ざっくり要約!
- 制振構造とは「地震時における建物への加速度や風による揺れを制御するためのダンパー等の装置を備えた構造」
- 制振構造、耐震構造、免震構造の分類の中では免震構造が地震に1番強い
建物の耐震性能を表す構造の種類には、大きく分けて制振構造と耐震構造、免震構造の3種類があります。
このうち、制振構造は都市部のオフィスビルによく見られる構造です。
制振構造はどちらかというと免震構造よりもマイナーなことから、制振構造についてよく知らない人も多いのではないでしょうか。
また、制振構造は認知度が低いこともあり、「制震」構造という誤字が浸透しているくらいです。
この記事では、「制振構造」について解説します。
記事サマリー
制振構造とは
制振構造とは、地震時における建物への加速度や風による揺れを制御するためのダンパー等の装置を備えた構造のことです。
揺れを制御する構造であることから、「制振」構造と記載します。
制振構造は「制振」が正しい表記ですが、耐震構造や免震構造と混同されて、「制震」構造と誤記されることが多いです。特に、近年はインターネット上で制震構造と誤記されている記事などが増えてしまいました。
インターネットで「制振構造」で検索すると、「もしかして制震構造」とこちらが怒られてしまう有りさまです。
制振構造は、「制振」と記載するからこそ、意味を理解できる構造となります。
超高層の建物や展望塔等の塔状の建物は、風の影響等で絶えず揺れています。
制振構造は、制振装置によって地震や風圧エネルギーを吸収して建物の揺れを低減し、主体構造が負担する地震力および風圧力を小さくする構造です。
制振構造は建物の揺れを制御する構造であることから、地震だけでなく強風に対する揺れも制御していることが特徴となっています。
制振構造のメリット
制振構造のメリットは、以下の通りです。
【制振構造のメリット】
- 軽くて柔らかい建物や塔状の建物に有効である
- 風揺れ対策にもなる
- 免震構造のようにクリアランスが必要ない
- 改修工事に適している
制振構造は、軽くて柔らかい建物や塔状の建物に有効であるという点がメリットです。
免震構造は高さと幅の比は3:1が望ましいとされていますが、制振構造はひょろ長い建物でも効果を発揮します。
ひょろ長い建物は風でも大きく揺れますが、制振構造は風揺れ対策にもなります。
また、制振構造は、免震構造に必要な建物周囲のクリアランス(隙間)が不要です。
免震構造は、一旦建物の揺れを大きく逃がすため、建物の外周部にクリアランスを設けなければならず、敷地に余裕がないと建てられない建物となります。
都市部のオフィスビルは、敷地めいっぱいに建てられることから、敷地に余裕がないことが多いです。
オフィスビルは建物がひょろ長く、かつ建物外周部にクリアランスを設ける敷地の余裕がないことから、制振構造が向いています。
そのため、オフィスビルでは、結果的に免震構造ではなく制振構造が多く採用されています。
さらに、制振構造は後から制振装置をつける方法でも実現できることから、改修工事にも適しています。
制振構造のデメリット
制振構造のデリットは、以下の通りです。
【制振構造のデメリット】
- 耐震構造に比べて建築費が割高になる
- 建物のデザインに一定の制約が生じる
- 免震構造よりも構造躯体が損傷する可能性がある
制振構造は、耐震構造に構造と比べると建築費は割高です。
壁内に制振ダンパー等の制振装置を埋め込むことから、建物のデザインに一定の制約が生じます。
また、構造躯体は耐震構造よりも損傷を少なくすることはできますが、免震構造よりは損傷を与えてしまう可能性があります。
制振構造と耐震構造・免震構造の違い
耐震構造とは、現行の建築基準法における耐震基準を満たしたうえで、建物自体の強度を上げ、地震の揺れに対抗する構造です。
免震構造とは、主に建物と基礎の間に免震装置を設置し、地震のエネルギーが建物に直接伝わらないようにする構造となります。
制振構造と耐震構造・免震構造の違いをまとめると下表のとおりです。
構造 | 耐震構造 | 制振構造 | 免震構造 |
建物の加速度 | 加速度は、上階ほど大きい | 加速度は耐震構造と免震構造の間の値 | 免震装置で地盤からの揺れを伝わりにくくし、加速度は各階とも小さい |
地震エネルギーの吸収 | 構造を損傷させて、エネルギーを吸収 | 主に各階のダンパーでエネルギーを吸収 | 主にダンパーでエネルギーを吸収 |
構造躯体等の損傷 | 大地震時は、構造躯体等の損傷を許容せざるを得ない | 構造躯体等の損傷を少なくできる | 構造躯体等の損傷は少ない |
制振構造と耐震構造の違い
耐震構造とは、建物の強度を増すことで地震力に耐える構造のことです。
建築基準法の規定に従って普通に建てれば、建物は少なくとも耐震構造となっています。
耐震構造は、建物の骨組みを強化することで地震に耐える構造です。
特に制振装置や免震装置等の特殊な装置は設けておらず、躯体の強さのみで地震に耐える仕組みとなっています。
耐震構造は、地震時に建物は揺れる構造となっており、その揺れも建物の上層階の方が大きいです。
一方で、制振構造は、耐震構造よりも上回る耐震性を有する建物となります。
制振構造は、制振装置で揺れを制御している点が特徴です。地震時に揺れる構造となっていますが、揺れは耐震構造よりは小さくなります。
制振構造と免震構造の違い
免震構造とは、建物に地震力が伝わりにくくするように基礎と建物本体との間に免震ゴムダンパーを設け、ゆったりとした揺れに変える構造方式のことです。
免震構造は、耐震構造や制振構造よりも優れた耐震性能を有しますが、地震時に免震層の上部が大きく移動するため、建物の外周部にクリアランスが必要となります。
免震ゴムダンパーを設置すると、建築費が上がるだけでなく、竣工後のメンテナンスも必要です。
また、免震構造の効果が十分に発揮されるのは、高さと幅の比が3:1の建物とされており、寸胴(ずんどう)な形状の建物が適しているとされています。
制振構造との違いは、地震時の揺れと、建築時と竣工後のコストです。
制振構造は耐震構造よりは揺れないものの、免震構造よりは揺れます。そのため、免震構造よりは地震時に躯体構造が損傷する可能性はあります。
建築時と竣工後のコストに関しては、制振構造の方が安くなることが一般的です。
制振装置は免震装置のような定期点検が不要となるため、ランニングコストを抑えることができます。
また、建物の耐震性能を上げる改修に関しては、免震構造よりも制振構造の方が適しています。
免震構造は建物の下部に免震装置を設けなければいけないことから、普通の建物を免震構造に改修するには莫大なコストがかかります。
それに対して、制振構造であれば壁面内に制振装置を付加することで改修工事をすることが可能です。
免震構造は新築時だけに採用されることが多く、制振構造は新築時も改修時も採用されるという違いがあります。
・「免震構造」に関する記事はこちら
免震構造とは?耐震・制振構造との違いやマンションと一戸建ての事例を紹介
どの構造が1番地震に強い?
制振構造と耐震構造、免震構造の分類の中では、免震構造が地震に1番強いです。
制振構造は2番目に強い構造となります。
また、建物の耐震性を表す指標には、耐震等級という分類も存在します。
耐震等級とは、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)で規定された評価方法により評価された建物の耐震性を表す指標のことです。
耐震等級は、1~3で表されますが、3が最も強い構造となります。
耐震等級は、等級1を建築基準法の最低基準とし、等級2が等級1の1.25倍、等級3が等級1の1.5倍の耐力を有する建物とする分類方法です。
耐震等級は制振装置や免震装置などとは一切関係なく、耐震構造や制振構造、免震構造といった分類とは全く異なります。
・「耐震等級」に関する記事はこちら
耐震等級は1・2・3でどれくらい違う?メリットや調べ方を紹介
制振構造の建物例
制振構造の建物例について解説します。
六本木ヒルズ
六本木ヒルズの森タワーでは、制振構造を取り入れています。
森タワーは地上54階にもなる超高層ビルです。
東日本大震災発生時でも、51階のレストランでは食器や花瓶は割れなかったという実績があります。
東京スカイツリー
東京スカイツリーでも、制振構造が取り入れられています。
東京スカイツリーでは、中央部の心柱(中央部に建てた柱のこと)の上部を「重り」として機能させた、制振システムを採用しています。
心柱上部を重りとする制御システムは五重塔に類似したものが存在しており、東京スカイツリーの制振システムは五重塔になぞらえて「心柱制振」とも呼ばれています。
制振構造とダンパー
制振構造では、建物の壁の中に制振ダンパーと呼ばれる制振装置が組み込まれていることが特徴です。
ダンパーによる制振効果
制振構造は、大地震であっても振動を70~80%程度低減することができるとされています。
制振ダンパーは、建物内に入ってきた地震力や風の力に対して、建物内部の設けられた機構により減衰させたり、増幅することを防いだりすることで建物の振動を低減させています。
制振構造は揺れるって本当?
地震時の制振構造の挙動について解説します。
制振構造が揺れる原理
制振構造は、建物内に入った地震力を吸収することで、地震時の揺れを小さくする構造です。
まったく揺れないということはなく、地震時もある程度揺れることが特徴となります。
制振タンパーは、揺れを感知しながら揺れを制御する原理です。
揺れを感知する制振装置には、「水やおもり等を強振させることで揺れを制御する装置」と、「地震動および風圧による振動をセンサーで感知して機械的に制御する装置」の2種類があります。
地震時は各階の制振装置が揺れを感知しながら揺れを制御していくため、制振構造は低層階と上層階が比較的同じような揺れ方をする傾向があることが特徴です。
安全性を確保する方法
制振構造は耐震構造よりは耐震性は優れているものの、ある程度の揺れは発生します。
そのため、安全を確保するには通常の建物と同様の対策が必要です。
具体的には家具は固定し、万が一倒れた場合に備えて背の高い家具は作業机やベッドに倒れない方向に設置することが安全を確保する方法となります。
その他としては、避難ルートを把握する、防災訓練に参加する、防災グッズを用意しておくといったことも対策です。
制振構造であっても安心というわけではないため、普段からできる基本的な地震対策は実施しておくべきといえます。
この記事のポイント
- 制振構造のメリットは?
制振構造には、軽くて柔らかい建物や塔状の建物に有効、風揺れ対策にもなる、免震構造のようにクリアランスが必要ない、改修工事に適しているといったメリットがあります。
詳しくは「制振構造のメリット」をご覧ください。
- 制振構造のデメリットは?
制振構造には、耐震構造に比べて建築費が割高になる、建物のデザインに一定の制約が生じる、免震構造よりも構造躯体が損傷する可能性があるといったデメリットがあります。
詳しくは「制振構造のデメリット」をご覧ください。
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