ざっくり要約!
- 不動産を売却して譲渡所得がプラスになることを「譲渡益」といい、所得について確定申告が必要になる
- 譲渡所得は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算する
不動産を売却しても利益が発生していない場合は、確定申告は不要です。前提として給与所得以外の所得が20万円以下の場合、確定申告は不要ですが、不動産を売却した際も同じことがいえるのでしょうか。
今回は譲渡所得があった場合、いくらから確定申告が必要なのか解説し、確定申告が不要なケースや譲渡所得税の計算方法、不動産売却で使える税金の特例も紹介します。
今年不動産を売却した方、もしくは売却予定の方は、来年の確定申告にそなえて今から準備しておきましょう。
記事サマリー
譲渡所得があったらいくらから確定申告すべき?
不動産を売却して譲渡所得が生じたら、確定申告が必要です。翌年に確定申告をして、譲渡所得税を納めなければなりません。
この章では譲渡所得とはどのようなもので、なぜ確定申告が必要なのか解説します。また確定申告が不要なケースも紹介しますので、自分は確定申告が必要なのか、ぜひ考えながら読み進めてみてください。
譲渡所得とは
譲渡所得とは、土地や建物などの資産を売却して得た所得のことです。
不動産だけでなく、株式や宝石、ゴルフ会員権なども対象になりますが、事業用の資産や山林を譲渡することで生じた所得は譲渡所得にはなりません。
譲渡所得の対象となる、おもな資産は以下のとおりです。
- 土地
- 建物
- 借地権
- 株式
- 金
- 宝石
- 骨董品
- 船舶
- 特許権
- 著作権
確定申告とは
確定申告とは、1月1日~12月31日までの1年間に得た所得とその所得に対する所得税額を計算し、翌年の2月16日~3月15日に税務署に申告して納税する手続きのことです。
会社員で1 カ所からのみ給与を得ている場合は、勤務先が給与から天引きして納税しているため、確定申告をする必要は原則としてありません。
確定申告が必要になるのは、自営業者や個人事業主のほか、不動産や株式などの資産を譲渡して譲渡所得を得た人です。
ちなみに確定申告が必要にもかかわらず申告を怠ると、追徴課税として「無申告加算税」が課され、納税期限までに納付しないと「延滞税」が発生します。
不動産の売却のタイミングによっては、確定申告まで1年近く期間が空いてしまいます。くれぐれも確定申告を忘れないように注意しましょう。
確定申告はいくらから?不要なケースとは
不動産を売却して譲渡所得がプラスになることを「譲渡益」といい、所得について確定申告が必要になります。
一方で譲渡所得がマイナスの場合を「譲渡損失」といい、原則的には確定申告は不要です。
しかしここで注意したいのが、課税対象となる譲渡所得が生じていなくても、3,000万円の特別控除など税金の特例を利用する場合は、その旨を確定申告する必要があるということです。
また譲渡損失が生じていて、その損失を給与などほかの収入と損益通算する場合も、やはり確定申告が必要になります。
会社員などの給与所得者が不動産を売却して、譲渡益が20万円以下になるケースでは、原則確定申告は不要です。
これは所得税に関するルールであり、住民税については自治体にて手続きする必要があります。
住民税を延滞した場合は、延滞税がかかります。不動産を売却したら、基本的には確定申告や手続きが必要だと心得ましょう。
・「不動産売却時に確定申告が必要なケース」に関する記事はこちら 不動産売却時に確定申告が必要なケースと確定申告の方法について解説 |
譲渡所得は売却金額ではない! 計算方法を解説
不動産を売却した金額はそのまま譲渡所得になるのではなく、譲渡所得は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算します。
つまり譲渡価額から、取得や譲渡にかかった経費を差し引くことができます。この章では譲渡価額と取得費、譲渡費用について詳しく解説します。
譲渡価額
譲渡価額とは、土地や建物の売却代金のことです。
固定資産税や都市計画税は1月1日の所有者が納税義務者になるため、残代金決済日に売主・買主間で固定資産税等を日割精算するのが一般的です。
この精算金は税金として納付することになりますが、実質的には収入になるため譲渡価額に加算して計算してください。
取得費
取得費とは、売却した不動産を購入する際にかかった費用のことです。
購入代金のほか、購入時に支払った仲介手数料や登録免許税、不動産取得税、印紙税などを取得費とすることができます。
また借主がいた場合で、立ち退き料や移転料を支払ったときは、立ち退きにかかった費用も取得費として計上できます。
相続した不動産の取得費は、被相続人の取得費を引き継ぐことになります。もし取得費がわからないときは、売却金額の5%を取得費として計算しましょう。
ちなみに取得費がいくらかわかっている場合でも、売却代金の5%を取得費にした方がお得なときは売却代金の5%を取得費とできます。
譲渡費用
譲渡費用とは、不動産を売却する際に発生した費用のことです。
不動産会社へ支払った仲介手数料や印紙税、測量した場合は測量費も譲渡費用にできます。
ほかにも広告量や鑑定料も譲渡費用とすることができますが、抵当権抹消にかかった費用や新居の購入代金は含めません。
取得費や譲渡費用として計上できる金額が大きければ、その分譲渡所得税を低く抑えることができます。忘れている費用がないか確認し、もれなく計上するようにしましょう。
譲渡所得による所得税と住民税の計算方法
譲渡所得に対して、所得税と住民税がかかります。
譲渡所得に税率を乗じて譲渡所得税額を計算します。不動産の所有期間によって税率が変わるので、売却のタイミングに注意しましょう。ここでは短期譲渡所得と長期譲渡所得について解説します。
短期譲渡所得
不動産を譲渡した年の1月1日において、所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」になります。
税率は所得税30%・住民税9%です。また2013年~2037年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%をあわせて納付することになります。
所有期間 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計税率 | |
---|---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 2.1%(0.63%) | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得
不動産を譲渡した年の1月1日において、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」になります。
税率は所得税15%・住民税5%です。また2013年~2037年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%をあわせて納付することになります。
所有期間 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計税率 | |
---|---|---|---|---|---|
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 2.1%(0.315%) | 5% | 20.315% |
税金を抑える特別控除・特例3つ
不動産売却に際して、税金を減額できる特例を3つ紹介します。適用を受けるためには、要件を満たす必要があり、翌年に確定申告をすることになります。
確定申告の時期になって焦ることがないように、特徴や条件を確認しておきましょう。
3,000万円特別控除
3,000万円の特別控除とは、マイホームを売ったときに最高3,000万円まで譲渡所得から控除できる特例です。
譲渡益が発生しても、この特別控除が適用されれば、譲渡所得税はかかりません。
所有期間に関係なく利用できますが、現在住んでいない場合は、転居して3年目になる年の年末までに売却する必要があります。
また建物を解体したときは、1年以内に売買契約を締結し、転居して3年目になる年末までに売却しなければなりません。建物や土地を一度賃貸してしまうと、適用を受けられなくなるので注意しましょう。
新居を購入する際に住宅ローン控除の利用ができず、また特別控除を含めて3年以内に税金の特例を3年以内に利用していた場合、3,000万円の特別控除を適用できません。
3,000万円の特別控除を利用しようとするときは、適用条件を満たしているか確認するようにしましょう。
買い替え特例
マイホームを売却して新居を購入する際に、一定の条件を満たすことで売却にともなって生じる譲渡所得税の納税を、次回の買い替え時まで繰り延べできる特例です。
つまり納税の時期を延期できるのであって、譲渡所得税が非課税となるわけではありません。
居住期間が10年以上のマイホームが対象で、住んでいない場合は転居して3年目になる年末までに売却する必要があります。建物を解体した場合は解体後1年以内に売買契約を締結し、転居して3年目の年末までに売却しなければなりません。
ほかにも新居の床面積が50㎡以上、土地の面積が500㎡以下などの条件があり、親族間の売買やマイホームの売買価格が1億円を超える場合は適用になりません。
3年以内に3,000万円の特別控除などほかの税金の特例を受けている場合は、買い替え特例は利用できません。適用条件に当てはまるのか、事前によく確認するようにしてください。
出典:No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例|国税庁
10年超所有軽減税率の特例
売却した年の1月1日に所有期間が10年を超えるマイホームについて、長期譲渡所得税に対する税率よりもさらに低い税率になる特例です。
課税対象となる長期譲渡所得金額の6,000万円以下については、所得税10%・住民税4%に軽減されます。
なお家屋を取り壊した場合は、解体した日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えていなければならず、現在住んでいない場合は転居して3年目の年末までに売却する必要があります。
3,000万円の特別控除と併用できますが、3年以内に税金の特例を受けていないことが条件になります。
所有期間 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計税率 | |
---|---|---|---|---|---|
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 2.1%(0.315%) | 5% | 20.315% |
10年超の軽減税率 (6,000万円以下の部分) | 10年超 | 10% | 2.1%(0.21%) | 4% | 14.21% |
出典:No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例|国税庁
・「土地売却時に受けられる9つの税金控除特例」に関する記事はこちら 土地売却時に受けられる9つの税金控除特例 |
ライターからのワンポイントアドバイス
不動産を売却して利益が発生したら、譲渡所得税がかかります。しかし自宅の場合は3,000万円の特別控除の適用を受けることができれば、譲渡所得がかからないケースが多いでしょう。
ただし、譲渡所得がかからないからといって、確定申告が不要なわけではありません。税金の特例を利用する場合は、かならず確定申告が必要になるのでご注意ください。
確定申告は、マイナンバーカードがあればスマートフォンでも申告できるe-Tax(国税電子申告・納税システム)の利用がおすすめです。
この記事のポイント
- 譲渡所得は不動産の売却金額ではないでしょうか?
不動産を売却した金額はそのまま譲渡所得になるのではありません。
譲渡所得は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算します。
つまり譲渡価額から、取得や譲渡にかかった経費を差し引くことができます。
詳しくは「譲渡所得は売却金額ではない! 計算方法を解説」をご覧ください。
- 税金を抑える特別控除にはどんなものがありますか?
税金を抑える特別控除の1つに、3,000万円の特別控除があります。
3,000万円の特別控除とは、マイホームを売ったときに最高3,000万円まで譲渡所得から控除できる特例です。譲渡益が発生しても、この特別控除が適用されれば、譲渡所得税はかかりません。
利用前に適用条件を満たしているか確認するようにしましょう。
詳しくは「税金を抑える特別控除3つ」をご覧ください。
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