ざっくり要約!
- 階段の寸法基準は蹴上げが上限値、踏面が下限値で定められている
- 建築基準法では、階段の安全を確保するために踏面や幅を計算する際の基準が設けられている
家づくりで重要な要素の一つに階段があります。
階段は建物の主要構造部の一部であり、平常時は建物内で上下を移動するために通路となるものです。
また、災害時は非難する上での重要な通路となります。
階段は災害時の避難通路にもなることから、適切な寸法を確保し安全面も考慮して計画する必要があります。
適切な階段の寸法とは、いったいどの程度を確保すれば良いのでしょうか。
この記事では、「階段の寸法」について解説します。
記事サマリー
階段の寸法基準とその重要性
最初に階段の寸法基準とその重要性について解説します。
階段の寸法基準と住宅における役割
住宅における階段の主な役割は、上下階へ移動するための通路です。災害時には避難通路としても機能します。
階段は住宅の中で、転倒や転落が起こりやすい場所です。そのため、階段は安全が確保された基準で設計される必要があります。
階段の安全性を決める要素としては、「幅」と「蹴上げ(けあげ)」、「踏面(ふみづら)」の3つがあります。
蹴上げとは、階段の一段の高さのことです。
踏面とは、階段の足を載せる板の寸法のことを指します。正確には、一段上の段鼻から対象段の段鼻までの寸法のことです。
段鼻とは、階段の踏み板の先端で少し出っ張った部分のことを指します。
建築基準法では、住宅の階段は「幅が75cm以上、蹴上げが23cm以内、踏面が15cm以上」という数値が基準として定められています。
階段の寸法基準は、蹴上げが上限値、踏面が下限値で定められている点が特徴です。
蹴上げは、高過ぎると急な階段となってしまい危険となります。
また、踏面が狭すぎると転落しやすくなってしまいます。
蹴上げは低く、踏面は広くした方が安全であるため、基準は蹴上げが上限値、踏面が下限値で定められているのです。
新築とリフォーム時の階段計画の違い
新築とリフォーム時の階段計画は「確認申請を必要とするか否か」で異なります。
確認申請とは着工前に行う図面審査のことで、これから建てられる建物が合法的であるかどうかを確認する手続きを指します。
建物を新築する場合には、原則として確認申請が必要です。
確認申請を通過するには、階段計画は建築基準法に定められた最低限の基準を満たす必要があります。
またリフォームの中でも、一定規模以上の増築を行うようなリフォームの場合、確認申請が必要です。
確認申請が必要な増築部分では、階段計画は建築基準法に定められた最低限の基準を満たす必要があります。
一方で、リフォームの中でもクロスの張り替えやバス・キッチンの交換等の一般的なリフォームの場合、確認申請は不要です。
そのため、確認申請を伴わないリフォームでは、既存の階段をそのまま利用することになります。
たとえば、建築基準法が適用される前に建てられた古い古民家の中には、まるで梯子のような急な階段がある建物も存在します。このような古民家をリフォームして使う場合には、階段もそのまま利用することが通常です。
古民家の階段の中には、「階段箪笥」と呼ばれる現代建築ではほとんど見られない階段もあります。階段箪笥とは、階段の側面が箪笥状になっており、階段下を収納スペースとして利用できる階段のことです。
階段箪笥があるような古民家では、リフォームで階段箪笥をそのまま残すことで味わいを演出することができます。
階段の寸法と建築基準法の関係
階段寸法と建築基準法の関係について解説します。
建築基準法における階段寸法の規定
建築基準法では、階段の寸法が用途によって定められている点が特徴です。
主な用途 | 階段・踊り場の幅 | 蹴上げ | 踏面 |
小学校 | 140cm以上 | 16cm以下 | 26cm以上 |
中学校、高等学校、物品販売店(床面積が1,500平米超)、 劇場、映画館、公会堂、集会場等の客用 | 140cm以上 | 18cm以下 | 26cm以上 |
地上階用(直上階の居室の床面積合計が200平米超)、 地階・地下工作物内用(居室の床面積合計が100平米超) | 120cm以上 | 20cm以下 | 24cm以上 |
住宅 | 75cm以上 | 23cm以下 | 15cm以上 |
上表以外の階段 | 75cm以上 | 22cm以下 | 21cm以上 |
特徴としては、住宅の基準は他の用途に比べると総じて緩いという点です。
たとえば、劇場や映画館等の不特定多数が集まる建物では、蹴上げが18cm以下、踏面が26cm以上となっています。
それに対して、住宅では蹴上げが23cm以下、踏面が15cm以上です。
基準だけを見ると、住宅の方が勾配は急で、足も踏み外しやすい構造の階段ができることになります。
住宅の寸法基準が緩いのは、住宅は基本的には住民という特定の人が利用する建物だからです。
災害が発生しても逃げる人が少数であることから、若干危険な構造の階段でも認められる形となっています。
一方で、物品販売店や劇場、映画館等の建物は、不特定多数の人が利用する建物です。
災害時に多くの人が慌てて逃げる可能性があることから、住宅よりも蹴上げは低く、踏面は広い基準が設けられています。
そのため、一般的には住宅の階段よりも、小中学校や不特定多数の人が集まる建物の方が安全な構造の階段となります。
なお、建築基準法では、劇場等の不特定多数の人が利用する施設や、病院や共同住宅等の就寝室を持つ施設では避難時の混乱が予想されるため、2以上の直通階段を設けなければいけないという規制があります。
直通階段とは、安全な避難階まで各階で途切れることなく続く階段のことです。
住宅でも共同住宅のように大きな建物では、階段の寸法だけでなく、2方向へ避難できる階段を設置しなければならないという義務があります。
安全と快適性を考慮した階段寸法のポイント
安全と快適性を考慮した階段設計について解説します。
階段の安全基準と踏面や幅の計算
建築基準法では、安全を確保するために踏面や幅を計算する際の基準が設けられています。
踏面に関しては、段鼻から段鼻までの距離を上から見たときの水平投影距離で測定します。
階段には、蹴込み(けこみ)部分が存在しますが、蹴込み部分は踏面には含みません。
蹴込みとは、階段の踏面と踏み板の重なったところより奥の平面方向の部分のことです。
階段の幅に関しては、原則として内法(うちのり)寸法で測定します。
内法寸法とは、壁の内側面を基準とした寸法のことです。
階段の両側の壁表面の内側から測定した距離が、階段の幅となります。
階段に手すりが付いている場合、手すりの突出が10cm以下であれば壁の内法寸法がそのまま階段の幅となります。
一方で、手すりの突出が10cm超の場合、手すりの突端から10cmまでの部分はないものとし、その部分から幅を測定します。
踊り場や手すり幅の安全性
踊り場に関しては、住宅では高さ4m以内ごとに設けなければいけないとされています。
直階段(直線状の階段)では、踊り場の踏幅が1.2m以上であることが基準です。
通常、住宅の階高は3m程度ですので、住宅の場合には踊り場が設けられていない階段も存在します。
また、手すりの目的は、姿勢保持と移動補助です。
建築基準法では、階段や踊り場の両側に側壁がある場合でも、少なくとも片側には実際に手で握れる手すりを設けなくてはならないとされています。
なお、階段の幅が3mを超える場合には、蹴上げが15cm以下、踏面が30cm以上の緩い勾配でない限り、階段中央に手すりが必要となります。
ただし、高さが1m以下の階段の部分には、この手すりの規定は適用されません。
階段寸法にかかわる階段昇降機と設置要件
階段昇降機とその設置要件について解説します。
階段昇降機の必要性と設置方法
階段昇降機とは、階段の昇り降りを補助するリフトのことです。
高齢者や身体障害者が暮らす家では、階段昇降機の設置が必要となることがあります。
階段昇降機を設置するには、階段の幅が75cm以上必要です。
建築基準法の階段幅の最低基準は75cm以上ですので、ほとんどの家で階段昇降機を設置することができます。
階段昇降機は、階段の壁にレールを固定し、そのレールに沿って昇降機を上下させる設置方法が一般的です。
高齢者や障害を持つ人々のための階段設計とは
高齢者や障害を持つ人にとっては、階段そのものが障害物となります。
自力で階段の昇降が可能な人であれば、壁の両側に手すりを設置することが望ましいです。
踏面には滑り止めを設置し、階段の勾配は極力、緩やかになるように計画します。
一方で、自力で階段の昇降が困難な人の場合には、ホームエレベーターを設置し、バリアフリーの設計を検討することも求められます。
現代住宅における階段のデザイントレンド
現代住宅においては、建築基準法の最低限の基準を遵守するだけでなく、高齢者に配慮された設計がトレンドとなっています。
高齢者への配慮とは「加齢等で身体機能が低下したときの住宅内の移動の安全性および介助の容易性を考慮する」ことです。具体的には、階段のみならず、寝室や浴室、通路の出入口などの移動の安全性や介助の容易性を考慮するために、手すりの設置、部屋の配置、段差の解消等を行うことが挙げられます。
近年は「住宅性能表示制度」ができたことにより、住宅性能評価書における高齢者対策が設計の目安となっています。
住宅性能評価で定められている階段の基準は、以下の3点です。
- 階段の勾配に関する基準
- 蹴込み、踏面、段鼻の基準
- 階段形式の基準
最も安全性の高い等級5では、以下のような要件となっています。
【等級5の階段の規定】
- 勾配は6/7以下、かつ、550mm≦蹴上げ×2+踏面≦650mm
- 蹴込みは30mm以下、蹴込み板設置
- 踏面に滑り防止のための部材を設ける場合は、踏面と同一面とする
- 踏面と蹴込み板を60度から90度の斜面で滑らかにつなぎ、段鼻を出さない
- 階段の幅は75cm以上、蹴上げは 23cm以下、踏面は15cm以上とする
- 高さが1mを超える部分には手すりを両側に設置し、手すりの高さは段鼻から70~90cm
階段の幅や蹴上げ、踏面の基準は建築基準法の基準と同じです。
また、建築基準法ではない「蹴込みの上限基準」が設けられている点が特徴となります。
なお、等級5では、転倒や転落等の事故の防止の観点から以下の3つの階段形式の使用を禁止しています。
【等級5で禁止されている階段形式】
- まわり階段(台形や三角形等の形状の踏面を含む階段)等の安全上問題があると考えられる階段形式(踊り場で転倒の危険性があるため)
- 最上段の通路等への食い込み(階段への転落の危険性があるため)
- 最下段の通路等への突出(廊下での転倒の危険性があるため)
住宅性能の評価における高齢者等配慮対策等級は、住宅ローンのフラット35や節税要件等のさまざまな場面で要求される等級です。
現代建築に求められる一般的な仕様になりつつあることから、今後もデザインに影響を与える基準になるものと予想されます。
この記事のポイント
- 建築基準法における階段寸法の規定は?
建築基準法では、階段の寸法が用途によって定められています。
たとえば、劇場や映画館等の不特定多数が集まる建物では、蹴上げが18cm以下、踏面が26cm以上となっています。それに対して、住宅では蹴上げが23cm以下、踏面が15cm以上です。
詳しくは「建築基準法における階段寸法の規定」をご覧ください。
- 現代住宅における階段のデザイントレンドとは?
建築基準法の最低限の基準を遵守するだけでなく、高齢者に配慮された設計がトレンドとなっています。
高齢者への配慮とは「加齢等で身体機能が低下したときの住宅内の移動の安全性および介助の容易性を考慮する」ことです。具体的には、階段のみならず、寝室や浴室、通路の出入口などの移動の安全性や介助の容易性を考慮するために、手すりの設置、部屋の配置、段差の解消等を行うことが挙げられます。
近年は「住宅性能表示制度」ができたことにより、住宅性能評価書における高齢者対策が設計の目安となっています。詳しくは「現代住宅における階段のデザイントレンド」をご覧ください。
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