日経平均株価が大暴落による不動産市場への影響
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利上げ発表で株価・円相場が乱高下! 不動産市場への影響は?

記事監修・取材先 さくら事務所会長 長嶋 修
1967年、東京生まれ。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社・さくら事務所を設立、現会長。
業界の第一人者として不動産購入のノウハウにとどまらず、業界・政策提言にも言及するなど精力的に活動。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動など、様々な活動を通じて『第三者性を堅持した不動産コンサルタント』第一人者としての地位を築く。
2022年6月現在、登録者数6.46万人のyoutubeチャンネル(長嶋修の「日本と世界を読む」)を運営。不動産投資・政治・経済・金融全般についての情報発信をするyoutuberとしても活動中。

執筆者プロフィール

亀梨奈美

株式会社realwave代表取締役。大手不動産会社退社後、不動産ジャーナリストとして独立。
2020年には「わかりにくい不動産を初心者にもわかりやすく」をモットーに、不動産を“伝える”ことに特化した株式会社realwaveを設立。
住宅専門全国紙の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

2024年3月にマイナス金利政策を解除した日本銀行は7月末、17年ぶりとなる利上げを決定しました。8月頭には、今年に入ってから急騰していた日経平均株価が大暴落。ドル円相場も、大きく円高に振れています。

株価も円相場も、不動産市場と決して無縁ではありません。今後の不動産市場の見通しについて、不動産コンサルタントの長嶋修さんにご解説いただきます。

株価暴落と乱高下は利上げだけが要因ではない?

日本銀行は7月31日までの金融政策決定会合で、政策金利を0.1%程度から0.25%程度にまで引き上げることを決定しました。8月5日には、1987年のブラックマンデーを超え過去最高の下げ幅を記録し、7月中旬まで4万円台だった日経平均株価は3万1,000円台まで値を下げました。翌6日にはこちらも過去最高となる上がり幅を記録し、まさにジェットコースターのように株価が乱高下しています。

一方、7月上旬に1ドル=160円を突破した円相場も同様の軌道を描き、一時、1ドル=144円台まで円高が進み、8月中旬は150円弱で推移しています。日銀による利上げが株価および円相場が乱高下するきっかけとなったわけですが、長嶋さんは「要因はそれだけではない」といいます。

「利上げが諸悪の根源のようにされていますが、利上げといっても0.15%程度のこと。ここまでの乱高下が起こった理由は、日米の金利差にあるでしょう。コロナ禍以降、大幅に拡大した日米の金利差によって活発化したのが『円キャリートレード』です。今回の日経平均株価の暴落と急速な円高は、円キャリートレードの巻き戻しによって引き起こされたものです」(長嶋さん、以下同)

日米の金利差は長らく2%程度を維持していましたが、コロナ禍以降は、低金利政策を継続する日本とインフレ抑制のため利上げした米国との金利差は5%以上に拡大しました。円キャリートレード(円キャリー取引)とは、低金利の円で資金調達し、高金利のドルで運用する取引です。

「加えて、年始以降、株高が急速に進み、信用買いも積み上がっていたでしょうから、こうしたものが一気に巻き戻ったということだと思います。日本の利上げは、きっかけにすぎません」

そもそも株価の『値下がり・値上がり』や『円高・円安』というのは、特定の地点からの動きを表したものであり、8月中旬時点ではいずれも年始の水準にまで戻っています。長嶋さんは「こういったときはしばらく乱高下が続く」といいますが、気になるのは『その後』のこと。日経平均株価や円相場は、2024年後半、そして2025年にどのように推移していくのでしょうか?

「大きなインシデントがなければ、また元に戻ると思います。ただ、11月に米国の大統領選挙を控えています。日本ではあまり報道されていませんが、トランプ氏が返り咲くとすれば、金や銀を裏付けとした『新ドル』が発行される可能性があります。これがスタートする、あるいはスタートすることが現実味を帯びてくると、米国の株価は暴落し、ドル安が急激に進むことになるでしょう。他国も巻き込んで世界大恐慌のようになる可能性もあるものの、やはり資金の逃げ先は必要になってくるため、相対的に日本が浮かび上がっていく可能性が高いと私は見ています」

『9月に米国が利下げに踏み切る』『日本では追加利上げがある』といった声も聞かれますが「米国の大統領選挙まで大きな動きはないのでは」と長嶋さんは推察します。

株価・円相場の乱高下が不動産市場に与える影響は?

日経平均株価と都心3区中古マンション成約平米単価
東京証券取引所東日本不動産流通機構のデータを基に筆者作成

日経平均株価は、不動産相場と連動して推移します。昨今、日本の不動産は外国の方からも注目されているため、円相場も一部の不動産に少なからず影響するものと考えられます。とはいえ、不動産は流動性が低いことから、経済や金融に対して遅効的に推移するものです。
また、すべての不動産が一律に連動するわけではありません。今回の株価および円相場の乱高下は、日本の不動産市場にどのような影響を与えるのでしょうか?

「乱高下は一時的なものなので、不動産相場が大きく動くということはないでしょう。現在(8月中旬時点)の日経平均株価は3万5,000円前後ですが、これまでの動きを踏まえれば、この程度が現在の都心3区、5区あたりの中古マンションの成約平米単価とちょうどマッチする水準です。7月に株価が一時4万円を超えましたが、このときはマンション価格がもう一段上がってもおかしくないという水準でした。

株価がまた4万円を超えてくればマンション価格が上昇する可能性がありますが、これまでの10年間のように広範囲で高騰が見られるのではなく、一部の条件の良い物件が先鋭化していくことになるでしょう。これまでも不動産市場の三極化は進行しており、上位10〜15%程度の不動産が平均価格を押し上げてきたわけですが、いくら高収入な方であっても都心の不動産価格は手が届かない水準にまで達していることから、これから上がるとしても限度があります。一方で、富裕層や投資家は、取得費以上に自身の資産のポートフォリオをどう組んでいくかを重視するため、上位の不動産の中でさらに上位に位置するハイエンドクラスの不動産の価格は、今後もさらに上昇する余地があります

■不動産市場の三極化

不動産市場の三極化
出典:さくら事務所

昨今の都心の中古マンション価格の上昇率は、他のエリアを凌駕しています。東京都23区はいずれの地域も高騰傾向にあるものの、都心6区の中古マンションは4月〜6月まで継続して前年比+10%を大きく上回るペースで価格が高騰しています。

■各都市圏中心部70㎡あたりの中古マンション価格

2024年4月 5月 6月
価格 前年同月比 価格 前年同月比 価格 前年同月比
都心6区 11,588万円 13.3% 11,924万円 16.3% 12,058万円 17.1%
城南・城西6区 6,942万円 0.1% 7,030万円 2.1% 7,195万円 4.4%
城北・城東11区 5,300万円 0.1% 5,339万円 0.7% 5,390万円 1.8%
出典:東京カンテイ「三大都市圏・主要都市別/中古マンション70㎡価格月別推移

・「都心の中古マンション価格」に関する記事はこちら
都心の中古マンション価格が急騰! 供給数減少で高騰が続く?

とりわけ立地が良い不動産の価格が高騰しているのは、東京に限ったことではありません。大阪や福岡でも同様の現象が見られ始めており、大阪市内中心6区(中央区・北区・西区・福島区・天王寺区・浪速区)や福岡市の近年の中古マンション価格の上昇率は、都心3区(千代田区・中央区・港区)と同等です。

「東京都心の不動産価格がかなり上がったことから、2023年中頃からは需要の矛先が大阪や福岡などにも向くようになりました。それでも、東京と比べると大阪の価格水準は6割程度、福岡は4割程度で、まだまだ割安感が目立ちます。今後の大阪や福岡の中心部の価格上昇率は、東京を上回ってくるかもしれません

■東京・大阪・福岡中心部の中古マンション成約平米単価(前年比・%)

東京・大阪・福岡中心部の中古マンション成約平米単価(前年比・%)
東日本不動産流通機構近畿圏不動産流通機構西日本不動産流通機構のデータを基に筆者作成(2023年11月の福岡市のデータなし)

利上げで住宅ローン金利はどうなる?

■住宅ローンを借り入れた人の利用した金利タイプの割合

住宅ローンを借り入れた人の利用した金利タイプの割合
出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者調査(2024年4月調査)

マイホームの購入を検討している方は、利上げに伴って住宅ローン金利が上昇するかどうかも気になるところなのではないでしょうか。マイナス金利政策解除以降も、住宅ローンの金利水準に大きな変化はなく、昨今7割以上の方が選択している変動金利にいたっては、4月以降にもう一段下げる金融機関も見られたほどです。しかし、7月末に日本銀行が利上げを決定したことを受け、多くの金融機関が変動金利に影響する短期プライムレートや基準金利を引き上げると発表しました。

「変動型の住宅ローンで適用される金利は、基準金利から優遇金利を差し引いたものです。基準金利の引き上げを発表している金融機関も、引き上げ幅は0.1〜0.2%程度。同時に優遇金利も引き上げることで適用金利が変わらない可能性もありますし、適用金利が上がったとしてもこの程度であれば、住宅ローン減税によって補助金をもらいながらマイホームが購入できるような状況に変わりありません。したがって、不動産市場に与える影響も限定的になるでしょう

住宅ローン減税の控除率は0.7%です。現在の変動型の住宅ローン金利は0.3〜0.4%程度のため、金利が0.1〜0.2%上がったとしても、利息の負担以上に税金還付を受けられる『逆ざや』状態は継続します。

■住宅ローン減税

住宅ローン減税の概要
出典:国土交通省「住宅ローン減税

・「住宅ローン減税」に関する記事はこちら
【2024年度版】住宅ローンの控除の条件は?申請方法や注意点まとめ

「住宅ローン金利上昇の影響で価格が下がっていくのは、都心から遠い不動産や駅から遠い不動産です。需要が低い不動産ほど受ける影響は大きくなる一方、富裕層や国内外の投資家が購入するようなハイエンドクラスの不動産はほとんど影響を受けることはないでしょう。したがって、金利の上昇も格差の拡大を助長する一因となるはずです」

まとめ

日本銀行が7月末に利上げを決定してから、日経平均株価は暴落し、急速に円高が進みましたが、8月中旬時点では年始の水準にまで戻っています。大規模な「巻き戻し」が起こったことが、今回の乱高下につながったものと推測されます。現在の水準を維持するとすれば、不動産市場に与える影響は限定的とのこと。これから想定されるシナリオは一つではありませんが、いずれにしても「格差は拡大する」と長嶋さんは断言します。

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