住宅の適温が心と体の快適性につながる
2019年07月29日
―旭化成建材快適空間研・白石所長に聞く
住宅の断熱性を高めることで得られる「あたたかい暮らし」の調査・研究を続けてきた旭化成建材の快適空間研究所は、不定期的に成果を公表しており、住宅の温熱性能と居住者の意識に関する直近の調査結果にも大きな反響を得ている。住宅の潮流は「ZEH」「人生100年時代」などにあるが、あたたかい暮らしで生活がどう変わるのか。白石真二所長に聞いた。
―あたたかい暮らしを研究テーマに据えた意図は。
白石氏 心にも体にも、懐にもあたたかい暮らしの実現に貢献したいと考えた。現状では国の指針や基準、ハウスメーカー各社による提案などが主に市場を動かしているが、徹底して消費者の目線に立って調査研究を行ってみようというのが始まりだ。一般の方になじみがない技術や性能数値などの話をいったん脇に置くと、心と体の快適性は「適切な温度ありき」という結論に行き着く。当研究所ではいかにエネルギーを使わずに適温を実現するかを追求している。
―あたたかい暮らしの効用は。
白石氏 市場調査によると、冬場に家事が億劫でなくなることや、寒くて使いにくい部屋が減り空間を有効活用できること、寒さによる入浴時のつらさが減ること、着衣と布団が減ることなどが上がった。冬場だけでなく、夏場にも多くのメリットがある。夫婦共働きの生活様式が浸透し、現代人は多忙になりつつある。仕事や生活の身体的ストレスを軽減し、快適に暮らせるあたたかい住宅の重要性は、ますます高まる。
―日本の住宅の断熱レベルは。
白石氏 欧州や米国などに比べると、全体的に低い。冬場のヒートショックで多くの高齢者が亡くなっていることや、多くの住宅に気温が低くて冬場に利用が困難な部屋があることなどがその証拠だ。ZEH化が進めば状況は変わるかもしれないが限界はあり、欧州などの水準に至るのは難しいだろう。
―なぜ欧米に追い付けないのか。
白石氏 高断熱住宅に住んだ経験を持つ人が少なく、住宅の断熱化に対する消費者の理解が追い付いていないためだ。調査では、女性や、断熱性の高い住宅に住んだ経験のある人の方が断熱化のメリットを良く理解していた。耐震性やデザインなどと異なり、実際に住んでみないと「あたたかい暮らし」で生活がどう変わるか想像しにくい。多くの人が冬に室内が寒く、夏は暑い環境で過ごしてきたため、それが当たり前になってしまっている。しかし今の断熱技術を持ってすれば、富裕層が住む邸宅だけでなく、一般的な住宅でも「あたたかい暮らし」を実現できる。欧州や米国では断熱性の高い住宅が当たり前のように普及している。そのことを日本でも多くの人に知ってもらい、快適な暮らしを手に入れてほしい。
―これから求められる住宅の姿は。
白石氏 断熱性が高い家ほど「光がたくさん入って明るい」傾向にあるとの調査結果がある。天井への吹き抜けや大きな窓などがあっても暖かく、適温が保たれる。暖かさが確保できているからこそ、そういった大胆な設計ができる。断熱性に主眼を置いて住宅を建てれば、設計やデザイン、使い勝手など様々な点で住宅のレベルを上げることができる。優良ストック住宅の業界基準である「スムストック」の普及も進む。築後50年が経過しても室内が暖かいというのは、不動産価値を維持する上で重要だ。住宅の断熱性を高めることは住宅産業が次の段階に進む基盤になると言える。
(提供:日刊不動産経済通信)