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私道負担のメリット・デメリットは?セットバックとの違いも説明

執筆者プロフィール

大崎麻美
司法書士、FP技能士2級、宅地建物取引主任者、シニアライフマネージャー

日系エアラインのCAを経て30代で司法書士資格を取得。2012年あさみ司法書士事務所を設立。実需・収益不動産・商業に関する登記実務、終活のサポート業務を行う。2022年末より海外に移住。移住後は、実家じまいの情報発信サイト「実家じまい完全攻略ブログ」を運営。法律・不動産専門のライターとして活動。

ざっくり要約!

  • 私道負担とは敷地の一部に私道が含まれること
  • 私道負担のある土地は、売却時に私道部分を含めた売却益が得られるが、建物の建設をはじめ、門扉や駐車場とすることができない

マイホームを探していると、物件広告に「私道負担あり」と記載されている物件を見かけることがあるかもしれません。私道と聞くと、なんとなくネガティブなイメージを持たれる方もいますが、私道は千差万別のため、ひとくくりにするのはナンセンスです。
そこで本記事では、私道、公道、セットバックの違いや、私道負担の意味やメリットとデメリットなどを解説します。正しく理解し、物件選定にぜひお役立てください。

そもそも私道負担とは?

私道負担という言葉は知っていても、その意味を具体的には知らない人が多いのではないでしょうか。実は私道負担は、以下の2つの意味で使われることがあります。

  1. 敷地の一部に私道が含まれること(敷地の一部を私道に提供していること)
  2. 私道の権利をもたない人が、私道を使用するにあたり私道の所有者に通行料、掘削承諾料などという名目で費用を払うこと

一般的には、1.の敷地の一部に私道が含まれることを指します。

売買する土地の一部に私道が含まれていること

敷地の一部に私道が含まれている場合、「私道負担」や「私道負担あり」と表記されます。私道は私有地でありながらも、道路であるため所有者が自由に使うことができません。つまり、私道部分には建物を建てたり、駐車場にしたりすることができないのです。

また、私道部分は、建物の敷地面積に算入することができません。このことは、建物を建築する際の建ぺい率や容積率に影響を及ぼします。

土地の一部が私道になっているケース

そもそも建物は、どんな敷地にも建てられるわけではありません。建築基準法第42条には、建物を建築する際の敷地の要件が規定されています。それによれば、建物の敷地は、幅4m以上の道路に2m以上接していなければならなりません。

これを「接道義務」と呼び、この義務を果たすために自己の所有している土地の一部を私道に提供し、建物を建築できるようにするのです。これが私道負担と呼ばれるものです。私道負担は次のような形態があります。

共有型:私道に接している土地の所有者全員が1筆の私道を共有している
分筆型:私道に接している敷地の所有者が、分筆(分割)された私道の一部をそれぞれ所有している

出典:建築基準法|国土交通省

敷地に面している道路が私道で利用時に負担が生じるケース

敷地の接する道路が私道という場合もあります。敷地所有者が目の前の私道の所有権や共有持分をもたない場合、第三者の私道を通行し、公道に出ることになります。

このように私道の持分を持たない場合には、通行料や掘削料などを私道の所有者に支払うケースがあります。この金銭的な負担を私道負担と呼ぶこともあります。

セットバックとの違い

セットバックの説明をする前に、建物の建築が可能な土地についておさらいをしましょう。建築基準法では、建物を建築する敷地は幅員4m以上の建築基準法上の道路に、2m以上接道していなければならないと規定しています。

しかし、建築基準法が施工された1950年当時の古い住宅街では、幅4mに満たない道路に接して建てられた住宅がすでに存在していました。建築基準法が施行されたからといって、すでに存在する建物を違反建築物として取り壊すことは現実的ではありません。

そのため、建築基準法42条2項では、幅員が4m未満の道路でも、建築基準法の施行前から使用されていた道路であることに加え、特定行政庁が道路と指定したものに関しては、建築基準法上の道路とみなすという例外規定を設けました。これが「建築基準法42条2項道路」いわゆる「2項道路」や「みなし道路」と呼ばれる道路です。

この2項道路に接する建物の建て替えをする際には、法42条2項道路の中心線から2mの範囲まで敷地を後退させる(セットバック)ことが求められます。なお後退させる位置に関し、法42条2項道路を挟む反対側が川や崖などの場合には、川や崖の境界線から4mの位置までセットバックする必要があります。

このように、法42条2項道路を幅員4mの建築基準法上の道路にするために行うのがセットバックです。セットバックした部分が必ずしも私道になるわけではないので注意が必要です。対して私道負担とは、すでに敷地の一部を私道に供している状態を表します。

つまり、セットバック済の物件で、敷地の一部がすでに私道に供されている状態の場合には私道負担あり、になるといえます。

私道負担のメリット・デメリット

私道負担のある土地のメリット・デメリットを確認しましょう。

メリット

私道負担には、主に不動産を売却・購入するシーンでの経済的メリットがあります。

売却時に私道部分を含めた売却益が得られる

道路に供している土地であっても、私道負担部分は自分の土地であるため、私道部分の売買を行うことは自由です。

例えば、私道の持分を持たない私道利用者が「私道の持分」を追加で購入する場合もあります。私道の持分を持つことで「所有する土地・建物が、私道の持分を持たない場合」に比べて、相場より高く売れるケースがあるからです。ゆえに私道の持分の有無は不動産の資産価値にも影響を与えます。

もちろん、敷地全体を売却する場合にも、私道部分を含めての売却が可能です。

相場よりも価格が安い場合が多い

私道負担のある土地は、公道に面した土地に比べると、販売価格が低めであることが多いでしょう。私道負担ありの敷地は利用に制限があることから、近隣の同じ広さの土地より安く買える可能性があるのはメリットです。

デメリット

私道負担のデメリットで代表的なものは以下の通りです。

利用できる敷地が制限される

前途したとおり、私道部分に関しては自分の土地でありながらも、建物の建設をはじめ、門扉や駐車場とすることもできません。また建物の建築面積(建築許可の際に敷地とみなされる面積)に含むことができないため、建ぺい率や容積率に影響を与えます。

具体例としては100㎡の土地を購入したものの、立替え時に15㎡分のセットバックを義務づけられたため、実際には85㎡しか建築に利用できない場合などが現実的にあり得るのです。予定していた広さの家が建たない可能性もあるため、敷地負担有りの土地を購入する場合は慎重に検討しましょう。

インフラ整備の負担が必要になることも

道路の舗装や道路の地下にある上下水道の本管の配管や整備の費用を負担しなくてはなりません。公道では国や地方自治体が整備・管理をしますが、私道部分には関与しないためです。

道路が陥没したり、荒れたりしている場合は、私道を所有または共有する人の負担で修復をする必要があり、道路上に放置された不法投棄のゴミも自分達で対処する必要があります。

なお、自治体によっては舗装補修工事の費用の助成を行っている自治体もあります。例えば川崎市では、要件に適合すれば私道の舗装補修工事の標準工事費の10分の7相当を助成する制度があります。

出典: 私道舗装助成金制度|川崎市

私道利用に関しての迷惑行為

私道の持分をもたない私道利用者が駐車場代わりに駐車するケースや、私有物を設置してしまうケースもあります。

私道の所有者とトラブルになるケースがある

私道負担のパターンの中でも、分筆型の私道負担の場合には注意が必要です。建物を建築する際や立て替えの際、水道やガスなどのライフラインを整備のため第三者の私道部分を掘削するケースがあります。その際は私道所有者の承諾が必要になります。

また、分筆型の私道負担のある不動産を売却する際は、通行掘削承諾書がないと売却が難しくなります。購入者の立場からすれば、通行掘削承諾書が取得できない不動産は、購入後にトラブルを抱えるリスクがあるためです。

私道負担のある土地を購入する際の注意点

購入したい土地が私道負担ありの場合は、事前に確認すべき点があります。

固定資産税について確認する

私道負担のある敷地でも原則として固定資産税は課税されます。しかし、一定の要件を満たしている私道は固定資産税が免税となります。私道部分に固定資産税が課税されるか否かは、役所・都税事務所で確認可能です。

私道の通行掘削承諾書があるかの確認

分筆型の私道負担のある土地を購入する際は、通行掘削承諾書が取得できるか確認をしましょう。水道やガスなどのライフラインの接続のため、第三者の私道の掘削工事が必要になる場合には掘削承諾書が必要です。

この承諾書が取れないと、業者が工事を行えません。また新たに掘削承諾書を依頼する場合、承諾料を要求される例もあるため、私道の通行掘削承諾書が取得されているか否かを確認しましょう。

私道の利用状況を確認する

私道は自分の敷地の一部だという心理も働いてか、路上駐車や植木鉢等の設置などが日常化していることがあります。購入後に私道での迷惑行為が発覚しても、相手方は近所の方なのでなかなか注意もできません。そのような自体を避けるためにも、購入前に現地に出向き、私道の利用状況を確認するようにしましょう。朝・昼・夜、平日・休日それぞれの状況を確認するのがおすすめです。

私道の所有者・共有者の確認

私道の所有者・共有者の人数や住所を確認しましょう。私道について何らかの問題が発生した場合、共有者全員の合意が必要になることがありますが、共有者の人数や住んでいる場所により、問題解決の難易度が変わります。

例えば私道の共有者が亡くなり、放置したまま相続が何代も発生しているような時は、相続人が数十人になっていることもあります。また所有しているのが法人であるものの、すでに廃業してしまって行方がわからないケースも存在します。そのような私道で問題が起こった際は解決までに相当な時間がかかるため、注意しましょう。

私道の所有者や共有者を調べる際は、法務局で私道部分の登記事項証明書を取得調査します。また不動産会社の担当者に確認してもらうことも可能です。

この記事のポイント

そもそも私道負担とは何ですか?

売買する土地の一部に私道が含まれていることです。

敷地の一部に私道が含まれている場合、「私道負担」や「私道負担あり」と表記されます。私道は私有地でありながらも、道路であるため所有者が自由に使うことができません。

詳しくは「そもそも私道負担とは?」をご覧ください。

私道負担のメリット・デメリットは何ですか?

私道の持分をもたない私道利用者が、私道を購入することもあり、その場合は相場より高く売れるケースがある、私道負担ありの敷地は利用に制限があるため、近隣の同じ広さの土地より安く買える可能性があるなどのメリットがあります。

一方、私道部分に関しては自分の土地でありながらも、建物の建設をはじめ、門扉や駐車場とすることもできないなどのデメリットもあります。

詳しくは「私道負担のメリット・デメリット」をご覧ください。

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