ざっくり要約!
- 風致地区とは都市の風致を維持するために定められた地区
- 風致地区には都市計画法を根拠とする規制があり、規制内容は各自治体の条例で定めている
自然環境を保護する規制の一つに、風致地区があります。
風致とは、「自然の景色のおもむきや味わい」のことです。
風致地区に指定されている地域では、風致を守るために宅地の造成や建築物の建築等について規制がかかっており、一定の行為を行う場合は許可が必要となります。
風致地区とは、いったいどのような規制なのでしょうか。
この記事では「風致地区」について解説します。
記事サマリー
風致地区とは都市の中の自然を守る地区のこと
風致地区とは、都市の風致を維持するために定められた地区のことです。
都市の風致とは、都市において水や緑等の自然の要素に富んだ土地における良好な景観のことを指します。
風致地区は、良好な自然的景観を形成している区域のうち、土地利用計画上、都市環境の保全を図る必要のある区域について定められることが特徴です。
例えば、東京都には「御茶の水風致地区」という風致地区があります。
御茶の水風致地区は、JR中央線快速「御茶ノ水」駅周辺の神田川(外堀)沿いが指定されています。
御茶の水風致地区は、かつては江戸時代に歌川広重が浮世絵で描いた風景でもあり、当時は漢文学者たちが茗渓として景勝を愛でていたエリアです。
御茶ノ水駅周辺は今でこそ都市化が進んでいますが、維持すべき都市における良好な自然的景観の一つと考えられており、風致地区に指定されています。
その他として、東京都内には「明治神宮内外苑付近風致地区」「石神井風致地区」「弁慶橋風致地区」「玉川上水風致地区」「多摩川風致地区」等の風致地区が存在します。
これらの風致地区内には、全て都市の中に水や緑等の自然的な要素が含まれていることが共通点です。
東京都の風致地区は主に川沿いの堤防や公園等が指定されていることが多いですが、一部には民有地も指定されています。
風致地区では、建築や木材の伐採等の風致の維持に影響を及ぼす恐れのある行為に規制がかかっている点がデメリットです。
風致地区に指定されている民有地を購入する場合には、どのような規制がかかっているかを事前に確認することが注意点となります。
景観地区とはどう違う?
類似の規制に、景観地区というものがあります。
景観地区とは、市街地の良好な景観の形成を図るために定められた地区のことです。
風致地区が「自然と一体になった」街並みの美しさを保護する地区であるのに対し、景観地区は「人工的な」街並みの美しさを形成するために定める地区であることが相違点となります。
両地区では守るべき街の美しさが異なり、風致地区は「自然美」、景観地区は「人工美」を守ることが目的です。
また、風致地区と景観地区では、根拠となる法律が異なります。
風致地区は都市計画法の規定であるのに対し、景観地区は景観法の規定である点も違いです。
規制に関しては、風致地区は厳しく、景観地区はやや緩めのイメージとなっています。
風致地区も景観地区も、条例によって建物の形態意匠に関する規制を設けることができます。
建物の形態意匠の規制がある場合、建物を建てるのに風致地区では都道府県知事もしくは市町村長の許可が必要ですが、景観地区では市町村長の認定で建てることができます。
許可とは元々禁止されていることに対して許しを得て行う行為ですが、認定とは禁止されていないことに対して支障がないという理由で認めてもらう行為のことです。
両者とも似ていますが、許可よりも認定の方がやや緩やかな制限となっています。
風致地区は美しさを「保護する地区」であり、景観地区は美しさを「形成する地区」です。
景観地区は建物を美しく建てることを前提としているため、建物を建てることに関して風致地区よりも規制は緩めとなっています。
風致地区で許可が必要な行為とは?
風致地区には都市計画法を根拠とする規制がありますが、規制内容は各自治体の条例で定めている点が特徴です。
したがって、規制内容は各自治内によって異なります。
以下に東京都風致地区条例を参考に、東京都の規制について紹介します。
出典:風致地区|東京都都市整備局
都市計画法 | e-Gov法令検索
建築物、その他の工作物の新築、改築、増築、移転
風致地区内で建築物その他の工作物の新築、改築、増築または移転を行う場合には、原則として知事または区市の長(以下、知事等)の許可が必要です。
ただし、例外として建築物またはその部分の床面積の合計が10平米以下であるもの(新築、改築または増築後の建築物の高さが8mを超えることとなるものを除く)の場合には許可が不要となります。
また、非常災害のため必要な応急措置として行う場合も、許可は不要です。
宅地の造成、土地の開墾、その他土地の形質の変更
風致地区内で宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更(以下、造成等)を行う場合には、原則として知事等の許可が必要です。
宅地とは、現在建物が立っている土地、もしくは建物の敷地のために使われる土地のことを指します。
風致地区は自然美を守るための地域であるため、原則として地区内の自然を壊して宅地を作ってもいけないということです。
ただし、例外として面積が10平米以下の宅地の造成等で高さが1.5mを超える法面を生ずる切土または盛土を伴わないものは、許可は不要となります。
木竹の伐採
木竹の伐採も、原則として知事等の許可が必要です。
ただし、例外として以下に該当するものは、許可は不要となります。
【許可不要な行為】
- 間伐、枝打ち、整枝等木竹の保育のため通常行われる木竹の伐採
- 枯損した木竹又は危険な木竹の伐採
- 自家の生活の用に充てるために必要な木竹の伐採
- 仮植した木竹の伐採
- 条例で定める一定の行為のために必要な測量、実地調査又は施設の保守の支障となる木竹の伐採
土石の採取、水面の埋立て等
土石の採取、水面の埋立て等も、原則として知事等の許可が必要です。
ただし、例外として以下に該当するものは、許可は不要となります。
【許可不要な行為】
- 土石の類の採取でその採取による地形の変更が第四号※の宅地の造成等と同程度のもの
- 面積が10平米以下の水面の埋立てまたは干拓
※面積が10平米以下の宅地の造成等で高さが1.5mを超える法面を生ずる切土または盛土を伴わないもの
建築物等の色彩の変更
建築物等の色彩の変更も、原則として知事等の許可が必要です。
建築物等の色彩の変更は、変更後の色彩が当該変更に係る建築物等の敷地およびその周辺の土地の区域における風致と調和することが求められます。
ただし、例外として建築物等のうち、屋根、壁面、煙突、門、塀、橋、鉄塔その他これらに類するもの以外のものの色彩の変更に関しては、許可不要です。
屋外における土石、廃棄物、または再生資源の堆積
屋外における土石、廃棄物、または再生資源の堆積も、原則として知事等の許可が必要です。
ただし、例外として屋外における土石、廃棄物又は再生資源の堆積で、面積が10平米以下であり、かつ高さが1.5m以下であるものは、許可不要となります。
風致地区の建築制限とは
風致地区では、建築予定の建物について風致の維持に有効な措置が行われることが確実と認められる場合は、許可を受けて建築することが可能です。
具体的に建築物の位置や規模、形態、意匠、建ぺい率および容積率が、敷地および周辺の土地の風致と著しく不調和でないと認められる場合に建築が認められます。
東京都では、許可を与える要件として、以下のような条件を定めています(東京都では知事が第一種風致地区および第二種風致地区という2種類の風致地区を指定しています)。
【東京都の風致地区における建築許可要件】
- 建ぺい率※が、第一種風致地区では20%以下、第二種風致地区では40%以下であること。
- 外壁またはこれに代わる柱の面から敷地境界線までの距離が、道路に接する部分では第一種風致地区では3m以上、第二種風致地区では2m以上であり、その他の部分では1.5m以上であること。
- 高さが、第一種風致地区では10m以下、第二種風致地区では15m以下であること。
- 位置、形態および意匠が当該建築物の敷地およびその周辺の土地の区域における風致と著しく不調和でないこと。
※建ぺい率とは、敷地面積に対する建築面積の割合のこと
建築面積とは、端的にいうと建物を上から見たときの面積のことを指します。
なお、建築物以外の工作物を建築する場合、以下の建築行為に関しては許可不要です。
【許可不要の建築行為】
- 風致地区内において行う工事に必要な仮設の工作物
- 水道管、下水道管、井戸その他これらに類する工作物で地下に設けるもの
- 消防又は水防の用に供する望楼及び警鐘台
- その他の工作物で建築に係る部分の高さが1.5m以下であるもの
都市計画法第58条第1項での規定
風致地区は都市計画法に定められている規定ですが、全国一律の規制が行われているわけではなく、自治体が規制を決めている点が特徴です。
その根拠は、都市計画法第58条第1項にあります。
都市計画法第58条第1項の条文を示すと、以下の通りです。
【都市計画法第58条第1項】
風致地区内における建築物の建築、宅地の造成、木竹の伐採その他の行為については、政令で定める基準に従い、地方公共団体の条例で、都市の風致を維持するため必要な規制をすることができる。
条例は、風致地区の面積が10ha以上で2以上の市町村の区域にまたがる場合には都道府県、その他の風致地区については市町村が定めるものとされています。
建物を建てる時には自治体ごとに申請が必要
風致地区の許可申請は、原則として10ha以上の風致地区は知事、10ha未満の風致地区は市町村長の許可が必要です。
東京都では、2014年4月1日より従来都で許可していたものを含むすべての許可権限が区市に移譲されました。
例えば、千代田区では千代田区の環境まちづくり部景観・都市計画課が申請窓口となります。
千代田区では申請にあたり申請書の他、配置図や求積図、平面図、立面図等の計画図書の添付が必要です。
申請の流れは、区に事前相談を行った後、区があらかたの内容を確認できたら申請し、審査で問題なければ許可が下ります。工事が完了したら、完了届出を出して手続きは終了です。
いきなり申請書を出すのではなく、区の担当者に必ず事前相談してから申請書を提出することがポイントとなります。
この記事のポイント
- 風致地区とは何ですか?
風致地区とは、都市の風致を維持するために定められた地区のことです。
都市の風致とは、都市において水や緑等の自然の要素に富んだ土地における良好な景観のことを指します。例えば、東京都には「御茶の水風致地区」という風致地区があります。
御茶の水風致地区は、JR中央線快速「御茶ノ水」駅周辺の神田川(外堀)沿いが指定されています。詳しくは「風致地区とは都市の中の自然を守る地区のこと」をご覧ください。
- 風致地区で許可が必要な行為とは?
風致地区内で建築物その他の工作物の新築、改築、増築または移転を行う場合には、原則として知事または区市の長(以下、知事等)の許可が必要です。
それ以外にも許可が必要となる行為があり、またその中で例外もあります。
詳しくは「風致地区で許可が必要な行為とは?」をご覧ください。
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