狭い道路に面した土地に家を建てる場合「セットバック」が求められることがあります。セットバックとは、敷地の境界線を道路から一定の距離だけ後退させることです。
セットバックはどのようなケースで必要となり、どの程度後退しなければいけないのでしょうか。この記事ではセットバックの詳細について解説します。
記事サマリー
「セットバック」とは何か?
セットバックとは、接道義務を満たすために行う敷地後退のことです。
建物には「敷地が『幅員4メートル以上の道路』に『間口2メートル以上』接していないと、原則として建物を建てられない」という建築基準法上の義務があります。
この接道義務を満たすには、まず敷地に面している道路の幅員が4メートル以上であることが必要です。
しかしながら、現実には幅員が4メートル未満の道路も存在します。前面道路の幅員が4メートル未満の場合、接道義務を満たすための救済措置として設けられているのが「セットバック」です。
建築基準法では、4メートル未満の道路を以下の2種類に分けて定義しています。
道路名 | 内容 |
---|---|
42条2項道路 | 建築基準法施行前から存在する、幅員4メートル未満で特定行政庁※が指定した道路 |
42条3項道路 | 土地の状況により将来的に拡幅が困難とされた、幅員4メートル未満で特定行政庁が指定した道路 |
※特定行政庁とは「建築主事」と呼ばれる建築専門の役人が常駐している比較的大きな自治体になります。「市」は市自体が特定行政庁になっていることがほとんどですが、「町」や「村」は都道府県が特定行政庁になっていることが多いです。
「42条2項」「42条3項」というのは建築基準法の条(枝)番号です。少し分かりにくいですが、条(枝)番号がそのまま道路名となっています。
4メートル未満の道路には、42条2項道路と42条3項道路の2種類がありますが、このうちセットバックが必要となるのは42条2項道路に接している場合です。42条2項道路は「2項道路」もしくは「みなし道路」と呼ばれます。
セットバックによる後退方法には、次のような2種類があります。
2項道路の取り扱い | 後退方法 |
---|---|
道路を両側に広げられる場合 | 敷地後退部分は、道路の中心線から2メートル後退した部分となる |
道路が一方にしか広げられない場合 | 敷地後退部分は、道路の反対側の境界線から4メートル後退した部分となる |
「道路を両側に広げられる場合」とは、道路の反対側も宅地となっているケースです。自分が道路の中心線から2メートルしか後退しなくても、将来、道路の反対側の人が建物を建てる際、同じように道路の中心線から2メートル後退すれば、いずれは前面道路幅員が4メートル以上になります。
片や「道路が一方にしか広げられない場合」とは、道路の反対側が水路や崖になっているケースです。道路の反対側が水路などになっていると、自分の土地で建物を建てるタイミングしか道路幅員を4メートル以上にする機会がありません。そのため、道路の反対側の境界線から4メートル後退する必要があるのです。
「道路を両側に広げられる場合」において、前面道路が3メートルだったときの後退距離を考えてみましょう。
前面道路が3メートルの場合、道路の中心線は敷地境界から1.5メートルの部分にあります。セットバックは道路の中心線から2メートルの距離が必要となるため、後退距離は0.5メートル(=2.0メートル-1.5メートル)です。
次に「道路が一方にしか広げられない場合」において、前面道路が3メートルだったときの後退距離を考えます。
セットバックは道路の反対側の境界線から4メートルの距離が必要であるため、後退距離は1.0メートル(=4.0メートル-3.0メートル)です。
セットバックは、前面道路の幅員が最終的に4メートル以上になることを目標としています。「道路を両側に広げられる場合」は反対側の人と分担してセットバックできるため、後退距離は短いです。それに対して「道路が一方にしか広げられない場合」は道路の反対側の人とセットバックを分担できないことから、後退距離は長くなります。
セットバックが必要になる理由
セットバックが必要となる理由は、接道義務を満たすためです。狭い道路に面して建物を建てると、日照や採光、通風の確保がしにくくなります。また、消防や救急の活動用地、災害時の避難スペースとしても不十分です。
「『幅員4メートル以上の道路』に『間口2メートル以上』接しなければいけない」というルールは、火災時の対応を想定しています。
前面道路の幅員が4メートル以上あれば、なんとか消防車が現地の前にたどり着くことができます。また、間口が2メートル以上あれば消防車から消化ホースを引き込んで消火活動をすることも可能です。
日本は木造住宅が多いため、火災による延焼を防ぐ必要があります。建築基準法では、火災を広げないためのさまざまな規制が設けられており、セットバックも1つの火災対策といえます。
セットバック物件を購入するときの注意点
セットバック物件を購入するときの注意点について解説します。
有効敷地面積が小さくなってしまう
セットバック物件を購入すると、有効敷地面積が小さくなってしまう点がデメリットです。
後退部分は、道路管理者である行政庁に寄付するか、もしくは所有権はそのままにして使用権を放棄する「使用承諾」を行うかのいずれかになります。どちらにしても、所有権の有無にかかわらずセットバックした部分は使用できません。
また「道路を両側に広げられる場合」と「道路が一方にしか広げられない場合」を比較すると、セットバックの後退距離は「道路が一方にしか広げられない場合」のほうが大きくなります。
有効敷地面積を少しでも広くするには、「道路を両側に広げられる場合」の2項道路に接している土地を選ぶのが適切です。
さらに、自治体によっては確保しなければならない道路幅員が6メートルとなっているケースもあります。接道義務を満たすための道路幅員は原則として4メートルですが、地方の気候風土の特殊性や土地の状況により特定行政庁が必要と認め、都市計画審議会の議を経て指定された道路は、確保すべき幅員が6メートルとなります。
6メートル道路となると、セットバックの後退距離が長くなります。したがって、有効敷地面積を少しでも広くするには、確保すべき幅員が4メートル(6メートルではない)か確認することもポイントです。
セットバックした部分には建築できない
セットバックした部分は道路となるため建物を建築できません。また、建物だけでなく、庇や塀、開閉時の戸がセットバック部分に突き出すことも認められていないので注意しましょう。
また、セットバック部分は敷地面積に算入されません。そして敷地面積が小さくなると、連動して建物規模も小さくなります。なぜならば土地には次の規制があるからです。
・敷地面積に対する建築面積(端的にいうと、建物を上から見たときの面積)の割合を定めた「建ぺい率」
・敷地面積に対する延床面積(各階の床面積を合計した面積)の割合を定めた「容積率」
例えば、敷地面積100平方メートル、容積率100%の土地の場合、延床面積が100平方メートルとなるまで建物を大きくすることが可能です。
しかしながら、セットバックで10平方メートル削られると、敷地面積は90平方メートルとなります。容積率が100%であれば、セットバック後は延床面積も90平方メートルまでしか建てられないということです。
つまり、敷地面積が減ると建物面積も減ってしまうと覚えておきましょう。
売却しにくい可能性がある
セットバックを一度行えば、次の所有者がセットバックをする必要はありません。よって「セットバック物件だからまったく売れない」ということはないでしょう。セットバック部分の価値はゼロ円と評価されることが一般的であるため、寄付しても保有していたとしても、将来の売却価格には影響を与えません。
しかし、一般論として前面道路が狭い物件は日照や採光、通風の確保がしにくいことから、価値は低く売りにくいと言えます。
前面道路が狭い物件は「道路斜線」と呼ばれる規制の影響も大きく受けます。道路斜線とは、道路周辺の日照、採光、通風などの環境を確保するために建築物の高さが一定勾配の斜線の内側に収まるようにする規制のことです。
狭い道路に接している物件は、道路斜線によって建物の上部が斜めに大きく削られる可能性があり、建物の使い勝手が悪くなってしまいます。容積率を消化しきれないケースも多く、建築の制限が大きくなることも特徴です。
よって、将来売却するのであれば、セットバックの有無にかかわらず、狭い道路に面した土地の購入は避けたほうが良いといえます。
セットバックのメリット
セットバックのメリットは、あえて言えば道路幅員が広くなることで、日照や採光、通風の確保がしやすくなるという点です。
また、道路幅員が拡幅することで火災時に消防車が目の前まで駆け付けられるため、安全性も高まります。消防車だけでなく、救急車も呼びやすいです。
セットバック幅の計算方法
セットバック幅の計算方法について解説します。
計算方法の具体例
では、具体的な計算方法について解説いたします。
(条件)
前面道路の種類:2項道路 道路の状況:道路を両側に広げられる 道路幅員:3メートル 間口:5メートル |
(セットバック面積の計算)
両側の後退が可能なため、道路中心線から2メートル離れた部分が新たな敷地境界となります。 道路中心線は、1.5メートル(=3メートル÷2)です。 1.5メートルから2メートル後退するため、後退距離は0.5メートルです。 間口は5メートルであるため、セットバック面積は以下のように計算されます。 セットバック面積=0.5メートル(後退距離)×5メートル(間口) =2.5平方メートル |
セットバックの費用問題
セットバックの費用について解説します。
セットバックの費用は誰が払うのか?
誰がセットバックの費用を負担するかは自治体(道路管理者)によって異なります。自治体の費用で拡幅整備を行う場合もありますが、所有者の費用で拡幅整備を行うケースもあります。
所有者の費用で拡幅を行う場合は、助成金制度が設けられていることが多いです。助成金が受けられる要件も自治体によって異なります。整備後のセットバック部分を自治体に寄付することを要件としているケースも少なくありません。
セットバック部分は、保有していてもほとんど意味がありません。寄付して助成金がもらえるのであれば、寄付してしまうことをおすすめします。
固定資産税はどうなる?
セットバック部分には、固定資産税や都市計画税はかかりません。
まず寄付した場合は所有権がなくなるので、そもそも固定資産税や都市計画税が発生しないことになります。
また、仮に所有権を残していたとしても、道路敷(セットバックした場所)の部分の固定資産税や都市計画税は非課税です。非課税とするには、固定資産税・都市計画税非課税申告書を市町村(東京23区は都)に提出する必要があります。
この記事のポイント
- セットバックはどういったときに必要になる?
セットバックは、「建物は『幅員4メートル以上の道路』に『間口2メートル以上』接しなければいけない」という接道義務を満たすために生じます。
狭い道路に面した建物を建てると、日照や採光、通風の確保がしにくくなります。また、消防や救急の活動用地、災害時の避難スペースとしても不十分です。
そのため、前面道路の幅員が4メートル未満の場合、接道義務を満たすための救済措置としてセットバックが設けられているのです。詳しくは『「セットバック」とは何か?』をご確認ください。
- セットバック物件を買う際はどのようなことに注意すればいい?
セットバック物件を購入する場合、いくつか注意すべき点があります。
- 建物を建てる際の有効敷地面積が小さくなる
- セットバック部分は建物や塀を建てられない
- セットバック物件に限らず、狭い前面道路に面した土地・建物は売却しにくい
詳しくは「セットバック物件を購入するときの注意点」をご確認ください。
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