憧れのライフスタイルを送る方に、暮らしと住まいのこだわりをお聞きする本企画。今回登場いただくのは書道家・アーティストで、作家としても活躍されている武田双雲さん。
湘南にアトリエを構え、この場所で書道教室も開催してきた武田さん。アトリエのお隣にはご自宅もあり、約22年間、湘南を住まいと創作の拠点にされています。住まいや街が、創作や個性に及ぼす影響を、アトリエのお気に入りポイントと共にお聞きしました。
武田双雲さんプロフィール |
書道家・作家。1975年、熊本生まれ。NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」など、数々の題字を手掛ける。講演活動やメディア出演も積極的に行う。ベストセラー『ポジティブの教科書』(主婦の友社)など、著書は60冊を超える。 <SNS情報> YouTube「Souun Takeda【武田双雲】」 Amebaブログ |
人は、住んでいる環境で思想が作られる
日本を代表する書道家として知られる武田双雲さん。実は、大学卒業後はNTTに就職をしており、サラリーマンとして働いていました。
「会社員時代は横浜や川崎などの、いわゆる都会を拠点としていました。就職して3年後の25歳に書道家として独立して、湘南との付き合いはその時から。書道教室を開くべく、今とは別の場所に古民家を借りたのがはじまりです」
その後アトリエ兼書道教室は現在の地に移り、約22年間、湘南を拠点に活動されています。
「湘南は、平日の昼間でもサーフィンをしている方がいたり、オシャレなレストランが賑わっていたりと、のんびりとした空気感です。サラリーマン時代、平日は都会で働いていた自分にとって、当初は驚きのカルチャーでしたね。
僕自身はとても“影響を受けやすい”人間なんです。例えば、ジャッキーチェンの映画を観た後に彼の動きになってしまうように(笑)。だからこそ、やはり住んでいる土地の空気感・バイブレーションは大切。土地から影響を受け、作品や言葉にも確実に表れています」
「僕がもし東京の麻布や六本木などの大都会に住んでいたら、もっとギラギラとしたオーラをまとっていたと思います。湘南にいるからこそ今の作風が生まれ、今の自分がいる。僕を形作るのは、環境によってできた思想なんです」
都会と自然のハイブリット、湘南の絶妙なバランスが好き
武田さんが湘南を拠点としているのは、空気感以外にもこんな理由もあるそうです。
「僕は、“瞬間を丁寧に味わいたい”性格なので、変化がある場所が好きなんです。ただし、都会で感じる“人間の営み”の変化だけでも、田舎で感じる自然の変化だけでも弱い。一方、湘南は都会の雰囲気もありつつ、田舎もほどよく混ざっている。両方味わえるそのバランスが魅力だと思います。
オシャレな店ができたり、新しいマリンスポーツが流行ったりといった人間の営みの変化も感じられ、植物、風、光、鳥、虫、景色といった自然の変化も丁寧に感じられる。僕にとってはぴったりな場所なんです」
さらに、湘南のお気に入りスポットも聞きました。
「特定の場所と言うよりは、海岸線が好きですね。ドライブやサイクリング、散歩を日常的に楽しんでいます。車だと箱根、逗子、横須賀までもすぐに行ける立地もいいですよね。景色で言うと、稲村ヶ崎は綺麗でお気に入り。富士山と海と海岸線とのバランスがばっちりなんです」
書道教室で生徒から吸収した“悩み”が、作品作りのカギ
アトリエでは2020年まで書道教室を開催しており、全国から老若男女たくさんの生徒が集まる場所でもあったそう。
「書道教室には、幼稚園児からおじいちゃん・おばあちゃんまで、有名人も含め、さまざまな異なる年齢、職業、価値観の方に来ていただきました。そこで生徒たちの仕事、家庭、育児、恋愛、健康などに対する多くの悩みを聞いてきたことで、人生の酸いも甘いも知り、人間の持っている“苦悩”を研究することができました。
書道もアートも書籍も、作品作りは“ハッピー”だけでは成り立ちません。時には苦しみや悲しみ、生きづらさも必要です。都会と田舎が混ざるこの湘南で、書道教室を通じて、生々しい人間のありようを吸収できたのは、僕にとってとてもプラスになったと思います」
“想像の範疇の人生”を超えたくて、アメリカ移住も決意
そんな武田さんですが、実は近く湘南を離れる予定があります。次の住まいの拠点は、なんとアメリカ・カリフォルニア州。現地の自宅もすでに購入済みです。
「予想もつかない場所に行って変化を楽しみたいと思ったんです。例えば日本国内での移住だと、良くも悪くもなんとなく想像がついてしまう。情報化社会の中で入ってくるステレオタイプな“オシャレな生活”の中に自分を置くのではなく、自分の想像を超えるために、ライフスタイルを固めたくないんです」
「現在の47歳の武田双雲も、自分が思い描いてきた想像を超えています。この先、アメリカという性別も人種も意味がないミックスカルチャーの中にあえて身を置き、いまとは全く異なるライフスタイルを経験して、さらに想像を超えていきたい。
ちなみに、新しい家は自然豊かで庭には果物の木があり、ウサギも来るような環境。購入を決めた際、近所のお兄さんには『congratulation! 街に選ばれたんだね!』と言われたほど素敵な場所です。そこでどんな自分になるのか、どんな作品が生まれるのか、自分自身の内面の変化を楽しみたいですね」
(写真:嶺倉崇/取材・文:菱山恵巳子)
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