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隣地斜線制限とは?道路や水路との関係は?

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。

ざっくり要約!

  • 隣地斜線制限は、地盤面から20mまたは31m以上の部分で隣地境界線から斜線勾配による高さ制限を受けるという規制で、高層建築物のみが影響を受ける
  • 隣地斜線制限にはセットバックや高低差などの緩和措置がある

建物の形態規制の一つに、隣地斜線制限があります。
隣地斜線制限とは、隣地との境界周辺の日照や採光、通風を確保し、高い建物が建つことで生じる閉塞感を防ぐことが目的の規制です。

隣地斜線制限を受けると、場合によっては建物の上部が斜めに削られてしまうこともあります。
使いにくい建物を建てないようにするには、隣地斜線制限の存在も知っておくことが望ましいです。
この記事では、「隣地斜線制限」について解説します。

隣地斜線制限とは

隣地斜線制限とは、建物の高さ制限の一つです。
隣地の採光や通風を確保することと、高い建物が建つことで隣地へ環境悪化を与えることを防止するための規制になります。

イメージとしては、台形の形状の中に建物を収めなければならないという規制です。
建物の上部を斜めに削ることで隣地に太陽光が差し込みやすくします。

引用:2.建築制限(4)高さ制限(斜線制限)|船橋市

隣地斜線制限は、都市計画法で定められている都市計画区域および準都市計画区域内において適用される規制です。

建物の形態規制には、他に「道路斜線制限」と呼ばれるものもあります。

引用:2.建築制限(4)高さ制限(斜線制限)|船橋市

道路斜線制限の影響を受けている建物は、道路側の上部が斜めに削られて建っています。
一方で、隣地斜線制限の影響を受けている建物は、隣地側の上部が斜めに削られています。

道路側の上部が斜めに削られて建っている建物を見たことのある人はいても、隣地側の上部が斜めに削られている建物を見たことのある人は少ないかもしれません。

隣地側の上部が斜めに削られている建物が比較的少ないのは、道路斜線制限よりも隣地斜線制限の方が緩い規制だからです。

建築基準法における隣地斜線制限

隣地斜線制限は、地盤面から20mまたは31m以上の部分で、隣地境界線から斜線勾配による高さ制限を受けるという規制です。
一般的な住宅の階高を3mとすると、20mは6階以上、31mは10階以上の建物に相当します。
つまり、隣地斜線制限は高層建築物のみが制限を受けるという規制です。

建物の高さは2階建てなら6m、3階建てでも9mですので、一戸建てや3階建てアパートを建てるような人には影響はない規制ということになります。

隣地斜線制限の弊害は、斜線勾配によって高層階の部分が三角の形状に削られてしまうという点です。

斜線勾配の規制が生じる20mや31mの規制は、原則として用途地域によって決まります。
用途地域とは、地域ごとに建築可能な建物用途を定めた規制のことであり、住居系と商業系、工業系の3つに大別されています。

地盤面から20mの高さから斜線勾配の制限を受けるのは、住居系の用途地域です。
20mからの斜線勾配では、建物の形状を隣地境界線から高さ方向1.25、水平方向1の直角三角形の内側に収める必要があります。

一方で、31mの高さから斜線勾配の制限を受けるのは、住居系以外(商業系・工業系)の用途地域です。
31mからの斜線勾配では、建物の形状を隣地境界線から高さ方向2.5、水平方向1の直角三角形の内側に収める必要があります。

いずれも水平方向は1の直角三角形ですので、高さ方向が1.25の場合と2.5の場合では、1.25の方が勾配の斜度はきついです。
そのため、20mの高さから影響を受ける住居系の用途地域の方が、隣地斜線制限が厳しいといえます。

隣地斜線制限は、隣地の採光や通風を確保することや高い建物が建つことで隣地へ環境悪化を与えることを防止することが目的でした。
住居系の用途地域では、住環境を守る必要性が高いため、隣地斜線制限が厳しくなっているのです。

なお、建物の敷地が住居系の用途地域と住居系以外の用途地域にまたがっている場合には、それぞれの地域の規制が適用されます。

隣地斜線制限が適用される地域例

隣地斜線制限が適用される用途地域と、それぞれの立ち上がりの基本高さと勾配の関係を示すと下表の通りです。

用途地域基本高さ勾配
第1種中高層住居専用地域
第2種中高層住居専用地域
第1種住居地域
第2種住居地域
準住居地域
H>20m 1.25
H>31m※ 2.5※
近隣商業地域
商業地域
準工業地域
工業地域
工業専用地域
H>31m 2.5
無指定 H>20m 1.25または2.5※
H>31m※

※:特定行政庁が都市計画審議会の議を経て定めます。特定行政庁とは建築主事と呼ばれる建築専門の役人が配置されている比較的大きな自治体のことです。

用途地域は全部で13種類ありますが、以下の3つの用途地域では隣地斜線制限は適用されません。

【隣地斜線制限が適用されない用途地域】

  • 第1種低層住居専用地域
  • 第2種低層住居専用地域
  • 田園住居地域

上記の3つの用途地域には、10mまたは12mの絶対高さ制限が存在します。
隣地斜線制限は、隣地境界線から高さ20mまたは31mを超えた部分に適用される規制であることから、10mや12mの絶対高さ制限がある用途地域には適用する必要がないのです。

各用途地域に関する詳しい内容に関しては、以下の記事をご参照ください。

隣地斜線制限の計算方法

隣地斜線制限の計算方法を解説します。

隣地斜線制限の基本計算式

隣地斜線制限による高さを求める基本計算式は以下の通りです。

(住居系の用途地域)
20m + 1.25×L

(住居系以外の用途地域)
31m + 2.5×L

Lは、高さを求める当該部分から隣地境界線までの水平距離です。

具体的な計算シミュレーション

住居系の用途地域を例に、高さのシミュレーションを行います。

隣地境界線から0m(L=0)離れた場所の高さ制限
高さ = 20m + 1.25×0
   = 20m

隣地境界線から1m(L=1)離れた場所の高さ制限
高さ = 20m + 1.25×1
   = 21.25m

隣地境界線から2m(L=2)離れた場所の高さ制限
高さ = 20m + 1.25×2
   = 22.5m

上記の例では、高さは隣地境界線上が20m、隣地境界から1m離れると21.25m、隣地境界から2m離れると22.5mとなっており、隣地境界から奥に向かうほど高く建てられることがわかります。

つまり、隣地境界から奥に向かって勾配を付けていけば建物を高くすることができ、建物は台形上の形態規制を受けているということになります。

隣地斜線制限の緩和措置とは

この章では、隣地斜線制限の緩和措置について解説します。

セットバックによる緩和

建物が隣地の境界線から後退(セットバック)して建っている場合には、隣地斜線制限が緩和されます。

隣地斜線制限は、隣地境界線から20mまたは31m以上の部分で斜線勾配による制限を受ける規制でした。

立ち上がりの起点は原則として隣地境界線ですが、仮に立ち上がりの起点が隣地境界線の外側にずれてくれると斜線勾配の影響が和らぐことになります。

セットバックによる緩和とは、この立ち上がりの起点を隣地境界線に外側にずらすことで斜線勾配を和らげるという原理を使った緩和です。

高さ20m(31m)超の外壁面の部分が敷地境界からXm後退して建っている場合、立ち上がりの起点は隣地境界線からXm外側にずれた部分となります。

敷地の外側にXmずれた部分は「みなし境界線」とよばれ、斜線勾配はみなし境界線から立ち上がった20m(31m)超の部分から適用されます。

高低差による緩和

対象地が隣地よりも著しく低い場合、高い建物を建てても隣地に与える高さの影響は弱まります。
そのため、隣地よりも著しく低い土地の場合には、隣地斜線制限の緩和規定があります。
緩和規定が適用されるのは、隣地の地盤面より1m以上低い土地が条件となります。

具体的には、隣地との高低差から1mを差し引いた値を2分の1にした部分を地盤面とみなすという緩和です。

斜線勾配が20m(31m)よりも少し上から始まることになりますので、斜線勾配が緩やかになります。

公園等に隣接する場合の緩和

敷地が公園や広場、水面(水路・川)、その他これらに類するものに隣接する場合は、境界線の位置の緩和を受けることができます。

セットバックによる緩和と同様に、隣地の外側にみなし境界線を設けることができるという規制です。

公園等がある場合、みなし境界線は公園等の幅の2分の1だけ外側とすることができます。

その他の斜線制限

その他の斜線制限について解説します。

道路斜線制限

道路斜線制限とは、道路周辺の日照や衛生、安全性等を確保するため、建築物の高さを一定勾配の斜線の内側に収めなければならないという規制のことです。
道路斜線制限の影響を受けると、道路側に面した部分の建物の上部が斜めに削られる形となります。

建物の上部が斜めに削られることで、太陽光が道路に差し込みやすくなり、道路が薄暗くなることを防ぎます。

道路斜線制限では、斜線勾配の起点が前面道路の反対側境界線上となり、高さの起点は道路の中心線上の高さとなります。
道路の中心線上の高さとは、少しわかりにくいですが、仮に道路が完全に平坦だとしたら道路と同じ水平面から斜線勾配が始まるということです。

隣地斜線制限では、斜線勾配の起点が20mまたは31mという高さでした。
それに対して、道路斜線制限では、斜線勾配の起点がほぼ0mとなっていますので、斜線勾配の影響が強くなります。

道路斜線制限の斜線勾配は、住居系の用途地域が原則として1.25、住居系以外の用途地域が1.5です。
住居系以外の用途地域の斜線勾配は、隣地斜線制限よりも道路斜線制限の方が厳しくなっており、道路斜線の方が建物形態に強い影響を与える規制であるといえます。

北側斜線制限

北側斜線制限とは、住居系の用途地域において日照を確保するために建物の北側の高さを制限した規制です。
北側斜線制限の影響を受けると、建物の北側が斜めに削られることになります。

自分の土地の北側は、北側の隣地にとっては南側です。
建物の北側を斜めに削ることで、北側の隣地に南側からの太陽光が差し込みやすくなります。
つまり、北側斜線制限とは、北側の隣地の日照を確保するための規制です。

北側斜線制限も隣地斜線制限と同様に一定の高さ以上から斜線勾配の形態が生じる規制となります。

第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域、田園住居地域の3つの用途地域では5mの高さを起点に1.25の斜線勾配の制限を受けます。

一方で、第1種中高層住居専用地域と第2種中高層住居専用地域の2つの用途地域では10mの高さを起点に1.25の斜線勾配の制限を受けます。

この記事のポイント

隣地斜線制限とは?

隣地斜線制限とは、建物の高さ制限の一つです。

隣地の採光や通風を確保することと、高い建物が建つことで隣地へ環境悪化を与えることを防止するための規制になります。

詳しくは「隣地斜線制限とは」をご覧ください。

建築基準法における隣地斜線制限とは?

隣地斜線制限は、地盤面から20mまたは31m以上の部分で、隣地境界線から斜線勾配による高さ制限を受けるという規制です。

一般的な住宅の階高を3mとすると、20mは6階以上、31mは10階以上の建物に相当します。

つまり、隣地斜線制限は高層建築物のみが制限を受けるという規制です。

詳しくは「建築基準法における隣地斜線制限」をご覧ください。

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