事業承継税制とは?
基本的な仕組みや要件を解説
事業承継を行う際に生じる贈与税や相続税は、事業承継を検討する経営者や企業にとって大事な確認事項となっています。本コラムでは、事業承継を検討するにあたり大きな手助けとなる事業承継税制について掘り下げていきます。
もくじ
事業承継で活用できる事業承継税制
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことを指します。具体的には、経営者が保有している株式を、後継者に対して贈与、有償譲渡、相続などの方法で渡すことによって経営権を引き継がせます。
事業承継について詳しく知りたい方は以下記事を参考にしてください。
事業承継とは?事前に知っておきたい基礎知識|メリットや注意点
会社の経営権を手放すなんてまだ先の話だとお考えの方も多いことと思います。しかし、この後継者不足のご時世では、ご自身が会社を任せたいと思える後継者と出会える可能性は想像以上に低いものです。
それに気付いてからでは間に合わないことも多いため、まだ先の話だと思っている今のうちから準備に着手することをおすすめします。
また、後継者が決まったとしても、いざ株式という高価値なものを後継者に譲渡するにあたり税金が切っても切り離せない問題となります。最大で株価の55%もの税金が課されるところ、これが全額免除になる可能性があるとしたら、検討しない選択肢はないのではないでしょうか。
事業承継税制とは
事業承継税制とは、非上場株式を承継させる際に発生するはずの贈与税や相続税の納税の猶予、そして免除をも受けることができる制度です。
事業承継を推進するために国が設計している制度で、2009年から始まりました。その後2018年から開始された事業承継税制の「特例措置」は、これまでの事業承継税制でハードルになっていた複数の条件が緩和され、より使いやすい事業承継税制となりました。本コラムにおいて、事業承継税制とはこの特例措置を指します。
ただし、後述のとおり「特例措置」は有効期限が決まっており、2024年3月末までの申請が必要であるため、早目のご検討をおすすめします。
事業承継税制の仕組み
事業承継税制の仕組みを簡単に見ていきましょう。
まず、株式を経営者から後継者に対して無償または安価で譲った場合、それは贈与であると評価されます。
本来は、その贈与をしたタイミングで贈与税が発生しますが、事業承継税制の適用により、贈与税の納税の猶予を受けることができます。この時点では、まだ猶予されているだけですので、潜在的な納税義務は残っています。
一定の条件を満たす必要がありますが、その後会社が倒産したり、先代経営者(贈与者)や後継者(受贈者)が亡くなったりした場合には、事業承継税制の適用により、猶予されていた贈与税の支払いの免除を受けることができます。
また相続の場合は、相続が発生したタイミングで、本来相続税が発生しますが、事業承継税制の適用により、相続税の納税の猶予を受けることができます。先述の、受贈者に相続税がみなし課税された場合でも同様です。
同じく一定の条件を満たす必要がありますが、その後会社が倒産したり、後継者(相続人)が亡くなったりなどの場合には、事業承継税制の適用により、猶予されていた相続税の支払いの免除を受けることができます。
事業承継税制が制定された背景
現在(2023年1月時点)で、全国の中小企業のうち、後継者が決定している会社は全体の10%にとどまり、後継者を決めたいがまだ決まっていない会社は倍の20%にのぼっています。また、すでに廃業を決めている会社は全体の57%ですが、この廃業を決めている会社のうち約55%は、後継者不在や地域性などの理由から消極的に廃業を選択している会社です。※1
このように数字で見ると、日本において事業承継推進の必要性が非常に高いということがあらためて良くわかります。そこで事業承継を推進するために国がおこなっている施策の一つが事業承継税制です。
※1 日本政策金融公庫総合研究所、2023年
中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)
事業承継税制を利用するための要件
事業承継税制を利用するためには、大概以下の要件が求められます。
- 会社に求められること
-
- ①法令上の中小企業者に該当すること
- ②非上場であること
- ③資産管理会社ではないこと(一定の要件を満たす資産管理会社は可)
- など
- 経営者に求められること
-
- ①過去に会社の代表権を持っていたこと
- ②承継の直前時点で、経営者とその身内あわせて50%以上の株式を保有しており、かつその身内のなかで保有株式数が最多であること
- ③贈与の場合、その時点までには代表を退任していること
- 後継者に求められること
-
- ①承継の時点で会社の代表権を有していること(相続の場合は相続後5ヵ月以内で可)
- ②承継の時点で18歳以上であること(相続の場合は不要)
- ③承継の日まで引き続き3年以上会社の役員であること(相続の場合は相続開始直前に役員であることなどでも可)
- ④承継の時点で、後継者とその身内あわせて50%以上の株式を保有することになり、かつその身内のなかで保有株式数が最多となること
シチュエーションによって上記以外の要件が求められる場合があるほか、充足性の判断が難しい要件もありますので、慎重に確認をしていただければと思います。
さらに、制度を利用して納税の猶予を受けたあとも、5年間の株式保有継続義務や、雇用確保要件などを満たさなければいけない点にも注意が必要です。
雇用確保要件とは、承継後5年間で会社の雇用の80%を維持しなければならないという要件です。ただし、特例措置により、正当な理由があれば80%を維持できなかった場合も許容されることとなりました。
もし、雇用確保要件が達成されなかった場合は、納税の猶予が取り消され、その時点で猶予された税金全額を納税しなければなりませんので注意が必要です。
事業承継税制に関連する税について
あらためて、事業承継税制を利用することで節税メリットを得られる二種類の税について解説します。
贈与税
贈与税とは、贈与により財産を取得したときにかかる税金です。
贈与額に応じて10%から55%の贈与税が発生します。最大税率は55%で、贈与額が3000万円を超えると適用されます。会社の全株式の評価額が3000万円を超えることは一般的にありえますので、最大税率の55%が適用されるケースが多くなります。
贈与税に関しては、相続時精算課税を利用(適用)することで税額を抑えられることが多いですが、特例措置により、親族関係にない後継者でも相続時精算課税を用いることができるようになり、利便性が向上しています。
相続税
相続税とは、主に相続や遺贈によって財産を取得したときにかかる税金です。
相続額に応じて10%から55%の相続税が発生します。
相続による事業承継の場合は、贈与による事業承継の場合と異なり、会社の株式以外にも不動産や有価証券なども含む相続額での算定となることや、相続人数や遺産分割の方法に応じて負担額の変動が生じるなどの違いがあります。
事業承継税制を活用するメリット
事業承継税制を活用するメリットは、最大55%の課税割合ともなる税金を全額免除しうるという点にあります。
会社の株式の評価額が高い場合、贈与税だけでも億を超える額となるケースがあります。後継者個人が現金を用意できない場合、事業承継は困難となります。これは、特に後継者を親族ではなく外部から探してくるケースにおいて散見される問題です。
事業承継税制を活用すれば課税額を0円とすることができるため、この問題をクリアすることができ、後継者探しの選択肢も広がります。
事業承継税制を活用するデメリット
メリットの大きな事業承継税制ですが、注意点もあります。
制度を利用するための要件が複雑で、全て充足しているかどうかの判断が難しい点に注意が必要です。中には「3年以上」「5年間」といった期間が求められる要件もあり、満たしていないと気付いた時点ではリカバリーが難しい可能性もあります。
また、相続に際して制度を利用する場合は、相続における遺産分割協議がうまくいかないと後継者に株式を集めることができず、事業承継税制の要件を満たすことができなくなる恐れがある点にも注意が必要です。
そこで、予め遺言書を作成して対策することが望ましいと言えます。特に、会社の株式や事業用不動産などが個人資産の大部分を占めるという経営者の方においては、後継者以外の相続人の遺留分にも配慮する必要がありますので、予め事業用不動産を会社に売却して個人資産の比率を調整しておくことや、中小企業経営承継円滑化法を用いて遺留分の計算時に算定基礎財産から会社株式を除外できるように準備しておくことなども有用です。
まとめ
事業承継は一つのプロジェクトとして多角的な視点で検討し、最適な形を目指す必要があります。
本コラムで解説した事業承継税制の利用も、その一項目として非常に有用です。ただし、活用するためには上記のような事前検討すべき注意点も多く、かつ現行の特例措置を利用するためには、2024年3月末までの申請(2027年末までの実施)が必要となっておりますので、事業承継税制を活用した実務経験が豊富な専門家へお早めにご相談されてみてはいかがでしょうか。
※当コラムは、著者個人の見解に基づくものであり、東急リバブルの公式発表や見解を表すものではございません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。