ざっくり要約!
- ピロティには、延床面積に関する制約を受けない、駐車場としても使える、全天候型の庭やテラスとして使える、水害に強いなどのメリットがある
- ピロティを設ける際には、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造にすること、新耐震基準を遵守しているかチェックすることがポイント
ピロティとはフランス語で「杭」を表す言葉ですが、建築用語としては一般的に「1階部分は柱のみの構造で、2階以上を居住スペースにする建築様式」をさします。
建築基準法上、ピロティ部分は床面積に算入しないというメリットがあり、開放的な空間である特徴を持ち合わせていますが、実はそれだけではありません。
この記事では、ピロティの6つのメリットと注意すべきポイントを紹介します。ピロティを上手にマイホームの設計プランに取り入れて、快適で安全な暮らしを手に入れましょう。
ピロティとは?
ピロティは近代建築の三大巨匠の1人として名高い、フランスで活躍した建築家ル・コルビュジエが発明した構造といわれており、1926年に彼が提唱した「近代建築の5原則」(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、自由な立面、水平連続窓)の1つです。
当時フランスではまだレンガ造りの建物が主流でしたが、彼が生み出した建物は鉄筋コンクリートという新しい素材を使ったものであったため、伝統的な建築概念をくつがえす革命的な発明でした。
鉄筋コンクリートは無機質なイメージを持ち合わせていますが、彼が提案する建物にはそこに住む人の生活を豊かにしたいという思いが込められていました。
たとえば「屋上庭園」を造ることによって屋根にもう一つの地面を作り、植物を楽しむことができる空間を実現しています。
ちなみに日本の上野にある国立西洋美術館本館は彼が設計し、1959年に竣工した建造物です。世界文化遺産に登録されたことでも有名ですが、やはりエントランス部分はピロティになっています。
1階を柱のみにして2階以上を居住スペースにする建築様式
ピロティとは1階部分は柱のみの構造で、2階以上を居住スペースとする建築様式です。開放的な空間になるのが特徴で、公共の建物や学校のエントランスや外廊下などで採用されていることが多い傾向があります。
近年の日本において、個人住宅に採用されるピロティは1階の一部分に使われることが多く、駐車場や庭の一部などとして活用されています。
住宅にピロティを取り入れた場合、結果として1階よりも2階の床面積の方が広くなり、居住スペースの中心は2階になることが多いでしょう。
ピロティのメリット
ピロティを建物に採用するメリットはさまざまありますが、ここでは代表的な6つのメリットを詳しく紹介していきます。
- 延床面積に関する制約を受けない
- 駐車場としても使える
- 全天候型の庭やテラスとして使える
- 水害に強い
- デザイン性が高い
- プライバシーが守れる
延床面積に関する制約を受けない
ピロティが外部に対して解放された空間であり、かつ居住用のスペースとして使用しない場合は、ピロティ部分は建築基準法上「延床面積に算入しない」ことになっています。
つまりピロティを通行のためや駐車場として使うのであれば、居住用のスペースには該当しないため延床面積に影響しません。
とくに都市部では、比較的小さな土地の中に駐車場と建物を配置しなければならず、苦労することがあります。しかしこのルールをうまく活用できれば、ピロティ部分を駐車場として利用することで解決できます。
ただし建物の構造が木造の場合でかつ高さが1.5ⅿ以下のケースは、その部分はピロティに該当しません。 ピロティでなければ床面積に算入されてしまいますので、延床面積の計算には注意が必要です。詳しくは設計士へご相談ください。
駐車場としても使える
ピロティ部分の高さや広さが十分であれば、駐車場として活用することができます。また駐車場として利用するのであれば、先述の通り基本的には床面積に算入されることもありません(建物の構造が木造で、かつ高さが1.5ⅿ以下の場合は床面積に算入)。
ピロティは2階部分が屋根の役割をするため、ビルトインガレージのように利用できます。マンションなど集合住宅でも比較的多く見かける利用方法です。
雨や風をしのげるため、大切な愛車を保管する場所としても申し分ないでしょう。
全天候型の庭やテラスとして使える
個人宅の場合、庭やテラスとして利用することも可能です。雨風はもちろん夏の暑い陽射しも遮ることができるため、バーベキューする場所や子どもの夏の水遊び場としても重宝するでしょう。
庭やテラスとして利用する可能性がある場合は、近くに外水栓を設けると便利です。最近ではオシャレな蛇口や水栓柱も揃っているので、外観に合わせて選びましょう。
水害に強い
日本建築学会東北支部長の田中礼治・東北工業大学教授らによると、東日本大震災時に被害を受けた建物を調査した結果、ピロティ式の建物は津波に対して強かったことがわかりました。
4ⅿ以上の津波の被害に遭った地域は、どの建物もほぼ壊滅状態でした。しかし4ⅿ未満の津波の被害を受けた地区では、11棟のピロティ式の建物(1階部分が鉄筋コンクリートの柱のみの構造であった建物)は住居部分が完全な状態で残っていたそうです。
1階部分に外壁がないため、津波によるエネルギーをダイレクトに受けなかったことが要因であると分析されています。
1995年の阪神大震災ではピロティ式の住宅やマンションの倒壊が目立ったという声もありましたが、その教訓から2000年には更なる法改正 (2000年基準)がなされ、木造住宅に関する耐震基準が厳しくなりました。
現在ではピロティ式だからといって、耐震基準が低いということはありません。既存住宅の場合は、1階の柱の本数や鉄筋を増やすことなどによって、建物の強度を高めることも可能です。
出典:津波に強かった1階吹き通しのピロティー構造|特定非営利活動法人 航空医療研究所
デザイン性が高い
ピロティはその意匠性から、建物のファサード(建物を正面から見たときの外観)に使われることが多い建築的な手法です。
建物の構造に変化を持たせることによって、奥行きが生まれスタイリッシュな印象になります。また画一的でない外観は、個性的な雰囲気を演出することができます。
もしデザイン性が高い建物にしたい場合は取り入れてみてはいかがでしょうか。
プライバシーが守れる
ピロティ自体は外に対して開かれた空間ですが、居住空間と外部を隔てる役目もします。また居住空間の中心が2階以上になるため、外部からプライバシーを守りやすいのが特徴です。
たとえばピロティをビルトインガレージや車寄せとして利用する場合、玄関への動線によっては通行人の視線を気にすることなく、車から室内へ入ることも可能でしょう。
ピロティのデメリット
いろいろなメリットがあるピロティですが、デメリットもあります。ここでは2つの代表的なデメリットを紹介します。
耐震対策をしっかりする必要がある
1階部分がほぼ柱しかないピロティ構造は、1階に耐震壁がある構造と比べて耐震性が弱いといわれています。
1981年(昭和56年)6月1日以降の建物は新耐震基準が適用されているため、「震度6強~7の大地震で建物が倒壊しないこと」が基準となっています。
しかしその基準を満たしたピロティ構造の建物も、1995年の阪神淡路大震災で被害を受けた例があります。
1978年の宮城県沖地震のあと1981年に建築基準法は改正され、新耐震基準が定められました。その後、1995年の阪神・淡路大震災を受けて、2000年にも建築基準法は改正され木造住宅に対する基準が大きく見直されました。日本では大きな地震が起きるたびに、建築基準法を改正してきた歴史があります。
最近では耐震性を重視し、柱ではなく壁で支えるタイプの構造を見かけることもありますが、新耐震基準を満たしたからといって、今後大きな地震が起きた際に被害に遭わないとはいいきれません。
コストも気になるところですが、大切な命と財産を守るためにも耐震対策は重要だと心得ましょう。
出典:災害対応資料集|内閣府
階段の上り下りが生じる
ピロティを設けた場合、基本的には2階が居住空間になります。よって外出時や帰宅時は、必ず階段の上り下りが生じます。しかしピロティがない場合でも、2階にリビングがある場合は同じ条件になりますので、ピロティ特有のデメリットというわけではありません。
苦労するのは買い物袋が重いときや家具・家電を搬入するときですが、あらかじめ想定できればさほど大きな問題ではないでしょう。
小さい子どもがいる場合は、抱っこしながら荷物を運ぶこともあるでしょう。子どもを先にリビングへ連れて行く場合は目が届かなくなりますので、階段手前に転落防止のチャイルドゲートを設置するなどして対策しておくのがおすすめです。
ピロティを設ける際の注意点
ピロティを設ける際の注意点を2つ紹介します。
鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造にする
ピロティは一般的な構造に比べて耐震性が弱くなる傾向にあります。その構造を考慮すると、耐震性に優れた構造躯体にする必要があります。
基本的には建物の構造を鉄筋コンクリート造、もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造にすることが望ましいでしょう。
・「鉄筋と鉄骨」に関する記事はこちら 鉄筋造(RC造)と鉄骨造はどっちが防音性が高い?違いや調べ方を紹介 |
新耐震基準を遵守しているかチェックする
新築する場合は建築確認申請が必要になるため、新耐震基準を満たしていない建物は建てられません。
もしピロティがある既存住宅の購入を検討する場合は、新耐震基準を順守しているかチェックしましょう。新耐震基準を満たしているのは、1981年6月1日以降に建築確認申請をしている建物になります。
もしそれでも心配であれば、耐震診断することを検討しましょう。ただし購入前に行う場合は所有者の承諾が必要です。また竣工時の図面がない場合は、診断できない可能性があります。
耐震診断の費用は依頼先や建物の構造によっても異なりますが、鉄筋コンクリート造の場合1,000円/㎡~2,500円/㎡が相場です。
ピロティを住宅に取り入れる際によくあるQ&A
ピロティを新居に取り入れたいと検討している方のために、ピロティに関するよくある質問にお答えしています。ピロティを採用する際は、ぜひ参考にしてください。
ピロティとインナーガレージの違いは?
インナーガレージとは「建物に組み込まれた駐車場」という意味で、ビルトインガレージと呼ばれることもあります。ハウスメーカーや施工会社によって呼び名が異なることがありますが、基本的には同じ意味です。
ピロティは2階部分の床が屋根の役割をしますが、基本的には壁がない開放的な空間になっています。
一方、インナーガレージは、出入りする一面以外を屋根や壁に囲まれたような構造の駐車場をいいます。その唯一開いている一面をさらにシャッターによって閉じられるタイプもあります。
ピロティを駐車場として利用する場合、横からの雨や風を防ぎにくいのがデメリットです。車に対するセキュリティも高いとはいえません。
インナーガレージは部外者が侵入しにくい構造になっているため、比較的防犯性は高くなります。また出入り口にシャッターを設置すれば、より安心できる空間になります。ただし、排気ガスが溜まりやすいのがデメリットです。換気には気をつけましょう。
子どもがいる場合、ピロティを作るとどんな使い方ができる?
ピロティは外に対して開放的な空間です。子どもの遊び場として、利用することが可能です。
2階の床が屋根になるので、紫外線や多少の雨を防ぐことができ、全天候型の庭のように使えるのが魅力です。太陽の陽射しを避けてプール遊びや水遊びができるため、夏の暑い日でも安心して遊ばせることができます。
子どもは雨が続くと室内遊びに飽きてしまい、外で遊びたくなるものですが、ピロティの下なら体を大きく動かして遊ぶことができます。室内では難しい砂遊びやボール遊び、縄跳びの練習などにもおすすめです。
その他にも、広さに余裕があればベビーカーや自転車置き場、外遊び用のおもちゃを保管するスペースとしても利用できます。
ピロティを有効的に使えるのは、子どもだけではありません。大人もBBQやガーデニングをするスペースとして活用できます。
ピロティ形式のアルコーブとはどんな造り?
アルコーブとは、壁面を一部後退させて作ったくぼんだ空間です。例えばマンションの住戸の玄関部分のデザインとして採用されます。共用廊下から後退したところに玄関ドアを配置できるため、プライバシーに配慮したつくりになります。
戸建ての玄関部分にピロティ形式のデザインを取り入れる場合、アルコーブ(くぼんだ)ではなくポーチ(戸建て本体の壁体から突出しているような形式)の方が良いかもしれません。
玄関ドアの上に屋根とは別の庇を雨よけとして設けることがありますが、その庇に柱を立てることによってピロティ風のデザインにすることもできます。
庇に柱を立てることで建物に奥行きができて重厚感が生まれるため、意匠性の高いファサードになります。
また庇を柱で支える構造にすることで、ある程度耐力を持たせることができるため、大きな庇でも設置することができます。
原則、玄関のポーチ部分は床面積に算入されません。しかし出入りに必要な大きさを超える場合は屋内的用途と判断され、床面積に算入される可能性があるので注意が必要です。
ピロティにデッキを組み合わせることはできる?
本来ピロティは開放的な空間ですが、床材をウッドデッキにすることによって、さらに魅力的な空間にすることができます。
ピロティはあくまでも外の空間ですが、屋根となる部分があるため、デザインや仕様によっては第二のリビングルームのような形にもなります。
しかしピロティは、人や車が通行可能なものと定義されています。プランによっては床面積に算入される可能性がありますので、施工会社とよく相談した上で取り入れましょう。
ピロティをリビングの続き空間にすることはできる?
例えば1階のリビングの開口部にピロティを配置することで、リビングと一体感のある空間にすることができます。
床材をフローリングのカラーを合わせたり、テーブルセットを配置したりすることで、リビングルームに続く空間として利用できます。
先述の通り、ピロティを通路ではなく居室のように利用すると、床面積に含まれる可能性があるので注意が必要です。
ただし敷地に対する建ぺい率や容積率に余裕があれば、床面積に含まれたとしても問題ありません。使い勝手やデザインも重視して、満足のいくマイホームを手に入れましょう。
この記事のポイント
- ピロティとはどんなもの?
ピロティとは1階部分は柱のみの構造で、2階以上を居住スペースとする建築様式です。
近年の日本において、個人住宅に採用されるピロティは1階の一部分に使われることが多く、駐車場や庭の一部などとして活用されています。
詳しくは「ピロティとは?」をご覧ください。
- ピロティとインナーガレージの違いは?
ピロティを駐車場として利用する場合、横からの雨や風を防ぎにくく、車に対するセキュリティも高いとはいえません。
一方、インナーガレージは部外者が侵入しにくい構造になっているため、比較的防犯性は高くなります。また出入り口にシャッターを設置すれば、より安心できる空間になります。ただし、排気ガスが溜まりやすい点に注意が必要です。
詳しくは「ピロティとインナーガレージの違いは?」をご覧ください。
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