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2023年公示地価、2年連続の上昇 コロナ前への回復加速も二極化が拡大

ざっくり要約!

  • 2023年の公示地価は、全てのエリアの全用途平均・住宅地・商業地が上昇し、上昇率も拡大しました。
  • 地価の二極化が顕著に。『首都圏と地方圏』などの二極化だけでなく、昨今は県内での二極化や観光地の二極化なども見られています。

国土交通省は3月22日、2023年の公示地価を発表しました。全用途平均・住宅地・商業地、全てが2年連続で上昇し、上昇率も拡大。新型コロナウイルス感染症蔓延の影響で弱含んでいた地価の回復傾向が、顕著に見られました。

本記事では、2023年公示地価のポイントを解説します。

公示地価とは?

公示地価とは、地価公示法に基づき、国土交通省土地鑑定委員会が都市計画区域などの標準的な地点の1月1日時点の1㎡あたりの価格を判定したものです。この値が、土地の取引価格や不動産鑑定、公共事業要地の取得価格算定などの基準となります。

公示地価と似て非なるものに「基準地価」が挙げられます。公示地価と基準地価の違いは、以下の通りです。

公示地価基準地価
調査主体国土交通省土地鑑定委員会都道府県
調査地点都市計画区域内の標準地都市計画区域外も含まれる基準地
鑑定方法2人以上の鑑定士が鑑定1人以上の鑑定士が鑑定
評価時期1月1日7月1日
発表時期3月中旬〜下旬9月中旬〜下旬

公示地価と基準地価の違いについて、より詳しく知りたい方は、「基準地価とは?公示価格との違いは?基準地価はどこで調べる?などをまとめました」をご確認ください。

地方の住宅地は28年ぶり!全エリア・全用途で地価上昇・上昇率拡大

令和5年地価公示 全国の地価動向

全用途平均

H31R2R3R4R5
全国1.21.4▲ 0.50.61.6
三代都市圏2.02.1▲ 0.70.72.1
東京圏2.22.3▲ 0.50.82.4
大阪圏1.61.8▲ 0.70.21.2
名古屋圏2.11.9▲ 1.11.22.6
地方圏0.40.8▲ 0.30.51.2
地方四市5.97.42.95.88.5
その他0.20.1▲ 0.6▲ 0.10.4
(単位:%)

住宅地

H31R2R3R4R5
全国0.60.8▲ 0.40.51.5
三代都市圏1.01.1▲ 0.60.51.7
東京圏1.31.4▲ 0.50.62.1
大阪圏0.30.4▲ 0.50.10.7
名古屋圏1.21.1▲ 1.012.3
地方圏0.20.5▲ 0.30.51.2
地方四市4.45.92.75.88.6
その他▲ 0.20▲ 0.6▲ 0.10.4
(単位:%)

商業地

H31R2R3R4R5
全国2.83.1▲ 0.80.41.8
三代都市圏5.15.4▲ 1.30.72.9
東京圏4.75.2▲ 1.00.73
大阪圏6.46.9▲ 1.802.3
名古屋圏4.74.1▲ 1.71.73.4
地方圏1.01.5▲ 0.50.21
地方四市9.411.33.15.78.1
その他0.00.3▲ 0.9▲ 0.50.1
(単位:%)    ※地方四市:札幌市・仙台市・広島市・福岡市

(出典:国土交通省

2023年の公示地価は、全てのエリアの全用途平均・住宅地・商業地が上昇し、上昇率も拡大しました。三大都市圏では、店舗需要やオフィス需要、マンション用地需要の高まりから、特に商業地の上昇率が顕著に。地方四市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)は、住宅地、商業地ともに上昇率8%以上と非常に高く、生活スタイルの変化により地方都市の需要が高まっているものと推測されます。

地価上昇および上昇率拡大の要因は、経済活動の再開や景気の持ち直しやインバウンドの回帰などにより、コロナ前への回復傾向が顕著になっていることにあると考えられます。また、これらの期待感も地価上昇に寄与しているのでしょう。

その一方で、今回の公示地価からは「二極化」が進行していることも読み取れます。

この二極化は、平均値だけでは見えてきません。いずれのエリア・用途も「平均値」は上昇し、その上昇率は拡大しているものの、地価が下がっているエリアと上がっているエリアの格差は大きくなっています。

地価の「二極化」とは?

令和5年地価公示 変動率上位ランキング(全国)

住宅地

順位標準地番号都道府県標準値の所在地令和4年公示価格円/㎡令和5年公示価格円/㎡変動率%
1北広島-1北海道北広島市共栄町1丁目10番346,00059,80030(26)
2北広島-4北海道北広島市美沢3丁目4番847,00060,80029.4(23.7)
3北広島-6北海道北広島市東共栄2丁目20番529,80038,50029.2(21.6)
4北広島-14北海道北広島市北進町3丁目3番453,80069,50029.2(19.6)
5江別-2北海道江別市朝日町13番148,60011,10029.1(17.8)
6江別-3北海道江別市東野幌町8番646,50060,00029(19.2)
6恵庭-9北海道恵庭市恵み野東6丁目11番424,80032,00029(19.2)
8恵庭-10北海道恵庭市島松寿町1丁目19番420,00025,80029(17.6)
9北広島-9北海道北広島市白樺町2丁目5番728,30036,50029(19.9)
10江別-1北海道江別市向ヶ丘22番1033,00042,50028.8(15.8)
(注)上段の変動率は令和5年地価公示、下段は令和4年地価公示。

商業地

順位標準地番号都道府県標準値の所在地令和4年公示価格円/㎡令和5年公示価格円/㎡変動率%
1北広島5-2北海道北広島市栄町1丁目1番3(北海道銀行北広島支店)67,00086,00028.4(19.6)
2北広島5-1北海道北広島市中央2丁目1番2(べべるい)44,00055,00025(18.3)
3恵庭5-4北海道恵庭市緑町2丁目77番『緑町2-3-7』(エイブル)39,50049,20024.6(16.2)
4江別5-5北海道江別市元江別873番19外(セイコーマート元江別店)24,00029,80024.2(14.3)
5江別5-6北海道江別市上江別西町42番6外(セブンイレブン江別上江別西町店)30,00037,20024(12.4)
6恵庭5-3北海道恵庭市島松本町1丁目43番『島松本町1-10-14』(時計・メガネのゴトー)21,80027,00023.9(14.7)
7江別5-7北海道江別市文京台東町1番25(サンタクリーム・山下館)40,50050,00023.5(14.1)
8千歳5-2北海道千歳市錦町2丁目10番3(ビジネスホテルホーリン)48,00059,00022.9(13.7)
9恵庭5-6北海道恵庭市黄金南7丁目18番6(セブンイレブン恵庭バイパス店)40,00049,00022.5(12.4)
10江別5-1北海道江別市3条6丁目9番2外(秋野薬局)27,00033,00022.2(12)
10江別5-3北海道江別市大麻ひかり町45番845,00055,00022.2(11.1)
(注)『 』書きは住居表示、( )書きはビル名または店舗名。
上段の変動率は令和5年地価公示、下段は令和4年地価公示。

(出典:国土交通省

上記の表は、2023年公示地価の変動率トップ10のエリアと価格、変動率を表しています。住宅地、商業地ともに、上位を占めているのは全て北海道です。

特に上昇率が高い北広島市は、北海道日本ハムファイターズの本拠地となる「北海道ボールパークFビレッジ」の開発・開業に伴う利便性の向上や人流への期待感から大幅に高騰しているものと考えられます。昨年、9月に公表された基準地価でも、北広島市の上昇率は非常に高いものでした。

北広島市のみならず、札幌近郊エリアの地価が高騰している要因は、2030年に予定されている北海道新幹線の札幌延伸と、それに伴う札幌駅の再開発にもあると考えられます。これを受け、近年、札幌市では不動産価格が高騰しており、“億ション”の大規模マンション、タワーマンションも多数、分譲されていることから、比較的、価格が安い札幌近郊エリアの需要が高まっているのでしょう。

令和5年地価公示 変動率下位ランキング(全国)

住宅地

順位標準地番号都道府県標準値の所在地令和4年公示価格円/㎡令和5年公示価格円/㎡変動率%
1奈井江-2北海道空知郡奈井江町字奈井江575番833,5503,300▲ 7(▲ 6.6)
2長野-25長野県長野市大字赤沼字西通263番113,00012,100▲ 6.9(▲ 7.1)
3赤平-3北海道赤平市字赤平668番332,9002,700▲ 6.9(▲ 6.5)
4江田島-2広島県江田島市江田島町切串3丁目12261番19『切串3-6-8』19,00017,700▲ 6.8(▲ 6.9)
5南知多-8愛知県知多郡南知多町大字山海字小山89番10,2009,520▲ 6.7(▲ 6.4)
6南知多-6愛知県知多郡南知多町大字片名字郷中92番15,20014,200▲ 6.6(▲ 6.2)
7南知多-9愛知県知多郡南知多町大字片名字新師崎23番1129,40027,500▲ 6.5(▲ 7.3)
8室蘭-18北海道室蘭市白鳥台2丁目33番2『白鳥台2-33-2』10,1009,450▲ 6.4(▲ 5.6)
9芦別-3北海道芦別市北6条西3丁目3番24,7004,400▲ 6.4(▲ 6.0)
10深川-3北海道深川市2条2921番22『2条21-21』6,3005,900▲ 6.3(▲ 6.7)
(注)『 』書きは住居表示。
上段の変動率は令和5年地価公示、下段は令和4年地価公示。

商業地

順位標準地番号都道府県標準値の所在地令和4年公示価格円/㎡令和5年公示価格円/㎡変動率%
1江田島5-1広島県江田島市江田島町中央1丁目17535番2外『中央1-3-1』42,20039,000▲ 7.6(▲ 7.5)
2むかわ5-1北海道勇払郡むかわ町美幸2丁目20番外13,50012,600▲ 6.7(▲ 6.9)
3夕張5-1北海道夕張市本町2丁目217番3,8003,550▲ 6.6(▲ 7.3)
3会津若松5-1福島県会津若松市中町350番2内『中町4-37』76,00071,000▲ 6.6(▲ 1.8)
5赤平5-1北海道赤平市本町1丁目2番2外6,1005,700▲ 6.6(▲ 6.2)
6室蘭5-1北海道室蘭市中央町1丁目65番2『中央町1-2-23』26,20024,500▲ 6.5(▲ 4.7)
7浦河5-1北海道浦河郡浦河町大通3丁目2番1外17,00015,900▲ 6.5(▲ 5.6)
8洞爺湖5-1北海道虻田郡洞爺湖町本町157番1外20,10018,800▲ 6.5(▲ 6.9)
9芦別5-1北海道芦別市北1条東1丁目6番5外6,3005,900▲ 6.3(▲ 6.0)
10美唄5-1北海道美唄市大通西1条南1丁目1番1『大通西1条南1-3-6』14,20013,300▲ 6.3(▲ 6.0)
(注)『 』書きは住居表示。
上段の変動率は令和5年地価公示、下段は令和4年地価公示。

(出典:国土交通省

一方、上記の表は、2023年公示地価の変動率ワースト10エリアですが、下位にも北海道の地名が多く並んでいることがわかります。これが、二極化です。

「首都圏と地方圏」などの二極化だけでなく、昨今は県内での二極化や観光地の二極化なども見られています。平均値だけを見れば、全てのエリア、全ての用途で上昇していますが、よりミクロな視点で見ると特に地方都市は局所的にしか上昇しておらず、その他の地域では長らく下落が続いています。

地価の二極化の要因

地価が上昇するエリアと下落するエリアの格差が拡大している要因は、次のようなことにあると考えられます。

  • コロナ前への回復傾向が加速
  • 都心回帰の動き
  • 地方都市のコンパクトシティ化の推進
  • 一部エリアのインバウンド需要・投資需要の加熱

つまり、人口減少や高齢化などに伴い、人が住み、集まるエリアの一極集中が格差を広げているということです。この動きは今に始まったことではありませんが、コロナ前への回復傾向や円安が顕著になっていることがこの動きに拍車をかけ、格差の拡大をより進めたものと考えられます。

(出典:国土交通省

上記の表は、用途・エリアごとに地価が上昇・横ばい・下落した地点数の割合の推移を表したものです。三大都市圏では、7割〜8割ほどの地点が上昇していますが、地方四市を除く地方圏は3割〜4割ほど。下落した地点が上昇した地点を上回っています。

アフターコロナが見えつつあることから回復基調にあるものの、人口減少や高齢化、空き家の増加は確実に進行しており、今回の公示地価では全国的に二極化が進んでいることが、より顕著になって現れたといえるでしょう。

関東地方の住宅地で上昇したのは一都三県のみ

住宅地の全国平均変動率は1.4%と2年連続の上昇となり、地方の住宅地も28年ぶりに上昇しました。東京圏の上昇率も2.1%と全国平均を上回っているものの、関東地方の住宅地で上昇したのは、下記のように一都三県のみ。これもまた、二極化の1つだといえるでしょう。

都道府県名2023年公示地価 住宅地変動率
東京都2.6%(1.0%)
神奈川県1.4%(0.2%)
千葉県2.3%(0.7%)
埼玉県1.6%(0.5%)
茨城県0.0%(-0.4%)
栃木県-0.6%(-0.7%)
群馬県-0.9%(-0.8%)
※カッコ内は前年度の平均変動率
(出典:国土交通省

都心回帰が見られる東京都

23区 住宅地上昇率多摩地区 住宅地上昇率
3.4%(0.7%)1.6%(0.5%)
※カッコ内は前年度の平均変動率

東京都平均では、住宅地の上昇率は2.6%。しかし、上記のように、区部と多摩地区では上昇率に差があります。前年度はほぼ同等の上昇率だったことを考えると、都心回帰の傾向がより顕著となっているといえるでしょう。

23区の中でも、都心5区の上昇率は3.8%と平均を超えました。文京区や台東区、江東区、豊島区など、住宅地としても需要の高い区の上昇率も4%以上と高いものになっています。一方、多摩地区では調布市や狛江市、武蔵野市の上昇率が3%を超えており、再開発事業が進捗している地域や都心区に隣接する地域で上昇率が大きくなっているようです。

神奈川県では東急新横浜線開業による地価上昇が顕著

先述のとおり、札幌市やその近郊エリアの地価上昇は、北海道新幹線の延伸も大きく影響しているものと考えられます。同様に、神奈川県でも新線開通とその期待感による地価上昇が見られます。

3月18日に開業した日吉駅から新横浜駅を結ぶ「東急新横浜線」沿線駅周辺の地価上昇が目立ちました。新たに誕生した新綱島駅、そして東急新横浜線と相鉄新横浜線をつなぐ新横浜駅がある横浜市港北区の住宅地の平均変動率は、2.6%。神奈川県の平均を大きく上回っています。

特に、新綱島駅の徒歩圏内の住宅地は上昇基調が顕著となっており、上昇率4%を超えるエリアも多数見られました。利便性の向上が見込まれることから、昨今では新横浜エリアのオフィス需要も改善傾向にあります。

千葉県・埼玉県内でも二極化が進む

(出典:銚子市)

千葉県の住宅地の変動率は県平均で2.3%と、関東では東京に次いで二番目に高い上昇率となりました。しかし、地価が上昇しているのは浦安市や市川市、船橋市、柏市など都内に近いエリアが中心。銚子市や富津市、御宿町や九十九里町など、人口減少が進むエリアの地価は下落傾向にあります。

(出典:埼玉県

埼玉県も、地価が上昇したエリアと横ばい・下落したエリアの二極化がマップ上でも歴然です。昨年と比較すれば下落したエリアは減少しましたが、上記マップ上で地価が上昇したことを示す赤やピンクは、東京に近い市町に集中していることがわかります。

まとめ

2023年公示地価は、全国平均が2年連続の上昇。かつ、全エリア・全用途が上昇し、上昇率も拡大しました。これは、コロナ禍からの回復を示唆しているといえるでしょう。

しかし、平均値は上昇しているものの、上昇するエリアと下落するエリアの二極化が顕著に現れています。人口減少や高齢化は今後ますます進むことから、地価の格差もまた拡大していくものと考えられます。

この記事のポイント

公示地価とは

ー公示地価とは、地価公示法に基づき、国土交通省土地鑑定委員会が都市計画区域などの標準的な地点の1月1日時点の1㎡あたりの価格を判定したものです。

詳しくは、「公示地価とは」をご覧ください。

東京都の2023年公示地価の動向を教えてください

ー東京都平均では、住宅地の上昇率は2.6%。しかし、区部と多摩地区では上昇率に差があります。

詳しくは、「都心回帰が見られる東京都」をご覧ください。

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

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