投資の目的を間違えてはいけない

公開日 2022.04.22
投資の目的を間違えてはいけない

私は長年、個人投資家の投資相談に係る仕事をやってきました。今までに相談を受けた件数は3万件以上で、中には数十億、数百億の資産を持つ富裕層の人達もいました。それらの人達は自分の事業だけでなく、投資で成功した人も多いのですが、投資について言えば、共通する特徴的なことがいくつかあります。その内の一つ、そして最も大事なのが「投資の目的を間違えていない」ということです。投資をするにあたって、最初にやるべきことは「Investment Policy Statement. (IPS)=投資方針書」を作成することだ、ということはよく言われることですが、実はこのIPSの前にやるべきことがあります。それがそもそも「投資の目的」をどう考えるのかということです。これは投資を始めるにあたって決めておくべき大前提と言ってもいいでしょう。

「投資の目的って言うけど、そんなもの“儲けること”に決まっているじゃないか」と思われるかもしれません。確かに誰もが儲けようと思ってするのが投資ですが、実は投資をする目的には大きく分けて二つあるのです。一つは『リスクを取って積極的に利益を得ようとすること』、そしてもう一つが『自分の資産の購買力を維持すること』です。この二つをはっきりさせておくことがまず大切なのです。なぜなら目的によって全くやり方や投資対象が異なってくるからです。この二つを曖昧なままに投資を始めると多くの場合、失敗します。

『積極的に利益を得る』ためにはリスクを取ることが不可欠です。言うまでもなく、この場合のリスクを取るというのは“損をする可能性”という意味ではなく、「結果の不確実性」のことを言います。したがってボラティリティの高い対象に投資を行うことになりますし、場合によっては投機も厭わないというケースだってあるでしょう。しかしながら超過利潤を得るための源泉がボラティリティですから、必然的にリスクを負わなければ高いリターンを得ることはできません。具体的に言うと、株式では信用取引やオプションなどの派生商品、不動産の場合は家賃収入よりもむしろ物件の値上がりを見込んで投資をするというようなケースがそれにあたるでしょう。また現物の株式への長期投資も、配当目的ではなく、その企業の成長性を見込んでグロース株投資をするのであれば、この範疇に入るだろうと思います。なぜなら成長株投資というのは必ずしも成功するとは限らず、往々にして企業が破綻してしまうケースもあるため、やはりそれなりにハイリスクということが言えるからです。

一方、『自分の資産の購買力を維持する』というのはどういうことかと言えば、将来起こり得るインフレに対応することを目的に投資を行うということです。我が国では長らくデフレの時代が続いていましたので、インフレと言ってもあまりピンとこない人も多いのですが、昨今の情勢を考えると、インフレは現実味のある話になりつつあると言えるでしょう。したがって、自分の持っているお金が将来、インフレによって購買力が減少することのないように投資をしておくということは大切なことです。

具体的には、有価証券で言えば、グローバルな分散投資ができるような投資信託やETFの購入、不動産であれば安定した家賃収入の見込める物件を所有するといったところでしょうか。実は長期にグローバル分散投資をおこなうというのは、一番簡単に実行できる投資方法で、しかも有効な方法だと思います。なぜなら資本主義というのは本質的に自己増殖するシステムですから、短期的なブレはあったとしても長期的には成長していくものだからです。もちろん個別株投資に比べればリターンはそれほど大きくはないでしょうが、何よりもインフレへの対応を最優先するのであればこういった方法が適していると思います。

また一切リスクを取りたくないということであれば、「物価連動国債」や「個人向け国債変動十年」を保有するという方法もあります。これは株式、投資信託、そして不動産のような収益は望めませんが、仮に今後物価が上昇した場合でも変動金利の仕組みになっているため、ある程度はインフレへの対応ができると思います。

もうお気づきかと思いますが、前者の『積極的にリスクを取る』投資のやり方は比較的年齢が若い、あるいはまだあまり資産を持っていない人に向いたやり方であり、後者の『資産の購買力を維持する』やり方は、ある程度以上の資産を保有している人に適したやり方と言って良いでしょう。もちろんかなりの資産家でもアグレッシブに思い切りリスクを取りたいというのであれば、それはそれで一向にかまいませんが、資産を持っている人にとっては、それをさらに増やすよりも税やインフレといった「資産にマイナスの影響を与えるもの」から自分の資産守ることが大事だと思います。

ややもすれば、こうした資産防衛については税金対策のみが考えられがちですが、同様にここからは物価上昇による資産の目減りに対しても注意を払うべきでしょう。ただ漠然と投資するのではなく、具体的な目的を整理し、はっきりさせてから行うことが投資を成功させる大前提になると思います。

※当コラムは、著者個人の見解に基づくものであり、東急リバブルの公式発表や見解を表すものではございません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。

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