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「自宅は一度買って終わり、じゃない」7軒も自宅を住み替えた建築デザイナーに聞く、いい住まいづくりのコツ

「家を買う」「家を建てる」というのは、人生の大きな節目。でも、自宅を7度も住み替えた建築デザイナーの井手しのぶさんは「重く考えすぎないで。暮らしが変わったら、いつだって買換えればいい」と語ります。前後編の前編では、心地よく住まうための家づくりや住み替えのコツ、いまのご自宅のこだわりについて伺いました。

井手しのぶさんプロフィール
●1961年生まれ。湘南エリアを中心にこだわりの家づくりをする「パパスホーム」代表として長く活躍し、現在はフリーの建築デザイナー。
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住みたい家は「そのときの暮らし」に合わせて考えればいい。

建築デザイナー・井手しのぶさんのご自宅は、鎌倉の小高い丘の上にある。太陽のふりそそぐ庭の向こう、青い回転扉のそばで、井手さんがにこにこと出迎えてくれた。

この家は、井手さんの7軒目の住まいだという。
「暮らしによって、住まいに必要なものって変わるんですよね。たとえば、子育て中なら環境のよさが大切かもしれないし、仕事が忙しい人なら交通の便は外せません。私もそのときどきの年齢や家族構成、働き方などのライフスタイルに合わせて、ベストな家をつくってきたつもり。いまの家は、これまでよりもコンパクトな暮らしを思い描きながら、終の棲家にするつもりで建てました」

子どもが小さなころは安全に通学できるように、学校の近く。初めてゼロから自宅を手がけたときには、無垢材の床や漆喰の壁など、自分の趣味を詰め込んだ。離婚をし、子育てが落ち着いたあとには、念願だった海辺の家も経験している。「でもね、海の近くって手入れが大変なのよ。毎日のように壁や窓を洗わないと、塩害ですぐにサビちゃうの」と笑う。

「ライフスタイルだけでなく、自分が暮らしのなかで『何を優先したいか』をリストアップするのも大切ですね。でも『人生で一番優先したいこと』を考えるのは難しいから、『いま一番優先したいこと』を考えればいい。暮らしも価値観も、時が経てば変わるものです。条件が変わったら、自宅についても都度考え直せばいいんですよ」

「一度買ったら一生住み続けなきゃ」なんて、思い込み。きれいに住んで売ればいい。

井手さんは取材中に何度も「家は一度買ったら終わりじゃない」「暮らしが変わったら売ればいい」と繰り返した。家は一生に一度の大きな買いもの、という固定概念をくつがえす台詞だ。

「ローンを組むから大ごとに感じられるかもしれないけれど、家を買うのって、大根を買うのと同じようなものですよ。あんまり重く考えすぎなくていいんです。どれだけこだわって自宅を建てても、一度ですべてに満足できる家が出来上がることってなかなかありません。でも、一生我慢しながらそこに住み続ける必要だってない。気に入らないところは自分で直したり、まめに手入れをしたりしながら住んでおきましょう。そうすれば、またいい家が見つかったとき、ちゃんと売却もできるはずです」

事実、井手さんのこれまでの家は、市場に出してから2週間~1ヶ月ほどですべて売れてきたという。ちゃんと売れる家を保つコツは、できるだけきれいに住む。どこかが壊れたらちゃんと修理する……といった、ごく当たり前のことだ。

「誰かに『ほしいな』と思ってもらわないと売れないから、やっぱり見た目は大事。私は、家具付きで譲ってしまうことも多いですね。それに、庭の草むしりや外壁のカビ対策、門扉の鉄がさびたら色を塗るとか、こまごまとしたメンテナンスはきちんとやること。いちいち業者さんに頼まなくても、いまはYouTubeでやり方を調べられるから、自分で簡単にできることも多いですよ」

いまの私には「住むところ」が一番大事。毎日ここで過ごすからこそ、心地よく。

井手さんにとって自宅はいま、何よりも大切な空間だ。
「若いころは着るものや食べるものにももっと興味があったけれど、いまは住むところが一番大事なんです。だって、毎日ここで過ごしているわけだから。そうすると、このスペースをいかに心地よくするかが、とっても大切なんですね。そこにこだわり尽くした結果、いまは家にいるのが一番。大好きな温泉に行っても、帰ってきたら『うちが一番いいな』って思います。庭に温泉が出たら最高なんだけどね」

そんな住まいづくりのために、井手さんは3つのポイントにこだわった。1つ目は、隣近所からほどよい距離がとれる、奥まった土地。2つ目は暮らしやすさに直結する、家そのもののつくりだ。

「昔ながらの平屋で、床は手軽に掃除しやすいモルタルにしました。大きな窓を開けていると外からほこりも入ってくるし、自由に出入りするペットたちの足あとで、どうしても床は汚れがちになるんですね。だけど、さっとモップをかければいいだけだから、ストレスはありません。それから、玄関入ってすぐのキッチンは、土間から靴を脱がずに行き来できるように、住んで4年目にリフォームして使っています。洗濯機から物干しへの動線もスムーズ。最小限の動きで、いろんな家事ができるようにしてあるんです」

3つ目は、庭。ウッドデッキでくつろいだり、マイペースに果物を育てたり、緑に親しんで過ごす時間が楽しい。

「私は庭いじりが好きなんだってことは、じつはこの家に来てから気づいたんです。いままでの家に住んでいたときは、忙しくてそんなことをしている暇がなかったから……」

7度も住み替えた井手さんでさえ、自分の心地よい暮らしの条件を、新たに知ることがある。自分や暮らしが変わっていくのは当たり前なのに、同じ家に住み続けることのほうが、不自然なのかもしれない。窓の外では、実をつけはじめたばかりのレモンやいちじくが風に揺れていた。

――井手しのぶさんインタビュー後編はこちら、中古物件のリノベーションについて伺っています。

(写真:飯本貴子/取材・文:菅原さくら)

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