現代の生活環境において、夏の猛暑や地震などは住宅に及ぼす影響も大きく、「省エネ性能」「耐震性能」に興味を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では筆者が耐震診断等を通じて診てきた様々なクラックをご紹介します。現在お住いの住宅の変化に気づくことが安心して暮らせるポイントになりますので、種類を知ることでリフォーム時や中古住宅購入時の参考にしてください。
記事サマリー
クラックとは
クラックとは「ひび割れ・亀裂」のことを指します。住んでいる家の各所でクラックを見つけると不安になるでしょう。
中には放置すると構造体を傷め、耐震性に影響を及ぼしてしまう怖いクラックもあります。
クラックの種類
クラックの種類には「構造クラック」「開口クラック」「縁切れクラック」「ヘアークラック」「乾燥クラック」などが挙げられます。
それぞれの特徴についてご説明します。
構造クラックとは
「構造」と名のある通り、建物の安全性に影響するクラックを指します。
木造の場合は基礎コンクリート、鉄筋コンクリート造の場合は躯体全体に生じるクラックを指し、そのまま放置するとコンクリート強度が下がってしまう恐れがあります。
出典:見えないところで劣化は静かに進んでいます|一般社団法人マンションリフォーム推進協議会
目安としてクラックの幅が0.3ミリ以上の場合は補修が必要になります。
中古住宅購入時に依頼される「既存住宅状況調査技術者」のマニュアルでは幅0.5ミリ以上のクラック、深さ20ミリ以上の欠損が基準です。
日本コンクリート工学協会、補修・補強指針における建築構造物での補修要の防水性からみた基準0.2ミリ以上~耐久性からみた厳しい0.4ミリ以上の平均値0.3ミリ以上とするのが一般的です。
出典:コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針 2003|日本コンクリート工学協会(p.61)
専用ツールでクラック幅を測り、深さはピンを穴に刺して外壁表面までの長さを測定します。スケール上は0.5ミリに基準枠があります。
画像:筆者撮影
補修方法などは後半でご説明いたします。
出典:
既存住宅状況調査方法基準の解説|国土交通省
フラット35中古住宅適合証明かんたんガイド|住宅金融支援機構
開口クラックとは
窓や扉など開口部周りに斜めに発生するクラックで、構造クラック同様に危険なケースが多いです。開口部周りなので、雨水による外壁内部への浸水や室内への雨漏りに繋がることがあります。
長年の雨だれの汚れの部分にクラックが潜んでいることもあり、遠目では気づきにくいケースもありますので、窓から四方の角を目視すると見つけやすいです。
縁切れクラックとは
縁切れクラックとは、コンクリート打設(施工)やモルタル壁施工において、1期と2期など別日の施工で継ぎ目ができ、施工後は目立たないものの地震などで接続部分に入るクラックのことです。
クラック幅・深さによっては構造クラック同様に処置が必要です。
内装の石膏ボードもジョイント部分は隙間処理をしますが、振動で動くと繋ぎ目が割れ、仕上げクロスにクラックが入ります。
念のため内部の木造柱・梁に異常がないか専門家による確認があると安心です。
ヘアークラックとは
ヘアークラックは「ヘアー」というようにクラックの幅は髪の毛程度に小さく、コンクリート表面やモルタル外壁などに生じるクラックです。見つけた時点からすぐ建物に影響を及ぼすことはありません。
しかし、この時点で早期補修することは虫歯が神経に達する前に早期治療するのと同じで、後からの重大被害が起きにくくすることができます。
乾燥クラックとは
乾燥クラックは、コンクリート打設(施工)やモルタル壁施工において、完全に乾燥する前に水分が蒸発し発生するクラックです。
経年変化によるコンクリート内の水分蒸発でもクラックが生じ、駐車場の土間コンクリートなどで見られる現象です。
面積が大きいほど起きやすいので、誘発目地というあらかじめクラックが入る目地を細かく設けることで、他の部分のクラックを生じにくくする手法があります。
クラックの原因
クラックの原因としては主に「施工方法」「経年変化」「環境因子」「自然災害」によるケースがあります。
いくつか事例も交えてご紹介いたします。
施工方法による場合
・コンクリート打設(施工)の際、猛暑の中でコンクリート内の水分が蒸発してしまうケース⇒乾燥クラック
画像:筆者撮影
・コンクリート打設(施工)やモルタル壁施工において、1期と2期など別日の施工で継ぎ目があるケース⇒縁切れクラック
※施工業者の品質管理や施工管理が徹底されていれば防げる原因です。
経年劣化による場合
・コンクリート部分のヘアークラックから雨水混入や海沿いの塩害により内部の鉄筋が錆びて「爆裂破壊」を起すケース⇒構造クラック
・敷地内のコンクリート土間が長年の日照や紫外線を浴び、水分の蒸発・劣化に因るケース⇒乾燥クラック
・地盤沈下(建物の左右が不均等に沈下する不同沈下)により、基礎の通気開口部に圧がかかりクラックが入るケース⇒開口クラック
画像:筆者撮影
環境要因による場合
・アルカリ性のコンクリートが大気中の二酸化炭素と長年の化学反応で中性化し、内部の鉄筋が錆びて「爆裂破壊」を起すケース⇒構造クラック
(内部の爆裂がタイル横目地にクラックを誘発)
画像:筆者撮影
・紫外線や雨水により外壁(モルタル)の表面が劣化し、吸湿・乾燥を繰り返すことでクラックが入るケース⇒乾燥クラック
(横方向に入った乾燥クラック)
画像:筆者撮影
・洗面所でドライヤーなどをホーロー製の洗面ボウルに落としクラックが入るケース⇒ヘアークラック
自然災害による場合
・地震に因り建物が揺れ、基礎コンクリートや外壁(モルタル)にクラックが入るケース⇒構造クラックまたは開口クラック
(コンクリート面に貼られたタイルの構造クラック)
画像:筆者撮影
(木造コーナー柱付近のモルタル壁の構造クラック)
画像:筆者撮影
・地震に因り地下地盤の土が動き、地上部の土間コンクリートにクラックが入るケース⇒構造クラック
(建物に直接の影響はなし)
画像:筆者撮影
・地震に因り室内のクロス・石膏ボードが動き、継ぎ目にクラックが入るケース⇒縁切れクラック
画像:筆者撮影
クラックを見つけたら
建物の外周部においては、DIY補修をすると見た目のクラックは塞がっていても浸水が防げてないケースもあります。また、シーリング材などは補修箇所の材質によって変わりアクリル系・ウレタン系・シリコン系と違うので、DIYでの補修は選定が難しいです。
そのため工務店や設計事務所に診てもらうほうが安心です。
自分で対処する
石膏ボードの壁クラックといった屋内のクラックはDIYが可能な場所です。
また、便座は補修可能ですが、暖房便座の場合は電気配線があり水が入って漏電の恐れがあるので交換してしまうほうが安全です。
洗面ボウルのホーロークラックも補修キットが売られていますが、割れが生じている場合は専門業者による補修か交換をおすすめします。
メンテナンスの仕方
クラックの有無などは日々のメンテナンスというより、建物の経年変化を画像記録することが大切です。建物各所を定期的に多くの写真を撮り、「3年前はこの部分に何もなかったのにクラックを見つけた」という気づきが早期補修に繋がります。
また、外装修繕(リフォーム)を10年毎に屋根も含めメンテナンスする計画をたて、足場が必要な高所などは建築士や外壁業者に判断してもらうことをおすすめします。
補修の仕方
鉄筋コンクリート造の構造クラックは、表面上だけ補修しても鉄筋の錆びへの対策ができていなければ内部から再度クラックが生じてしまいます。
クラック部分を削り、鉄筋が錆びていれば防錆処理をしたうえで防水モルタルやコーキング補修する仕方になります。
(内部、爆裂箇所まで躯体を削り、錆び部分の処理をする)
画像:筆者撮影
(モルタルで補修をしタイル施工)
画像:筆者撮影
外壁のクラックは高所で見つけたりするので、足場など安全な作業スペースがポイントになり、素人がはしごなどで高所作業するのは危険です。
木造モルタル外壁クラック補修の手順としては下記の流れになります。
クラック周辺の清掃⇒プライマー塗布⇒シーリング充填⇒モルタルで表面補修⇒塗装
画像:筆者撮影
依頼して対処する
できれば構造クラックが大きく育つ前に対処したいものです。
ここでは依頼して対処する際の方法や工期・費用の目安について紹介していきます。
依頼先の選び方
まずは実績のある建物を施工した工務店・建築設計事務所などに相談するのが安心です。
施工業者を新たに探す場合の業種は防水工事業者や塗装業者になります。料金体系を分かりやすく表示している業者で、追加費用や保証があるか否かを契約前に説明してくれる業者を選びましょう。
工期の目安
部分外部足場設置から補修工事、仕上げ塗装工事等含めると3~7日が目安になります。
費用の目安
いろいろな補修方法がありますが代表的なものとして下記が挙げられます。
・シール工法(クラック部分にシールするだけ)
760円/メートル~
・エポキシ樹脂注入工法(クラック及び壁体内に穴をあけて薬液を注入)
1,500円/メートル~5,000円/メートル
・Uカットシール材充填工法(クラック部分を削りシールする)
1,500円/メートル~
※画像の転載を禁止いたします
この記事のポイント
- クラックにはどんな種類があるの?
クラックには「構造クラック」「開口クラック」「縁切れクラック」「ヘアークラック」「乾燥クラック」などの種類があります。 「構造クラック」「開口クラック」など建物の安全性に影響するものもあれば、「ヘアークラック」のようにすぐに影響があるわけではないものがあります。
詳しくは「クラックの種類」をご確認ください。
- クラックを見つけたらどう対処すればいいの?
建物の外周部においてはDIYでの補修で完全に対処することが難しく、工務店や設計事務所に診てもらうほうが安心です。
一方で石膏ボードの壁クラックなど、屋内のクラックについてはDIYでも十分に対処することができる場合があります。詳しくは「クラックを見つけたら」をご確認ください。
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