日銀の金融政策と不動産市場への影響(上)
2023年01月24日
◎変動金利の上昇リスクは現時点で限定的
―不動研・吉野薫主席研究員に見解を聞く
日銀が昨年12月に長期金利の変動幅上限を高め、住宅ローンの固定金利が上昇基調だ。現段階で不動産市場に顕著な影響はみられないが、各社は次の「サプライズ」を警戒する。日本不動産研究所の吉野薫主席研究員に見解を聞いた。上下2回に分けて掲載する。
―日銀の政策修正が不動産市場にどう影響する。
吉野氏 不動産市場への直接的な影響はほとんどないだろう。ただ金融政策の行方が分からなくなったということ自体が問題だ。不動産市場の活況は緩和的な金融環境が続くはずだという人々の期待感に支えられていた。しかし昨年12月の政策修正で、サプライズ的手法で方針が変わり得ることが市場関係者に認識された。
―直接的な影響がほぼないと考える理由は。
吉野氏 今回の政策修正の後に長期金利が上昇したが、政策金利を引き上げたわけではなく、金融機関の調達金利にはほぼ影響がない。長期金利が上がると住宅ローンの固定金利が上昇し、銀行や不動産会社などが発行する社債や投資法人債の発行金利も上がるため影響はゼロとは言えないが、そもそも住宅ローンの固定金利は今回の修正が原因で上がったわけではない。
―固定金利は近年、上昇を続けていた。
吉野氏 長期金利が19年夏頃に底打ちし、昨年12月の日銀の政策変更直前まで上がっていた。それに呼応して住宅ローンの固定金利も上昇していた。政策変更後、1月上旬までにさらに金利が上がったが、その全てが政策のせいというわけではない。日銀の措置が金利上昇を招いたというような一部の報道は誇張だ。
―社債や投資法人債の金利上昇は市況にどう響く。
吉野氏 それらは一定程度、市場に変化を及ぼすかもしれない。日銀はイールド・カーブが正常に戻ることが企業の金融円滑化につながると説明している。従来は8年もの国債の金利が10年ものよりも高かったため、7年の社債発行を企図した発行主体が10年にするといった経済合理性に反する判断もあり得た。ここは日銀の説明をいったん受け入れ、効果を見極めたい。
―企業らの投資配分が変わってきそうだ。
吉野氏 長期金利が上がれば債券価格は下がるから、株や債券、不動産などへの資金配分が変わる可能性はある。不動産への投資を一時的に控えて債権に投資したり、不動産のノンリコースローンやリートなどから国債に資金を移したりする動きも想定される。
―アセット別では住宅への影響が大きそうだ。
吉野氏 今回の措置で不動産会社の資金コストが上がる公算は小さいが、住宅ローンを固定金利で借りる消費者にはマイナスの影響が生じる。日本で住宅を買う場合、購入者の所得から支払い可能額を算出し、そこに金利を割り戻して住宅取得予算が決まる。取得予算の規模が小さくなり、所得が増える見通しもなければ、住宅を買う機運が高まることにはなりにくい。
―将来的に変動金利も上がってきそうだ。
吉野氏 住宅ローンの変動金利は金融機関の資金調達コストに関わるが、調達コストは政策金利に左右される。長期金利が上がっても、政策金利を動かさなければ変動金利の上昇圧力は極めて限定的だろう。昨年12月20日時点の条件設定であれば大きな影響はない。変動金利が低く抑えられているのは金融機関の競争の結果だ。金融機関が融資先を見つけにくい状況下で、住宅ローンは有望な貸し先だ。他行との競争が解消されず、政策金利の変更もなければ変動金利の上昇圧力は高まりようがない。こうしたことから変動金利の上昇リスクが差し迫っているとは言えないと考える。
(提供:日刊不動産経済通信)