ざっくり要約!
- 譲渡所得税とは正式名称ではなく、不動産売却時に生じる所得税や住民税、復興特別所得税の総称として使われることが多い
- 譲渡所得は「譲渡価額-取得費-譲渡費用」という計算式で求めることができる
個人の方が不動産を売却すると、所得税および住民税、復興特別所得税が生じます。
譲渡所得税という税金は存在しませんが、最近ではインターネット上で売却時に生じる所得税や住民税、復興特別所得税を総称して譲渡所得税と記載しているものを見かけるようになってきました。
譲渡所得税という言葉が独り歩きしているため、「譲渡所得税」というキーワードで検索している人もいるようです。
この記事では売却時の税金を譲渡所得税と称して「譲渡所得税」について解説します。
記事サマリー
譲渡所得税とは
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譲渡所得税とは正式名称ではなく、不動産売却時に生じる所得税や住民税、復興特別所得税の総称として使われることが多いようです。
不動産売却で発生した利益に対してかかる税金
繰り返しますが、譲渡所得税という税金は存在しません。
売却時に生じる所得税や住民税、復興特別所得税のことを譲渡所得税と呼んでいる人が多いようです。
譲渡所得とは、個人が不動産を売却したときに生じる所得の名称です。売却額ではなく、利益を指します。
具体的には、以下の計算式で求められるものが譲渡所得です。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡価額とは、主には売却額のことです。
取得費は、土地は購入額、建物は購入額から減価償却費を控除した額になります。
譲渡費用は、仲介手数料や印紙税、土地の測量費等の売却に直接要した費用のことです。
プラスの譲渡所得のことを「譲渡益」、マイナスの譲渡所得のことを「譲渡損失」と呼びます。
税金は譲渡益が生じれば発生しますが、譲渡損失が生じれば発生しないことになります。
税金は、譲渡所得に税率を乗じて計算されます。
税金 = 譲渡所得 × 税率
税率には、「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の2種類があります。
売却する年の1月1日時点において所有期間が5年超のときが長期譲渡所得、1月1日時点において所有期間が5年以下のときが短期譲渡所得です。
それぞれの税率は、下表のようになります。
所得の種類 | 所有期間 | 所得税率 | 住民税率 |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% |
復興特別所得税の税率は、所得税に対して2.1%を乗じます。
なお、不動産の売却では、譲渡所得税以外に印紙税や抵当権抹消の登録免許税、仲介手数料等のサービス料にかかる消費税も生じます。
譲渡所得税の計算方法
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この章では、譲渡所得税の計算方法について解説します。
1.建物の取得費を算出する
譲渡所得を計算する上で、一番面倒な部分は取得費の計算です。
取得費とは、土地は購入額、建物は購入額から減価償却費を控除した額のことでした。
減価償却費とは、税金の計算ルール上、発生する費用のことです。
会計や税金の世界では、「建物価値は時間の経過によって下がる」という考え方を採用しています。
そこで、経過年数に応じた建物価値の目減り部分を表したものが減価償却費となります。
取得費は、土地は購入額、建物は購入額から減価償却費を控除した額であるため、式で表すと以下のようになります。
取得費 = 土地購入価額 + (建物購入価額 - 減価償却費)
「建物は購入額から減価償却費を控除した額」という部分が、計算式では「建物購入価額-減価償却費」で表現されています。
では、減価償却費はどのように求めるかというと、居住用財産(マイホームのこと)の場合には、以下の計算式で求めることとなっています。
減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
上式の中には、「償却率」と「経過年数」という新たな2つの言葉が出てきました。
まず償却率とは、建物の構造によって決まった数字のことです。
居住用財産の償却率は、下表のようになっています。
構造 | 非事業用の償却率 |
---|---|
木造 | 0.031 |
木造モルタル | 0.034 |
鉄骨造(3mm以下) | 0.036 |
鉄骨造(3mm超4mm以下) | 0.025 |
鉄骨造(4mm超) | 0.020 |
鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 0.015 |
木造の戸建住宅であれば「0.031」、鉄筋コンクリート造のマンションであれば「0.015」を用います。
次に、経過年数です。
居住用財産の場合、経過年数は所有期間のことを指します。
少し会計の知識がある人は、築年数の間違いではないかと思う方も多いですが、居住用財産は特別ルールとなっており、経過年数は築年数ではなく所有期間です。
経過年数は1年単位で表され、6ヶ月以上は切り上げ、6ヶ月未満は切り捨ての処理をします。
例えば、所有期間が10年9ヶ月であれば11年ということです。
経過年数は所有期間のことですので、例えば築15年のマンションを購入して10年後に売った場合でも、経過年数は10年になります。
築年数の25年ではないという点がポイントです。
2.譲渡費用を確認する
譲渡費用とは、売却に直接要した費用のことです。
売却に直接要した費用とは、以下のような費用を指しています。
- 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
- 印紙税で売主が負担したもの
- 貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
- 土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取り壊し費用とその建物の損失額
- すでに売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で売るために支払った違約金
- 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
抵当権抹消の登記費用や司法書士手数料、住宅ローンおよび住宅ローン返済のための一括返済手数料、引越し代は譲渡費用には該当しないと解されています。
3.譲渡所得を算出する
以下の条件で、譲渡所得を計算します。
条件
譲渡価額:6,000万円
購入額:5,000万円(内訳:土地価格2,000万円、建物価格3,000万円)
経過年数:7年
構造:木造
譲渡費用:189万円(仲介手数料186万円、印紙税3万円)
計算
減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
= 3,000万円 × 0.9 × 0.031 × 7年
= 585.9万円
取得費 = 土地購入価額 + (建物購入価額 - 減価償却費)
= 2,000万円 + (3,000万円 - 585.9万円)
= 4,414.1万円
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
= 6,000万円 - 4,414.1万円 - 189万円
= 1,396.9万円
4.所有期間ごとの譲渡所得税率で譲渡所得税を計算する
前節の例に引き続き、譲渡所得税を計算します(長期譲渡所得の税率を用います)。
所得税 = 譲渡所得 × 税率
= 1,396.9万円 × 15%
≒ 210万円
復興特別所得税 = 所得税 × 税率
= 210万円 × 2.1%
≒ 4.4万円
住民税 = 譲渡所得 × 税率
= 1,396.9万円 × 5%
≒ 69.8万円
税額 = 所得税 + 復興特別所得税 + 住民税
≒ 210万円 + 4.4万円 + 69.8万円
≒ 284.2万円
不動産売却で譲渡所得税がかかる場合の控除・特例
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ここでは、税金の特例について解説します。
申請については、売却した翌年の確定申告時(2/16~3/15)に必要書類を添付して申告を行います。
詳しい要件については、国税庁のホームページを必ずご確認ください。
居住用財産(マイホーム)売却時の3,000万円特別控除
一定の要件を満たすマイホームのことを、税法上、居住用財産と呼びます。
居住用財産の売却では、3,000万円特別控除が利用できます。
3,000万円特別控除を適用した場合の譲渡所得の計算方法は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 3,000万円
譲渡所得がゼロ円(マイナスもゼロ円とみなす)となれば、税金は生じないことになります。
・「3000万円控除」に関する記事はこちら 3,000万円控除とは?制度の概要、適用条件や具体的な計算方法も解説! |
特定の居住用財産(マイホーム)の買換え特例
一定の要件を満たす居住用財産の買換えを行うと、税金の繰り延べができる特例です。
繰り延べとは税金の先送りのことであり、将来、購入した物件を売却するときにさかのぼって課税される制度になります。
繰り延べの有無は、売却物件の譲渡価額と購入物件の取得価額の大小関係で決まります。
金額の関係 | 課税の有無 |
---|---|
譲渡価額>取得価額 | 課税される |
譲渡価額≦取得価額 | 課税されない(繰延される) |
買換えでは、売却物件には居住期間10年以上等、購入物件には床面積50平米以上等の細かい要件があります。
出典:国税庁|No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
所有期間が10年を超える場合の軽減税率
所有期間が10年超の居住用財産は、軽減税率の特例があります。
特例を適用した場合の税率は下表の通りです。
課税譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち6,000万円以下の部分 | 10% | 4% |
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち6,000万円超の部分 | 15% | 5% |
復興特別所得税の税率は、所得税に対して2.1%を乗じます。
出典:国税庁|No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
相続した不動産の場合の取得費加算特例
相続税を納税した人であれば、一定期間内に相続した不動産を売ると取得費加算の特例を利用できます。
取得費加算の特例を利用したときの譲渡所得の求め方は、以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 取得費に加算する相続税額 - 譲渡費用
取得費に加算する相続税額の求め方は、以下の通りです。
その者の相続税額 × |
その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の相続税評価額 |
その者の取得財産の価額+その者の相続時精算課税適用財産の価額+その者の純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額 |
取得費加算の特例を利用するには、主な要件として「その財産を取得した人に相続税が課税されていること」、「相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すること」等があります。
出典:国税庁|No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続した居住用財産(空き家)を売った場合の特例
相続した不動産のうち、一定の要件を満たした空き家を売ると3,000万円特別控除を適用できます。
相続空き家の3,000万円特別控除を適用した場合の譲渡所得の計算方法は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 3,000万円
相続空き家の3,000万円特別控除は対象が戸建てのみであり、マンションは利用できない特例になります。
また、戸建てのうち、1981年5月31日以前に建てられた建物が対象です。
売却に関しては、「相続の開始があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで(2023年12月31日まで)」という期限もあります。
建物を残して売る場合、その建物が現行の耐震基準を満たしていることが必要です。
現行の耐震基準を満たしていない場合、耐震リフォームをして売るか、もしくは取り壊して売ることになります。
出典:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
・「相続した家の売却に関する税金」に関する記事はこちら 相続した家を売却するときにかかる税金は?種類と計算式、節税について解説 |
1,000万円の特別控除
平成21年及び平成22年に取得した土地を譲渡した場合は、1,000万円の特別控除を利用できます。
1,000万円の特別控除を適用した場合の譲渡所得の計算方法は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 1,000万円
主な要件としては、所有期間が5年超であることが必要であり、取得時期も平成21年(2009年)1月1日から平成22年(2010年)12月31日までの間に購入した土地等が対象です。
出典:国税庁|No.3225 平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡したときの1,000万円の特別控除
この記事のポイント
- 譲渡所得税とはどんな税金ですか?
譲渡所得税という税金は存在しません。不動産売却時に生じる所得税や住民税、復興特別所得税のことを譲渡所得税と呼んでいる人が多いようです。
なお、譲渡所得とは、個人が不動産を売却したときに生じる所得の名称のことです。売却額のことではなく、利益を指します。
詳しくは「譲渡所得税とは」をご覧ください。
- 不動産売却で譲渡所得税がかかる場合に利用できる控除や特例は?
居住用財産(マイホーム)売却時の3,000万円特別控除、特定の居住用財産(マイホーム)の買換え特例、所有期間が10年を超える場合の軽減税率など、さまざまな控除や特例があります。
それぞれ適用条件があるので、国税庁のHPでご確認ください。
詳しくは「不動産売却で譲渡所得税がかかる場合の控除・特例」をご覧ください。
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