”Withコロナ”の住宅市場と刻々と変わるユーザー意識
もくじ
コロナ禍が始まってから約2年 この間のユーザー意識はどう変わったか
資産デフレ期を脱して更なる成長軌道に乗るはずだった住宅市場
中山登志朗は、これまで20年以上に渡り、国内外の不動産市場の変化を観測・分析してきました。1990年代初めの不動産価格の高騰から、バブルの処理に追われた“失われた20年”の不動産デフレ期と2000年以降の新築マンション大量供給期、またリーマン・ショックを契機とした不動産市場のドラスティックな変化や、その後のアベノミクスによる超低金利政策で急回復・拡大し始めた住宅市況を実体験し、コロナ禍で再び大きく変化し始めた市場の動きを追い続けています。
また、地球温暖化に端を発する自然災害の激甚化も住宅市場に大きな影響を与えています。日本の住宅政策が“フロー(新築)からストック(中古)へ”と変わりゆく様も重要な分析テーマとなっています。
21世紀の住宅市場を簡単に振り返ると・・・
2000年以降の不動産・住宅市況は、1990年以降の失われた20年を取り戻し成長軌道に回復すること、少子化・高齢化を背景とした本格的な家余りの状況を変革すること、地震・台風などの自然災害や火災に強い住宅を一軒でも多く普及させることなどを主な目標として、激変する経済状況に沿いながら、今から10年ほど前の2013年以降ようやく安定的に拡大・成長が持続可能な市場となってきました。しかし、新型コロナによって、住宅市場も再び大きな影響を受けることとなりました。ここでは特にユーザー(ここでは住宅を売買・賃貸する一般的な消費者といった意味です)の住まいに対する意識の変化を見ていきましょう。
コロナ禍で半強制的に進んだテレワークは、住まいに関する考え方も変えた
新型コロナの感染拡大によって一番影響を受けたのは、人の動きです。人流を抑制することが急務とされ、都市生活者の多くはテレワークやオンライン授業など生活の“オン”の大部分を、インターネットを介して実施する状況となりました。特に首都圏では、テレワークの実施率が急速に上昇し、東京都では2020年4月には早くも60%を突破、以降も60%台を維持する高い水準で実施率が推移しました(2022年4月は52.1%にやや低下)。
このテレワーク・オンライン授業の実施・定着によって、主に賃貸ユーザーの住居に関する意識がまず劇的に変化します。毎日通勤・通学しないのであれば、コロナの感染リスク、および賃料水準や生活コスト全般が共に低い郊外方面への転居を検討し、実際に行動に移し始めたのです。この傾向は2020年から2021年にかけて徐々に顕著となり、東京都および東京23区の移動人口(他地域からの転入者と他地域への転出者の差を示す統計)は2020年5月以降、ほとんどの月で転入者数より転出者数が上回る“転出超過”の状況に陥りました。都心および都内から転出した人の多くは、周辺の神奈川県、千葉県、埼玉県に転居したことが判明しています。
2022年は“都心回帰”の兆し 住宅ニーズは首都圏で二極化する
ただし、この傾向も足元では変化が表れ始め、2022年に入ると東京都および東京23区の移動人口は再び“転入超過”の状況を示し始めています。 “揺り戻し”が発生していると見られます。オフィス賃料、交通費、光熱費など企業の経営コストが大幅に削減可能なこともあって、現状でも多くの企業でテレワークが実施されており、その意味では“揺り戻し”が本格化するには時間がかかりそうですが、都心・近郊の利便性を再認識したユーザーを中心に、確実に“都心回帰”が発生するものと考えます。2022年4月(月次)の移動人口は東京都で4,374人、東京23区でも1,542人の転入超過でした。前年同月は東京都が2,348人の転入超過、東京23区では1,744人の“転出超過”だったことを考慮すれば、明らかに人流回復の兆しが出てきていると言えます。
今後、賃貸ユーザーは、都心・近郊に住むか準近郊・郊外に住むかを選択することになります。この流れは今後賃貸ユーザーの二極化を起こす背景となり得ますから、これまで以上にどのエリアで賃貸運営するかという選択肢が広がることになります。コロナ前のように交通利便性最優先のニーズはやや後退し、オンもオフも快適に過ごせる居住性と周辺環境が重視されるようになりますから、これまで都心・近郊ばかりで目が向かなかった準近郊・郊外エリアでも、物件と周辺環境次第では低リスクで高利回りの賃貸経営が可能になることをイメージしておきましょう。投資はギャンブルではありませんが、人がそれほど注目していない時期に注目していないエリアで始めることも成功へのステップです。
さらに、この二極化傾向は、購入ユーザーで顕著です。これまでは住宅購入にあたっては資産性を重視することが半ば常識となっていましたから、交通および生活の利便性と物件価格とはトレード・オフの関係と割り切って高額の都心物件を購入するDINKSや富裕層も一定数いました。しかし、昨今の新築マンションはさらに価格が上昇して手が届きにくくなってきており、価格および専有面積のレンジが広く設定されている超大型マンションか、都心・近郊の中古マンション、もしくは準近郊・郊外の中古マンションおよび戸建てに目が向き始めている状況です。これは、これまで資産性最優先だった物件選択に居住快適性や安全性など、他の要素も同様に重視されることに繋がるので、従来通り利便性および資産性最優先のユーザーは都心、テレワークを背景に居住性や快適性、周辺環境なども重視したいユーザーは準近郊・郊外へと意向が二極化する可能性があります。コロナ禍を契機として働き方の多様化が促進され、居住エリアについての選択肢を増やし、住まいの多様性も進むことになります。
LIFULL HOME’Sが調査した「首都圏買って住みたい街ランキング2022」でも、上図のように、首都圏の購入ユーザーが注目しているエリアは大規模マンションの供給が活発な都心およびその周辺と、主に国道16号線に沿った準近郊・郊外エリアであることが明らかです。この調査はアンケートで希望を聞いたものではなく、ユーザーの物件問い合わせ数を基にどの物件&どのエリアに注目しているかを調べたものですから、実際に今住むことを想定している街がどこかを示していると言えます。
コロナで人流が大きく変化したのは実は首都圏だけだった!?
また、大変興味深いことに、このようなユーザー意識の変化が発生しているのは、実は東京を中心とした首都圏にほぼ限られます。これは、
- ①首都圏は生活圏域が広く郊外に転居しても生活スタイル自体は大きく変えずに済む
- ②テレワークの実施率に首都圏とそれ以外の圏域では大きな差がある(首都圏以外では20%程度に留まる)
- ③テレワークに親和性の高い企業規模・業種が首都圏にほぼ集中している
- ④都市圏中心部と郊外で物件価格や賃料相場が首都圏では2倍以上あって生活コストが大きく低減できる
などが主な要因です。大阪や名古屋、また地方四市と言われる札幌、仙台、広島、福岡などでは、コロナ前から変わらずに市街地中心部一極集中の様相です。したがって、不動産においてはどこに資金を投入するかでその違いが大きくなる状況と言えますから、投資環境を見極めることが最も大切です。
※当コラムは、著者個人の見解に基づくものであり、東急リバブルの公式発表や見解を表すものではございません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。