ざっくり要約!
- マイホーム売却で発生した利益にかかる税金は、納税のタイミングを遅らせることができます。
- 居住用財産の買換え特例は、譲渡所得税が非課税になるわけではありません。
マイホームの売却によって発生した利益は、居住用財産の買換え特例の適用を受けることで、譲渡所得税の納税時期を将来に繰り延べることができます。この特例を受けるには、期限内に必要書類を添えて確定申告をしたり、適用要件を満たしたりすることが必要です。
本記事では、居住用財産の買換え特例の適用要件や手続き方法をわかりやすく紹介します。マイホームの買換えによって損失が発生したときに、他の所得と損益通算する方法も紹介しているので、買換えを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
記事サマリー
居住用財産の買換え特例とは
居住用財産の買換え特例とは、2023年12月31日までに一定要件を満たしたうえでマイホームを買換えた際にかかる譲渡所得税の納税タイミングを将来に繰り延べることができる制度です。正式名称は「特定の居住用財産の買換えの特例」といいます。
居住用財産の買換え特例は、譲渡所得税が非課税になるのではなく、買換えたマイホームを売却する際に課税されることとなるので注意しましょう。
マイホーム売却の「譲渡所得税」とは
マイホーム売却によって利益を得た場合は、譲渡所得税を納めなければなりません。譲渡所得税はマイホームだけでなく、土地や株式、ゴルフ会員権などの資産を売却した際に課税されます。
まずは、譲渡所得税の仕組みや計算方法を詳しく見ていきましょう。
「譲渡所得」に対して課される所得税・住民税
前述した譲渡所得には、利益に応じた所得税と住民税が課税されます。
譲渡所得税の納税額は、1月1日から12月31日までの1年間の所得によって決定され、3月15日までに確定申告をしなければなりません。確定申告を忘れると、無申告加算税や延滞税などのペナルティの対象となり、より多くの税金を納めることとなるので注意しましょう。
・「マンション売却後の確定申告」に関する記事はこちら マンション売却後の確定申告ってどうする?必要書類や手順など解説 |
譲渡所得の算出方法
建物や土地の売却にかかる譲渡所得税は、以下の計算式で求めた「譲渡所得」に税率をかけることで算出できます。
譲渡所得 = 売却金額 ー (取得費 + 譲渡費用) ー 特別控除
取得費は、土地の購入代金や仲介手数料、測量費といった不動産を取得するために支払った費用のことです。取得費がわからない場合は「売却金額 × 5%」を概算取得費として計算することが可能です。
・「取得費が不明な土地の売却」に関する記事はこちら 取得費が不明な土地を売却するときの税金はどうなる? |
譲渡費用は、売却時の仲介手数料や印紙税、登録免許税、建物の解体費用などの売却に必要とした費用のことです。特別控除には「特定の居住用財産の買換えの特例」や「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」などが挙げられ、譲渡した状況に応じた控除が受けられます。
・「譲渡所得の計算方法」に関する記事はこちら 譲渡所得の計算方法①ー取得費と減価償却費について |
税率は所有期間によって異なる
譲渡所得税の税率は、譲渡した年の1月1日時点の所有期間によって異なり、5年以下であれば39.63%(所得税30.63%、住民税9%)、5年を超えると20.315%(所得税15.315%、住民税5%)となります(復興特別所得税2.1%相当を含む)。
なお、一定要件を満たしたマイホームを売却した場合は「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」の適用が受けられます。本特例が適用されれば、譲渡所得が6,000万円以下であれば「譲渡所得 × 10%」、6,000万円を超えた場合は「(譲渡所得 ー 6,000万円)× 15% + 600万円」まで税率が引き下げられます。
・「長期譲渡所得と短期譲渡所得」に関する記事はこちら 長期譲渡所得とは?短期との違いや計算方法、特別控除、軽減税率などをわかりやすく解説! |
買換え特例の効果と適用要件
マイホーム売却に活用できる税制優遇には、買換え特例と併用できない制度があります。どの制度の適用を受けるべきかを判断するためにも、買換え特例の効果と適用要件、併用できない特例を見ていきましょう。
課税の繰り延べとは
買換え特例は、譲渡所得税が非課税になるのではなく、下図のように買換えたマイホームを売却するまで課税を繰り延べる制度です。
課税の繰り延べ イメージ
買換えたマイホームが高額で売却できた場合は、一度に負担する納税額が大きくなってしまう可能性があります。納税資金を確保するためにも、不動産査定などを活用しながら税金シミュレーションをしておくとよいでしょう。
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適用要件
居住財産の買換え特例の適用を受けるには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
- 自身が10年以上居住していた建物で、売却年の1月1日で建物と土地の所有期間が10年を超えている
- 住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却している
- 過去2年以内に「マイホームを譲渡した場合の3,000万円の特別控除(相続空き家を除く)」や「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」、「マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていないこと
- 土地と建物の所在地が日本国内である
- 売却金額が1億円以内である
- 買換え後のマイホームの床面積が50㎡以上で、土地面積が500㎡以内である
- マイホームを売却した前年から翌年までに買換えている
- 2024年1月1日以降に入居、または建築確認を受けている住居は一定の省エネ基準を満たしている(2023年12月31日以前に建築確認を受けている住居、および2024年6月30日以前に建築された住居を除く)
- 買換え後のマイホームが耐火建築物の中古住宅である場合は築25年以内であること、または一定の耐震基準を満たしている(耐火建築物でなければ、築25年以内であること、または取得期限までに一定の耐震基準を満たすことが適用要件となる)
- 親子や配偶者といった特別な関係がある人への譲渡ではない(内縁関係も含む)
建物を解体したうえで売却する場合は、以下の要件をすべて満たすことが求められます。
- 解体した年の1月1日で建物と土地の所有期間が10年を超えている
- 建物解体後の1年以内に売買契約を結んでいる
- 解体した建物に住まなくなった日から3年以内に売却している
- 解体から売却までに事業目的に活用していない
居住しなくなってから売却するまでの期間や、売却してから新たにマイホームを購入するまでの期間を満たさなければ適用が受けられないので、マイホームの売却を検討したタイミングに適用要件を確認しておきましょう。
併用できない特例
居住用財産の買換え特例は、以下の特例制度と併用することができません。
- マイホームを譲渡した場合の3,000万円の特別控除(相続空き家を除く)
- マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
適用を受ける特例制度によっては、譲渡所得税が控除によって非課税になったり、所有期間の制限がなくなったりする場合があるので、それぞれの制度を比較した上で選択することが大切です。
なお、一定要件を満たした空き家を相続によって取得した場合は「相続空き家に係る居住用財産の3,000万円特別控除」との併用が認められています。譲渡所得税の負担を少しでも軽減するためにも、どの組み合わせが適しているのかを税理士や不動産会社に相談してみましょう。
・「相続空き家に係る居住用財産の3,000万円特別控除の適用要件と取扱」に関する記事はこちら 相続空き家に係る居住用財産の3,000万円特別控除の適用要件と取扱について 東急リバブルの「無料税務・法律相談会」はこちらから |
買換えで損失が出たら損益通算・繰越控除が可能
マイホームの買換えで損失が発生した場合は、他の所得と損益通算をしたり、翌年以降の3年間に損失を繰り越したりすることが可能です。この特例を「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といいます。
損益通算とは、給与所得や事業所得などの黒字所得から損失額を差し引くことで、所得税や住民税の納税額を抑えられる仕組みのことです。繰越控除は、所得から差し引ききれない損失がある場合に翌年以降の所得から控除できる制度です。
適用要件と手続き方法を詳しく見ていきましょう。
適用要件
マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けるには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
- 自身が居住していた建物で、売却した年の1月1日で所有期間が5年を超えている
- 住まなくなった3年目の12月31日までに売却している
- 過去2年以内に「マイホームを譲渡した場合の3,000万円の特別控除(相続空き家を除く)」や「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」、「特定の居住用財産の買換えの特例」、「特定の居住用財産の交換の特例」の適用を受けていないこと
- 売却する土地や建物の所在地が日本国内である
- 買換え後のマイホームの床面積が50㎡以上である
- マイホームを売却した前年から翌年末までに買換えている
- マイホームを取得した年の翌年の12月31日までに入居、または入居見込みである
- マイホームを取得した年の12月31日に10年以上の住宅ローンを組んでいる
- 親子や配偶者といった特別な関係がある人への譲渡ではない(内縁関係も含む)
建物を解体したうえで売却する場合は、以下の要件をすべて満たすことで適用が受けられます。
- 解体年の1月1日で建物と土地の所有期間が5年を超えている
- 建物解体後の1年以内に売買契約を結んでいる
- 解体した建物に住まなくなった日から3年以内に売却している
- 解体から売却までに事業目的に活用していない
なお、年間合計所得が3,000万円を超える場合や、500㎡を超える土地を売却した場合は、
繰越控除ができなかったり控除額が制限されたりする可能性があるので注意が必要です。
住宅ローン控除と併用できる
マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例は、住宅ローン控除と併用することが可能です。
なお、売却するマイホームで住宅ローン控除の適用を受けていた場合でも、買換えることで適用期間がリセットされます。たとえば、マイホームに売却前に住宅ローン控除の適用を8年間受けていた場合は、新築住宅等に買換え後に13年間の控除期間が適用されると、最長21年間にわたって減税が受けられます。
適用を受けるための手続き方法
居住財産の買換え特例や、譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例は、原則として期限内に必要書類を添えて確定申告をしなければ適用が受けられません。
なお、所轄税務署長が「やむを得ない理由がある」と判断した場合は、期限後の申告でも認められる可能性があります。やむを得ない理由には、申告期限中に入院をしていたり、被災していたりするケースが挙げられます。
確定申告の添付書類は、損益通算や繰越控除などの適用内容によって異なるので、どのような書類が必要になるのかを事前に確認しておきましょう。
まとめ
マイホームの売却によって利益や損失が発生したときは、譲渡所得税の納税時期を将来に繰り延べたり、他の所得と赤字分を合算したりできる特例があります。これらの特例は、適用要件が複雑になっていることが多く、併用できない制度もあるため注意が必要です。
居住用財産の買換え特例は、令和4年度の税制改正によって適用期間が延長され、適用要件も変更された経緯があるので、マイホームの売却タイミングに適用が受けられるのかを確認しておくことが大切です。買換え特例の適用を受けるためにも、税理士や不動産会社に相談しながら手続きを進めましょう。
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この記事のポイント
- 居住用財産の買換え特例には、どのような適用要件がある?
自身が10年以上居住していた建物で、売却年の1月1日時点で建物と土地の所有期間が10年を超えていること、住まなくなった3年目の12月31日までに売却していること、などの要件があります。
詳しくは「適用要件」をご覧ください。
- マイホームを買換えたときに損失が発生したら、どうすればいい?
確定申告をすることで、他の所得と買換えによる損失を合算できる「損益通算」が行えます。差し引ききれなかった損失は、翌年以降の3年間に繰り越して控除が受けられます。
詳しくは「買換えで損失が出たら損益通算・繰越控除が可能」をご覧ください。
- 居住用財産の買換え特例と住宅ローン控除は併用できる?
併用することはできません。なお、買換えによって損失が発生した場合は「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」と併用することは可能です。
詳しくは「住宅ローン控除と併用できる」をご覧ください。
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