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経年劣化とは何年から?賃貸物件の場合はどうなる?判断ポイントを紹介

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。

ざっくり要約!

  • 経年劣化とは、時間の経過により建物や設備等に自然に発生した劣化や損耗のこと
  • 経年劣化を借主の原状回復とする有効な特約を締結している場合、経年劣化は原状回復の対象となる

経年劣化とは、建物や設備等の自然的な劣化・損耗等のことを指します。
経年劣化は、年数が経つと自然と生じる劣化であることから、原則として借主が退去時に負担する原状回復の対象外です。

賃貸物件では、退去時に借主に原状回復義務があることから、経年劣化についても理解しておくことが望ましいといえます。
経年劣化とは、一体どのようなものなのでしょうか。
この記事では、「経年劣化」について解説します。

経年劣化とはどういう意味なのか

経年劣化とは、時間が経ったことにより建物や設備等に自然に発生した劣化や損耗のことを指します。
具体的には、クロスや畳、フローリングの変色といったものが経年劣化に該当します。

クロスや畳の変色の原因は、日照等の自然現象によるものが多く、通常の生活で避けられないものです。
借主の原因によらず、時間の経過によって発生した劣化や損耗は経年劣化に該当します。

その他としては、設備機器が耐用年数の到来したことにより自然に生じた故障や、使用不能になったもの、壁に貼ったポスターや絵画の跡も経年劣化です。
自然に入ってしまったガラスの亀裂等も経年劣化に該当します。

通常損耗との違い

経年劣化と同様類似の言葉に通常損耗が存在します。
通常損耗とは、借主の通常の使用による損耗等のことです。

例えば、家具の設置によるカーペットのへこみ、冷蔵庫の後部壁面の電気焼けによる黒ずみ、クロスの画鋲の跡、エアコン設置のために生じたビス穴等が通常損耗に該当します。

経年劣化や通常損耗がなぜ話題になるかというと、経年劣化や通常損耗は退去時における原状回復の対象外だからです。

建物の劣化や損耗の原因には、以下の3種類が存在します。

【建物の劣化や損耗の原因】

  1. 経年劣化
  2. 通常損耗
  3. 借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等

上記のうち、原状回復の対象となるのは、原則として「借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等」です。

借主の故意・過失とは、わざと(故意)、もしくはうっかり(過失)によって壊したものを指します。

善管注意義務違反とは、例えば借主の不注意で雨が吹き込み、広がってしまったカビ跡等が挙げられます。

その他通常の使用を超えるような使用とは、禁煙物件であるにも関わらず煙草を吸ったことで生じてしまったクロスのヤニの跡等のことです。

「借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等」に関しては、借主は退去時に元の状態に復旧させる必要があり、これを原状回復と呼びます。

経年劣化や通常損耗は、原則として原状回復の対象ではありません。
ただし、賃貸借契約の特約で経年劣化や通常損耗を原状回復の対象としている場合には、例外的に対象となります。

経年劣化や通常損耗の原状回復を借主に負担させる特約が有効となるには、以下の3つの要件を満たしていることが必要です。

  • 特約の必要性があり、かつ、暴利的でない等の客観的、合理的理由が存在すること
  • 借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • 借主が特約による義務負担の意思表示をしていること

近年の賃貸借契約では、上記の条件を満たしたうえで契約が締結されているものも多いです。

有効な特約が締結されていると、経年劣化や通常損耗も原状回復の対象となってしまいます。

退去時は、経年劣化や通常損耗か否かを確認することが大切ですが、賃貸借契約書を再確認することも重要です。

賃貸借契約を締結したタイミングから時間が経っている場合、内容を忘れてしまっていることもよくあります。

そのため、まずは賃貸借契約書の原状回復の約定がどのようになっているかを確認することをおすすめします。

経年劣化は何年から該当するのか

経年劣化は、理論的には1年目から生じます。
住宅の仕上げ材や設備には、それぞれ耐用年数が定められています。
主な耐用年数は、以下の通りです。

耐用年数該当箇所
5年流し台
6年畳床、カーペット、クッションフロア、壁のクロス、エアコン等の冷暖房機器、ガスレンジ、インターフォン等
8年主として金属製以外の建具(書棚、タンス、戸棚、茶ダンス)
15年   便器や洗面台等の給排水・衛生設備、主として金属製の器具・備品

経年劣化は、借主の故意・過失で原状回復の対象となった場合にも影響します。

例えば、借主の不注意でクロスの一部を破ってしまったとします。
不注意でクロスを破った場合は、過失による損傷ですので原状回復の対象です。

しかしながら、破ってしまった時点でそのクロスを張り替えてから3年を経過している場合、借主が新品の代金を全額負担する必要はありません。

破ってしまった時点で既に3年分の経年劣化は発生しているわけですから、その分の修繕費用の負担は貸主となります。

借主は、あくまでも3年を経過した時点の価値のクロスに張り替えれば良いということになります。

賃貸物件の経年劣化とは

経年劣化とは、年数の経過による劣化や損耗等のことですが、全てのものが経過年数で経年劣化を判断されるわけではありません。

例えば、障子紙や畳表等は消耗品としての性格が強く、毀損の軽重にかかわらず価値の減少が大きいことから、経過年数を考慮して原状回復の負担の割合を決めるのになじまないとされています。

そのため、障子紙をわざと指で穴をあけた場合、借主は張り替え費用を全額負担するという考え方が通常です。

賃貸物件の経年劣化で、経過年数を考慮「しないもの」と「するもの」を示すと、下表のようになります。

経過年数を考慮しないもの経過年数を考慮するもの
畳表
フローリング
襖紙・障子紙
襖や障子等の建具部分および柱
鍵の紛失
借主が通常の清掃を実施していないことで生じたクリーニング費用
畳床・カーペット・クッションフロア(6年)
壁のクロス(6年)
流し台(5年)
冷暖房機器・ガスレンジ・インターフォン(6年)
主として金属製以外の建具(8年)
便器や洗面台等の給排水・衛生設備、主として金属製の器具・備品(15年)

経年劣化で見極めたいチェックポイント

経年劣化を見極める際のチェックポイントについて解説します。

バストイレ・キッチンなどの水回り

バスは、カビやシーリング(隙間の充てん剤)の劣化、タイル等の割れ、排水溝の詰まり等がチェックポイントです。

トイレは、悪臭やカビ、換気不良、金属部の青サビ、詰まり、便器や水洗タンクの水漏れ等がチェックポイントになります。

キッチンは、換気不良や錆、シーリングの劣化、排水溝の詰まりがないかを確認しましょう。

床・フローリング・畳

床はきしみや反りがチェックポイントです。
フローリングは、剥がれやめくれ、割れ等がチェックポイントとなります。
畳は変色やくすみ、カビ、ダニ発生、摩耗等がチェックポイントです。

壁紙

壁はクロスのカビやはがれがチェックポイントです。

外壁

戸建て賃貸のような賃貸物件では、外壁も確認を要するケースがあります。
外壁は、表面の色あせや錆、反り、ひび割れ、シーリングのひび割れ・浮き・剥がれ等がチェックポイントです。

その他設備

その他設備としては、例えばガス設備であればガス漏れやガス管の劣化が挙げられます。
電気設備であれば、作動不良や破損、漏電ブレーカー落ち、コンセントの破損等がチェックポイントです。

経年劣化に該当するか判断に迷ったら

経年劣化に該当するか判断に迷った際の解決手段について解説します。

国土交通省のガイドライン

原状回復に関してはトラブルが多いことから、国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 (以下、ガイドライン)を出しています。

ガイドラインは経年劣化や通常損耗だけでなく、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等に該当するものも解説しています。

例えば、家具の設置による床やカーペットのへこみは通常損耗ですが、引っ越し作業で生じたキズは借主の善管注意義務違反に該当します。
善管注意義務違反ですので、引っ越し作業で生じたキズは借主負担による原状回復の対象です。

ガイドラインでは典型的な事象や裁判の判例が例示列挙されていますので、該当するものがないか確認してみてください。

出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン|国土交通省住宅局

管理会社

ガイドラインは読み込むのが難しいため、まずは管理会社に相談することをおすすめします。
管理会社は賃貸借契約書についても把握していることが通常です。
経年劣化であっても、賃貸借契約で有効な特約であれば原状回復の対象となります。

消費生活センター

管理会社に相談しても納得がいかない場合、消費生活センターに相談するのも一つです。
特約が有効でないと思われるにも関わらず、貸主から過度な原状回復を要求された場合には、第三者の立場である消費生活センターに相談してみることをおすすめします。

経年劣化を抑えるには

経年劣化を借主の原状回復とする有効な特約を締結している場合、経年劣化は原状回復の対象となります。
そのため、有効な特約を締結している場合には、経年劣化は抑えた方が望ましいです。
この章では、経年劣化を抑える方法について解説します。

定期的にメンテナンスを行う

経年劣化を抑えるには、こまめに手入れをすることが効果的です。
掃除やほこり拭き等を行い、日常的に状態を観察しておくと変化に気付きやすくなります。

手入れには、乾拭きや水拭き、歯ブラシや粘着ローラーの使用等、部位に適した方法が存在します。
メンテナンス効果を上げるには、それぞれの箇所における適切な手入れ方法を調べてから行うことが望ましいです。

その他、通気や換気を定期的に行うことも、カビの発生を防ぐため、建物を長持ちさせる効果があります。

持ち家ならリフォームもおすすめ

持ち家であれば、自分でリフォームすると経年劣化を回避できます。
近年は、国がCO2削減に向けて住宅の省エネ化に取り組んでおり、断熱化等の一定の要件を満たす省エネリフォームを行うと補助金がでる場合があります。

住宅の断熱性能を挙げると、冷暖房費を削減できる点がメリットです。
リフォームに興味のある方は、省エネリフォームも検討していただければと思います。

この記事のポイント

経年劣化と通常損耗の違いは?

経年劣化とは経年によって自然に生じる劣化のことであり、通常損耗とは借主の通常の使用による損耗等のことです。

経年劣化や通常損耗は、原則として原状回復の対象ではありませんが、賃貸借契約の特約で経年劣化や通常損耗を原状回復の対象としている場合には、例外的に対象となります。

詳しくは「通常損耗との違い」をご覧ください。

経年劣化に該当するか判断に迷ったらどうする?

原状回復に関してはトラブルが多いことから、国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を出しています。

ガイドラインでは典型的な事象や裁判の判例が例示列挙されていますので、該当するものがないか確認してみてください。

そのほか、管理会社に相談する方法もありますが、もし管理会社に相談しても納得がいかない場合、消費生活センターに相談するのも一つです。

詳しくは「経年劣化に該当するか判断に迷ったら」をご覧ください。

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