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累計250万部「珈琲店タレーランの事件簿」の作家・岡崎琢磨さんに聞いた「インスピレーションが湧く暮らし」

憧れのライフスタイルを送る話題の人に、暮らしと住まいのこだわりをお聞きする本企画。今回登場いただくのは、累計発行部数250万部突破の人気小説「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズの作者であり、今年で作家活動10周年を迎えた小説家の岡崎琢磨さん。フリーランスの専業作家として10年間活動してきた岡崎さんに、暮らしや住まいが作品づくりに与える影響や、心身のバランスを整えるためのライフスタイルについてお話をうかがいました。

岡崎琢磨さんプロフィール
1986年、福岡県生まれ。京都大学法学部卒業。第10回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉として、『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(宝島社文庫)で2012年デビュー。 同書は、第1回京都本大賞に選ばれた。スリーピースバンド「譫言(うわごと)」のメンバーとしても活動中。
<SNS情報>
岡崎琢磨Twitter

作品づくりに大きな影響を与えた、東京での生活

仕事場兼自宅で快く取材を引き受けてくれた岡崎さん。

福岡県に生まれ、大学時代を京都で過ごし、現在は東京を拠点に活動する作家の岡崎琢磨さん。代表作である「珈琲店タレーランの事件簿」は京都を舞台にしたミステリー小説で、作中では京都の街並みや人々の暮らしが細やかに描かれています。

「タレーランはアマチュア時代に書いた作品なのですが、実在の街を出すとしたら絶対に福岡か京都と決めていたんです。結果、喫茶店文化のある京都を舞台にして、京都という街のヒキの強さも相まってか多くの方に読んでいただける作品になりました。自身のルーツとも言える場所がいくつもあるということは、それだけ物語で書ける場所があるということ。小説家としてはアドバンテージだったと思います」

岡崎さんの代表作である「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ。
今年8月に最新刊が発売され、同シリーズは累計発行部数250万部を突破した。

福岡と京都を愛する一方で、作品づくりに影響を与えた土地は圧倒的に東京だったと言います。

「東京と地方ではカルチャーの総量に天文学的な開きがあり、自ら手を伸ばせばあらゆる芸術に触れることができますよね。正直、東京で生まれ育った人に対しては『ずるいな!』と思ってしまいます(笑)。また、東京では面白いことをやっている人が本当にたくさんいて、そういった方々からさまざまな話を聞き、多くのインスピレーションをもらえました。『こういう考えの人が多いと思っていたけれど、こういう人もいるんだなあ』と、色んな方向に目を向けられたことが作品づくりに生きていると思います」

家探しのこだわりは「近くに大きめの公園があること」

不思議と「今日は何か浮かびそうな気がする」と思った日に、ちゃんとアイデアが降りてくるという。

上京してから表現の幅が広がり、より精力的に作家活動に打ち込めるようになった岡崎さん。刺激にあふれる街、東京での住まいのこだわりについて聞いてみました。

「近くに大きめの公園や、自然を感じられる場所はマストでほしいと思っていました。散歩をしながら作品について考えることもあるのですが、繁華街など情報量が多いところだと、そっちに気を取られてしまうので」

アンティーク調のコーヒーミルは、上京したばかりの頃に作家仲間からもらったものだそう。

「単純な家選びで言えば、部屋の広さと、カウンターキッチンであることにはこだわりましたが、その他はあまり。『こうじゃなきゃ仕事ができない』というのは特にありません。ただし、自分の居たくない場所で仕事なんてできるわけがないので、なるべく自分の好きなものに囲まれ、部屋を散らかしたままにしないというのは意識しています。部屋が汚いとそれだけでストレスになり、地味にメンタルが削られてしまいますから」

崩れがちな心身のバランスを保つため、生活は丁寧に

意外と集中力は浅いほうだと語る岡崎さん。だからこそ執筆は余裕を持って進めている。

もともと心身のバランスをとるのが上手なほうではなく、よく体調を崩してしまうと岡崎さんは語ります。ストレスを溜め込ないために、日常生活で気をつけていることについてうかがうと。

「まずは起床後に陽の光を浴びて、ストレッチをして、外の空気を吸う。睡眠時間はしっかりとり、生活リズムをなるべく崩さないようにする。そういった当たり前のことをおろそかにしないよう意識しつつ過ごしていたら、心身がだいぶラクになりました」

今では丁寧な暮らしを心がけている岡崎さんですが、昔はなかなか自分のライフスタイルを確立できず、苦労も多かったと語ります。

「上京してきたばかりの頃に5本の連載を抱えていた時期があり、プレッシャーから腸痙攣を起こしてしまいました。精神的に荒れて、SNSに良くないことを書いてしまった経験もあります。今まで本当にたくさんの過ちを犯してきて、自分は心身が丈夫ではないということを痛いほど思い知ったので、とにかく無理をするのはやめよう、と。睡眠に影響するので夜は仕事をしないとか、1日の中で必ず仕事から離れて好きなことをする時間を作るなどして、まずは日常の充実を優先するようになりました」

岡崎さん愛用のギター。自宅でレコーディングを行うことも。

そんな岡崎さんの日常を彩る“好きなこと”のひとつが、音楽。もともとアーティストを目指していたという岡崎さんは、今でも作家業のかたわら、バンド活動を続けています。

「自分は学生時代からずっと音楽をやってきたけれど、うまくいかず、第二の選択肢として作家の道を選びました。それでもやっぱり音楽が好きで、4年前にスリーピースバンドを結成。バンドは時間を取られるし、お金もかかる。でも、バンドという居場所があるのは、自分の精神衛生上すごく良いことだと思っています。小説の売り上げや評価でコンプレックスを感じるときもありますが、『自分にはそれ以外の楽しみもあるし』と切り替ることができるので」

角部屋かつ上に部屋のない特殊な間取りのおかげで、あまり周囲を気にすることなく歌やギターの練習ができているそう。

「僕的にこのデスク周りが気に入っているのですが、作家というよりはバンドマンっぽいでしょ?(笑)これはもはや、自分のアイデンティティかな、と」

時間をかけて勝ち取った、自分らしい暮らし

アイデアを練るための散歩では、なるべく同じコースを歩かないようにしているという岡崎さん。
「色んな刺激を受けながら考えることで、クリエイティビティが上がるというのは脳科学的にも証明されているようです。
『昨日はここを歩いたから、今日はこっちを歩いてみよう』と、日々変化をつけていますね」

紆余曲折ありながらも、10年間かけて心地よい暮らしを手に入れた岡崎さん。同時に、作家活動10年という節目の年を迎えたことについては「今までにないくらい自信に繋がった」と語ります。

「10年間消えずに作家として活動してこられたのは素直に嬉しいですし、すごいことだと感じています。一方で、どんなにお金が儲かっていても楽しくなければ意味がありません。そもそもアイデアは機嫌が良い時にしか浮かばないので、日々自分のご機嫌を取りながら無理なく過ごしていれば、自然と仕事もうまくいくと思っています。時間はかかりましたが、ここまで頑張ってきたおかげで自分にとって正しいライフスタイルを獲得することができました。この暮らしを大事にしていきたいですね」

書棚には多くの本が並んでいるが「作家の中では少ないほう」。

「今は書き下ろし長編の制作に取り掛かっており、これまでの中で一番長い作品になると思います。これからもっと良いものを書けるようになっていくと確信しているので、楽しみにしていただけたら幸いです」

(取材・文:渡辺ありさ)

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