賃借権の取得時効
読み:ちんしゃくけんのしゅとくじこう
取得時効とは、物を一定期間占有したとき、その物の権利を取得することができるという時効の制度であるが、わが国の民法では、所有権の取得時効を定める(民法第162条)だけでなく、地上権・地役権などの所有権以外の財産権の取得時効も定めている(民法第163条)。
このため、地上権・地役権などの物権(用益物権)については当然に取得時効が成立するのである。賃借権という債権についても取得時効が成立するかについては、取得時効は「物」を支配するという事実状態を尊重する制度であり、債権は取得時効の対象にはなり得ないと考えることもできるが、判例では、不動産賃借権は地上権と同様に不動産を占有する権利であるので、民法第163条の財産権に含まれ、取得時効が成立するものとしている。
このような賃借権の取得時効については、取得時効を主張する者が「自己のためにする意思」をもち、「権利を行使する」ことが必要である。
自己のためにする意思とは「賃借の意思」であり、不動産を使用収益するという意思のことである。また「権利の行使」とは、「賃借の意思にもとづいて不動産を使用収益し、その使用収益が賃借の意思にもとづくものであることが客観的に表現されていること」であると解釈されている(判例)。
「客観的に表現されている」といえるためには、賃料の支払い(または供託)が必要であるというのが判例の立場である。例えば、Aは自称代理人であるBとの間で土地賃貸借契約を締結し、Aがその土地上に建物を建築し、継続的に自称代理人であるBに対してAが地代を支払ってきたという事例において、判例は地代支払いという事実を重視して、Aが土地賃借権を10年間の時効期間により時効取得することを認めている(昭和52年9月29日最高裁判決)。