難しく感じるかもしれません。
こうした場合には、専門的な知識を持つ第三者に相談するのが有効です。原状回復工事の経験が豊富な専門家に依頼すれば、交渉や工事内容の確認、調整をスムーズに進めることができるでしょう。専門家を頼ることで、トラブルを未然に防ぎ、工事を適切に完了させるためのサポートが受けられます。
まとめ
貸主となるオーナーにとって、原状回復の理解は、物件の適切な維持管理やトラブル回避に非常に重要です。賃貸借契約に基づいて、借主が負担するべき損耗や故意過失による損傷と、経年劣化や通常消耗の修繕費用を明確に区別することが求められます。
国土交通省のガイドラインや民法の改正によって、オーナーと借主双方の責任範囲が整理されているため、契約書や特約にしっかりとその内容を反映させることが大切となります。
物件の価値を保ちながら、円滑な賃貸運営を行うためには、入居時・退去時の状態を記録し、借主とのコミュニケーションを密に取ることが重要です。原状回復の正しい理解が、物件の長期的な保全と賃貸運営の成功につながるでしょう。
この記事のポイント
- 現状回復と原状回復の違いを知りたい。
「現状回復」とは、現在の状態を回復するという意味になります。一方、「原状回復」とは、賃貸借契約において、借主が退去する際に部屋を入居時の状態、つまり「元の状態」に戻すことを指します。
詳しくは「現状回復とは?原状回復との違い」をご覧ください。
- 原状復帰は、原状回復とは違いがある?
「原状復帰」は、建設業界や建設業に携わる人々の間で使われることが多い言葉です。原状回復と同様に「元の状態に戻す」ことを意味しますが、特に「元の状態に戻すための行為や工事そのもの」を指す場合が多いです。
詳しくは「原状復帰とは?原状回復との違い」をご覧ください。
ライターからのワンポイントアドバイス
原状回復におけるトラブルを防ぐためには、賃貸契約時に原状回復の範囲や費用負担のルールを明確にしておくことが大切です。契約書に細かく記載するだけでなく、入居時や退去時には物件の状態を写真や記録として残し、借主と共有しておくと良いでしょう。特に、経年劣化や通常消耗に関しては借主が負担しない部分を明確にしておくことで、不要なトラブルを避け、スムーズな物件管理が可能になります。しっかりとした準備とコミュニケーションで、安心した賃貸運営を目指しましょう。
いくらで貸せるの?無料賃料査定
「貸す」も「売る」も相談できる!
賃貸管理プランが充実の東急リバブルにご相談ください。
東急リバブルの賃料査定はこちら
物件探しや売却がもっと便利に。
無料登録で最新物件情報をお届けいたします。
Myリバブルのサービス詳細はこちら