“ここでしか聞けない話”
不動産の価値を増加させる方法
〜賃料増額編〜
- 弁護士による資産価値向上セミナー
所有不動産の価値を最大限に引き出す方法を徹底解説。賃料増額から適正賃料算出まで、所有者の皆様の利益を第一に考えたノウハウをご紹介します。
動画もくじ
- 01:20
- 講師紹介
- 01:46
- 不動産の価値を増加させる方法として一般的に考えられるもの
- 04:41
- 実際の相談事例
- 11:20
- 賃料を上げるためには
- 19:41
- 不動産鑑定評価基準に基づく適正増加賃料額の算出方法
- 28:01
- 賃料増加の可能性の検討と適正賃料の算出
- 39:42
- 賃料増額可能性調査の重要性
- 44:42
- よくあるご質問
動画の要約
不動産の価値を増加させる方法とは?
一般的な方法として考えられるもの
・値上がりの期待できる土地を購入し、値上がりを待つ方法
土地の価格が上がる保証はなく、逆に値下がりの可能性もある。
上がるのも下がるのも市場次第という他人任せ。
→不確実性が高く、自発的に付加価値を付ける方法ではない。
・郊外に保有する土地にマンションを建て分譲する方法
宅地建物取引業の免許・莫大な資金が必要であり、開発に時間もかかる。また、今後高値での分譲が続いていくのか分からない。
→自発的に付加価値を付ける方法ではあるが、不確実性もある上に、そもそも実現させるハードルが高い。
法律家の立場から考える『不動産の価値を増加させること』とは?
本来その不動産の持つ価値が何らかの事情により
正当に評価されていない状態を解消するということ
<実際の相談事例>
貸室が10軒ある調布市のアパートを購入したが、
現在入居している賃借人の賃料が近隣相場の半分にしか満たないため、
そのアパートの価値も半分になってしまう
と不動産会社から説明を受けた。
→賃料を近隣相場並みに値上げできれば、正当に評価されていない状態が解消される。
利回り10%で収益還元すると・・・
<現在>賃料:100万円/月 年間収益:1,200万円
物件の価値は、1億2,000万円となる。
<賃料を近隣相場並みの2倍に値上げできた場合>
賃料:200万円/月 年間収益:2,400万円
物件の価値は、2億4,000万円となる。
賃料を上げるためのハードルは高い
土地や建物の貸し借りについて定められた借地借家法は、極めて賃借人に有利な法律になっている。賃料増額については、借地借家法32条に定められており、賃借人が任意に賃料増額に合意しない限りは、法的手続きを経る必要がある。
また、裁判となった場合、賃料増額が認められない。認めてもごくわずかの増額しか認められない判決が出ることも珍しくない。
- ※ 借地借家法32条1項
- 「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物借賃の額の増減を請求することができる。」
賃料を上げるためには?
賃料増額ができないのかを、冷静に、客観的に評価することが重要。
賃料増額可能性の客観的評価をするためには、分析的に調査をする必要がある。
賃料の増額を請求できる4つの前提条件と立証方法
以下の要因が、現行賃料の最終合意時点から上昇していることが前提条件
1. 土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減
土地についての固定資産・都市計画税額が最終合意時点から増加しているかを都税事務所からの税額通知書等で立証する。
※ 土地若しくは建物となっているが、建物についての固定資産税額は、減価償却により年々減少していくため、土地の固定資産税額のみが必要となる。
2. 土地若しくは建物の価格の上昇もしくは低下
対象地またはその近隣の基準地における直近の公示価格が、最終合意時点から増加しているかを立証する。
※ こちらも1と同様に土地若しくは建物となっているが、建物については、一般的に経年劣化により価値は下落していくため、土地の価格のみが必要となる。
3. その他の経済事情の変動
消費者物価指数などの公的な指数が上昇しているかを立証する。
4. 近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったこと
近傍同種の建物の借賃が最終合意時点から増加しているかを立証する。
ただし、銀座や表参道のような主要地域であれば、不動産関係業(調査会社)が毎年の推移を公表しているため、
最終合意時点から現在に至るまでの推移が立証できる可能性はあるが、他の地域での立証は、かなりハードルが高い。
不動産鑑定評価基準に基づく適正増加賃料額の算出方法
賃料増額を請求できる前提条件をクリアした上で、対象物件の近隣の賃料相場を調査する。
その上で、国土交通省が示している不動産鑑定評価基準にあてはめて適正増加賃料額を試算する。
不動産鑑定基準に規定する
「賃料鑑定手法」に示されている鑑定手法とは?
適正賃料を算出する上で、考え方の異なる「差額配分法」、「利回り法」、「スライド法」、「賃貸事例比較法」の4つの手法があり、それぞれの手法において、長所と短所が存在する。
・差額配分法
新規賃料と現行賃料との間で賃料を決定する手法。
賃貸借契約は継続的契約であるため、継続賃料の基本理念にかなっている。
具体的には、新規賃料と現行賃料との差額を、賃貸人と賃借人に割り振り、客観的な経済価値により求められる適正賃料を基礎としつつ、従前賃料が決定された際の契約当事者間の関係等の個別性を反映させて賃料を求める査定方法。
差額配分については、賃貸人と賃借人の要望を公平に受け入れ、2分の1ずつ割り振る、衡平差額配分法が一般的である。
長所:相対的に信頼性、規範性が高い
短所:経済変動の影響を受けやすい
・利回り法
前回合意時における純賃料利回りを基に、価格時点における賃料を求める手法。
基礎価格と純賃料の関連性を一貫させるのが当事者の意思であることが前提となる。
具体的には、元本価格に対する賃料による回収の割合と、元本価格に対する利回りが、新規賃料と現行賃料で等しくなるようにする。
長所:契約の個別性を反映できる
短所:変動の激しい時に従前の利回りを用いると、信頼性が劣る
・スライド法(スライド賃料)
従前賃料を尊重しながら、前回合意時点からの経済情勢の変化を勘案する手法。
賃貸借の継続性を考慮しつつ、経済指数など、客観的な経済情勢の変化を賃料に反映して算出する。
長所:客観性があり、わかりやすく合理的
短所:指数の選び方によって結論が左右される
・賃貸事例比較法(比準賃料)
近隣の他の賃貸事例との比較を行う手法。
長所:実証的であり、説得性が高い
短所:適切な継続賃料としての賃貸借事例を得ることが容易ではない
※ 特に、大規模商業施設や特殊な地域の建物(観光地のホテルなど)の場合、個別性が非常に強く、適切な賃貸借事例を収集できない。
賃料増額の可能性の検討と適正賃料の算出
賃料増額可能性の検討についての具体的な事例
- ・所在地 東京23区の繁華街
- ・構造 鉄筋コンクリート造5階建
- ・テナント 1階にコンビニ 9年前から普通賃貸借
- ・現行賃料 月50万円
- ・新規賃料 月60万円 (近隣相場)
前提条件と立証について
現行賃料の最終合意時点から、4つの要因の一部は上昇しているが、一部はそうではないという場合もあり、必ずしも全ての要因が上昇しているとは限らない。このような場合は、4つの要因の状況を総合的に考慮し、判断することとなる。
・差額配分法による適正賃料の算出
(新規賃料 60万円 - 現行賃料 50万円)× 2分の1 = 5万円
適正賃料
= 現行賃料 50万円 + 5万円 = 55万円/月
・利回り法による適正賃料の算出
最終合意時点における利回りを10%と想定
最終合意時点における物件価格は、
現行賃料
50万円 × 12ヶ月 ÷ 利回り 10% = 6,000 万円
現在時点における当該建物の市場での物件価格が7,500万円だとすると、
適正賃料
= 現在物件価格 7,500万円 × 利回り 10% ÷ 12ヶ月 = 62.5万円/月
・スライド法(スライド賃料)による適正賃料の算出
最終合意時点から現在までの年数を10年、物価上昇率は毎年2%と想定
適正賃料
= 現行賃料 50万円 ×(1 + 物価上昇率2%)^(10年 ー 1) = 現行賃料
50万円 × 1.02 ⁹ = 59.75 万円/月
・賃貸事例比較法(比準賃料)による適正賃料の算出
適正賃料は、近隣相場である新規賃料の60万円/月をそのまま採用する。
・上記4手法を均等に配分し、適正賃料を算出する
適正賃料 = (55万円 + 62.5万円 + 59.75万円 + 60万円)÷ 4 = 59万3,125円/月
※ 判例の約半数がこの方式によるものとなっている
賃料増額によって不動産の価値はいくら上昇するのか?
試算した適正増加賃料のとおりに裁判所が認定してくれるかは、裁判所の判断になるが、
適正増加賃料額を基に対象物件の収益性が試算できるため、
当該不動産の価値増加額を試算できる。
上記の例の場合、利回り 10%で収益還元すると、
元々の不動産の価値
現行賃料
50万円 × 12ヶ月 ÷ 利回り 10% = 6,000万円
適正賃料での不動産の価値
適正賃料 59万3,125円 × 12ヶ月 ÷
利回り 10% = 7,117万5,000円
賃料増額によって上昇する不動産の価値は、
7,117万5,000円 -
6,000 万円 = 1,117万5,000円
※ 現行賃料50万円であったときの収益還元価格で換算すると、利回り1.58%相当の価値増加になる
賃料増額可能性調査の重要性
・そもそも、“裁判所”において、賃料増額のための前提条件が認定されるか
・前提条件がクリアした上で、果たしてどの程度賃料が増額される可能性があるか
これらが判明した上で、賃料増額請求を発注するかを決める必要がある。
そのためには、まずは賃料増額可能性調査が重要となる。
賃料増額可能性調査の概要
賃料増額可能性調査の内容
神田元経営法律事務所では、以下の内容の報告書を作成している。
- I結論要旨ー可能性ランクをA,B,Cで評価 試算立退料も表示する
- II調査対象物件の概要
- III調査のために必要な指標・資料
- IV調査方法
- Vあてはめ
- VI解決のための方針
賃料増額可能性調査に必要な資料
神田元経営法律事務所で調査するには、以下の資料が必要になる。
賃貸借契約書(契約当初から現在に至るまで)
建物の登記簿謄本
建物の固定資産税支払票控え(契約当初から現在に至るまで)
固定資産評価証明書(契約当初から現在に至るまで)
公示地の公示地価の推移がわかる資料
(HP「土地総合情報システム」国土交通省地価公示など。契約当初から現在に至るまで)
現在の近隣賃料相場がわかる資料
(募集チラシ、成約実績など)
近隣賃料相場の推移がわかる資料
(契約当初から現在に至るまで)
よくあるご質問
Q. 賃料の最終合意時点とは、どのタイミングを指すか?
A.裁判所の判断によるため個々のケースによるが、賃料について、賃貸人と賃借人で現在の賃料が適切であるかどうか、十分に議論がされた時点を最終合意時点とみなす判決も出たこともある。
一般的に、建物の賃貸借契約は2年ごとに更新されることが多いが、直近の更新時点が、最終合意時点とならない場合もある。2年というわずかな期間では、固定資産税や経済指標がほとんど変化しておらず、大きな賃料の増額が見込めないことも多い。
ただし、賃借人からは、直近の更新時点が最終合意時点だという反論はよく出てくる。
Q.賃料増額によって不動産の価値を引き上げられるのは、一棟収益物件だけではなく、区分マンションにも当てはまるか?
A.区分マンションにも当てはまる。
むしろ、一棟収益物件の収益性を厳密に算出する場合は、階ごと及び部屋ごとの賃料を出し、その積み上げが、一棟の物件全体の収益ということになるため、その中の一つである、区分だけを取り出して、賃料増額可能性を検討するということは、当然可能な話である。
※動画および本ページの内容は、公開日当時の法令等に基づいております。
講師プロフィール
神田 元
弁護士
神田元経営法律事務所
昭和56年京都大学卒業。住友商事株式会社勤務、Mazda Motor of America, Inc.などを経て、平成13年弁護士登録。
【立退き案件】【賃料増減案件】など、不動産に関する問題を中心に、企業法務や遺産相続、その他幅広い分野で、法律問題を解決している。