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「じつは、新築よりもリノベーションのほうが面白い」
建築デザイナー・井手しのぶさんインタビュー後編

「家を買う」「家を建てる」というのは、人生の大きな節目。ところが、建築デザイナーの井手しのぶさんは、自宅を7度も住み替えています。そのうちの一軒は、中古住宅のリノベーション。「リノベのほうが新築よりも安いし、じつは変化も面白い」と、語ります。インタビュー後編では、こだわりを実現するリノベのコツや、井手さん宅のリノベについて伺いました。

井手しのぶさんプロフィール
●1961年生まれ。湘南エリアを中心にこだわりの家づくりをする「パパスホーム」代表として長く活躍し、現在はフリーの建築デザイナー。
<SNS情報>
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リノベなら、新築よりもリーズナブルにこだわりの内外装が楽しめる。

自宅を7度も住み替えた建築デザイナーの井手しのぶさん。そのうちの一軒は、中古住宅をリノベーションしている。

「中古物件をリノベするメリットは、やっぱりリーズナブルなこと。新築は基礎工事や建築確認申請だけでも100万円以上かかってしまうから、内装をすべてやり直すとしても、リノベのほうが予算をぐっと抑えられます。いまは資材の価格が高騰しているので、とくにおすすめですね。ゼロから新築するのに比べると融通が利かないと思うかもしれませんが、うまくやれば、リノベでも空間は劇的に変わりますよ」

では、手ごろな物件を見つけたあと、理想どおりの家にリノベするためにはどんなことに気を付ければいいのだろうか? 井手さんは「どうやって暮らしたいかをイメージすること」だと答える。

「自分に合った住まいをつくるには、自分の理想を知ることです。家族構成や働き方、ライフスタイルも踏まえたうえで、家の譲れないポイントを洗い出してみてください。そこから予算に合わせて、間取りや内装を考えていきます。5年後10年後、暮らしがどう変わるかを想像してみるのもいいですね。『できれば近い未来、子どもが複数ほしい』といった計画がある場合には、それに合わせて準備ができます」

大人だけで暮らすときには、大きな吹き抜けで気持ちのいい家に。ただし、いつか子どもが生まれたら吹き抜けに床が貼れるよう、拡張性のあるつくりにしておく……といった具合だ。

リノベは一度で終わらせなくていい。信頼できる設計士とともに、少しずつ家を改良していく。

ただし、いろんな理想を思い描いても、自分だけで実現していくのは難しい。そこでぜひ探しておきたいのが、信頼できる設計士や工務店だという。

「ウマの合う設計士や工務店なら、理想を聞いて、一緒にプランを考えてくれます。もしも周りに相性の合う相手がいなければ、住宅情報誌やSNSで自分の好きなテイストの物件を手掛けている人を見つけて、直接声をかけたっていい。それくらい、設計士や工務店は大切です」

また、リノベーション工事を一度で終わらせようと思う必要はない。数年ごとに家の状況を相談しながら、少しずつ手を入れていくのが井手さんのおすすめだ。

「やっぱり、一年くらい住んでみないとわからない部分がたくさんあるんですよね。私が実際にリノベした自宅が、そうでした。前の道路に咲いている桜が気に入って、築40年の古民家を買ったんですね。スケルトン状態から床を貼り、壁や柱を白く塗って素敵にリノベしたんだけど、初めての夏を迎えたら予想以上に暑くて……初めての冬も、予想以上に寒くて(笑)。あわてて遮熱塗料を塗ったり、断熱材を入れたりして対応しました。最初の工事のときから、一年を通してどんな不具合が出てきそうか聞いておくと、資金計画も立てやすいと思います」

自分らしいメリハリをつけて、リノベを楽しんで。

井手さんに新築とリノベの違いを聞いてみると「じつは、新築よりもリノベのほうが面白い」と、きっぱり。建築デザイナーとして活躍し、さまざまな物件を手がけてきたからこそ見えてきた醍醐味だ。

「いい物件にめぐりあうのが大変なんだけど、出会ってしまえばこっちのもの。最初の状態から、工事次第で大きく生まれ変わるのが楽しいんですよね。それに、リノベなら費用や工期にもメリハリがつけられます。『いまは庭のウッドデッキだけこだわって、壁の張り替えは数年後に』なんて、中期的な計画を立てるのも楽しいものです」

築6年になった井手さんのご自宅も、つねにプチリノベを続けている。取材時には、庭先に電動ドライバーと木材が並んでおり、自分でウッドデッキを作り足している途中だった。

「今年は、庭に息子が住む離れを建てました。夕食は一緒に食べることも多いけれど、そのほかの生活は別。こちら側に面する窓はつくらなかったので、日ごろは彼の気配もあまり感じません。庭は狭くなったけれど、外壁に奮発してスギ材を貼ったから、意外といい感じなんですよね。それに、もしこれから暮らしていくなかでやっぱり近くにいるのがいやだなとなったら、庭を分割してどちらかを売却することだってできちゃう。そのためにも適宜手を入れながら、きれいに住んでいくつもりです」

そう、いたずらっぽく笑う井手さん。気に入った家を一からつくりあげるのも、いまの住まいを少し変えたり整えたりするのも、リノベの得意技だ。井手さんの心地よい暮らしの隣には、いつもリノベの存在がある。

(写真:飯本貴子/取材・文:菅原さくら)

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