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【個人事業主向け】土地売却の仕訳の方法を解説! 相談先も紹介

執筆者プロフィール

竹内 英二
不動産鑑定士

不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、住宅ローンアドバイザー、中小企業診断士の資格を保有。

ざっくり要約!

  • 事業用の不動産を売却したときの金額は譲渡所得の譲渡価額に該当する
  • 土地売却の仕訳で迷ったら税理士などに相談するのがおすすめ

個人事業主が事業で得た利益は、事業所得として税金が課税されます。
事業所得とは、農業や漁業、製造業、小売業、サービス業等の事業から生じる利益のことです。

ただし、個人事業主が不動産を売却して得た利益は、譲渡所得として税金が課税されます。
譲渡所得とは、土地や建物等の資産譲渡により実現した保有期間中の値上り益のことです。

個人事業主が土地を売却した場合、どのような仕訳をすればいいのでしょうか。
この記事では「土地売却の仕訳」について解説します。

土地売却の仕訳で押さえておきたい基本のルール

土地売却の仕訳で押さえておきたい基本のルール

不動産を売却したときは適切な会計処理が必要です。
最初に個人が土地を売却したときに、仕訳で知っておくべき基本ルールを4つ紹介します。

1.勘定科目は個人事業主と法人で異なる

個人の所得は、事業所得と譲渡所得、給与所得、退職所得、不動産所得、雑所得、山林所得、利子所得、配当所得、一時所得の10種類に分類されます。
このうち、個人が事業で得る所得が事業所得、不動産の売却で得る所得が譲渡所得です。

事業所得と譲渡所得の計算方法は、以下のようになります。

事業所得 = 総収入金額 - 必要経費
譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)

事業所得における総収入金額とは、いわゆる事業によって得られる売上のことです。
個人事業主が事務所や店舗等の事業用不動産※を売却した場合、その入金は本来の事業とは関係なく発生するため、事業所得の総収入金額には該当しません。
※:個人の不動産事業者が販売用のために仕入れた棚卸資産を除きます。

では、事業用の不動産を売却したときの金額はどうなるかというと、譲渡所得の譲渡価額に該当します。

譲渡価額とは、基本的には不動産の売却価額のことです。
取得費とは、不動産の簿価のことを指します。
取得費は、原則として土地は購入額、建物は購入額から減価償却費を控除した価額のことです。

減価償却とは、建物の取得原価を各会計期間に費用として配分する手続きのことです。
譲渡費用は、売却に直接要した費用になります。

個人事業主が事業用不動産を売却すると、事業所得ではなく譲渡所得として課税されるため、別途異なる計算が必要です。

事業用不動産の売却による入金は売上ではないため、売上といった勘定科目を使用しない点が特徴です。
仕訳に関しては、簿価に対して売却益と売却損が発生するか否かに基づいて処理を行います。

個人の場合、売却益が出た場合は事業主借、売却損が出た場合は事業主貸という勘定科目を使用します。

なお、不動産の売却収入を売上と分けて考えることは、法人も同じです。

法人がビル等の事業用不動産(不動産会社の販売用の棚卸資産を除く)を売却した場合、損益計算書上では特別利益(売却益)または特別損失(売却損)として計上されます。

特別利益や特別損失とは、経常利益(事業で得た利益のこと)を計算した後に加減される利益のことです。

2.簿価を基準とする

事業主借や事業主貸は、簿価を基準として計算されます。
簿価とは、貸借対照表に記載されている土地と建物の資産価額のことです。

貸借対照表とは、財務状態を表した表のことであり、期末時点における資産と負債、純資産の額が記載されている表になります。
個人事業主で65万円もしくは55万円の青色申告特別控除の適用を受けている場合には、貸借対照表が作成されているはずです。

貸借対照表では、原則として土地は購入額、建物は購入額から減価償却費を控除した価額が記載されています。

なお、貸借対照表が作成されていない場合には、譲渡所得を計算するために、別途取得費を求める必要があります。

3.仕訳の日付は引渡日か契約締結日のどちらかにする

不動産の取引は、売買契約日と引渡日が異なることが多いです。
売買契約日とは、売買契約を締結した日を指します。
引渡日とは、売買代金を受領し、所有権を移転する日のことです。
売買契約日と引渡日は、1カ月程度の期間が空くことが一般的となっています。

譲渡と取得の仕訳の日付は、引渡日とすることが原則です。
ただし、売買契約日を基準にすることもできます。

個人事業主の場合、会計期間が1/1~12/30であるため、契約締結日と引渡日が年をまたぐ場合、いずれかを選択することで有利または不利になるケースも考えられます。
有利や不利が生じるケースでは、契約締結日と引渡日のどちらを選択するかは慎重に決定することが望ましいです。

4.土地の売却益には消費税がかからない

売主が個人・法人に関わらず、土地を売却した場合は消費税が発生しないことがルールです。

一方で、事業用不動産を売却した場合、売主が個人であっても建物には消費税が発生します。

土地売却における経費の仕訳方法

土地売却における経費の仕訳方法

ここで、あらためて譲渡所得の計算式を示します。

譲渡所得 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)

この章では、譲渡所得を計算する上での土地売却における経費の仕訳方法について解説します。

仲介手数料

仲介手数料とは、不動産会社の仲介を通じて売却した場合において不動産会社に対して支払う報酬のことです。
仲介手数料は、売却に直接要する費用であるため、譲渡費用に該当します。

仲介手数料は不動産会社が受領できる上限額が決まっており、上限額の計算方法は下表の通りです。

取引額仲介手数料(別途消費税)
200万円以下取引額 × 5%
200万円超から400万円以下取引額 × 4% + 2万円
400万円超取引額 × 3% + 6万円

上記の計算式の中で「取引額」は、消費税を除いた金額のことです。
建物も売却する場合には、建物消費税を除いた売却額が取引額になります。

一方で、仲介手数料そのものには消費税が課税されます。
消費税が非課税である土地を売却した場合でも、仲介手数料は消費税の課税対象です。

固定資産税・都市計画税の精算金

固定資産税精算金とは、引渡日以降の固定資産税および都市計画税の負担を実質的に買主へ移転するための調整金のことです。

固定資産税および都市計画税の納税義務者は1月1日時点の所有者であるため、売却した年における引渡日以降の納税義務者は売主のままとなります。

しかしながら、引渡日以降は買主が固定資産税等を負担した方が合理的であることから、引渡日以降の固定資産税等を日割り計算したものを買主が売主に対して支払うことが商習慣となっています。

固定資産税精算金は、あくまでも売主と買主との合意でなされる金額調整であり、税務当局は関与していません。
税務当局からすると、固定資産税精算金は単なる値上げです。

そのため、固定資産税精算金を受領した場合には、譲渡価額に加算することとなっています。

譲渡価額 = 売却額 + 固定資産税精算金

繰上返済手数料・抵当権抹消費用

土地の売却と同時に借入金を返済した場合、繰上返済手数料や抵当権抹消費用が発生します。
抵当権とは、銀行がその担保物件から優先的に弁済を受けられる権利のことです。

繰上返済手数料や抵当権抹消費用は、売却に直接要する費用ではないと解されており、譲渡費用に含めることができない費目となっています。

そのため、繰上返済手数料や抵当権抹消費用は、譲渡所得の譲渡費用ではなく、事業所得の必要経費として計上することになります。

土地売却の仕訳の例

土地売却の仕訳の例

土地売却の仕訳の例について解説します。

土地を簿価より高く売却して利益が出たケース

簿価1,000万円の土地を1,100万円で売った場合の仕訳例を示すと、下表の通りです。

借方貸方
普通預金 1,100万円土地 1,000万円

事業主借 100万円

100万円の売却益が生じますので、勘定科目として貸方に事業主借が表記されます。

土地を簿価より安く売却して損失が出たケース

簿価1,000万円の土地を800万円で売った場合の仕訳例を示すと、下表の通りです。

借方貸方
普通預金 800万円土地 1,000万円
事業主貸 200万円

200万円の売却損が生じますので、勘定科目として借方に事業主貸が表記されます。

土地・建物を簿価より高く売却して利益が出たケース

簿価2,500万円(土地1,000万円、建物1500万円)の不動産を3000万円(土地1,200万円、建物1,800万円)で売った場合の仕訳例を示すと、下表の通りです。

借方貸方
普通預金 3,180万円土地 1,000万円
建物 1,500万円
事業主借 500万円
仮受消費税 180万円

預かり消費税に関しては、仮受消費税という勘定科目を使用します。
計算に用いた消費税率は10%です(消費税:180万円=建物1,800万円×10%)。

土地・建物を簿価より安く売却して利益が出たケース

簿価:2,500万円( 土地1,000万円、建物は1,500万円)の不動産を2,000万円(土地800万円、建物1,200万円)で売った場合の仕訳例を示すと、下表の通りです。

借方貸方
普通預金 2,120万円土地 1,000万円
事業主貸 500万円建物 1,500万円
仮受消費税 120万円

土地売却の仕訳で迷ったときの相談先

土地売却の仕訳で迷ったときの相談先

仕訳で悩んだときのおもな相談先は、以下が適切です。

  • 税理士
  • 最寄りの税務署
  • 国税庁の電話相談センター

普段から確定申告を顧問税理士に依頼している場合には、その顧問税理士に確認することが適切です。
顧問税理士がいない場合、確定申告に詳しい税理士を探して相談します。

規模の大きな自治体では、確定申告前の時期になると税理士による無料相談会を開催しているケースも多いです。
顧問税理士がいない場合には、無料相談会で税理士に直接確認するのが良いといえます。

また、申告する税務署に直接聞くのも一つの手です。
税務署に出向かなくても、国税庁の電話相談センターを利用すれば簡単な内容であれば回答してくれます。

なお、不動産会社は税金に関して誤った説明をしてしまうことを避けるため、税金に関する相談は受け付けてくれないことが多いです。
親切な不動産会社であれば、税理士を紹介してくれるケースもあります。

出典:国税に関するご相談について|国税庁

ライターからのワンポイントアドバイス

ライターからのワンポイントアドバイス 土地,売却,仕訳

土地売却の仕訳では、事業用不動産を売却した場合でも、個人事業主であれば譲渡所得に対して税金が課税される点が最大のポイントです。譲渡所得には、事業所得にはない固有のルールがあります。特に、譲渡費用は計上できる費目が限定的である点が特徴です。

普段慣れている事業所得とは異なる方法で計算しなければいけないことから、自力で申告しようとすると間違いやすいです。不動産を売却したときは、税理士等の専門家に相談することをおすすめします。

この記事のポイント

土地売却の仕訳の例は?

簿価1,000万円の土地を1,100万円で売った場合の仕訳例を示すと、「借方:普通預金1,100万円、貸方:土地1,000万円、事業主借100万円」となります。

よって100万円の売却益が生じますので、勘定科目として貸方に事業主借が表記されます。

詳しくは「土地売却の仕訳の例」をご覧ください。

土地売却の仕訳で迷ったときの相談先は?

仕訳で悩んだときは、税理士、最寄りの税務署、国税庁の電話相談センターなどに相談してみましょう。

また、親切な不動産会社であれば、税理士を紹介してくれるケースもあります。

詳しくは「土地売却の仕訳で迷ったときの相談先」をご覧ください。

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